日本精神保健看護学会誌
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資料
精神看護学における「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」に関する教授活動の実態調査
竹林 令子
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2024 年 33 巻 1 号 p. 98-105

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Abstract

目的:本研究の目的は,精神看護学分野におけるNCFPS教授活動の実態調査を行い,教授活動の課題を整理することである.方法:国内看護系大学(285課程)の精神看護学科目責任者各1名に質問紙調査を行った.調査期間は2020年9月中旬から10月末であった.著者が所属する大学の倫理審査委員会の承認を得て行った.結果:72校の回答を分析対象とした.71校が教授活動を実施しており,66校がNCFPSに関する実践モデルとして,【ストレングスモデル】を用いていた.【講義・演習】の課題は,【講義・演習の段階で「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」をイメージすること】,【実習】の課題は,【ストレングスに着目する意味を理解し,実践に結び付けることの難しさ】であった.考察:昨今の精神保健医療の動向を反映した教授活動を行う傾向にあるが,充実した教授活動までに至っていない可能性があることが示唆された.

Ⅰ  はじめに

厚生労働省が示した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(厚生労働省,2004)では,精神障害を抱える方を対象とした地域包括ケアシステムの構築の推進が掲げられている(厚生労働省,2019).この文脈において,地域包括ケアシステムに対応できる看護師は,従来の「医療モデル」から「生活モデル」の視点で対象者をとらえ看護展開していくことが必要とされている(日本看護協会,2015猪飼,2015).「生活モデル」の視点を学士教育で養成するためには,問題志向型の思考法とともに,「生活モデル」を支えるための思考法として,ストレングス志向についても学べる機会を設けていくことが必要であると考える.看護学を構成する重要な用語集にも「ストレングス」についての記述が新たに追加され(日本看護科学学会看護学学術用語検討委員会,n.d.),看護が行われる場の拡大に伴い,問題解決型支援と強み(ストレングス)に着目した支援の両方を備えた看護者の育成が必要とされる時代となった(萱間,2021).

また,看護系大学における「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の修得を目指した学修目標(看護学教育モデル・コア・カリキュラム)(文部科学省,2017)では,心のケアが必要な人々への看護実践のねらいを,「メンタルヘルス上の問題予防,早期発見,治療,リカバリー(回復)を当事者の強み(ストレングス)を生かしながら支援するために必要な看護実践を学ぶ」としている.これらの背景から,卒前教育の段階から当事者の強み(ストレングス)を生かした看護実践能力を向上させることが,看護学教育分野における新たな教育課題であるといえる.

今後は,看護学生が「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践(Nursing Care Focusing on Patient Strengths,以下:NCFPS)」に関する基本的な知識と技術の修得を目指した教授活動を推進していく必要がある.しかし,これまでに精神看護学分野において,当事者の強み(ストレングス)を生かしながら支援するために必要な看護に関する教授活動の実態は明らかになっていない.そこで,本研究では,精神看護学におけるNCFPSに関する教授活動がどのように実施されているかについての実態を把握し,課題を整理することで今後の教授活動のあり方について示唆を得ることを目的とした.

用語の定義

教授活動:学修方法として【講義・演習】【実習】を用いて看護学教育を行うことをいう.

強み(ストレングス):すべての人に本来備わっている広範な才能,能力,キャパシティ,スキル,ポジティブな資源,願望をいう.

強み(ストレングス)を生かした看護実践:すべての人は,能力,性格や可能性,資源,レジリエンス,予備力があるという前提をもとに,対象者のもつ,ポジティブな資源や強み(ストレングス),希望にフォーカスした看護実践である.

Ⅱ  研究方法

1. 調査対象者およびデータ収集方法

対象者は,国内看護系大学272校285課程(文部科学大臣指定〈認定〉医療関係技術者養成学校一覧[2019年5月1日時点を参考])において,精神看護学の教授活動に携わり,科目責任者として授業デザイン,評価を行っている教員各1名とし,研究協力の同意が得られた者とした.調査依頼書にWEB上での回答ができるようURLページを明示し,質問紙の返送,もしくはWEB上での回答を依頼した. 調査期間は2020年9月中旬から10月末とした.

2. 調査内容

多肢選択式および自由記述式の回答を求めた.1)精神看護学全般における教授活動のうち【講義・演習】における①教授時間数(1コマ未満,1コマ以上2コマ未満,2コマ以上3コマ未満,3コマ以上,教授活動無し),②教授内容(看護学教育モデル・コア・カリキュラム[文部科学省,2017]のうち,【心のケアが必要な人々への看護実践】の学修目標を参考に質問項目を設定した.),2)NCFPS教授活動のうち【講義・演習】における③教授活動の有無,④教授時間数(45分未満,45分~90分,90分~135分未満,135分~180分未満,180分以上,教授無し),⑤教授活動をしていない場合の理由(自由回答),⑥用いている看護理論・実践モデル(複数回答),⑦課題としている点(自由回答),3)NCFPS教授活動のうち【実習】における⑧課題としている点(自由回答)とした.

3. データの分析方法

精神看護学全般およびNCFPSに関する講義・演習時間数は基本統計量を算出した.NCFPSに関する教授活動時間については,正規性を確かめるためにShapiro-wilk検定を行い,有意確率p < 0.01であることを確認し,スピアマンの順位相関係数を用いた.名義尺度においてはFisherの正確確率検定を用いた.自由回答項目は質的帰納的に分析を行った.分析にあたっては,Berelsonの方法論(1957)を参考にした看護教育学における内容分析(舟島,2018)を参考とした.【講義・演習】【実習】における「研究のための問い」は,「精神看護学分野の教員は対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」を教授する上で何を課題としているか」とし,「問いに対する回答文」は,「精神看護学分野の教員は対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」を教授する上で(  )を課題としている」とした.生成したカテゴリの信頼性を確かめるために,Scott(1955)の式を用いて一致率を算出した.一致率の検定にあたっては,精神看護を専門とする大学教員及び精神科臨床経験のある大学教員に協力を依頼した.

4. 倫理的配慮

著者が所属する大学研究倫理審査委員会へ申請し,承認を得てから実施した(承認番号20-A041).調査依頼書には,研究の目的,方法,協力依頼内容,調査への自由参加の保障,調査用紙は無記名で,データは全体的に統計処理を行うため個人は特定されないこと,個人や所属施設が特定できないよう配慮するなどのプライバシーの保護,データは研究目的以外では使用しないこと,回収した調査用紙は厳重に保管,研究終了後にシュレッダー処理し,公表方法等を明記した.調査参加への承諾は,調査用紙の回収もしくはWEB上での回答をもって同意が得られたと判断する旨を調査依頼書に明記した.

Ⅲ  結果

1. 対象の概要

285課程のうち,77校より回答があった(紙面回答39校,WEB回答38校).回収率27%であった.90%以上の項目に回答がみられた,72校の回答を分析対象とした(有効回答率93.5%).

2. 精神看護学全般の【講義・演習】の教授内容と教授時間数

【講義・演習】において,3コマ以上使っている教授内容項目は,【精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解する】が最も多く(50%),次に,【精神疾患を持つ人の入院中から退院までの回復の段階に応じた看護を理解し,実践する】であった(45.8%).一方,【周産期の母親と家族のメンタルヘルスを保ち,子どもの健康な心の発達を促す支援について】の項目は1コマ以下(43.1%),教授なし(23.6%)であった.アンケート項目内容の信頼性分析の結果,Cronbachのα係数は0.862であり,アンケート項目内容の信頼性は確保されていることが示された.

3. NCFPS教授活動のうち【講義・演習】における教授活動の有無,教授時間数,教授活動をしていない理由

72校中,71校が講義もしくは演習で対象者のNCFPS教授活動をしていた.教授活動時時間は,90分未満22校,90分~180分未満25校,180分以上24校であった.教授活動をしていない(1校)の理由は,「実習で実際の患者さんを目の前にした方が考えやすい」と回答していた.

4. NCFPS教授活動のうち【講義・演習】におけるNCFPS教授活動において,用いている看護理論・実践モデルについて(複数回答)

NCFPS教授活動で用いている看護理論・実践モデルは,【ストレングスモデル】(66校),【Strengths-Based Nursing Care】(8校),【解決思考アプローチ】(14校),【レジリエンス理論】(2校),【マークレイガンのリカバリーモデル】(1校),【ICF(国際生活機能分類)】(1校),【サバイバーと心の回復力(書籍)】(1校)であっ‍た.

5. NCFPS教授活動のうち,【講義・演習】において【ストレングスモデル】を用いておりかつ,併用して用いている他の看護理論・実践モデルについて(複数回答)

71校中66校がストレングスモデルを用いている中で,34校が講義演習ともに【ストレングスモデル】を用いていた.その他に講義において併用して用いる他の看護理論は,32校(94.1%)が【オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル】,2番目に29校(85.3%)が【看護場面の再構成】,3番目に26校(76.5%)が【ペプロウの対人関係理論/相互作用理論】を用いていた.演習においては,31校(91.2%)が【看護場面の再構成】を用いており,2番目に27校(79.4%)が【オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル】,3番目に18校(52.9%)が【バイオ・サイコ・ソーシャルモデル】を用いていた.

6. 精神看護学全般における教授活動【講義・演習】とNCFPS教授活動時間の関連(表1
表1

精神看護学全般における教授活動【講義・演習】とNCFPS教授活動時間の関連

教授活
動時間
NCFPS教授活動時間 1.000 0.145 –0.030 0.188 –0.046 0.209 0.113 0.198 .242* .454** .417** .388** .380**
①心の健康の概念について 1.000 .460** .373** 0.172 .404** .461** .448** .321** 0.185 0.186 .369** .425**
②ライフサイクル各期における発達課題と心の危機状況について 1.000 .533** .322** .424** .442** .358** .303** 0.188 0.222 .428** .374**
③家庭・学校・職場等におけるメンタルヘルス向上のための支援について 1.000 0.115 0.201 .299* .315** .385** .315** 0.216 .443** .377**
④周産期の母親と家族のメンタルヘルスを保ち,子どもの健康な心の発達を促す支援について 1.000 .385** .457** .304** 0.044 0.040 0.120 0.117 0.149
⑤発達障害を早期にアセスメントし,適切な環境を提供する支援について 1.000 .412** .480** .383** .254* .238* .345** .371**
⑥自殺予防のために本人及び関係者への支援について 1.000 .434** .320** 0.205 0.204 .310** .281*
⑦依存症を持つ人とその家族の支援について 1.000 .332** 0.220 0.219 .323** .303**
⑧精神疾患のリスクを早期にアセスメントし,早期から適切な治療を受けるための支援体制について 1.000 .409** .444** .600** .650**
⑨精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解する 1.000 .809** .567** .484**
⑩精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解し,実践する 1.000 .596** .519**
⑪精神疾患を持つ人の地域支援について,関係者と協働する必要性について 1.000 .868**
⑫精神疾患を持つ人の地域生活支援について関係者と協働する方法について 1.000

*. 相関係数は5%水準で有意(両側)です.

**. 相関係数は1%水準で有意(両側)です.

NCFPS教授活動時間は,【精神疾患のリスクを早期にアセスメントし,早期から適切な治療を受けるための支援体制について】【精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解する】【精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解し,実践する】【精神疾患を持つ人の地域支援について,関係者と協働する必要性について】【精神疾患を持つ人の地域生活支援について関係者と協働する方法について】の項目と有意な相関がみられた.

7. NCFPS教授活動のうち【講義・演習】で用いている看護理論・実践モデルとNCFPS教授活動時間の分析(表2
表2

講義演習で用いている看護理論・実践モデルとNCFPS教授活動時間の検定 Fisherの正確確率検定 n = 71

講義 演習
<90分
n = 22)
90分~180分
n = 25)
180分≦
n = 24)
p <90分
(n = 22)
90分~180分
(n = 25)
180分≦
(n = 24)
p
オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル 19(86.4) 21(84.0) 21(87.5) 1.000 15(68.2) 20(80.0) 17(70.8) 0.631
ストレングスモデル 17(77.3) 23(92.0) 20(83.3) 0.391 8(36.4) 9(36.0) 19(79.2) 0.002*
看護場面の再構成 16(72.7) 19(76.0) 20(83.3) 0.725 14(63.6) 17(68.0) 22(91.7) 0.051
ぺプロウの対人関係理論/相互作用理論 16(72.7) 18(72.0) 21(87.5) 0.376 3(18.6) 4(16.0) 7(29.2) 0.367
オレムのセルフケア理論 16(72.7) 15(60.0) 16(66.7) 0.668 3(13.6) 3(12.0) 1(4.2) 0.611
バイオ・サイコ・ソーシャルモデル 14(63.6) 15(60.0) 18(75.0) 0.541 7(31.8) 3(12.0) 14(58.3) 0.541
トラベルビー「人間対人間の看護」 11(50.0) 14(56.0) 15(62.5) 0.692 0(0) 0(0) 7(29.2) <0.001**
ロジャーズのカウンセリング理論 8(36.4) 6(24.0) 14(58.3) 0.052 3(13.6) 0(0) 7(29.2) 0.007*
ウィーデンバックの援助技術論 9(40.9) 7(28.0) 11(45.8) 0.421 3(13.6) 2(8.0) 4(16.7) 0.676
オーランドの患者―看護師の相互作用理論 8(36.4) 8(32.0) 10(41.7) 0.746 3(13.6) 2(8.0) 4(16.7) 0.676
Mental Status Examination 5(22.7) 8(32.0) 11(45.8) 0.263 1(4.5) 2(8.0) 7(29.2) 0.055
家族看護モデル 4(18.2) 5(20.0) 11(45.8) 0.076 1(4.5) 0(0) 3(12.5) 0.076
NANDA-I 3(13.6) 2(8.0) 3(12.5) 0.807 1(4.5) 1(4.0) 3(12.5) 0.517
ゴードンの11の機能的健康パターン 4(18.2) 2(8.0) 1(4.2) 0.279 2(9.1) 2(8.0) 1(4.2) 0.860
ヘンダーソンの14の基本的欲求 4(18.2) 2(8.0) 1(4.2) 0.279 1(4.5) 1(4.0) 1(4.2) 1.000
ベナーの技術習得モデル 1(4.5) 3(12.0) 2(8.3) 0.866 0(0) 0(0) 0(0)
キングの「目標達成理論」 1(4.5) 0(0) 2(8.3) 0.407 0(0) 0(0) 0(0)
ロイの適応看護理論 0(0) 0(0) 1(4.2) 0.648 0(0) 0(0) 0(0)

*p < .05,**p < .01:Fisherの正確確率検定

NCFPS教授活動で用いている看護理論・実践モデルとNCFPSに関する教授活動を実施していると回答のあった71校を,教授活動時間により,90分未満(22校),90分~180分未満(25校),180分以上(24校)の3群に分け,NCFPS教授活動時間と差がみられるか,Fisherの正確確率検定を行った.講義では有意な差がみられなかったが,演習では,【ストレングスモデル】【トラベルビー「人間対人間の看護」】【ロジャーズのカウンセリング理論】と教授時間に有意な差がみられた.

8. NCFPS教授活動のうち【講義・演習】で課題としている点についての内容分析(表3
表3

NCFPS教授活動を行うために【講義・演習】において課題としている点について

カテゴリ 記録単位数(%)
講義・演習の段階でストレングスに着目した看護ケアをイメージすること 12(26.7%)
問題解決思考で看護展開を学んだ学生に新たな思考過程(対象者のストレングスに着目し看護展開すること)をわかりやすく教授すること 9(20.0%)
問題解決思考を用いて対象者の問題に焦点をあてる傾向がある 8(17.8%)
納得した教授活動ができていないこと 7(15.6%)
講義・演習の段階のみでストレングスに着目した看護過程を展開すること 3(6.7%)
実習指導者や実習病院側の理解を得ること 2(4.4%)
学生の精神的・知識的準備性の低さ 2(4.4%)
遠隔授業の際に当事者の参加が難しくなった 1(2.2%)
講義・演習をする時間が足りない 1(2.2%)
総記録単位数 45(100%)

無記入を除いた回答は38回答であり,38文脈を分析の対象とした.分析対象とする記述に関して記録単位を決定する作業を行い,54記録単位にまとめた.決定した記録単位が最小形の内容となるよう,不要な記述や意味内容が不明な記述を削除し,同じ作業を3回繰り返した.最終的に46単位を分析データとした. 基礎分析で44単位に集約し,本分析カテゴリとして9項目【講義・演習の段階で「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」をイメージすること】【問題解決思考で看護展開を学んだ学生に新たな思考過程(対象者のストレングスに着目し看護展開すること)をわかりやすく教授すること】【問題解決思考を用いて対象者の問題に焦点をあてる傾向があること】【納得した教授活動ができていないこと】【実習指導者や実習病院側の理解を得ること】【講義・演習の段階のみでストレングスに着目した看護過程を展開すること】【学生の精神的・知識的準備性の低さ】【講義・演習をする時間が足りない】【遠隔授業の際に当事者の参加が難しくなった】が形成された.カテゴリ分類の一致率は70%を超えており,信頼性を確保していることを示した.

9. NCFPS教授活動のうち【実習】で課題としている点についての内容分析(表4
表4

NCFPS教授活動を行うために【実習】において課題としている点について

カテゴリ 記録単位数(%)
ストレングスに着目する意味を理解し,実践に結び付けることの難しさ 9(25.7%)
学生が問題解決思考との折り合いを付けること 8(22.8%)
医療施設という環境でストレングスに着目した看護ケアを実践すること 6(17.1%)
学生がストレングスを捉える際の視野の狭さ 5(14.2%)
教員側の知識の向上や領域内での共有 3(8.5%)
多職種連携における看護の視点を指導する重要性 2(5.7%)
学生の知識的・経験的準備性の低さ 2(5.7%)
総記録単位数 35(100%)

無記入を除いた回答は35回答であり,35文脈を分析の対象とした.分析対象とする記述に関して記録単位を決定する作業を行い,43単位にまとめた.決定した記録単位が最小形の内容になるよう,不要な記述や意味内容が不明な記述を削除し,同じ作業を3回繰り返した.最終的に35記録単位を分析データとした基礎分析で25単位に集約し,本分析カテゴリとして7項目【ストレングスに着目する意味を理解し,実践に結び付けることの難しさ】【学生が問題解決思考との折り合いを付けること】【学生がストレングスを捉える際の視野の狭さ】【医療施設という環境でストレングスに着目した看護ケアを実践すること】【教員側の知識の向上や領域内での共有】【多職種連携における看護の視点を指導する重要性】【学生の知識的・経験的準備性の低さ】が形成された.カテゴリ分類の一致率は70%を超えており,信頼性を確保していることを示した.

Ⅳ  考察

1. 【講義・演習】における「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動の動向と採用している実践モデルおよび今後の発展性

「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動は,回答を得た72校中71校で行っており,昨今の精神保健医療の動向を意識した教授活動が行われていることが示された.本研究結果では,回答を得た多くの大学で「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」の教授活動に【ストレングスモデル】を採用していた.精神看護学の教授活動に関する調査として最初に行った,荻野ら(1997)谷本(2015)の調査では,「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動は実施されておらず,谷本(2015)は【ストレングスモデル】は教科書による紹介のみにとどまっており,臨床看護や教育における有用性について体系的に述べていないと指摘していた.しかし,本研究によって,ここ10年以内で教授活動に「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」に関するモデルとして,【ストレングスモデル】を導入していることを示すことができた.この背景には,対象者の強み(ストレングス)に着目する支援技法のひとつである,精神保健福祉分野から発展した【ストレングスモデル】が,萱間(2016)によって,ストレングスモデルを活用した看護実践モデルとして紹介したことにより,教員が【ストレングスモデル】を看護実践に適用することについて理解を深める契機となった可能性がある.さらに精神看護学教育に導入する有用性があると評価しているために教授活動が促進されているのではないかと推測する.精神科臨床においても【ストレングスモデル】を活用した成果報告があることから(小坂,2017松田,2017松元,2019),精神看護分野における【ストレングスモデル】活用の意義が高まっているといえる.これらのことから,今後も精神看護学教育において,【ストレングスモデル】が「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する実践モデルとして教授活動に組み入れる可能性が高いという示唆を得た.

2. 【講義・演習】で用いている看護理論・実践モデルと「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動時間の関連について

本調査結果では,【講義・演習】で用いている看護理論・実践モデルと,NCFPS教授活動時間により90分未満(22校),90分~180分未満(25校),180分以上(24校)の3群に分けたFisherの正確確率検定において,講義では有意な差がみられなかったが,演習では,【ストレングスモデル】【トラベルビー「人間対人間の看護」】【ロジャーズのカウンセリング理論】と教授時間に有意な差がみられた.これらの結果から,演習でNCFPSに関する教授時間をかけている大学は,【ストレングスモデル】を用いてより実践的な教授活動を行っている可能性があるという示唆を得た.また【ストレングスモデル】を活用するためには,対象者への理解や看護者としての必要な態度を育成することが重要であることから,対象者との相互作用に力点をおいたトラベルビー,ロジャーズの理論を活用している可能性があることが示唆された.しかし,これまでNCFPS教授活動に関する報告は萱間ら(2019)のみであることから,具体的教授内容や効果的な教授方法については,さらなる検討が必要な段階である.一方で,教授時間の少ない大学では,看護実践能力の育成までには至っていない可能性があるという示唆を得た.

3. 「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動時間と精神看護学に関する教授活動内容との関連について

本研究結果では,【精神疾患のリスクを早期にアセスメントし,早期から適切な治療を受けるための支援体制について】【精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解する】【精神疾患を持つ人の入院中から退院支援までの回復の段階に応じた看護を理解し,実践する】【精神疾患を持つ人の地域支援について,関係者と協働する必要性について】【精神疾患を持つ人の地域生活支援について関係者と協働する方法について】の項目と有意な相関がみられた.これは,文部科学省が策定した,「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」(文部科学省,2017)で明示されている「心のケアが必要な人々への看護実践」のねらいを反映していることが示唆された.教授活動時間が多いほど,メンタルヘルス上の問題の予防からリカバリー(回復)全ての支援の過程において,対象者の強み(ストレングス)を生かすことを前提とした教授活動を行っている可能性が高いことが示された.

4. 今後の教授活動に向けての課題

① 「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動で用いる実践モデルと問題解決思考による看護モデルの思考の枠組みの違いについて

本研究では,【ストレングスモデル】と併用して用いる看護理論・実践モデルは【オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル】【ペプロウの対人関係論/相互作用理論】【看護場面の再構成】が用いられている傾向であった.「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」においても,これまでの精神看護学教育で用いられてきた,対象者との相互作用を力点とした理論である【ペプロウの対人関係論/相互作用理論】【看護場面の再構成】を用いることは有用であると考える.また,精神看護においては,【オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル】を用いることにより,対象者のセルフケア能力についてアセスメントすることで,セルフケア向上に向けた,具体的な看護の焦点化を可能にさせる.さらに【ストレングスモデル】を用いることで,地域で対象者がリカバリーを果たしていく中での支援が可能となる.精神看護の実践能力を育成するためには様々な看護理論・実践モデルを組み合わせる必要があり,これは精神看護学の特徴ともいえ,本研究結果でも示されている.

しかし,【ストレングスモデル】を用いた看護実践に向けた思考の枠組みは強み(ストレングス)志向であり,【オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル】の問題志向型の思考枠組みと相反する点に注意が必要であると考える.【ストレングスモデル】【オレム・アンダーウッドセルフケア看護モデル】を用いて教授することは精神看護実践能力を高めるために有用であると考えるが,相反する思考の枠組みをどのように包含して地域包括ケアシステムに対応した看護理論・実践モデルとしていくか,検討する必要性があることが示唆され,今後の課題であるといえる.

② 「対象者の強み(ストレングス)を生かした看護実践」関する教授活動を行う時期について

内容分析結果から,学生が【講義・演習】の段階で【強み(ストレングス)に着目した看護をイメージすること】の難しさを課題に抱えながら臨地実習を行うために,【強み(ストレングス)に着目する意味を理解し,実践に結びつけることの難しさ】が継続して課題となっていることが示唆された.この背景には,看護を学び始める段階において医療モデル(診断をもとに,患者の身体的・心理的問題点に着目して治療および看護ケアを行う考え方)と同時並行に,強み(ストレングス)視点(ケアの焦点を患者の問題点にフォーカスするのではなく,個人や環境がもつ強みを引き出す考え方)も教授する必要があるのではないかと考える.これらのことから,基礎看護教育の段階で強み(ストレングス)視点を教授する必要性があると考える.

③ 実習病院側との考え方の相違について

内容分析では,【講義・演習】における課題に,【実習指導者や実習病院側の理解を得ること】がカテゴリ化された.これは,NCFPS教授活動を実施しても実習施設で受け入れてもらえず,従来の医療モデルを用いた教授活動に変更せざるを得ないといった背景があった.また,実習指導者は,強み(ストレングス)視点では対象者の問題がとらえにくく,看護の優先順位が定めにくいといったことから,強み(ストレングス)視点を導入することに対する懸念があるとの報告もみられる(林ら,2019).学生のNCFPS基礎能力を向上させるためには,実習でNCFPSを実際に対象者に実施することが不可欠である.しかし,実習病院側がNCFPSに懸念を示す場合は,NCFPS実践事例を共有したり,関連書籍(萱間,20162021)を活用して学習会や研修会を開催するなど,実習病院側との共通理解が得られるための工夫が必要であると考える.

Ⅴ  本研究の限界と課題

本研究の質問紙回収率は27%であり,わが国の看護系大学学士課程における精神看護学分野全体の実態を把握する上では十分なサンプル数とはいえない.また,調査期間はCOVID-19感染拡大により,オンライン講義や演習,実習が行われていたため,例年とは違った教授活動が実施されている可能性がある.また,強み(ストレングス)を生かした看護実践について特に関心のある教員が回答したことも推測される.

質問紙の自由回答をデータとした内容分析では,カテゴリ形成するための記録単位が十分ではない可能性があり,飽和化に至ったカテゴリとはいえない.信頼性と妥当性のある結果を提示するためには,より多くの大学に協力を依頼して調査を行う必要がある.

謝辞

本研究の実施にあたりCOVID-19感染拡大による対応でご多忙の中ご協力を賜りました調査対象者の先生方ならびに関係者の皆さんに厚く御礼申し上げます.

本論文の要旨は第32回日本精神保健看護学会学術集会にて発表した.なお,本論文は修士論文に加筆修正を加えたものである.

著者資格

筆者のRTは研究の着想,デザイン,データ分析,論文作成の全過程を行った.RTが最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究に関する利益相反はない.

文献
 
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