日本精神保健看護学会誌
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32 巻, 1 号
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原著
  • 松本 陽子, 惠良 友彦, 木村 幸生
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究の目的は,精神科看護師の患者に対する陰性感情に対して職場の働きやすさやレジリエンスがどの程度関連するのかについて検証することである.8施設の精神科病院に勤務する看護師519名を対象に,基本属性,陰性感情経験頻度,職場の働きやすさ,二次元レジリエンス要因について無記名自記式調査を行った.得られた有効回答234名を対象に重回帰分析を行った結果,職場の働きやすさ(β = –0.23, p < 0.001),獲得的レジリエンス要因(β = –0.20, p < 0.05)の2変数において陰性感情と有意な関連を認めた.働きやすい職場環境の整備と獲得的レジリエンスの強化は,患者に対して陰性感情を抱く頻度を低減できる要因になり得るということが示唆された.

  • 澤田 華世, 香月 富士日, 金子 典代, 塩野 徳史
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 10-18
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    ゲイ・バイセクシュアル男性は,自殺未遂のリスクが高いと指摘されている.メンタルヘルス改善に向けた支援方法の確立が急務であり,本研究では,「人生の満足度」に着目し,人生の満足度に影響を与える心理的要因を明らかにすることを目的とした.

    20歳以上のゲイ・バイセクシュアル男性を対象に,インターネット調査を実施した.質問項目は,基本属性,対人関係,日本版気分・不安障害調査票(K6),改訂版UCLA孤独感尺度,人生満足度尺度,状態自尊感情尺度,日本語版SOCスケールで(SOC-13),Brief COPEとした.

    質問紙へのアクセスは1,877名で,分析対象者は499名であった.人生の満足度を従属変数とし,重回帰分析を行った結果,自尊感情(β = 0.586),孤独感(β = –0.170),肯定的再解釈(β = 0.101),受容(β = 0.063)の4要因が抽出された.本結果をもとに,今後ゲイ・バイセクシュアル男性のメンタルヘルス改善に向けたプログラムの開発など検討していく必要がある.

  • 安永 知衣里, 則包 和也
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    メタ認知トレーニング(Metacognitive Training:以下,MCT)は,統合失調症にみられる認知の偏りを修正することを目的とする心理教育プログラムである.本研究では,退院後の統合失調症者にMCTを実施し,認知の偏り,実施者と対象者の信頼関係に対するMCTの効果を検討することを目的に行った.精神科デイケア,NPO法人を利用する統合失調症者12名を対象としMCTを実施した.また,評価項目としてJapan-Cognitive Biases Questionnaire for Psychosis(以下,JCBQp),心の理論課題,心理的距離の測定を行った.その結果,MCT実施前後でJCBQp合計得点が有意に低下し,構成因子である「異常な知覚」「脅威的な出来事」「意図的」「破局化」「結論への飛躍」「感情的推論」で有意差が認められた.心の理論課題で有意差は認められなかった.心理的距離は近づく群と遠ざかる群のどちらもみられ,MCTは実施者と対象者の間に信頼や好意,親しさといった関係性以外の影響も与えている可能性が考えられた.

  • ―仕事のストレス要因を調整変数とした分析―
    髙谷 新, 安保 寛明, 佐藤 大輔, 新宮 洋之
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 28-37
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究は,看護師長のリーダーシップと看護職員の心身のストレス反応の関連において,仕事のストレス要因の高低による看護職員のワーク・エンゲイジメントの媒介効果の影響を明らかにすることを目的とする.16病院の看護職員1,213人を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,マルチレベル相関分析および調整媒介分析を行った.有効回答は403部であった.

    マルチレベル相関分析では,個人レベルでワーク・エンゲイジメントと看護師長のリーダーシップに正の相関が,職業性ストレスとは負の相関が認められた.また,集団レベルでは看護師長の人間関係志向のリーダーシップと職業性ストレスに負の相関が認められた.

    調整媒介分析では,高ストレス状況下での変数間の関連について推定を行い,結果として課題志向,人間関係志向両方のリーダーシップの発揮が看護職員のワーク・エンゲイジメントを媒介し,心身のストレス反応に影響を与えていたことが明らかとなった.

  • 今泉 源, 香月 富士日
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 38-47
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究では精神科病院の倫理的風土に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的に,看護者を対象とした質問紙調査を行った.

    質問紙は基本属性,日本語版倫理的風土測定尺度,組織風土尺度,協同作業認識尺度,日本語版バーンアウト尺度にて構成し,14施設949名の看護者を対象に調査を行い,319名を分析対象とした.

    日本語版倫理的風土測定尺度を従属変数とする重回帰分析の結果,組織風土尺度の下位因子である「柔軟性・創造性・大局的」,「自由闊達・開放的」,「権威主義・責任回避」,協同作業認識尺度の下位因子である「個人志向因子」,「協同効用因子」が倫理的風土に影響を及ぼす要因であった.

    この結果から,組織における倫理的風土を向上させるためには,権威が弱いと考えられる看護者を含めたすべての看護者の倫理的な感性を対等に扱い,個々の道徳的感受性や倫理観が看護実践に反映させられるような風土を作ることが必要であると考えられた.

  • 小川 賢一, 澤田 いずみ
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 48-56
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究の目的は,ピアサポーターが地域移行支援において支援対象者のリカバリーのために大切にしたいことを明らかにすることである.対象は,ピアサポーター養成講座を受け,地域移行支援に携わった経験のあるA県内のピアサポーター7名で,半構造化面接を実施し質的記述的に分析した.その結果,【安心して話せる人になる】【希望を実現する意思の力を作っていく】【社会の変化まで願う】【大らかに構え長い目で支援を続ける】【看護師と協働でリカバリーの多様性を支える】【支え合いを常に忘れないでいる】の6カテゴリーが生成された.

    ピアサポーターは,リカバリー支援のプロセスを支える安心して話せる関係性と,安心して話せる関係性を支える大らかな姿勢をもつことを大切にしていると考えられた.看護師は,リカバリーを応援する社会のあり方に関心を持ち,ピアサポーターからリカバリーの多様性やリカバリーを支える姿勢を学んでいく必要がある.同時に,ピアサポーターと支援対象者の関係性構築の支援や,両者との支え合いという協働の役割が期待される.

  • 佐藤 和也, 西川 薫
    原稿種別: 原著
    2023 年 32 巻 1 号 p. 57-66
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究の目的は,医療観察法入院対象者による主体的なクライシス・プランの作成に携わる看護師の実践を明らかにし,その特徴を考察することである.全国の医療観察法指定入院医療機関に所属する看護師1,012名に質問紙を配布し,317名(回収率31.3%)から回答を得た.このうち,自由回答式質問に回答した250名の記述を,Berelson, B.の方法論を参考にした看護教育学における内容分析を用いて分析した.その結果,【対象者が主体となってクライシス・プランを活用する意義や有用性を伝える】【対象者独力によるクライシス・プランの素案作成を求める】【クライシス・プランの代わりになる独自の名称決定を求める】など37カテゴリが形成された.また,考察により,37カテゴリが,8の特徴を持つことを示した.本研究の成果は,看護師が自己の実践を客観的に理解し,改善の方向性を見出すために活用できる.

資料
  • ―行政保健師を対象とした調査から―
    森本 淳子, 榊 惠子
    原稿種別: 資料
    2023 年 32 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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  • 大橋 里美
    原稿種別: 資料
    2023 年 32 巻 1 号 p. 74-82
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究は,精神看護学実習における患者-看護学生間の相互作用の中で,特に看護学生の自己開示の体験ついて明らかにし,精神疾患患者に寄り添った治療的関わりに向けた自己開示への教育への示唆を得ることを目的とした.対象は精神看護学実習を終えた学生9名で,半構造化面接法を実施した.逐語録を作成し,患者に対して自己開示をどのように体験したかについて,一つのまとまりあるストーリーとして抽出した.自己開示の体験ストーリーは,自己開示が関係性構築のきっかけとなったもの,患者からの質問や患者の自己開示に応えた自己開示,なかなか容易にできない自己開示の3つに分類された.

    学生が自己開示に至るにはプロセスがあり,様々な感情を抱きながら患者との相互作用を続けており,教員,指導者やグループメンバーの指導やサポートが影響していた.

  • 岩澤 敦史
    原稿種別: 資料
    2023 年 32 巻 1 号 p. 83-91
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    本研究の目的は,精神科急性期病棟に勤務する看護師が自殺未遂患者に対して行っている再企図予防を意図したケアを明らかにすることである.

    精神科急性期病棟に勤務する看護師6名を対象に半構成的面接調査を実施し,質的帰納的に分析した結果,再企図予防を意図したケアは,【自殺リスクに対して冷静な臨床的評価で関わる】【患者の言動や過去のエピソードから自殺リスクを統合的に判断する】【患者の状態変化に気づく環境を整える】【能動的な振る舞いや態度で死にたい気持ちに対して真正面に向き合いやり取りする】などの8つのカテゴリが形成された.

    精神科看護師は,これまでの看護経験や専門的知識に基づき自殺未遂患者に対して主体的に接しており,再企図予防を意図したケアを遂行できる基盤には様々な患者事例に遭遇する看護経験が影響していると推察された.自殺未遂患者に対して行う直接的なケアに加えて,周囲や生活環境といった患者を取り巻く様々な要素にも意識を向けて,包括的なケアに努めていることが示唆された.

  • 齋藤 嘉宏, 田上 博喜, 白石 裕子
    原稿種別: 資料
    2023 年 32 巻 1 号 p. 92-99
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    高齢のアルコール依存症者に対して認知行動療法を用いた簡易プログラムを,パソコンを用いたオンライン形式で実践し,対象者自身が飲酒と認知症の関連を把握すること,飲酒欲求に対する対処行動の獲得に繋げることを目的とした.簡易プログラムは全6回で構成し,飲酒と認知症に関する心理教育のほか,飲酒に至るまでの過程を「きっかけ」「考え」「行動(飲酒)」の3つに細分化し,週間活動記録表を用いて把握した喜び・達成感が高く,かつ飲酒欲求の低い行動のうち,3つの過程に直面した際に対象者自身がとれる対処行動をそれぞれ割り当てた.本プログラムでは対象者に飲酒と認知機能低下の関係性を意識づけることが困難であったが,対象者は〈自己の客観視〉を通して飲酒欲求に対する対処行動を認識し,〈断酒継続への自信〉に繋げていた.しかし本研究はパイロット研究であり,対象者の少なさからも本プログラムが十分検証できたとは言えず,継続研究とする必要がある.

  • 一柳 理絵, 木村 幸代, 本田 優子, 青木 涼子
    原稿種別: 資料
    2023 年 32 巻 1 号 p. 100-107
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
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    精神看護学実習へ臨む学生は精神科病院での実習,精神障害を持つ患者との関係性構築や症状への対応等に不安を抱く.本研究ではストレングスカードを用いた自身のストレングスを認識する取り組みにより,学生の精神看護学実習への不安軽減が図られるのではないかと考えた.研究目的は,精神看護学実習前に学生のストレングスに着眼した介入プログラムを実施し不安軽減の効果を明らかにして,精神看護学実習における教育的介入について考察することである.研究方法は,A大学看護学部3年次生の2018年度生74名と,2019年度生79名に対して介入プログラムを実施し,プログラム介入前後,精神看護学実習終了後に,不安の尺度であるSTAI日本語版を用いて調査した.その結果,両年度においてプログラム介入後の状態不安は有意に減少した.また,学生は患者のストレングスに着眼し,自身のストレングスの活用を考えて患者との関係性構築に介入プログラムを活かしていたと考える.

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