2023 年 32 巻 2 号 p. 23-31
本研究は,精神障害者が安定した地域生活を送るための支援の一つに,Deeganが提言するPersonal Medicineに着目した.地域生活を送る統合失調症をもつ人のPersonal Medicineを明らかにすることを目的に,地域で生活を送る統合失調症をもつ16名を対象に半構造化面接調査を行った.Graneheim, & Lundmanによる内容分析の結果,184コードが抽出され,【自身に合ったライフスタイル】【メディアを通じた活動】【目的をもった外出】【他者やペットを頼る】【精神症状の認識や思考への働きかけ】の5つのカテゴリが明らかになった.
Personal Medicineの根底には「主体性」のある選択や活用による効果の「実感」があり個人に合ったライフスタイルが構築されていた.統合失調症をもつ人の安定した地域生活に向けてPersonal Medicineに視点をおく重要性が示唆された.
Personal medicine, as Deegan described, is a non-pharmaceutical self-care activity which is being used to provide support overseas. Therefore, semi-structured interviews of 16 community-dwelling individuals with schizophrenia were conducted and analyzed. 184 codes were extracted as a result of content analysis by Graneheim, & Lundman, and the following were identified: [Lifestyles suited to oneself], [Media-related activities], [Purposeful outings], [Relying on others and pets], and [Improving on the perception of mental symptoms and thoughts].
The basis of Personal Medicine was a lifestyle tailored to the individual, with a ‘sense’ of effectiveness through ‘independent’ choice and utilization. The importance of focusing on Personal Medicine for the stable community life of people with schizophrenia was suggested.
日本は,2004年に発表された精神保健医療福祉の改革ビジョンにより,精神病床の平均在院日数の減少や退院率の上昇といった成果がある(厚生労働省,2010).一方で,精神保健医療福祉の課題は,精神保健福祉サービスの深化,住居や就労の受け皿の確保が挙げられる(厚生労働省,2020;熊澤,2015).また,地域で暮らす精神障害者は,疾患や治療への国民の不十分な意識と否定的な態度による支援の困難さ(Sun et al., 2018)や周囲から精神障害を受容されない生活のしづらさがある(吉村・山本・眞野,2020).
精神疾患の中でも統合失調症は,思考や行動,感情を統合する能力の低下(日本精神神経学会,2016),精神症状が身体に馴染まないことや自分らしく生きることに困難を抱えている(嵐,2021).また,統合失調症の治療法は薬物療法と心理社会療法の併用が一般的である.統合失調症をもつ人は薬物療法について,服薬による体調や調子の好転,薬の役割の理解という肯定的な感覚もあれば,望まない現象や効果が実感できない,薬がすべての中心となる否定的な感覚もある(山本ら,2022;Clifford et al., 2020).そこで,「薬」への新たな捉え方や安定した地域生活への支援の一つとして,リカバリーの支援や他者とのつながりを強化する(Radohl, 2016)個人の行動に焦点を当てた自己主導型の非医薬品セルフケア活動(non-pharmaceutical self-care activities)であるPersonal Medicineに着目した.Personal Medicineは,当事者であり心理学者でもあるDeegan(2005)が提唱し,「人生に意味と目的を与え,自尊心を高め,症状を軽減し,入院などの望ましくない結果の回避に役立つ活動」と定義されている.このPersonal Medicineを活用することは,地域で暮らす統合失調症をもつ人のメンタルヘルス(MacDonald-Wilson et al., 2013)やストレングスを活かしたセルフケア(Bible et al., 2017)に向けた支援として意義があると考えた.
精神障害者のより安定した地域生活の支援に向けて,地域で暮らす統合失調症をもつ人のPersonal Medicineを明らかにする.
質的記述的研究
地域で暮らす統合失調症をもつ人の実体験を明らかにすることから,一般性や普遍性より個別性や具体性を取り扱う質的記述的研究が妥当であると考えた.
2. 用語の操作的定義Personal Medicine
本研究ではDeegan(2005)が述べている定義を参考に,「症状を軽減し,入院などの望ましくない結果を回避するものに役立つ活動」とした.
3. 研究参加者研究参加者は地域生活が2年以上継続している統合失調症者とした.なお,研究協力依頼は機縁法を用いて,3都道府県6訪問看護ステーションの管理者から紹介を受けた.
4. データ収集期間2021年8月~2022年6月
5. データ収集方法データ収集方法は,半構造化面接調査とした.データ収集内容は,Deegan(2005)の先行研究を参考に1)基本属性:年齢,性別,疾患歴,同居人の有無,通所先の有無,日中の過ごし方,2)病気でつらくなった時に行っていることは何か,3)普段,元気にさせる,気持ちが落ち着くために行っていることは何か,4)これからの目標や夢は何か,とした.
面接回数は1回で,面接時間は研究参加者の疲労を考慮し,地域で暮らす統合失調症をもつ人に半構造化面接を実施した横山ら(2014),春日・清水(2018)を参考に30分~60分を目安とした.また,研究参加者が希望する場合は,訪問看護ステーションのスタッフに同席してもらい,研究参加者の負担の軽減に努めた.
6. データ分析方法データ分析方法は,面接調査を介して研究参加者の語りから象徴的な意味を探るKrippendorff(1980)を基盤にしたGraneheim, & Lundman(2004)の内容分析を用いて行った.手順として,面接内容は研究参加者の同意のもと,メモの記載とICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.次に,逐語録を熟読し,Personal Medicineの内容や活用による効果といったPersonal Medicineに関連した文章を抽出した.そして,抽出した文章を意味単位に分割し,凝縮した.凝縮された意味単位を抽象化し,コードでラベル付けを行った.相違点と類似点に基づきカテゴリ化し,得られたカテゴリの関連性を検討した.
分析結果の真実性を確保するために,一般化可能性の視点(Gibbs, 2017;砂上ら,2017)で,研究者間の検討を重ね,精神看護学および質的研究に実績を持つ研究者よりスーパーバイズを受け,研究者の主観性による偏りに配慮した.
7. 倫理的配慮研究参加者には,本研究の目的や方法,研究参加は自由意思であり,拒否や中断による不利益はないこと,守秘義務の厳守,公表方法などを口頭および文書で説明し,研究協力への同意を得た.面接の日時や場所は,研究参加者の希望に沿って実施した.本研究は,三重大学医学部附属病院医学系研究倫理審査委員会の承認を得てから実施した(承認番号:U2021-016).
研究参加者は男性11名と女性5名の合計16名で,年齢層は30~70歳代であった.疾患歴は平均23.3年(8~40年)であった.面接調査時間は平均34分(11~65分)であった(表1).
研究参加者の概要
性別 | 年代 | 疾患歴(年) | 面接調査時間 | |
---|---|---|---|---|
Aさん | 女性 | 40代 | 23 | 32分 |
Bさん | 男性 | 50代 | 21 | 23分 |
Cさん | 男性 | 50代 | 22 | 23分 |
Dさん | 男性 | 60代 | 40 | 11分 |
Eさん | 男性 | 40代 | 25 | 16分 |
Fさん | 男性 | 30代 | 10 | 22分 |
Gさん | 男性 | 30代 | 8 | 32分 |
Hさん | 男性 | 40代 | 25 | 31分 |
Iさん | 女性 | 40代 | 22 | 44分 |
Jさん | 女性 | 70代 | 30 | 26分 |
Kさん | 男性 | 50代 | 30 | 39分 |
Lさん | 男性 | 70代 | 30 | 18分 |
Mさん | 女性 | 40代 | 20 | 45分 |
Nさん | 女性 | 60代 | 26 | 65分 |
Oさん | 男性 | 40代 | 16 | 52分 |
Pさん | 男性 | 50代 | 25 | 56分 |
分析の結果,184コードが抽出され,【自身に合ったライフスタイル】【メディアを通じた活動】【目的をもった外出】【他者やペットを頼る】【精神症状への認識や思考への働きかけ】の5カテゴリ,15サブカテゴリに分類された(表2).
地域で暮らす統合失調症をもつ人のPersonal Medicine
カテゴリ | サブカテゴリ | 代表コード |
---|---|---|
自身に合った ライフスタイル |
日常生活の習慣化 | 安定するために,食事時間,睡眠時間の規則正しく過ごす(O-7) |
体調が良くなるサプリメントの服用(I-21) | ||
好きなことをするための スケジュール管理 |
体調を整えるための,自分が納得のいく時間帯の設定(H-1) | |
好きなをものを 食べたり飲んだりする |
生活の安定につながる美味しいものを食べる(K-6) | |
メディアを 通じた活動 |
テレビ・映画館・ ラジオでの鑑賞 |
幻聴を聴かないために好きなテレビを見て過ごす(H-3) |
嫌なことを紛らわすためにラジオを聴く(B-3) | ||
ゲームをする | 気分を逸らすため,テレビやスマートフォンでのゲーム(P-5) | |
音楽を聴いたり 選曲したりする |
体調や状況に合わせてロックや落ち着いた曲を選んでいる(O-3) | |
目的をもった外出 | 家から離れる | 気分転換となる公園や川といった静かな場所に行く(A-12) |
自身の葛藤から避けるための外出(I-5) | ||
身体を動かす | 気持ちが落ち着くソフトボールやバンド(A-6) | |
自然にふれる | 楽になれる自然の世界にいること(A-4) | |
他者やペットを頼る | 医療者や作業所 スタッフと関わる |
体調が優れない時,主治医への相談によって「そうだったんだ」と納得できた(H-6) |
気を紛らわせる訪問看護師との会話(G-5) | ||
家族を頼る | 統合失調症による波があった時は嫁・子どもに対応を手伝ってもらう(G-4) | |
支援者以外の 他者を頼る |
悪いイメージから逃れるために,散歩や友達と会話する(I-14) | |
ペットとふれあう | 気分転換となるペットの飼育(C-5) | |
嫌な気持ちが軽減する猫との接触(J-4) | ||
精神症状の認識や 思考への働きかけ |
精神症状への 捉え方を変える |
気持ちを落ち着かせるために頭の中に守り神を作る(G-3) |
幻聴さんと上手く付き合うためには,必死にならないこと(N-1) | ||
頑張りすぎない行動 | 疲労感の軽減やプライベートな時間の拡大を実感できる頑張りすぎないための自己調整(P-4) |
以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉を用いて,研究参加者の語りを斜体で示した.( )内の言葉は,研究参加者の語りの補足とした.
1) 【自身に合ったライフスタイル】このカテゴリは,〈日常生活の習慣化〉〈好きなことをするためのスケジュール管理〉〈好きなものを食べたり飲んだりする〉の3つのサブカテゴリで構成され,生活時間の一定化,好きなことをするための時間調整,嗜好の活用によって個人の日常生活の基盤となることが語られていた.
(1) 〈日常生活の習慣化〉〈日常生活の習慣化〉は,自身に合った食事や就寝時間など生活習慣の一定化,サプリメントを取り入れることによって体調を整えることを語っていた.
「(生活が安定するために)生活習慣も一定です.夜を決まった時間に寝て.決まった時間に起きて,また決まった時間にもご飯食べてっていう」(Oさん)
「(仕事が多忙で)ちょっと疲れました.サプリメント飲み過ぎて具合悪くて倒れていたことがありました.…略…(ビタミン剤を服用するとしないでは)全然違いますね.やっぱ自然に摂れればいいなって思うんですけど.…略…お家でマルチミネラルを飲むと違います.私の場合は体調がすぐに良くなるから」(Iさん)
(2) 〈好きなことをするためのスケジュール管理〉〈好きなことをするためのスケジュール管理〉は,生活の中で自分自身の望む時間を確保することによって体調を整えていることを語っていた.
「自分で納得いくような時間を作って.生活習慣を持っていると,まああの体は動くんですけども.…略…(現在の生活は)あの自分でこう,ちゃんとした生活の場で時間帯を持って体調を整うっていう風に考え方でいます」(Hさん)
(3) 〈好きなものを食べたり飲んだりする〉〈好きなものを食べたり飲んだりする〉は,美味しいものを食べる,好きなものを飲むことで自身の生活を安定させることにつながると語っていた.
「(生活の安定の鍵は)やっぱり食事ですかね.食事だと思いますね.僕はね.美味しいもの食べるってことかな.それは,僕は思いますよ」(Kさん)
2) 【メディアを通じた活動】このカテゴリは,〈テレビ・映画館・ラジオでの鑑賞〉〈ゲームをする〉〈音楽を聴いたり選曲したりする〉の3つのサブカテゴリで構成され,メディアによる視聴覚への刺激としてテレビ鑑賞や主体的なゲームの活用,状況に合わせた音楽の選曲により幻聴の軽減や気分転換の実感が語られていた.
(1) 〈テレビ・映画館・ラジオでの鑑賞〉〈テレビ・映画館・ラジオでの鑑賞〉は,テレビや映画館,ラジオでの鑑賞が視聴覚への刺激となり,幻聴や嫌なことを紛らわしていると語っていた.
「(させられ体験の原因である幻聴を聞かないために)主に自分が好きなあのう,テレビやあとゲームをして過ごしていますね」(Hさん)
「(嫌なことを紛らわすために好きなスポーツ番組の)ラジオ聴いたりするぐらいですね」(Bさん)
(2) 〈ゲームをする〉〈ゲームをする〉は,主体的にゲームを行うことにより一人で考え込まないようになり,気分転換になることを語っていた.
「1人で居るときは振り返ったりするときがある.…略…できるだけ家でいる時はテレビ見たり,スマホでゲームしたりして,気分を逸らしますよね」(Pさん)
(3) 〈音楽を聴いたり選曲したりする〉〈音楽を聴いたり選曲したりする〉は,体調や状況に合わせて音楽を聴くことに加えて,主体的に選曲することで自身が楽に感じることを語っていた.
「(自身がつらくならないように)日常,楽しく,楽に生活できるようにはした方が通常も楽に感じるかなと思って.意識して音楽を聞いたりとかしてるんですけど.…略…(体調や状況によって選曲が変わり)今日ロックが聞きたいなとか,後はちょっと落ち着いていたのが聞きたいなっていうのはあります」(Oさん)
3) 【目的をもった外出】このカテゴリでは,〈家から離れる〉〈身体を動かす〉〈自然にふれる〉の3つのサブカテゴリで構成され,「落ち着きたい」「楽になりたい」ための目的をもった自身の判断や実感に基づく外出で得られた行き場所や居場所の確保が語られていた.
(1) 〈家から離れる〉〈家から離れる〉は,居住地の賑わいや葛藤からの逃避の目的をもって自身で選定した行き場所を活用していたことを語っていた.
「(以前の居住地が賑やかで)だから静かなところに行って落ち着きたいっていうか.公園いったりとか公園のベンチ座ってじっとするとか」(Aさん)
「(人の輪の中に嫌なイメージの)自分が消えていくんです.そういう内面の.うん.家に籠っているとなんか(自身の中の)葛藤に飲み込まれちゃうので.少し逃げるために外に行くような感じ」(Iさん)
(2) 〈身体を動かす〉〈身体を動かす〉は,ソフトボールやバンドによって気分転換となっていたことを語っていた.
「(気分転換に)病院もX市内でデイケアとか行ったりとかして.ソフトボールやバンドやっとったんやけど」(Aさん)
(3) 〈自然にふれる〉〈自然にふれる〉は,散歩中に川や公園で自然に囲まれることで病気による辛さから解放されて「楽になれる」実感を語っていた.
「今は(病気で)しんどくなったらそこの川に逃げる.…略…(家の近くの川に行って)鯉や,魚の子供,鯉の子供とか見たりとか,鳥が飛んでたりとか.そういうなんか自然,自然の世界におったら楽になれる」(Aさん)
4) 【他者やペットを頼る】このカテゴリは,〈医療者や作業所スタッフと関わる〉〈家族を頼る〉〈支援者以外の他者を頼る〉〈ペットとふれあう〉の4つのサブカテゴリで構成され,精神疾患への理解をもつ支援者やつながりのある人を意図的に活用することで精神症状の軽減や落ち着きをもたらしていたことが語られていた.
(1) 〈医療者や作業所スタッフと関わる〉〈医療者や作業所スタッフと関わる〉は,医師や看護師,作業所スタッフと関わることで現実的な考えの獲得や気分を紛らわしていたことを語っていた.
「うん,そうですね(=主治医は自身にとって道しるべとなる存在である).普通に考えたら起きないことを考えてそれを説明してもらって.そういえばそうだった,ってたった一言ができるんですね」(Hさん)
「(訪問看護は)別に病気のことを常に話すってわけじゃなくて.気を紛らわすためのものだと思っていますね.半時間であっても」(Gさん)
(2) 〈家族を頼る〉〈家族を頼る〉は,統合失調症の症状の自己管理だけでなく,家族にも伝えて,症状への対応に向けて意図的に援助を希求していたことを語っていた.
「それ(=統合失調症の症状の波)を実際に嫁に伝えたりとかもしますし.子供に(対応を)手伝ってもらったりもします」(Gさん)
(3) 〈支援者以外の他者を頼る〉〈支援者以外の他者を頼る〉は,意図的に散歩や会話を通した友人とのふれあいが心の拠り所となり,症状が軽減していたことを語っていた.
「(悪いイメージから逃れるために)散歩したり,友達と話をしたり,友達んちに行ってご飯作ってあげたり,職場と思って友達を利用する.…略…やっぱ話し相手ですね.こう受け入れてもらえる存在ですね.もう訪問看護師さんたちもそうなんだけど,だから心の拠り所って言いますかね」(Iさん)
(4) 〈ペットとふれあう〉〈ペットとふれあう〉は,ペットとふれあうことが日常生活における気分転換や嫌な気持ちが軽減する実感をもたらしていたことを語っていた.
「(ペットを飼うことは)落ち着くっていうよりは気分転換です.一種の」(Cさん)
「家族とは思えないけど,自分の心の中でわかる.猫,いいよ.本当に.(嫌な気持ちが取れてましになる)」(Jさん)
5) 【精神症状の認識や思考への働きかけ】このカテゴリは,〈精神症状への捉え方を変える〉〈頑張りすぎない行動〉の2つのサブカテゴリで構成され,何かしらの物質や動作ではなく精神症状に対する認識や無理をしないための思考を持つことで自身の精神症状を客観的に捉えて評価することが語られていた.
(1) 〈精神症状への捉え方を変える〉〈精神症状への捉え方を変える〉は,精神症状への捉え方を変えることにより,気持ちが落ち着き,精神症状に左右されないような取り組みとなっていたことを語っていた.
「僕の中には,頭の中には守り神っていうのを作っているんですよ.…略…今,統合失調症の波が来てるよとか.来てないよとかっていうのを教えてくれたりするんですよね.自分の気持ちを落ち着かせているというか」(Gさん)
「(幻聴と上手く付き合うコツは)あのね,必死にならないことですね.…略….嘘ばっかり言うしごちゃごちゃするので腹を立てないようにしています」(Nさん)
(2) 〈頑張りすぎない行動〉〈頑張りすぎない行動〉は,日常生活の中で無理しないように意識付けることによって客観的に自分を見ていたことを語っていた.
「やっぱ頑張れば頑張るほど自分に負担がかかってくるんでね.そこはある程度アクセルのあれじゃないですけど,ブレーキとアクセルの加減を気付けたような感じはしますね.…略…その辺りも客観的に自分を見れてるようになってるってことですかね.今はもう客観的に見えすぎておかしいんですよ.」(Pさん)
地域で暮らす統合失調症をもつ人のPersonal Medicineには,【自身に合ったライフスタイル】【メディアを通じた活動】【目的をもった外出】【他者やペットを頼る】【精神症状への認識や思考への働きかけ】があった.さらに,【自身に合ったライフスタイル】は個人に合う日常生活の基盤の構築,【メディアを通じた活動】は幻聴の軽減や気分転換をもたらす視聴覚への刺激,【目的をもった外出】は自身の判断や実感に基づく行き場所や居場所の確保,【他者やペットを頼る】は周囲の人的資源の意図的な活用,【精神症状の認識や思考への働きかけ】は自身の精神症状を客観的に捉えて評価することであった.また,Personal Medicineは,「主体性」をもって選択して行動し,その効果を「実感」していたことより「主体性」および「実感」の2点をもとに考察する.
1) 主体性に基づくPersonal Medicine研究参加者の多くは,〈医療者や作業所スタッフと関わる〉,同居している〈家族を頼る〉,友人といった〈支援者以外の他者を頼る〉,〈ペットとふれあう〉という周囲の人的資源を活用していた.これは,Personal Medicineは単独で活用できるが他者を巻き込んで活用することも重要であると述べていたRadohl(2016)の先行研究と一致し,周囲の人的資源の役割をそれぞれ見出し主体的に活用していたと考えられる.また,食事や睡眠時間の一定化などの〈日常生活の習慣化〉,〈好きなものを食べたり飲んだりする〉といった嗜好の取り入れ,〈音楽を聴いたり選曲したりする〉,〈家から離れる〉などの本研究の中で語られた活動は共通して,研究参加者が自らの意思で選択して,主体的に日常生活に取り入れていた.
そして,精神科治療の中では,病状や向精神薬の影響,閉鎖病棟への入院などの治療的環境により,自身の意に反して他者の選択を受け入れざるを得ない体験を多くもつ人がいる.ゆえに,主体的なPersonal Medicineの活用は,【自身に合ったライフスタイル】や【メディアを通じた活動】【目的をもった外出】【他者やペットを頼る】,【精神症状の認識や思考への働きかけ】により症状の軽減や気分転換などの効果をもたらし,研究参加者が主体的に人生を生きることにつながると考えた.
2) 自分自身が合うと実感するPersonal MedicinePersonal Medicineは,個人によって異なる多種多様なものであるが(Bible et al., 2017;Radohl, 2016;Deegan, 2005),本研究からも同様の結果が得られた.例えば,カテゴリ【目的をもった外出】のサブカテゴリ〈家から離れる〉では研究参加者Aさんは静かな場所へ,研究参加者Iさんは人が多くいる場所へ行くと語っており,同じ〈家から離れる〉でも個人によって異なっていた.このことから研究参加者は,自身に合う実感をもとに取捨選択して活用し,効果を得ていると考えた.
また,統合失調症をもつ人は,体調に合わせて活動と休息のバランスの調整を試行錯誤することで得た体験および実感から疾患と上手に付き合っている(笹木,2016).すなわち,試行錯誤を経て効果を実感できるPersonal Medicineの取り入れは,〈音楽を聴いたり選曲したりする〉や〈自然にふれる〉といったものが活動と休息のバランスを保ちながら生活に組み込まれていると考えられる.
他に,【精神症状の認識や思考への働きかけ】の〈精神症状への捉え方を変える〉では,自身の中で守り神を作ることや幻聴にとらわれないようにすること,〈頑張りすぎない行動〉では音楽やゲーム,友人との対話といった行動ではなく,自身の精神症状を客観的に捉える認知変容を通したものもみられ,Dowrick et al.(2008)の先行研究と一致する.これは,研究参加者が,Personal Medicineを自身のメンタルヘルスにおけるセルフケアの一つとして(Bible et al., 2017),自身に合うという実感がもてる精神症状への働きかける方法を獲得していたと推察される.そして,Personal Medicineは,個人によって異なる外観と機能を持ち(Radohl, 2016),個々にPersonal Medicineが複数存在していた.自身に合うという実感のある複数のPersonal Medicineを持つことが,安定した地域生活の継続につながっていたと推察される.
2. 統合失調症をもつ人が地域で安定して過ごすための支援に向けてPersonal Medicineは「主体性」をもった選択や活用による効果の「実感」があり,それによって個人に合ったライフスタイルが構築されていた.そこで,統合失調症をもつ人が地域で安定して過ごすための支援として,次の二点を提案する.
一点目に,対象者のバックグラウンドを考慮に入れた主体性を育む支援である.統合失調症をもつ人の主体性を高めるために就労や住居などを決める際は,自己決定できるように必要な情報を提供して選択しやすいように整える.自己決定の機会は,成功や失敗の体験を経て,主体的に行動する機会が増えることで自身に合ったPersonal Medicineの獲得につながると考えられる.日々の体験を支援者と一緒に振り返りや想いの共有が,良好な関係性を築き,円滑な支援につながると考えた.
二点目に,対象者に合ったPersonal Medicineの獲得に向けて,自身に合うという実感を大切にした支援である.例えば,スポーツや創作活動などプログラムがあるデイケアの参加や環境の変化を目的に散歩や自然浴の促しなどの機会があることで,自身に合うと実感できる新たなPersonal Medicineの発見につながると考えた.
また,研究参加者Iさんのサプリメントが自身に合うと実感をもてる一方で,過度な活用により体調を崩してしまった体験から,自身に合うものと活用によって体調を崩さないようなバランスを見つけることが大切である(MacDonald-Wilson et al., 2013).看護職は,対象者を包括的に見守り,時には医療的観点から助言できる重要な役割があるのではないかと考えた.そして,活用と体調のバランスを整えた自身が合うと実感できるPersonal Medicineは,地域生活で自分らしく生きていると実感して人生を歩むことにつながると考えた.
本研究では,3都道府県で面接調査を行ったが,対象地域の文化的背景や価値観が面接調査結果に影響を及ぼしていた可能性は否めない.
今後は,入院中の統合失調症をもつ人や他の精神疾患をもつ人といった対象者を拡大し,データとして十分に得られなかったPersonal Medicineの効果や夢・目標との関連などより深くPersonal Medicineを明らかにする必要がある.
地域で暮らす統合失調症をもつ人のPersonal Medicineにおいて,【自身に合ったライフスタイル】【メディアを通じた活動】【目的をもった外出】【他者やペットを頼る】【精神症状の認識や思考への働きかけ】の5つのカテゴリが明らかになった.Personal Medicineの目的や内容は個々によって異なっていたが,Personal Medicineの根底には「主体性」のある選択や活用による効果の「実感」があり個人に合ったライフスタイルが構築されていた.統合失調症をもつ人が地域で安定して過ごすための支援として,Personal Medicineに視点をおく重要性が示唆された.
本稿は,三重大学大学院医学系研究科看護学専攻博士前期課程の論文の一部であり,加筆・修正を行った.
本研究に協力してくださった16名の研究参加者の皆様,および訪問看護ステーションの皆様に心より深く感謝を申し上げます.
本研究における利益相反は存在しない.
本研究では,NYが研究のデザイン,データ収集と分析,論文作成を行い,KMは研究プロセス全体への助言を行った.両名の著者が最終原稿を読み,承認した.