日本精神保健看護学会誌
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教育講演
共同創造のうまれる場:共同創造を目指して
宮本 有紀
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2021 年 30 巻 2 号 p. 76-81

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Ⅰ  共同創造(Co-production:コ・プロダクション)とは

共同創造とは,サービス提供者とサービス利用者が,対等な立場で取り組むことを言います.共同創造は,保健医療の現場や保健医療政策作り,研究の場面で重要視されるようになってきており,保健医療に関わる全ての人(患者や患者を取り巻く人々,患者となり得る人(=市民),医療者,サービス提供機関で働く人,政策を作る人)が力を分かち合いながらよりよいものを創りあげることをいいます.

共同創造との出会い:リカバリーカレッジ

共同創造という言葉を私が知ったのは,リカバリーカレッジという実践に触れたことからでした.リカバリーカレッジとは,リカバリーに焦点を当てた学びの場です.特に英国でリカバリーカレッジの実践が広がっており,英国ではNHS(国民健康サービス)の中で提供されているリカバリーカレッジも多いのですが,治療や医療の場ではなく,学ぶ場です.

このリカバリーカレッジとの出会いが共同創造について私が関心をもつきっかけとなりましたので,まずリカバリーカレッジについてご紹介させてください.

リカバリーカレッジの特徴として,共同創造であること,学ぶ場であること(教育学的アプローチであること),誰でも参加して良いこと,リカバリーの考え方に基づくことが挙げられています(Perkins et al., 2012).このリカバリーカレッジについて,当初はリカバリーに関連する場であるということで関心を持ちました.知れば知るほど,リカバリーカレッジで行われている講座の内容や,精神健康の困難の経験を有する人と専門職が共に講座を提供する仕組みなどに引き込まれました.こういったリカバリーカレッジのような場が,日本にももっとあるとよいと思い,リカバリーカレッジについてのガイドラインを作成するという研究に取り組むことになりました.

リカバリーカレッジでは「何を」ではなく「共同創造」

研究に取り組み始めた当初,リカバリーカレッジについて,リカバリーを後押しするような内容の講座を提供することが重要なのだろうと思い込んでおり,たとえばWRAP(元気回復行動プラン)のようなリカバリーに役立つものの他にどんなプログラムがリカバリーカレッジで提供されているのだろう?と講座の内容にばかり目を向けていました.しかし,英国に視察に行き,リカバリーカレッジに取り組んでいる方々にヒアリングをしたところ,強調されていたのは,精神保健サービスを利用した経験のある方達と,精神保健サービスを利用する人を支援する人(支援専門職)が話し合いをし,それぞれの経験や知恵を出し合って講座を創りあげること,共に講座を進行することでした.つまり,リカバリーカレッジで重要なのは,講座のラインアップが何であるかではなく,リカバリーカレッジで受講者に提供するものを作る全ての過程で共同創造がなされていることだったのです(リカバリーカレッジガイダンス研究班,2019).そこから,共同創造についてさらに考えるようになりました.

Ⅱ  共同創造の世界の流れ

共同創造(Co-production)という言葉は1970年代の米国の警察に関するOstromらの研究(警察と地域住民の双方の知恵や情報が行き交い信頼が築かれていることと犯罪予防の関係の考察)で使われたのが最初と言われています.共同創造という考え方は,このような公共サービスの領域からはじまり,保健医療福祉の提供の場面についても用いられるようになっています(Boyle, & Harris, 2009).

保健医療福祉領域の共同創造

共同創造は,サービス利用者とサービス提供者が対等な立場で取り組み,よりよいサービスを作っていくことを言い,保健医療領域での共同創造では,患者・利用者と医療者・支援者が対等な立場で取り組むことを指します.なお,保健医療サービスの利用者として,患者・利用者だけでなく,患者・利用者の家族や介護者,今後患者になる可能性のある人(=市民)を含んだり,保健医療のサービス提供者として医療施設や保健福祉施設の運用に携わる人,行政職員などを含んでより大きな意味でのサービス利用者と提供者の協働を指すこともあります.

保健医療の提供者が,これまでのように自分たちだけで医療やケアを考え提供するのではなく,患者・利用者・介護者や市民の声を聞き,共によりよい医療やケアを作っていくことは世界的な流れとなっています.特に英国の保健福祉医療場面で共同創造が強調されており,2014年のケア法や,国民健康サービス(NHS)長期計画(2019)(NHS England)などで,患者・介護者と医療者の協働は標準的にあるべきものとして位置づけられました.

どのような場面で共同創造がなされるのか?

共同創造は,さまざまな領域の,さまざまな場・実践レベルで起こりえます.Tambuyzer(Tambuyzer, Pieters, & Audenhove, 2014)の分け方で整理すると,①‍国の政策や自治体の施策を作る場(マクロレベル),②個々の組織の事業やプログラムを作る場(中間レベル),③個別のケア提供場面(ミクロレベル),④保健医療福祉に関する教育や研究(メタレベル)などで共同創造がなされます.

先述の通り,英国では共同創造が医療やケアの中に位置づけられており,ケアや支援を実践するための指針の中でも,上記の分け方で言うところのミクロレベルからマクロレベルまで共同創造が推奨されています.また,医療者の教育に患者が関わることが求められるようになっていることや,患者にとってより意味のある研究とするために医学系研究への患者市民参画が求められる(Ghisoni et al., 2017)など,上記分類で言うところのメタレベルへの共同創造の推奨も広まっています.

Ⅲ  共同創造の例

保健医療福祉の場面ごとの共同創造の例をご紹介します.

1. 政策レベル(マクロレベル)

政策審議会や検討会に精神科医療の患者・利用者やその経験のある者が参画し,意見を出し,決定に関わる,自治体の医療施策を決定する過程に患者や市民が参加するなど.

2. 医療施設や組織レベル(中間レベル)

医療施設や組織の事業を患者・利用者と保健福祉医療従事者が共に作る.

・リカバリーカレッジ:リカバリーカレッジの運営委員会に精神健康の困難の経験者(精神疾患や精神障害を体験した人)と医療者・支援者等が参加する.リカバリーカレッジの講座や時間割の提案・決定,広報や受講者への案内資料作成,講座準備や進行を,精神健康の困難の経験者と医療者・支援者が共に担う.(日本,英国,各地のリカバリーカレッジ)

・児童思春期精神科クリニックを利用しやすくするためのプロジェクト:児童思春期精神科医療のOBOGである若者達が医療者と共にクリニックの紹介動画を作成したり,クリニックの入り口や廊下,待合室の改装に取り組む.来談する児童・若者向けの初回面接の案内を作成する.(英国の児童思春期精神保健チームなど)

・地域の精神科救急サービスを作るにあたり,地域で暮らす患者・利用者と医療チームや行政が協力する.(英国の地域精神保健チームなど)

・このほかにもたくさんの事例.また,「共同創造」とうたっていなくても,日本でも類似の実践も多数(たとえば長野県の保健補導員などの地区住民活動などもそうなのでは?)

3. 個別レベル(ミクロレベル)

個人のケア計画を患者本人と医療者が共に作る,今後の治療について患者本人と医療者が共に考えるなど.共同意思決定(Shared Decision Making)といった表現がよく使われており,共同創造という言葉が使われていないことも多い.

4. 研究や教育(メタレベル)

研究者と疾患経験者とで一緒に研究を行う.

・研究テーマを考える,調査内容,リクルート方法を共に考える.説明文書や調査票を共に作る.患者に届くような結果の発信を共に行う.

・インタビューガイドを共に作る,インタビュー実施や,結果の解釈を共に行う.

患者・利用者としての経験のある人と教員で医学教育や看護教育における教育内容を考え,提供する.

・当事者グループと大学教員とで精神看護学の教育内容を構築する.講義カリキュラムを考える,講義内容を話し合う,患者経験のある者が講義をする.

Ⅳ  どの程度協力し合えば共同創造と言えるのか?

なお,患者・利用者と共に作る,とか,協働する,といった表現がなされていますが,患者・利用者の関わり方や関わりの度合いはいろいろです.ただし,「共同創造」と表現する場合には,患者・利用者が医療提供者と対等に意見を出し合い,決定に関与する,それくらい関わりの大きい状態を指します.

こういった関わりの度合いを表すにあたって,アーンスタインの「市民参画のはしご」(Arnstein, 1969)やアーンスタインの図をもとにして作られた「共同創造のはしご」(Think Local Act Personal National Co-production Advisory Group (NCAG), 2016)(図1)などが紹介されています.

図1

共同創造のはしご

はしごはThink local act personal (2016) Ladder of co-productionより(訳は筆者).右側のdoing with, for, toはNational Collaborating Centre for mental health (2019) p. 15 (National Collaborating Centre for Mental Health, 2019)から当てはめた.左の患者参加の度合いを示す矢印図は筆者作成.

この図を見ていただいてもわかるように,共同創造という場合には,意見を聞くだけではなく,共に行うことを指します.段階の優劣があるわけではありません.ただ,よりよい医療やケアを作っていくためには,現在の関わり度合いがどの段階にあったとしても,doing withの関係を目指していくことが重要です(National Collaborating Centre for Mental Health, 2019).

共同創造に似た表現

なお,Co-productionについて私は「共同創造」という言葉を使っていますが,日本ではこのほかにコ・プロダクションとカタカナで表記されたり,共創造,共創,共同制作,協働などの表現がなされています.そもそも,共同創造という表現でなくても,患者・利用者と支援者の「doing with」の実践は多数あり,共同創造という言葉が広まる前から行われてきています.たとえば,さまざまな立場や視点を有する人と共に作り上げることについて,英語でpartnership,collaborationといった言葉でも表現されていますし,英語以外の言語も考えると,把握しきれないほど多様な表現がされていると言えるでしょう.

このほか,患者・利用者が医療等に参加することについても,英語でuser engagement, patient participation, patient involvement, public involvement, patient public involvement(PPI)など,日本語では当事者参加,患者参加,患者参画,市民参画,患者・市民参画などの表現がされています.

近年になって,たとえば日本の医療研究でも患者市民参画(PPI)が求められるようになっています.PPIは,共同創造よりも患者・市民の関わりの程度が小さいものも含まれているように思いますが,関わりの程度は違ったとしても,医療について医療者だけで考えるのではなく,医療を利用する患者や市民の声が不可欠だという考えが広まってきていることは確かです.

Ⅴ  共同創造に取り組む上で大切なこと

先述の通り,患者・利用者の声を聞き保健医療を作っていく機運が世界的に高まってきていますが,これまで医療者・支援者などのサービス提供者だけで行ってきたことを患者・利用者も含めて一緒に行うというのは多くの人々にとって新しいことです.これから取り組む組織への参考になるような共同創造の説明や共同創造を実践していくための考え方や資料が,すでに取り組んでいる組織などからウェブ上に公開されるようになってきています.

共同創造の秘訣

公開されている英国の実践などからの「秘訣」をいくつか紹介します.たとえば「共同創造に大切な10の秘訣」(Think Local Act Personal, 2014)では,1.関わる人の声は皆対等,2.まっさらなところから共に始める,3.全ての局面に利用者/家族/介護者を入れる,4.‍最前線で働く人から管理者まで,皆同じビジョンを,5.小さく始めて大きく育てる,先導するのは専門職ではなく市民,6.様々な知や技が共同創造には必要,7.共同創造に適任のスタッフを入れる,8.サービスを利用する人は何を求めるかを明確にし,共同創造の過程にきちんと関わる,9.サービスを利用している人々は何が良いかを知っている,その人達抜きでは良いものはできない,10.誰かだけが全ての問題の責任を取る必要はない,グループで解決を見つけることができる,などの考え方が述べられています.

また,「精神保健サービスでの共同創造の秘訣」(Skills for Care, 2018)には,共同創造が大変な作業であることを認識する(やることはほかの仕事と変わらない.しかし,時間がかかる.同じことをやるためにかけていたよりも多くの時間をかける),責任を分かち合う(精神健康の困難を経験した人の力を信じる,他者に耳を傾ける,手放す)といった考え方のコツが記されています.

共同創造で気にかけるべきこと

保健医療の共同創造で特に気にかけるべきことがいくつかあります.まず,患者・利用者からは医療者・支援者に意見を言いにくいというこれまでの文化があります.その上,これまで医療者・支援者だけで作ってきたところへ患者・利用者にも加わってもらうことは,患者・利用者にとっては,知らない人ばかりでそれまでの経緯も知らない場所によそ者として参加するということであり,発言などをしにくい状況だということも認識する必要があります.患者・利用者の声や意見が必要であることを繰り返し強調し,医療者・支援者は患者・利用者が声を出せるように場を作る必要があります.共同創造に取り組むにあたっては,多様な立場の人達がそれぞれの声を出しやすくする場を作る努力が必要です.

なお,自分が声を出しにくい会議の場などは,共同創造で声を出しにくい心理状況を体感することができ,今後声を出しやすい場を作っていくための学びの場として格好の場だと私は思っています.

Ⅵ  なぜ共同創造に取り組むのか?

私自身は現在,リカバリーカレッジの実践やピアサポートの研修会の企画・運営などでの共同創造と,研究や教育の共同創造に取り組んでいます.共同創造を通じて,これまで認識していなかったたくさんのことに気付きました.その経験も合わせ,なぜ,患者や市民の声が不可欠なのか,なぜ共同創造に取り組む必要があるのかを述べたいと思います.

理由1:利用者・患者の視点や思いを医療者がもっと認識する必要があるから

うつを有する人にとって重大なことについて調査した大規模研究(Chevance et al., 2020)で,多くの患者がつらい状況としてmental painについて挙げていました.しかし,よく使われているうつの重症度尺度などではmental painの評価はありません.医療者や研究者がうつの重症度を考えたときに,患者が本当につらいと思っていることを考慮できていなかったということになります.

理由2:もっとよい精神保健福祉を作りたいから

精神保健サービスの利用が低いパーソナルリカバリーと関連していた(精神科医療を使うとパーソナルリカバリーが下がる可能性)という研究結果があります(McBain et al., 2020).医療者側がよかれと思って提供していても,医療者だけで計画し提供する従来の精神保健サービスでは,患者・利用者にとって最高のものを提供できていないことは認めざるを得ないと思います.患者・利用者は,何が良いか,何が役に立つのかを知っています.患者・利用者抜きでは良いものはできません.共に作り上げることで,よりよい精神保健福祉にしていくことができるのだと思います.

理由3:楽しいから!

「一人で行けば早いけど,みんなでならば遠くまで行ける.(Alone we go faster but together we go further)」これは,共同創造を英国で実践している方々から共同創造に関して教えて頂いているときに紹介され,心に残っている表現です.

新しいやり方に取り組むのは手間や時間のかかることもありますが,それでも,とても視野の広がる,楽しいものだなと感じています.

Ⅶ  取りかかるとすれば

共同創造に取り組む,というと大変なことのように聞こえるかもしれませんが,明日からでも共同創造に取りかかることができます.患者・利用者の経験のある人に対等な存在としてあいさつをすることからまずは始めるなどでも良いと思います.そして,いきなり全てを対等にやろうと思わなくても,はしごで言うところの下の方の段,たとえば意見聴取からはじめるなどでも良いと思います.私が実際に行ってきたことを以下にいくつかご紹介します.

・看護学生対象の講義について患者の経験のある人の意見を聞く.「看護師に身につけておいて欲しいことってなんでしょう?」と実習先の患者さんに聞いてみるなども.

・研究テーマについて意見を聞く.「こんなことについて研究したいと思うがどう思うか」「解明されると良いと思うのはどんなことですか?」

・計画している研究の対象者と類似の経験をもつ人に,研究の調査票,説明文書について意見をもらう.

・プログラムや治療の感想,思い,今後の要望を聞く.

このほかにもさまざまな始め方があると思います.始めやすい相手と,始めやすいところから取りかかり,少しずつ広げて行くのが楽しいのではないかと思いま‍す.

このたびは,このような機会をどうもありがとうございました.

謝辞

いつもさまざまなことに共に取り組んでくれる仲間のみなさまに心より感謝申し上げます.

リカバリーカレッジの研究,共同創造の研究に多大なるご助言とご協力を頂いております各地のリカバリーカレッジの皆様,研究班の皆様に感謝申し上げま‍す.

本発表はAMED 17dk0307066h0001 と科研費 JP19K10923,19K11216,17K17513の研究助成を受けて行いました.

この発表の内容に関する利益相反事項はありません.

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