日本精神保健看護学会誌
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資料
学生の精神看護学実習前の不安軽減を目指したストレングス活用プログラムの効果
一柳 理絵木村 幸代本田 優子青木 涼子
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2023 年 32 巻 1 号 p. 100-107

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Abstract

精神看護学実習へ臨む学生は精神科病院での実習,精神障害を持つ患者との関係性構築や症状への対応等に不安を抱く.本研究ではストレングスカードを用いた自身のストレングスを認識する取り組みにより,学生の精神看護学実習への不安軽減が図られるのではないかと考えた.研究目的は,精神看護学実習前に学生のストレングスに着眼した介入プログラムを実施し不安軽減の効果を明らかにして,精神看護学実習における教育的介入について考察することである.研究方法は,A大学看護学部3年次生の2018年度生74名と,2019年度生79名に対して介入プログラムを実施し,プログラム介入前後,精神看護学実習終了後に,不安の尺度であるSTAI日本語版を用いて調査した.その結果,両年度においてプログラム介入後の状態不安は有意に減少した.また,学生は患者のストレングスに着眼し,自身のストレングスの活用を考えて患者との関係性構築に介入プログラムを活かしていたと考える.

Ⅰ  緒言

精神看護学実習における文部科学省(2017)での臨地実習のねらいは,当事者のストレングスを生かしながら,精神障害を持つ人の地域生活支援や,入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解して実践することである.しかしながら,精神看護学実習において重要なものは,目に見える技術的なものよりも,対象者とのコミュニケーションを行うプロセスの中に存在するため評価しづらく,学生は,自分が何も援助をしていないのではないかと不安を感じ,戸惑う(田中・松嶋,2017).

精神看護学実習前に学生が抱く不安には,「患者に対する漠然とした不安」「自分の一言で病状が悪化しないかと不安」「対応が悪く暴力をふるわれないかと不安」(柳川・柳川,2001)がある.また,精神看護学実習1日目に学生が抱く困難感には,「看護学生としての責任と緊張」「コミュニケーション技術の悩み」「学生が患者に影響を与えることへの懸念」「精神症状への対応の困難」など(岩﨑・山﨑・堀内,2014)がある.さらに,学生の精神障害を持つ人に対するイメージは,怖いや危険という否定的なイメージ(薮田・山下・伊関,2016)である.先行文献より,学生は精神科病院での実習,精神障害を持つ患者との関係性構築や症状への対応等に不安を抱いている.学生の不安・偏見が大きい場合,対象者と向き合う姿勢は消極的となり,看護計画に創意・工夫や自己決定への働きかけができない傾向になる(柳川,1998).よって,精神看護学実習では,短期間の実習期間に精神障害をもつ人と関係性を築きながら対象理解を深めていくが,学生の不安や緊張が高いと,関係性構築に時間を要し,対象となる精神障害を持つ人のストレングスに気づくことができず,問題解決思考に陥りやすくリカバリー支援には至らないと考える.

精神看護学実習における不安に関する文献を概観すると,精神障害者への意識やイメージの変化に関する文献(中山・澤田,2012小坂・文,2012)や,精神看護学実習で学生が抱く不安や偏見への教育に関する文献(田中・松嶋,2017渡邊・小髙・原田,2017)は散見される.また,佐藤・樋口(2016)は,精神看護学実習前に認知行動療法に基づくオリエンテーションを実施した場合,不安軽減が図られるとの結果を得ているが,精神看護学実習前の学生の不安軽減に介入した研究は未だ少ない.

一方,小坂・文(2012)の学生の精神看護学実習前の偏見と特性不安に相関があることを明らかにした文献では,特性不安の高い学生には,未来への過剰な懸念,情報不足,コミュニケーション不足,不健全な心理的な防衛機制という悲観的な心理状態があり偏見と関連するため,学生の良い点を認め,自己肯定感を高めて,物事をプラス思考できるよう教育的なかかわりが必要であると述べている.また,島井・小林(2020)によると,ポジティブな感情は思考の柔軟性を高め,人間関係をより強くして,新しい関係に発展させることができると述べている.ポジティブ心理学に基づいた強み活用法ワークでは,弱みではなく強みの観点から自己認識を深められる効果が示されていた(竹橋・豊沢・島井,2019津田・竹橋・島井,2018).そこで,本研究では,ポジティブ心理学に基づいた自身のストレングスを認識する取り組みやグループワークの実施により,学生の精神看護学実習に対する不安軽減が図れるのではないかと考え,介入研究を行った.

Ⅱ  研究目的

研究目的は,精神看護学実習前に学生のストレングスに着眼した介入プログラムを実施し不安軽減の効果を明らかにすることを通して,精神看護学実習における教育的介入について考察することである.

Ⅲ  方法

1. 対象者

A大学看護学部3年次生で精神看護学実習を履修した2018年度生74名と,2019年度生79名である.

2. 倫理的配慮

学生には研究趣旨と参加は自由意志であり,参加拒否を理由に実習上の不利益な扱いを受けることはない等を説明し,同意を得た学生を研究対象とした.尚,本研究は研究者所属大学の研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号29092).

3. 介入期間

2018年7月~12月および2019年7月~12月である.

4. 介入プログラム

1) 実施時間

実習期間2週間のうち1日目学内日の1時間を使用して実施した(図1).

図1

調査内容と調査時期

2) 介入内容

(1) 使用したカード

NPO法人ぷるすあるはが開発した「ハルのきもちいろいろカード」は12種類のきもちをイラストと言葉で表したカードであり,自分の気持ちを探ることやコミュニケーションツールとして医療機関の相談場面や児童相談所,当事者グループなどで活用されているため使用した.加えて,有限会社ストレングスカード・コムが開発した「ストレングスカード」は,教育現場で活用され自己のポジティブな側面への気づきや肯定的・適応的な認知の構築を促す(平尾・山本,2014)効果が示されている.また,精神看護学実習を履修する学生が1年次の時に,ストレングスカードを演習で使用しているため,学生にとって馴染みのあるストレングスカードを使用した.

(2) プログラムの手順(表1

グループ構成を1グループ学生4~6名とし,グループワークを行った.グループワークへの説明を行った後,15分間グループで「ハルのきもちいろいろカード」を用いて精神看護学実習への気持ちを共有した.次に,15分間グループで「ストレングスカード」を用いてお互いの強みを共有した.さらに,15分間個人ワークで①私の強み,②グループに貢献できそうなこと,③精神看護学実習に対する自分の希望や目標,④その他(楽しみなこと,ストレス対処方法,自分へのご褒美)の4項目について筆記を促した.最後に,筆記した内容の用い方を「精神看護学実習中にしんどさや辛さを感じた時に見てほしい」と説明した.

表1

実習1日目学内日のプログラム手順

5. 調査内容と調査時期(図1

プログラム介入前後と精神看護学実習最終日(学内)‍の終了後に,清水・今栄(1981)による状態―特性不安検査のSTAI日本語版(STAI; STATE-TRAIT ANXIETY INVENTORY)を用い,学生が持つ不安について調査した.STAIは特性不安と状態不安の2つの尺度で構成され,各20問の項目は4件法で回答し,合計点数20~80点の得点が高いほど不安が高いことを表す.信頼性係数は0.80であり,信頼性も確認されている.プログラムが精神看護学実習に与えた影響については,精神看護学実習最終日(学内)の終了後,「グループワークに参加したことが,あなたの実習にとってどのように影響したと思いますか」と無記名の自作の質問紙を用いて調査した.

6. 分析方法

分析は記述統計と,プログラム介入前後と精神看護学実習後の状態不安の変化についてはFriedman検定を行い,有意確率はBonferroni法により調整した.有意水準は5%とし,統計解析にはSPSS Statistics Ver. 28を用いた.プログラムが精神看護学実習に与えた影響の自由記述については,質的に内容分析し,データを切片化した後コード化した.コードは類似点,相違点を比較検討後,分類しサブカテゴリ化した.サブカテゴリは概念の抽象度を上げカテゴリ化した.著者全員でくり返し検討し解釈を深め,カテゴリとカテゴリ間の信頼性・妥当性を保つようにした.

Ⅳ  結果

1. 分析対象

2018年度のSTAI調査票は,74名に配布し69名(回収率93.2%)から回収した.このうち各尺度項目に欠損のない66名(有効回答率95.7%)を分析対象とした.2019年度のSTAI調査票は,79名に配布し71名(回収率89.9%)から回収した.このうち尺度項目に欠損のない55名(有効回答率77.5%)を分析対象とした.

自作の質問紙に関しては,2018年度では61名(82.4%)から回収し記載のあった53名(有効回答率86.8%)が分析対象となり,2019年度では67名(84.8%)から回収し記載のあった63名(94.0%)が分析対象となった.

2. 不安状態の変化(表2

介入前のSTAI平均点は,2018年度では特性不安45.3 ± 8.0点,状態不安46.9 ± 7.2点であり,2019年度では特性不安47.9 ± 7.4点,状態不安48.4 ± 7.1点であった.介入前後のSTAIの変化は,2018年度の状態不安は介入後に34.4 ± 7.5点,精神看護学実習後に36.2 ± 9.0点へと有意に(P < .001)低下した.また,2019年度も状態不安は介入後に40.2 ± 7.4点,精神看護学実習後に38.6 ± 9.1点へと有意に(P < .001)低下した.一方,両年度とも介入後と精神看護学実習後との間では,状態不安に有意差はみられなかった.

表2

プログラム介入前後および実習後の不安状態の変化

3. プログラムが精神看護学実習に与えた影響の自由記述の結果(表3

2018年度と2019年度のプログラムが精神看護学実習に与えた影響を分析した結果,6カテゴリ,19サブカテゴリ,192コードを抽出した.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〔 〕,コードを「斜体」で示す.

表3 プログラムが実習に与えた影響
カテゴリ(6) サブカテゴリ(19) 代表的なコード
安心して自己表出
できる関係
実習への思いや
不安の共有
お互いの思いを共有できてよかった
実習前の誰しもが抱える不安などのネガティブな感情を共有できた
みんな不安を感じていて自分だけではないことを知った
不安の軽減 不安が軽減した
初日に病棟に行く時の不安が少し軽減した
思いを共有して
得た安心感
安心につながった
自分1人ではないのだという安心感を得ることができた
少しほっとした気持ちで実習に臨むことができた
お互いを理解して
落ち着く関係
緊張の緩和 緊張感の緩和
みんなで一人のストレングスを考える事で楽しい気持ちになった
メンバーと打ち解けられた
実習メンバーへの理解 メンバーの強みを知ることができた
ストレングスや今の気持ちを伝え合うことでメンバーの人となりがわかった
自身のストレングス
への気づき
自身が気づいていなかったストレングスをみつけることができた
自分の良いところを客観的に教えてもらうことができた
自分もこんな強みがあるのかと再認識できた
自分への自信 自分の長所を知って自信をもって取り組もうと思えた
自信をもって行動できた
自分の自信にもつながった
承認されることで
得た安心感
周りの人に認められている感じ
プラスの印象を感じてくれた仲間と一緒に実習へ行くことで安心感があった
実習に向けた
心理的準備
自己理解 自分と向きあうきっかけになった
自分ひとりでは気づかなかった視点に気づいた
自分の中にある不明瞭な感情を明確化し客観的に捉えることができた
他者との比較 もっと頑張らなければいけないというプレッシャーも少しある
嬉しい気持ちと“自分はそんなにできてない”という気持ち
他者と自分を比較してしまい苦しくなってしまった
自己肯定感の向上 自己肯定感の向上につながった
自己肯定感があがった
前向きな気持ちの
芽生え
実習に向けてやる気につながった
ポジティブ,前向きな気持ちで実習に取り組むことができた
モチベーションがアップした
チームにおいての
自分の立ち位置
への気づき
他者理解を少しでも行うと自分の存在やポジションを考えられた
落ち込んだ時に自分にできることは何かを考えやすかった
友達のことを知ることでどこを支援すればよいか捉えられた
グループメンバーとの
効果的な関係の構築
相談できる関係 メンバーに悩みを相談しやすくなった
素直にメンバーに思いを伝えられるようになった
実習中も何でも相談しあえる関係をつくることができた
グループダイナミクス
へのつながり
実習でのグループダイナミクスにつなげることができた
苦しい時も励ましあい支えあうことができた
実習していくための団結力も高まった
精神看護学実習への
効果的な学び
自分のストレングスを
活かした実習
自分を否定する癖が出たときにストレングスやできたことを考えられた
自分の強みを実習中に感じ,その点を強みとして頑張ることができた
辛かったときに自分の強みを思い出しがんばることができた
プログラムでの学びを
活かした看護実践
患者のストレングスをみつけることに役に立った
感情の整理を行う経験を自分がしたからこそ,患者への看護にも実施できた
コミュニケーションにおける考え方や工夫について知ることができた
効果的な
カンファレンスの実施
カンファレンスでも活発に意見を出すことができた
実習のカンファレンスにおいても相手のよいところを尊重し傾聴できた
影響を得られなかった
プログラム
影響を得られなかった
プログラム
メンバーが病棟メンバーではなかったため影響を評価しにくかった
あまり影響しなかった

グループワークでは,〔実習への思いや不安の共有〕により〔不安の軽減〕が図られ,〔思いを共有して得た安心感〕となり【安心して自己表出できる関係性】が築かれた.また,ストレングスカードを用いたグループワークでは,〔自身のストレングスへの気づき〕や〔実習メンバーへの理解〕が進み,〔緊張の緩和〕が図られた.自身では気づきにくいストレングスをメンバーから伝えられたことは,〔承認されることで得た安心感〕と〔自分への自信〕を生み,【お互いを理解し合い落ち着く関係】を築いた.それは〔前向きな気持ちの芽生え〕や〔自己肯定感の向上〕につながり,「自分にできることは何か」と〔チームにおいての自分の立ち位置への気づき〕となりポジティブ感情が働いたと同時に,互いを知ることで〔他者との比較〕をする学生もいたが,「自分の中にある不明瞭な感情を明確化し客観的に捉える」などの〔自己理解〕によって,【実習に向けた心理的準備】を整えた.メンバー間に〔相談できる関係〕が形成され〔グループダイナミクスへのつながり〕へと発展し【グループメンバーとの効果的な関係の構築】がなされた.「患者のストレングスをみつけることに役にたった」という〔プログラムでの学びを活かした看護実践〕や〔効果的なカンファレンスの実施〕ができ,〔自分のストレングスを活かした実習〕となり【精神看護学実習への効果的な学び】を得ていた.一方,【影響を得られなかったプログラム】として感じる学生もいた.

Ⅴ  考察

1. 介入プログラムを受けた学生の不安状態の変化

両年度においてプログラム介入後の状態不安は介入前よりも有意に減少したことにより,介入プログラムは精神看護学実習前の不安を軽減させる効果があったと考える.介入方法は異なるが,先行研究(佐藤・樋口,2016)からも教育的な介入によって学生の不安は軽減されるため,実習前の学生への教育的支援は重要であるといえる.

ハルのきもちいろいろカードにはポジティブな感情だけでなくネガティブな感情のカードも含まれているため,介入プログラムは内在していた精神看護学実習前に抱く自分の気持ちや不安を認識させると同時に,言語化しにくい​感情を他者へ表出するきっかけになったと考える.また,強みの活用は相互に支援する組織を作る(島井,2019)が,ストレングスを認識し合うことは,お互いを理解し安心して自己表出できる関係を構築し,緊張や不安を軽減させて前向きな気持ちが芽生えるというポジティブ感情を引き出すことにつながったと考える.よって,精神看護学実習前の不安軽減には,ポジティブ感情を引き出すことを目指した実習前の人間関係づくりやグループ形成が重要になると考えられる.

2. 介入プログラムが精神看護学実習に与えた影響

島井・小林(2020)はFredrickson, B. L.によるポジティブ感情の拡張―形成理論を用いて,ポジティブ感情は思考や行動のレパートリが拡張され,資源の構築につながりレジリエンスの力が高められ,心身の健康状態やウェルビーイングの向上につながると述べている.ポジティブ感情とは,喜び,興味,満足,自信,愛情という様々な感情である.ポジティブ感情の「拡張-形成理論」には4種類の働きがあり,第1の働きは「ポジティブな感情によってその人の思考や行動の柔軟性が高くなり,思考や行動のレパートリが増えること」,第2の働きは「第1の発展をもとに自分の個人的な資源を構築すること」,第3の働きは「個人資源の構築によってその人の健康状態はより良いものとなり,結果として寿命が延伸し健康な生活に支えられて充実した人生を送ることにつながること」,第4の働きは「第3までのウェルビーイングの向上によって,ポジティブ感情がもたされやすくなること」である(島井・小林,2020).

本研究結果では第1の働きは,ストレングに着眼した相互理解や精神看護学実習への思いを共有することで得た安心感から実習という目的に向けてのグループダイナミクスが働いたと考える.第2の働きは,精神看護学実習へのモチベーションの向上や自己肯定感の向上により自分への自信を獲得したことで,チームにおいての自分の役割や,患者との関係構築に自身のストレングスの活かし方を見出したと考える.第3の働きは,安定した環境の中で,患者のストレングスに着眼し,プログラムで得た経験を患者とのかかわりに活かしながら,学生が着眼した患者のストレングスを活かす看護へとつながったことであると考える.第4の働きは,より良い人生のためにポジティブ感情をもたらされやすくなることであるが,本研究対象者で考えると,精神障害をもつ人を多角的に捉える思考の拡がりや,精神看護学実習への前向きな気持ちや大学生活での様々な経験をポジティブに転換する力と考えられ‍る.

よって,今回のプログラム介入により,学生はストレングスに着眼した相互理解や思いの共有を得た安心感から,精神看護学実習に目を向けるグループダイナミクスが働いたと考える.また,自己肯定感の向上や自己理解によって,学生の思考や行動が拡張され,患者のストレングスに着眼できたと同時に,自身のストレングスの活用を考えながら患者との関係性を構築し患者理解をすすめることができたといえる.

3. 介入プログラムを通してみえた課題

本結果(表23)より,本研究の介入プログラムは実習初日の不安軽減にはつながったといえるが,実習中や実習後の不安軽減までの効果があったとは言えず,介入プログラムの影響を受けなかった学生や,良い影響を受けなかった学生もいた.特性不安の高い学生ほど実習前後の状態不安も高い傾向になる(小坂・文,2012)と報告があるように,元来,不安感の強い学生は,介入プログラム後や精神看護学実習後であっても介入プログラムの影響を受けず不安状態のままであったと考えられる.精神看護学実習では患者との関係性を築きながら患者理解へと深めていくが,特性不安の高い学生は,コミュニケーションに自信がなく患者と距離をとった関わりをし続けるため,患者に対する否定的感情が持続してしまう(松本・坂井・森,2011).不安を抱いたままの精神看護学実習では,学生は患者との関係性を構築することができず精神看護学実習での学びに影響を与えることが考えられる.学生の感情的側面への支援は実習指導者および教員に求められる役割(渡邊・小髙・原田,2017)であるため,実習指導者と教員が協働して学生の不安や困りごとを解決できるような支援が重要になる.よって,特性不安の高い学生には,実習の早い時点で学生-患者関係の構築にむけた介入(松本・坂井・森,2011)や,教員および実習指導者がコミュニケーションアプローチのロールモデルを示すなど学生の個別性に応じたサポートがより必要になると考える.

Ⅵ  結論

1.両年度においてプログラム介入前後の状態不安は有意に減少したことから,介入プログラムには精神看護学実習前の学生の不安軽減に効果があったといえる.

2.イラストカードを用いたプログラムは,内在していた自身の感情を認識し安心して自己表出できるきっかけとなり,ストレングスの認識と活用は精神看護学実習での効果的な学びにつながった.

3.学生は,本介入プログラムによって,自己肯定感の向上や自己理解により思考や行動が拡張され,患者のストレングスに着眼でき,自身のストレングスの活用を考えながら患者との関係性を構築し患者理解をすすめることができたといえる.

4.元来,不安感の強い学生は,介入プログラム後や精神看護学実習後であっても不安状態のままであると考えられるため,学生の個別性に応じたサポートがより必要になる.

謝辞

本研究にご協力いただきました対象者の皆さまに感謝申し上げます.本論文の内容の一部は,第45回日本看護研究学会学術集会,第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

著者資格

RIは研究デザイン,介入プログラムの実施,データ収集および分析,論文作成を行った.SKは研究構想,研究デザイン,介入プログラムの実施,データ収集および分析,論文作成への助言を行った.YH,RAは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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