入院中の糖尿病を併せもつ統合失調症患者(以下,糖尿病を併せもつ患者)への看護を行う精神科看護師の経験を明らかにし,看護への示唆を得ることを目的とし,糖尿病を併せもつ患者への看護を経験した看護師12名に半構成的面接を行った.得られた17事例のデータを質的帰納的に分析した結果,7つのカテゴリーが抽出された.
【統合失調症と糖尿病の病状安定の両立を見据える】支援が看護の特色となる一方で,【管理的な糖尿病療養行動支援】や,統合失調症への支援が優先される【看護実践の優先度の判断】もあるとされた.その中で,【糖尿病を併せもつ患者の強みへの気づき】を看護実践へ活用し,【糖尿病を併せもつ患者への看護における充足感】や【糖尿病を併せもつ患者への支援によって生じる葛藤】を感じながら,【より良い糖尿病看護実践への糸口】を見出していた.また,糖尿病集団教育や個別支援などの個々に適した支援やより積極的な多職種協働が,精神科病棟での糖尿病看護実践に寄与する可能性が示唆された.
This study aimed to explore the experiences of psychiatric nurses caring for schizophrenia patients with diabetes in the hospital and obtain their feedback. Twelve nurses who have cared for schizophrenic patients with diabetes in the hospital during the last 2 years completed semi-structured interviews.
We performed a qualitative and inductive analysis of the data obtained from the interviews in 17 cases. We extracted seven categories to describe these nurses’ experiences caring for their patients: “Psychiatric nurses aim to provide nursing care for both schizophrenia and diabetes in these patients”; “Nurses control patients’ treatment behaviors for diabetes”; “Nurses determine nursing care priorities for schizophrenia and diabetes”; “Recognizing the strengths of schizophrenia patients with diabetes”; “Feeling satisfaction providing nursing care for schizophrenia patients with diabetes”; “Feeling conflicted while supporting schizophrenia patients with diabetes”; and “Clues to improving diabetes care for schizophrenia patients.
Moreover, suitable support for schizophrenia patients with diabetes, such as diabetes group therapy, individualized diabetes treatment support, and multidisciplinary collaboration, was suggested to improve diabetes nursing practice in psychiatric wards.
統合失調症患者の糖尿病罹患には,人口や健常者に比べ有病率や発症リスクの高さがある(神﨑ら,2017;Marc et al., 2009).
国内では,糖尿病を併せもつ統合失調症患者(以下,糖尿病を併せもつ患者)への外来やデイケアでの研究(永井,2005;石橋・松谷・大森,2016)があり,地域で暮らす糖尿病を併せもつ患者には,入院中よりも医療者の支援が届きにくい状況で療養行動への積極的介入が望ましい場合があること,かつ患者の精神状態の安定により支援の授受が容易となりうることなどが要因と推察する.
一方,糖尿病を併せもつ患者の糖尿病の認識欠如や自制困難,精神症状の悪化などが入院中の血糖管理の困難さにつながる(石橋・岡村・飯塚,2010)他,精神科病院から身体科への転院依頼が精神症状を理由に断られることや,転院後も早期に逆紹介される(日本精神科病院協会,2021)ことなどから,身体科での糖尿病治療が望ましい場合も,精神科病院での入院対応を迫られる状況が起こりうる.このように,精神科病棟勤務における糖尿病を併せもつ患者への看護に対する苦慮が推察され,入院中の看護に焦点を当てた研究も必要と考える.
国外では入院施設などでの集団教育の効果(Teachout et al., 2011;Lindenmayer et al., 2009)の他,病棟勤務の精神科看護師の糖尿病の知識不足(Mikkelsen et al., 2022)などの課題も明らかにされているが,国内での入院中の糖尿病を併せもつ患者への看護に焦点を当てた研究は少なく,本研究の実施が必要である.
国内外の報告をふまえ,病棟勤務の精神科看護師は糖尿病を併せもつ患者の看護における多くの経験があり,看護実践への困難感や達成感などの感情の他,実践の具体やそこから得る知識,自身の看護や患者理解への気付きなど多岐にわたると考えた.よって,糖尿病を併せもつ患者への看護を行う精神科看護師の経験を明らかにすることで,看護への示唆の検討が可能と考えた.
精神科病棟に入院中の糖尿病を併せもつ統合失調症患者への看護を行う精神科看護師の経験を明らかにし,看護への示唆を得る.
精神科看護師の“経験”:石村(2010)は,経験について「出来事をとおして受けた影響の内実に触れ,客観的な知識や教訓を得ること,内実をきっかけに未来に向けての継続的で発展的な変化をうながすこと」と述べている.
これを踏まえ本研究では,精神科看護師の“経験”を,糖尿病を併せもつ患者への看護実践の他,看護実践や患者の反応から得られた看護における知識や良否などの教訓,自身の看護および患者理解などへの気付きや変化と定義した.
2. 研究デザイン質的記述的研究
3. 研究参加者過去2年間で入院中の糖尿病を併せもつ患者への看護経験がある看護師(精神科経験年数5年以上)12名とした.総合病院精神科病棟が少ないA県にて,糖尿病を併せもつ患者の看護の機会があると考えられる精神科単科病院4施設へ協力を依頼.参加条件を満たす候補者の紹介を看護管理者へ依頼し,看護管理者と別席で候補者への説明を行い,同意を得られたものを研究参加者とした.
なお,本研究では過去2年の経験からの語りを最優先にするため,候補者紹介における所属病棟の条件(身体合併症管理加算の有無や開放・閉鎖など)は定めていない.また,2年の間に部署異動などがあった場合,いずれの部署の語りでも構わないことを看護管理者および研究参加候補者へ説明した.
4. データ収集期間2019年(令和元年)4月~7月.
5. データ収集内容1)基礎情報として,研究参加者の年齢,性別,看護師および診療科毎の経験年数,所属施設の内科医勤務や,糖尿病治療を行う医師について聴取した.
2)糖尿病を併せもつ患者への看護を行う精神科看護師の経験として,過去2年での1~2事例の看護実践および実践や患者の反応から得られた看護への知識や良否などの教訓,自身の看護や患者理解への気付きや変化について聴取した.
6. データ収集方法研究参加者に対し,研究者が作成した基礎情報収集用紙の記載を依頼し,記載後にプライバシーが保てる個室にて半構成的面接を実施した.面接内容は,研究参加者の許可を得てICレコーダーに録音した.
7. データ分析方法基礎情報の集計を行い,個別分析として事例毎の逐語録から研究参加者の経験を抽出し,データの意味を保つよう切片化し一文一意味のものを1次コードとした.その後,1次コードを意味の類似性に従いカテゴリー化し,カテゴリー化の最終段階をカテゴリー,その1つ前をサブカテゴリーとした.次に,個別分析のサブカテゴリーを1次コードとして全体分析のカテゴリー化を行った.
また,分析の過程にて質的研究に精通する研究者のスーパーバイズを受けた.
8. 倫理的配慮研究参加候補者に,研究の目的,意義,協力依頼内容と自由意思の尊重,拒否や同意撤回の保証と不利益がないこと,プライバシー及び個人情報の保護などを口頭と文書で説明し,同意書への署名を得て研究参加者とした.
なお本研究は,岩手県立大学大学院看護学研究科研究倫理審査会の承認(承認番号:2019-M005)の他,研究協力病院の病院長および看護管理者から倫理的な視点での確認を受け,承諾書に署名を得た上で実施した.
研究参加者12名の平均年齢は44.3(SD8.82)歳,看護師経験平均年数21.7(SD9.04)年,精神科経験平均年数17.5(SD7.34)年であった.他科勤務経験のある看護師8名の平均年数は6.25(SD5.49)年,所属施設には常勤ないし非常勤の内科医が勤務していた(表1).糖尿病治療に複数の医師が携わる場合,治療導入時や指示変更時などには内科医の指示,状態変化も少なく継続処方の場合などには精神科医の診察や指示による看護を実施することが多かった.
研究参加者の基礎情報
年代 | 性別 | 看護師 経験 |
精神科 経験 |
他科経験年数と 勤務経験のある診療科 |
所属施設の 内科医 |
面接 時間 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 20歳代 | 男性 | 7年 | 7年 | なし | 非常勤 | 66分 |
B | 30歳代 | 男性 | 15年 | 15年 | なし | 非常勤 | 60分 |
C | 30歳代 | 男性 | 11年 | 11年 | なし | 非常勤 | 72分 |
D | 30歳代 | 女性 | 18年 | 16年 | 2年 内科 |
常勤 | 47分 |
E | 30歳代 | 男性 | 12年 | 11年 | 1年 消化器内科 |
非常勤 | 76分 |
F | 40歳代 | 男性 | 20年 | 20年 | なし | 非常勤 | 80分 |
G | 40歳代 | 女性 | 22年 | 16年 | 6年 整形外科 内科 |
非常勤 | 48分 |
H | 50歳代 | 女性 | 28年 | 10年 | 18年 消化器内科 脳外科 神経内科 外科 小児科 |
非常勤 | 69分 |
I | 50歳代 | 女性 | 27年 | 18年 | 9年 循環器科 外科 |
非常勤 | 75分 |
J | 50歳代 | 女性 | 32年 | 30年 | 2年 循環器科 泌尿器科 |
常勤 | 58分 |
K | 50歳代 | 女性 | 37年 | 27年 | 10年 内科 |
常勤 | 52分 |
L | 50歳代 | 女性 | 31年 | 29年 | 2年 内科 小児科 |
常勤 | 61分 |
計17事例の語りより(表2),個別分析では1498の1次コード,500の2次コード,220のサブカテゴリー,134のカテゴリーが抽出(一部を表3に記載)された.全体分析では,個別分析の220のサブカテゴリーを1次コードとし,103の2次コード,49の3次コード,26の4次コード,13の5次コード(サブカテゴリー),7つの6次コード(カテゴリー)が抽出された.以下【 】はカテゴリー,《 》はサブカテゴリー,「斜体」は研究参加者の語りを示す(表4).
事例の概要
年代 性別 |
DM治療を 行う医師 |
DM治療への 認識・態度 |
精神症状等 | 間食 | 薬物療法 | 入院中の 活動 |
事例の具体や看護について | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
a1 | 40歳代 女性 |
主治医 かかりつけ |
合併症の進行を抑えたい | 向精神薬への猜疑心 | 飴⇒お茶 (自己管理) |
内服 | OT参加 | かかりつけ医院で治療を行っていたが,入院中に網膜症と診断を受ける.患者自ら間食を変更すると話すため,内容について助言するように支援した. |
b1 | 60歳代 男性 |
主治医 内科医(非) |
食事療法で痩せた実感はある 間食の量に不満 |
興奮 理解力低下 |
1日200 Kcal (看護師管理) |
入院前⇒ インスリン 入院後⇒ 中止 |
OT参加 (隔離開放 時間中) |
隔離処遇から一般処遇へ移行中.入院中の食事管理で薬物療法が中止となる.他患者と自分の間食の量の違いから生じる興奮を収めるように対応した. |
b2 | 60歳代 男性 |
主治医 内科医(非) |
治療を受け入れている様子 | 安定 | ブラックコーヒー 0 Kcal炭酸飲料 (自己管理) |
なし | OT参加 | 妻(精神疾患あり)との外出や面会後に嘔吐するが,患者は過食を認めず.過食について問いすぎることでの精神状態悪化のリスクを考慮して関わった. |
c1 | 40歳代 女性 |
主治医 内科医(非) |
間食増量の要求 | 被毒妄想 | お茶・0 Kcalゼリー ⇒スナックや チョコの追加 (自己管理) |
内服 | OT参加 | 地域生活中,DMの診断を受けたことで陰性症状が強くなり入院に至る.指示通りの間食を購入できるよう買い物に同伴し,会計前に商品を確認した. |
d1 | 30歳代 男性 |
主治医 | 間食の希望が強い 空腹時は低血糖と認識していた |
易怒的 | 1日200 Kcal (自己管理) |
内服 | OT参加 筋トレ 病棟外散歩 |
放火疑いで措置入院.振り返りノートでの支援を重ね,誤った低血糖と補正の考えから,1週間分の間食が2日程度でなくなっていたことを明らかにした. |
e1 | 60歳代 男性 |
主治医 内科医(非) |
インスリン導入を受け入れるが,間食への介入は受け入れない | 幻覚妄想 (警察介入での入院) |
本人の意思にて好きな物を摂る | 入院前⇒ インスリン 入院後⇒ 内服に変更 |
OT参加 | 警察介入で入院.入院中の食事で血糖値は改善するが,間食の指摘を気にする様子で血糖測定を嫌がる場合がある.間食変更への動機づけが出来なかった. |
f1 | 70歳代 男性 |
主治医 内科医(非) |
内服や間食の量について「分かっている」と | 安定 | 煎餅 0 Kcal清涼飲料水 (看護師管理) |
内服 | OT参加 | DMに加え循環器疾患の合併でDNRとなり,患者の希望で間食している.間食以外の患者の希望を引き出せるように支援した. |
g1 | 40歳代 男性 |
主治医 内科医(非) |
内服(処方)に応じない 間食も減らしたくない |
興奮 理解力低下 |
カップラーメン 炭酸飲料 (看護師管理) |
なし | OT参加 | 幻覚妄想の影響で説明の理解が難しい.患者の年齢や合併症のリスクを考慮し,患者の興奮や食べたい気持ちを受け止めながら,間食の減量を行った. |
h1 | 60歳代 女性 |
主治医 | 精神状態が安定すると拒食薬がみられなくなる | 被害的思考食事量減少拒食薬 | 炭酸飲料 (看護師管理) |
内服 | OT参加 | 精神状態の悪化に伴い食事量が減少.その時期のDM薬の内服判断に苦慮した.精神状態の変化を見極めながら患者の好物などを促し,食事量確保に努めた. |
h2 | 40歳代 女性 |
主治医 かかりつけ |
間食のために運動する | 興奮 攻撃性 |
魚肉ソーセージ パン⇒ヨーグルト スナック(小袋) |
内服 | OT参加 病棟内散歩 |
間食によって精神状態が安定する.DM患者への間食の促しに疑問があったが患者の楽しみとして理解し,間食のカロリーが低くなるように支援した. |
i1 | 60歳代 男性 |
内科医(非) かかりつけ |
まあまあで良い 自宅での食事・薬物療法は「出来ねぇなぁ」 |
抑うつ | なし | 内服 インスリン |
OT参加 | 入院にて血糖値などは改善するが,独居での食事や内服管理の不十分さがある.患者なりの努力を受け止め,看護師の考えを押し付けすぎないように関わった. |
j1 | 70歳代 女性 |
内科医(常) | インスリン注射 手技良好 |
安定 | ブラックコーヒー (看護師管理) 加糖缶コーヒー (自ら購入) |
内服 インスリン |
OT参加 病棟内散歩 |
看護師がその都度声掛けをするが,毎朝の加糖の缶コーヒーがやめられない.退院の目途もなく,検査値などが悪化しない間は見守る姿勢で良いと考える. |
j2 | 50歳代 男性 |
内科医(常) | 内服自己管理 間食を減らす様子なし |
興奮 攻撃性 |
サンドイッチ 加糖缶コーヒー (自ら購入) |
内服 | OT参加 | 看護師の声掛けに耳を向けず,好きなように間食する.DM薬内服で検査値は安定.気に掛けている事を伝える意味も含め,声掛けだけは継続している. |
k1 | 60歳代 女性 |
内科医(常) | 糖尿病食への変更に応じない | 妄想 興奮 連合弛緩 |
加糖スキムミルク (看護師管理) スナック等 (自己管理) |
内服 | OT参加 | 夜間にもスキムミルクを希望し興奮することがある.週に1度,あるかないかの希望であるため,興奮が強くなる場合にはスキムミルクを渡すことがある. |
k2 | 80歳代 男性 |
内科医(常) | 間食したい気持ちが強い | 興奮 | パン・ビスケット カップラーメン (看護師管理) |
なし | OT参加 | 認知症を併せもつ.頻回に間食を希望し,興奮することがある.常に有効な対応方法はなく,その都度興奮を収めるための方法を考えながら支援している. |
l1 | 80歳代 男性 |
主治医 内科医(常) |
血糖値などを気にする様子あり 高血糖の方が調子がよいと話す |
安定 | なし | インスリン ミックス⇒ スケール |
なし | 内科医による混合型インスリンの指示にて,低血糖で意識障害を起こす.内科医の指示に疑問を抱き,患者のADL拡大を目標に支援した. |
l2 | 60歳代 女性 |
主治医 内科医(常) |
インスリン注射 介助の際に易怒性・興奮あり |
妄想 易怒性 粗暴行為 |
なし | インスリン⇒イレウス発症後から中止 | ベッド上 | 治療の必要性を理解してもらえるよう関わったが良い結果が出なかった.拒否の強いインスリン注射が中止になり,看護師の気持ちは楽になった. |
*主治医…精神科主治医 (常)…常勤 (非)…非常勤
糖尿病を併せもつ統合失調症患者への看護を行う精神科看護師の経験(個別分析カテゴリーの一部を掲載)
事例 | カテゴリー |
---|---|
a1 | 患者の血糖値を観察し,患者が合併症予防のための間食の管理への意識を持ちながら自立した生活ができるよう助言する |
b1 | 糖尿病薬を内服せずに良い状態を維持できるよう,患者がおやつを要求して興奮する場合は,看護師間で統一してカロリーの低いおやつで対応している |
b2 | 患者との外出時の過食について振り返りができないため,妻の協力がない場合には,退院後に患者が嘔吐を繰り返すことが心配である |
c1 | 患者は元々の生活習慣を失うような思いでおやつ制限を受け入れていると感じるため,制限を理解してもらいつつ,糖尿病のデータが悪くならなければ,患者のおやつを食べたい思いに沿っても良いと思う |
d1 | 患者の生活に添う糖尿病治療のため,専門医の診察も必要と考えたが,患者の血糖値が安定していたために看護師の考えを主治医に伝えにくかった |
e1 | 閉鎖病棟では,好きなものを自由に食べる生活への制限が強くなるため,糖尿病のコントロールは良くなるが,患者にとっては快くない環境だと感じる |
f1 | 精神科の臨床経験のみでは,糖尿病などの身体疾患の症状に応じた柔軟な対応や,教育的なアプローチに自信が持てない |
g1 | 精神科急性期治療の退院の目安である3ヶ月で,患者の心身の状態の他,退院後も実践可能な約束事や生活環境についても調整が必要な事は看護師にとって過酷であり,心身をすり減らす思いがある |
h1 | 患者が食事も内服も拒否する場合,統合失調症が悪化しないように,時間をおいても抗精神病薬は内服してもらうように関わっている |
h2 | 受け持ち看護師を中心にカンファレンスを行うが,患者が間食をすることについて,看護師の認識に違いがあり,統一した対応を考えることが難しい |
i1 | 栄養士が行った入院患者への糖尿病食の集団指導を通して,集団に対する指導の良い効果を実感した |
j1 | 月1回の家族との外食や,毎日加糖の飲み物を飲むことは,患者の入院生活の楽しみであり,患者らしい生活だと感じる |
j2 | 間食が出来ないことを理解してもらえるように声かけをしているが,患者の入院目的は糖尿病治療ではないため,患者の間食を大目に見ることが増え,糖尿病の病識をもってもらえるような対応に意識が向かなくなる |
k1 | 患者の低血糖を疑う場合も,患者に病識がなく,興奮して血糖測定が出来ないことで糖尿病の治療や看護の難しさを感じる |
k2 | 患者の興奮やおやつの要求に対して,患者の精神状態に応じた対応をその都度考えている |
l1 | 内科医のインスリンミックスの指示では患者の安定した血糖コントロールは難しく,スライディングスケールの方が血糖値が安定すると考えている |
l2 | 糖尿病を併せもつ患者は,精神状態も血糖値も安定していることが1番良い |
糖尿病を併せもつ統合失調症患者への看護を行う精神科看護師の経験(全体分析)
カテゴリー | サブカテゴリー | 4次コード |
---|---|---|
統合失調症と糖尿病の病状安定の両立を見据える | それぞれの患者が生活の中で実践しやすい療養行動を見つけ出して支援する | 患者主体で療養行動に取り組めるよう,患者が受け入れやすいような助言や支援を模索しながら支援している |
患者の退院後の生活を視野に入れるため,患者の地域生活の様子を把握し,患者が生活に取り入れやすい行動から支援を行う | ||
低血糖や合併症の予防や対処について,患者と共有しながら支援する | 血糖値などを把握し,低血糖や合併症の症状を観察しながら,予防や対処について患者と共有している | |
統合失調症と糖尿病の病状変化を鑑みて支援する | 統合失調症と糖尿病の症状変化は相関することがあるため,2つの疾患の症状を極力良い状態で保つことを目標に支援している | |
患者の精神状態が安定している時期を見極め,患者の間食したい気持ちに寄り沿いながら,運動習慣の定着や間食の内容の検討に向けて支援する | ||
管理的な糖尿病療養行動支援 | 入院中の糖尿病の病状安定のため,患者の療養行動に管理的な立場で介入する | 患者の血糖コントロールや穿刺針などの管理を確実に行うため,看護師管理で薬物療法を行う |
精神科入院中の糖尿病悪化を防ぐため,間食は低カロリーのものや飲み物のみで対応する | ||
患者に興奮や拒否がある場合でも,主治医および複数の看護師で対応し,必要な糖尿病治療の受け入れを促している | ||
看護実践の優先度の判断 | 統合失調症と糖尿病の治療の優先度を天秤にかけて対応する | 患者の療養行動や糖尿病の経過に目立った変化がなければ,糖尿病よりも統合失調症への支援を重視する |
糖尿病は統合失調症よりも内服でコントロールしやすいため,間食の制限で精神状態が悪化するような患者に対しては,糖尿病薬を調整する方が良い | ||
間食を摂れるようにすることで,患者の精神状態の安定につながる場合がある | ||
糖尿病を併せもつ患者の強みへの気づき | 患者なりに糖尿病を受け入れ,療養行動を実践できる | 間食を摂ることを目的に,運動やインスリン注射を行うような患者もいる |
統合失調症の病識が不十分でも,糖尿病や療養行動を受け入れられる患者もいる | ||
糖尿病を併せもつ患者への看護における充足感 | 患者の心身の状態や看護師自身の感情の変化を見極めながら行う患者対応へのやりがい | 精神症状の影響を受ける患者の言動を受け止め,看護師自身の感情を客観視しながら対応することで,よいやり取りが出来ると感じる |
患者の心身の状態変化や不調の前兆を見極め,望ましい対応を考えて実践することに,精神科看護のやりがいを感じる | ||
患者の療養行動の定着や地域生活に向けた支援が良い結果に結び付くことへの喜び | 患者に対する糖尿病の説明や支援が,療養行動の実践や地域生活に結びつくことで,精神科病棟での糖尿病支援に喜びを感じる | |
糖尿病を併せもつ患者への支援によって生じる葛藤 | 精神科病棟での糖尿病治療が望ましい経過にならないことへの歯がゆさ | 精神科病棟での糖尿病治療において,医師との十分な連携や,患者・家族の治療への理解が得られない場合は,患者にとっての不利益となりうる |
入院中,治療を受けながらも患者の糖尿病が悪化することは気の毒だと感じる | ||
精神科診療のみの糖尿病治療では,患者への支援の不十分さを感じることがある | ||
患者の療養行動への支援や退院後の生活基盤の調整を行うことへの苦慮 | 糖尿病コントロールのために行う間食の制限などの管理的な療養行動支援について,患者が快く思わない場合があると感じる | |
患者の糖尿病の病状が安定している場合は,生活の楽しみである間食を患者の希望通りに摂ることがあっても良い | ||
入院期間中に統合失調症と糖尿病の状態安定に加え,退院後の生活環境の調整や療養行動の動機づけまでを求められることに苦慮する | ||
より良い糖尿病看護実践への糸口 | 糖尿病看護の実践知の獲得や患者の経過の十分な把握が,糖尿病看護への拠り所となる | 糖尿病看護の実践知の獲得や,患者の経過を十分に把握することが,糖尿病看護実践の拠り所となる |
療養指導や糖尿病の理解を促す支援の基準を設けて対応できると良い | 患者個々への看護師の対応を統一し,さらに病棟患者全体を対象に予防を含めた糖尿病支援を行えると良い | |
糖尿病治療に対する患者の正しい理解を促すため,必要な情報を具体的に伝えられるような枠組みがあると良い | ||
療養行動の強みに対する正のフィードバックが出来ると良い | 患者の療養行動の強みを見出し,正のフィードバックを行うことは,その強化に効果的である |
このカテゴリーは,患者の主体的な療養行動を引き出し,2つの疾患の病状変化の関係を考慮して,病状安定の両立に向けた支援が行われることである.
《それぞれの患者が生活の中で実践しやすい療養行動を見つけ出して支援する》は,退院後の継続を念頭に置き,それぞれの患者が日常生活で無理なく実践できる療養行動を見つけ出し,支援に結び付けていることである.
「(Ptが)家に帰った後の生活を考えて関わるっていうのが大切だと思うので.1から10まで(Nsの考えを)押しつけてしまわずに,その中(地域生活)に組み込んでいけるものがあればいいなっていう」i1
《低血糖や合併症の予防や対処について,患者と共有しながら支援する》は,低血糖や慢性合併症の発症や進行を防ぐため,検査値と併せて各々の症状を観察し,必要な予防や対処行動について患者と共有しつつ支援することである.
「(手のしびれや冷汗などの訴えに対して)実際に(血糖値を)測ったときにそうでもなかったっていう感じの.ただ,症状としては現れているので,自分(Pt)としても(補正として間食を)食べてしまうって言ったので.そういう時には飴1個って決めようかっていうやり方にしてました」d1
《統合失調症と糖尿病の状態変化を鑑みて支援する》は,精神状態が安定した際に,間食の調整や運動療法の促しに力を入れるなど,2つの疾患の症状の安定や改善の足並みが揃うことを目標に支援することである.
「(病棟で)ラジオ体操をしてたので,ラジオ体操出ましょうとか.(間食するなら)OT(参加)とか,歩きましょうっていう形でやってました」h2
2) 【管理的な糖尿病療養行動支援】このカテゴリーは,精神科病棟において,入院中の患者への糖尿病の療養行動支援が管理的に行われる場合があることである.
《入院中の糖尿病の病状安定のため,患者の療養行動に管理的な立場で介入する》は,入院環境での糖尿病の病状安定のため,支援の条件を一律にするなど,患者の療養行動を看護師側が管理するような方法で関わることである.
「(他患者の間食もあり)もうちょっとあげたいっていう気持ちにもなるんですが.せっかくここまで内服(DM薬)せず行けてるので,ここを頑張って」b1
3) 【看護実践の優先度の判断】このカテゴリーは,患者の統合失調症と糖尿病に対する看護実践において,看護師が考える優先度の判断が存在していることである.
《統合失調症と糖尿病の治療の優先度を天秤にかけて対応する》は,精神科病棟においては,統合失調症患者が糖尿病を併せもつ場合も,状況により糖尿病への支援が重視されずに看護が行われることである.
「例えば(DM薬を)拒薬をするとか,ご本人がおやつの制限,制限って言っちゃうとアレですけど,そういうのを守れなかったりっていうケースにならないと深く介入しないっていうのが現状のような気がします」f1
4) 【糖尿病を併せもつ患者の強みへの気づき】このカテゴリーは,看護師が糖尿病を併せもつ患者への支援を通して,患者なりの糖尿病やその療養行動を強みとして認識することである.
《患者なりに糖尿病を受け入れ,療養行動を実践できる》は,必ずしも望ましい行動ばかりではないが,糖尿病を請け負う様子で療養行動をとる患者の姿が強みになりうると捉え,患者なりの療養行動を受け止めることである.
「(棟内散歩)毎日歩いてたかなっていうと疑問に感じる.でも気付くと歩いているな,という感じでした.この方は(甘い)缶コーヒーが大好きで」j1
「インスリンもちゃんと出来てます(中略)お薬も自己管理してますから」j1
5) 【糖尿病を併せもつ患者への看護における充足感】このカテゴリーは,糖尿病を併せもつ患者に対する看護実践の過程や結果から,やりがいや喜びなどの充足感が得られることである.
《患者の心身の状態や看護師自身の感情の変化を見極めながら行う患者対応へのやりがい》は,患者の心身の状態変化に加え,看護師が抱く患者対応への感情にも目を向け,より良い対応を検討して実施することへのやりがいである.
「(Nsが)必死になって,いちいちキーキー言ってたことっていうのは,やっぱ(Ptは)聞かないですね.(Nsが)落ち着いて穏やかに言ったことの方が,患者さんには「ああ」って入っていく.(中略)患者さんと関わっている自分を,ちょっと客観的に,こっち(頭上)から見ているような感じで」g1
《患者の療養行動の定着や地域生活に向けた支援が良い結果に結び付くことへの喜び》は,入院中の看護実践が患者の糖尿病の理解を促し,療養行動の定着や退院後の地域生活に良い形で結び付くことに感じる喜びである.
「(Nsが渡したカロリー表をみて)やってるよって言ってもらったときには,良かったなぁって素直に思いますかね.(中略)(地域生活で)高カロリーのものを食べた時には,次の食事は気を付けるっていうお話もされていたので」i1
6) 【糖尿病を併せもつ患者への支援によって生じる葛藤】このカテゴリーは,精神科看護師が精神科病棟で糖尿病を併せもつ患者への糖尿病治療や看護に関わることで生じる葛藤に関するものである.
《精神科病棟での糖尿病治療が望ましい経過にならないことへの歯がゆさ》は,入院治療を受ける中でも,患者への不利益が生じるなど,看護師が考える望ましい治療経過とならないことに歯がゆさを感じることである.
「(入院中もDMのかかりつけ医に)通院してたと思ったら,突然,初期の網膜症って言われましたっていうことで.(Ptは入院中も療養行動を)結構頑張ってたのに(網膜症と診断され)残念というか,かわいそうというか」a1
《患者の療養行動への支援や退院後の生活基盤の調整を行うことへの苦慮》は,入院期間中,患者の心身の病状安定に加え,地域生活を考慮した介入や,療養行動の管理から動機づけまでの支援を行うことへの苦慮である.
「糖尿病だったら食事制限したりしてれば,あっという間に値って良くなっていくのかもしれないですけど.それに統合失調症の状態が伴っていかないと,どうしようもないですし,どっちが欠けてもダメなんですよね.それを同時に上手く(良い状態に)もってって.退院につなげて,地域に出して…」g1
7) 【より良い糖尿病看護実践への糸口】このカテゴリーは,精神科病棟で糖尿病への看護をより効果的に実践する方法として,精神科看護師が考えていることである.
《糖尿病看護の実践知の獲得や患者の経過の十分な把握が,糖尿病看護への拠り所となる》は,精神科病棟の看護師が,糖尿病看護への実践知を有することや,患者それぞれの2つの疾患の症状の傾向や療養行動の特徴などを把握できていることが,より良い糖尿病看護実践に結び付くという考えである.
「(身体科経験のあるNsは)そういう(DM等の身体的な)病気に対する知識だったり経験もあるから,いろんな選択肢をちゃんと導いて意見を言える」f1
《療養指導や糖尿病の理解を促す支援の基準を設けて対応できると良い》は,精神科病棟での糖尿病療養指導や糖尿病の理解を促す支援に活用できる枠組みを設けることで,支援の道筋や根拠に出来るという考えである.
「(病院や病棟単位でPtにDMの)ここだけは理解してもらおうっていうところの線引きがあれば,私たちもやりやすい」f1
「(心理教育のような支援をDMにも)使えるんであれば使いたい」j1
《療養行動の強みに対する正のフィードバックが出来ると良い》は,患者がもつ療養行動の強みや,それを活かした行動に目を向け,患者に正の評価を伝えられることで,療養行動の動機づけや強化に良い効果が生まれるという考えである.
「(日常生活での療養行動について)これが出来なきゃダメだよって言うよりも,これが出来てるからいいんだよ,から入る方が.(中略)良い部分を評価しながら,より良い方向に持って行きたいっていう感じですね」e1
《それぞれの患者が生活の中で実践しやすい療養行動を見つけ出して支援する》ことや,《低血糖や合併症の予防や対処について,患者と共有しながら支援する》ことは,患者の主体的な糖尿病療養行動を見据えたものであり,外来患者に有用な,患者の意思を尊重しながら糖尿病管理への意欲を高めつつ,適切な方法を提案すること(永井,2005)と類似している.これは,精神科での退院促進の他,退院後1年で約37%になる再入院率(厚生労働省,2019)との関連が推察される.再入院は患者にとって長短があるが,病棟看護師には地域生活を経た患者と関わる経験となり,その経験を加味した実践に結び付くと考えられる.
《患者の統合失調症と糖尿病の状態変化を鑑みて支援する》ことは2つの疾患への並行した支援が少ないこと(Mikkelsen et al., 2022)と異なる知見である.統合失調症を含む精神疾患(SMI)患者がもつ,精神的不調による糖尿病管理の困難さ(Mulligan et al., 2018)に配慮する結果もあり,統合失調症支援の中で糖尿病支援への道筋をつけることが,精神科病棟での看護の特色と考える.前述の報告にて,患者が最も困難な療養行動を定期的な運動と健康的な食事としたことからも,運動や間食への支援が患者の実践しやすさに繋がることが療養行動の習慣化への鍵といえる.
2) 【管理的な糖尿病療養行動支援】《入院中の糖尿病の病状安定のため,患者の療養行動に管理的な立場で介入する》ことについて,統合失調症患者はその診断基準(DSM-V)によっても,自己管理能力の著しい低下があるとされている.患者の自制困難により糖尿病の病状が不良となる(石橋・岡村・飯塚,2010)ことや,インスリン注射等の穿刺針は精神科病棟では危険物になりうることから,薬物療法の確実な実施の必要性も相まって,入院中は管理的に関わらざるを得ない場面を経験すると考えられた.
3) 【看護実践の優先度の判断】精神科での身体面の観察の優先度の低さ(荒木ら,2013)や,2つの疾患への並行した支援の少なさ(Mikkelsen et al., 2022)に類似した結果であり,特に間食により精神状態が左右される事例では,精神状態の安定の優先により糖尿病療養行動が不十分になる可能性もある.血糖管理が不良な患者ほど薬物療法に依存する傾向がある(石橋・岡村・飯塚,2010)が,看護師としては,患者の精神状態の安定を優先するあまり,血糖値の安定を薬物療法のみにゆだねることは極力避けられるべきである.
4) 【糖尿病を併せもつ患者の強みへの気づき】松谷・石橋・金城(2018)により,精神科デイケアでの糖尿病教育実施の困難として病識や理解力の低さがあるとされたが,本研究の参加者は患者との関わりを通して患者が糖尿病やその療養行動を受容する姿も捉えていた.よって,患者の行動すべてが望ましい療養につながらない場合も,患者の強みに着目することで看護師の認識が変化することも考えられる.
5) 【糖尿病を併せもつ患者への看護における充足感】国内の先行研究では,糖尿病を含む身体合併症看護への不安や困難の報告が散見される.その一方,本研究では《患者の心身の状態や看護師自身の感情の変化を見極めながら行う患者対応へのやりがい》や,《患者の療養行動の定着や地域生活に向けた支援が良い結果に結び付くことへの喜び》も得られており,糖尿病そのものに加え,患者やその生活に寄り添うことで,糖尿病を併せもつ患者への看護における充足感を得る経験となりうることが考えられた.
6) 【糖尿病を併せもつ患者への支援によって生じる葛藤】《精神科病棟での糖尿病治療が望ましい結果にならないことへの歯がゆさ》については,精神科病棟での身体合併症看護の実践後の気がかり(武石ら,2017)との類似がある.これについては,精神科看護師が自身の看護実践による,結果の振り返りや患者への不利益の可能性への考えなどが挙げられたが,医師との不十分な連携や,家族の疾患の理解不足などは,糖尿病合併を問わず,精神科病棟勤務の看護師の葛藤(木村・村松,2010)としての報告がある.よって,看護師が抱く歯がゆさについては,患者の糖尿病の合併で引き起こされるものと,精神科病棟勤務で感じる葛藤と関連するものがあると考えられる.
また,精神科病棟での糖尿病の経過が思わしくないことや支援不足を感じることは,Mikkelsen et al.(2022)によっても述べられ,統合失調症および糖尿病を専門とする診療科の連携が必要とされた.国内の精神科病院においても,内分泌科などとの連携が容易になることは,患者の病状安定と看護師の葛藤改善の双方への寄与となりうる.
《患者の療養行動への支援や退院後の生活基盤の調整を行うことへの苦慮》については,入院中から患者の地域生活を考慮した看護を行う必要があると認識することが,要因の1つと推察する.患者の地域移行には,病院スタッフの支援の他,外部の支援者との関わりの確保(厚生労働省,2014)が必要とされており,糖尿病を併せもつ患者への療養行動や退院への支援についても,精神科看護師の注力に加え,院内の多職種や,地域の関連職種などとの連携が望ましいといえる.
7) 【より良い糖尿病看護実践への糸口】精神科看護師は,自らの経験と他の看護師の実践を客観視することで,《糖尿病看護の実践知の獲得や患者の経過の十分な把握が,糖尿病看護への拠り所となる》ことを導き出していた.精神科病棟勤務では,身体看護の経験や知識が不足し,更新されないことに不安や困難を感じる(武石ら,2017;荒木ら,2013)ことからも,精神科経験を重ねつつ糖尿病看護の実践知の獲得や維持更新が出来ることが,より良い看護実践への糸口になりうる.
日頃の患者の傾向を知ることは身体合併症の発見に有用(石橋,2006)であり,本研究の参加者によっても実践されていた.これをふまえ,特に初回入院の患者などについて,行動の特徴や精神症状の程度,過去の糖尿病の経過などを早期に把握できることが,よりよい看護実践への一助となると考える.
患者個々の経過の把握が必要な一方,《療養指導や糖尿病の理解を促す支援の基準を設けて対応できると良い》ことから,支援の導入として基準を設けて実践を重ねることも糖尿病看護の実践知構築への一助となりうる.また,統合失調症患者には,情報の取捨選択やあいまいな状況への処理の苦手さ(岩満,2010)があり,看護師の対応の差異による患者の負担も推察されるため,糖尿病支援の枠組みを設けることも有用といえる.
《療養行動の強みに対する正のフィードバックが出来ると良い》ことについて,糖尿病患者のセルフケアには自己効力感が影響する(大山・岩永,2019)が,糖尿病を併せもつ患者の自己効力感は,糖尿病のみの患者と比較して有意に低い(Chen et al., 2014)とされた.患者の自己管理向上には積極的な励ましが有用(Cimo et al., 2012)であることからも,療養行動への正のフィードバックを重ねることが有用といえる.
2. 糖尿病を併せもつ統合失調症患者への看護に対する示唆【統合失調症と糖尿病の病状安定の両立を見据える】ことを基盤に,患者の地域生活での治療の優先度を考慮しつつ,継続可能な療養行動を共に考えられることが望ましい.また,集団教育や個別支援,あるいは支援の枠組みの効果の検討など,個々の糖尿病治療参画に適した支援を見出すことが有用と考える.
統合失調症と糖尿病の診療科間の連携(Mikkelsen et al., 2022)の有用性について,国内での体制の均てん化までも,患者への支援の継続が必要である.そのため,まずは内科病棟での糖尿病教室などの支援が,薬剤師や管理栄養士などと協働して実施されることを踏まえ,事例i1(表3)での栄養士との協働のように,精神科病棟での糖尿病支援においても多職種と協働する体制が醸成されることが,看護の充実に結び付くと考える.
本研究の限界として,研究参加者の勤務病棟が精神科急性期病棟など様々であり,急性期および慢性期の患者への支援が混在して語られていることや,調査地域が限定されることにより,結果を一律して一般化することへの難しさがある.今後は調査対象病棟の統一や,調査地域の拡大などにて,糖尿病を併せもつ患者への看護を行う精神科看護師の経験を更に明らかにする必要がある.
精神科病棟にて勤務し,過去2年で入院中の糖尿病を併せもつ患者への看護経験がある看護師12名への調査の結果,以下の内容が明らかとなった.
【統合失調症と糖尿病の病状安定の両立を見据える】支援が看護の特色となる一方で,【管理的な糖尿病療養行動支援】や,統合失調症への支援が優先される【看護実践の優先度の判断】も存在する.その中で,患者なりの糖尿病や療養行動の受容を【糖尿病を併せもつ患者の強みへの気づき】に結び付けることで,看護実践への活用がなされ,【糖尿病を併せもつ患者への看護における充足感】や【糖尿病を併せもつ患者への支援によって生じる葛藤】を感じながら,【より良い糖尿病看護実践への糸口】を見出していた.また,糖尿病集団教育や個別支援などの個々に適した支援や,より積極的な多職種協働が,精神科病棟での糖尿病看護実践に寄与する可能性が示唆された.
本研究にご参加いただいた看護師の皆様,本研究の趣旨のご理解と実施の承諾を下さいました各施設の病院長先生ならびに看護管理者の皆様に心より感謝いたします.また,岩手県立大学大学院看護学研究科にて多大なご指導をいただきました内海香子先生,伊藤收先生,工藤朋子先生に深謝申し上げます.
本研究はKRの岩手県立大学大学院看護学研究科博士前期課程の修士論文を加筆修正したもので,一部を第40回日本看護科学学会学術集会にて発表した.
KRは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文の作成を行った.また,最終原稿を読み,承認した.
本研究における開示すべき利益相反は存在しない.