日本精神保健看護学会誌
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資料
精神障害者の「家族亡き後」のことに関する精神科訪問看護師の認識と支援
小宮 浩美石川 かおり
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2024 年 33 巻 1 号 p. 106-114

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Abstract

本研究では,精神科訪問看護師が利用者・家族から把握している「家族亡き後」に関連する不安,行っている支援,「家族亡き後」のことに関連する精神科訪問看護師の認識についての基礎的なデータを得ることを目的とした.

先行研究を元に質問紙を作成し,346箇所の訪問看護ステーションに3部ずつ計1,038部配布し,246を分析対象とした.選択回答は基本統計量を算出し,自由記載回答は質的に分析した.

利用者・家族から家族亡き後について話をされている対象者は7割であり,利用者からは自立生活に向けた心配,家族からは生活の維持に向けた心配が上位にあがった.

精神科訪問看護師は,利用者と家族の心配を適切にとらえており,本人や家族の不安を傾聴し,社会資源・サービスに関する情報提供を実施していた精神科訪問看護師は7割以上であったことから,精神科訪問看護師には本人と家族が家族亡き後についての話し合いを促進する役割が期待できることが示唆された.

Ⅰ  緒言

日本の精神保健医療福祉は,2004年の精神保健医療福祉の改革ビジョンで示された「入院医療から地域生活中心へ」の方針のもと歴史的な遅れを取り戻すべく改革が目指されてきた.そして2017年には,「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指すことが新たな理念として明確になり(厚生労働省,2017),今後は,在宅で生活する精神障害者が増加するため,地域生活支援の更なる充実が期待される.

在宅精神障害者の72.0%は,親やきょうだい,配偶者などの家族と暮らしている(厚生労働省,2018).超高齢社会の日本では,精神障害者の家族も高齢化しており(杉本,2019),精神障害者の家族の約8割が今後予測される困難や不安に「家族の高齢化」をあげている(全国精神障害者福祉会連合会,平成21年度家族支援に関する調査研究プロジェクト検討委員会,2010).このように精神障害者の地域生活への移行と家族の高齢化がすすむ中で,精神障害者の家族は自分が死去した後の精神障害者の将来に対する不安や懸念を抱えていることは長きに亘り指摘されており(石川・岩﨑・清水,2003藤野・山口・岡村,2009宇治郷,2011),これらは親の立場から「親亡き後」と表現されはじめ,家族会などで話題にされてきた.その不安の具体的な内容は,通院・服薬の継続,収入や金銭管理,住まいや居場所の確保,人間関係の維持,契約や手続き,支援やサービスの利用,親亡き後に向けた話し合いや準備など多岐にわたっている(猿田ら,2010地域精神保健福祉機構,2017くらしケア岐阜訪問看護ステーション,2018).

このような不安に対処すべく,近年は精神障害者,家族,専門職らの経験をもとに親亡き後の実際の生活や備えの具体例などをまとめた書籍(地域精神保健福祉機構,2017)や親亡き後の当事者の生活を見据えて親が行っている準備に関する研究(吉岡ら,2019)などが発表され,「親亡き後」への対応や備えが示されつつある.それらの対応や備えには,家族だけで問題解決を図ろうとするのではなく,家族と本人が支援者とつながり,社会資源を活用していくことが含まれている.また,家族は親亡き後の不安に対して物的資産の確保を重視する傾向があるが,現実には支援を求める能力と具体的な支援先の存在が不可欠であり,積極的に専門家がかかわる親亡き後への移行支援の必要性が指摘されている(白石・伊藤,2011).しかしながら,精神障害者の「親亡き後」に関して,専門家がどのような支援をしているのかについては明らかにされていない.特に,地域において精神障害者と家族の双方に長期的に関わる訪問看護師が,日頃のケアのなかで「親亡き後」のことに関してどのような不安を把握し,支援をしているか,また「親亡き後」に対してどのような認識を持っているかについて明らかにすることは,精神障害者と家族に対する支援を検討する上で重要であると考える.なお,精神障害者を支えている重要な家族は親だけとは限らないため,本研究では「家族亡き後」と表現し,「精神障害をもつ本人と同居している,もしくは本人を支援している家族(親/きょうだい/配偶者等)が死去した後」とする.

Ⅱ  研究目的

本研究では,精神科訪問看護を提供する訪問看護師が利用者・家族から把握している「家族亡き後」に関連する不安,「家族亡き後」に関連して行っている支援,および訪問看護師の「家族亡き後」に関連する認識についての基礎的なデータを得ることと,そのデータに基づいて現状の課題を検討することを目的とする.

Ⅲ  研究方法

1. 調査方法

精神科訪問看護を実施している訪問看護の事業所を選定するため,公益社団法人日本精神科病院協会の全国病院検索サイトにて,訪問看護ステーションを持つ病院を検索した.該当した299病院(検索した2018年8月4日時点)について,インターネット上で訪問看護ステーションの所在を確認し,合計352の訪問看護ステーションのリストを作成した.指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成十二年三月三十一日)(厚生省令第八十号)において,看護職員の常勤換算は2.5以上であることから,本研究では管理者宛に各事業所3部ずつの調査票を郵送し,訪問看護師への配付を依頼した.回答は調査票を個別の返信用封筒にて無記名で返送するか,インターネット版のアンケートに回答する方法を選択してもらった.調査期間は,2018年12月から2019年1月末であった.なお,調査票を配付する前に,訪問看護師7名および精神科病院に勤務する看護師6名を対象にプレテストを実施し,質問項目の表現および回答時間について確認した.

2. 調査項目

1) 家族亡き後のことについて話される頻度と内容

精神科訪問看護師が「家族亡き後」に関連して利用者・家族からどのような不安を把握しているかを調査するために,訪問看護師が訪問看護の利用者本人もしくは家族から家族亡き後のことについて話される内容とその頻度を調査した.家族亡き後のことに関する話の内容は,親亡き後の問題に関する不安に関する先行研究(猿田ら,2010地域精神保健福祉機構,2017くらしケア岐阜訪問看護ステーション,2018)を参考に,14項目の選択肢および自由記載欄を作成した.頻度は「よくされる」から「全くされない」の5件法とし‍た.

2) 家族亡き後のことに関連して訪問看護師が行っている支援

家族亡き後のことに関連して訪問看護師が行っている支援について,訪問看護利用者本人に行っている支援と家族に行っている支援に分け,支援内容とその頻度を調査した.支援の項目は上記の家族亡き後について話される内容の項目に対応して,利用者本人への支援を12項目,家族への支援の6項目を作成し,頻度は「よくする」から「全くしない」の5件法とした.

3) 家族亡き後のことに関連した訪問看護師の認識

家族亡き後のことに関連した訪問看護師の認識については,先行研究(くらしケア岐阜訪問看護ステーション,2018)で示されていた親亡き後のことについて家族が感じている課題やニーズを参考に13項目を設定し,同意の程度を尋ねた.同意の程度は,「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の5件法とした.

4) 訪問看護師とステーションの情報

訪問看護師の年代,職種,職位,勤務形態,最終看護教育,看護職勤務年数,訪問看護勤務年数,精神科訪問看護勤務年数,所属するステーションの看護職スタッフの数(常勤・非常勤),設置年数,1か月あたりの平均訪問看護件数,所在する都道府県を質問した.

3. 分析方法

基本統計量を算出し,全体の傾向をみた.連続変数は平均値と標準偏差を算出し,順序変数と名義変数については項目ごとの割合を算出し,比較した.

選択肢の「その他」の自由記述は,選択肢と重複しない記述について内容の類似するものをまとめ,カテゴリー化した.

4. 倫理的配慮

研究開始前に岐阜県立看護大学研究倫理委員会の承認(承認番号0228)を得た.調査票は無記名とし,研究への参加と同意は 調査票の返送もしくはインターネット版アンケートの回答をもって得られることとし‍た.

Ⅳ  結果

1. 調査票の回収状況

352箇所の訪問看護ステーションに各3部ずつ配付し,6箇所から宛先不明で返送されたため,調査票の配付数は1,038となった.調査票の返送は277部,インターネット版アンケートへの回答は23件であり,回答の合計は300(回収率28.9%)であった.うち,調査票13部(回収した調査票の4.7%),インターネット版アンケート12件(インターネット版アンケートによる回答の52.2%)に無回答が多く見られたため,除外した.さらに,回答者が作業療法士であった1件を除外した.加えて,回答に矛盾があるもの(精神科訪問看護勤務年数が訪問看護勤務年数より多く記載されているもの26件,訪問看護勤務年数が看護職勤務年数より多く記載されているもの2件,精神科訪問看護勤務年数が看護職勤務年数より多く記載されているもの5件)を除外し,246を分析対象とした(有効回答率23.7%).

2. 訪問看護師の属性(表1
表1

対象者の属性n = 246

訪問看護師
%
年代 20代 4 1.6
30代 20 8.1
40代 100 40.7
50代 91 37.0
60代 31 12.6
職種 看護師 233 94.7
准看護師 8 3.3
保健師 5 2.0
職位 スタッフ 172 69.9
管理者 69 28.0
その他 4 1.6
無回答 2 0.4
勤務形態 常勤 231 93.9
非常勤 15 6.1
最終看護教育 准看護師養成所 5 2.0
看護専門学校 205 83.3
看護系短期大学 21 8.5
看護系大学 7 2.8
その他 8 3.3
平均 SD
看護職勤務年数(年) 24.2 9.3
訪問看護勤務年数(年) 7.6 6.0
精神科訪問看護勤務年数(年) 6.3 5.4
現在担当している精神科訪問看護の利用者数(名) 35.7 42.5
所属するステーションについて
平均 SD
設置年数(年) 12.4 8.6
常勤看護職スタッフの数(名) 6.4 4.8
非常勤看護職スタッフの数(名) 1.8 2.3
一か月あたりの訪問件数(件) 468.5 469.9
都道府県 回答あり 39都道府県
回答なし 8都道府県
(宮城,栃木,富山,奈良,和歌山,鳥取,香川,大分)

対象の訪問看護師の年代は.40代,50代,60代の順に多かった.94.7%が看護師であった.看護職勤務年数は平均24.2年(SD ± 9.3)であり,訪問看護勤務年数は平均7.6年(SD ± 6.0),精神科訪問看護勤務年数は平均6.3年(SD ± 5.4)であった.また,39都道府県から回答があった.

3. 家族亡き後のことについて話される頻度とその内容

1) 家族亡き後のことについて話される頻度

利用者本人から家族亡き後のことについて訪問看護師が話をされる頻度は,「よくされる」14名(5.7%),「しばしばされる」44名(17.9%),「たまにされる」123名(50.0%),「あまりされない」48名(19.5%),「全くされない」16名(6.5%),「無回答」1(0.4%)であった.利用者の家族から家族亡き後のことについて話をされる頻度は,「よくされる」20名(8.1%),「しばしばされる」45名(18.3%),「たまにされる」108名(43.9%),「あまりされない」58名(23.6%),「全くされない」13名(5.3%),「無回答」2名(0.8%)であった.「よくされる」「しばしばされる」「たまにされる」を合算した割合は,利用者本人からは73.6%,家族からは70.3%であった.

2) 家族亡き後のことについて話される内容

訪問看護師が家族亡き後のことについて話される内容を表2に示す.複数回答で問うたところ,「①日常生活で身の回りの世話をしてくれる人がいない(本人59.4%,家族74.3%)」,「⑨一人で過ごせるか不安(本人57.2%,家族61.5%)」「④金銭管理ができるか不安(本人44.9%,家族57.5%)」が利用者本人とその家族ともに上位3位であった.4位以降は本人と家族で傾向が異なり,本人からの話題の5位であった「③安定した収入が得られるか心配(本人32.1%)」は家族では9位(21.8%),本人からの話題の6位の「⑦住まいが確保できるか心配(本人25.7%)」は家族では12位(17.9%)であった.家族からの話題の内容の上位には,「⑪通院が継続できるか心配(45.3%)」「⑩服薬管理ができるか心配(44.7%)」「⑤正しい判断や契約ができるか(騙されないか)心配(44.1%)」が挙がっていた.

表2

家族亡き後について話される内容:本人からと家族からの比較(複数回答)

「その他」の自由記述の内容は,利用者本人からの話は23件あり,「イメージができず漠然とした不安」「一人の淋しさ」「親の思い出」「日常生活スキルや管理に自信がなく生活を維持できるか不安」「地域での役割を担う不安」「自分の居場所がなくなる不安」「通院ができず引きこもりの状態」「ひとりでは生きていけない」「病状にもとづく発言」の9つのカテゴリに分けられた.家族からの話は14件あり,「漠然とした不安」「周囲に迷惑をかけないか心配」「本人が一人で生活を維持できるか不安」「支援者がいない」「病状が悪化しないか心配」「本人が犬の世話をできるか心配」「単身生活は無理なので施設に入れたいが手続きが分からない」「他の家族も病気を抱えており本人のことまで世話できない」の8つのカテゴリに分けられた.

4. 家族亡き後のことに関連して行っている支援の頻度

訪問看護師による家族亡き後のことに関連して行っている支援の実施頻度が高いものから順に並べた(図1図2).実施頻度が高かった(よくする/しばしばする/たまにするの合算)のは,利用者本人に対する「④家族がいなくなってからの生活に備えて,本人のセルフケア能力を高める支援をする(84.6%)」「②家族亡き後のことについて本人が抱えている不安を傾聴する(82.9%)」と,家族への支援である「②家族亡き後のことについて家族が抱えている不安を傾聴する(81.7%)」であった.利用者本人に対する「⑨家族亡き後の服薬方法を本人と確認する(48.4%)」「⑦家族亡き後の通院方法を確認する(47.2%)」「⑩家族亡き後の生活に関する本人の意思を家族に代弁する(35.8%)」と,家族に対する「⑤家族亡き後の生活に関する家族の意思を本人に代弁する(38.2%)」「④家族亡き後のことに備えて,同居家族以外の家族との連絡調整を行う(30.5%)」は,実施頻度が低かった.

図1

家族亡き後のことに関連して実施している支援:本人への支援 n = 246

図2

家族亡き後のことに関連して実施している支援:家族への支援 n = 246

5. 家族亡き後のことに関連した訪問看護師の認識

家族亡き後のことに関連した訪問看護師の認識を図3に示す.「そう思う」「とてもそう思う」「まあまあそう思う」「ややそう思う」を合算した同意意見は,「③家族亡き後の生活に向けた支援は必要である(99.2%)」,「⑩家族亡き後のことに向けて利用できる社会資源・サービスに関する情報を知りたい(93.5%)」,「⑨家族亡き後のことに向けた支援方法を知りたい(93.9%)」で多かった.一方,「⑪家族亡き後のことについては,なんとかなるので心配はしていない(19.5%)」,「①本人と家族は家族亡き後の将来のことについて相互に話し合えている(31.7%)」は同意しない意見が多かった.また,「④家族亡き後の生活について,本人に話題を振るのは難しい」の同意意見の割合は72.4%,「⑤家族亡き後の生活について,家族に話題を振るのは難しい」は68.3%であった.

図3

家族亡き後のことに関連する訪問看護師の認識 n = 246

Ⅴ  考察

1. 対象者の特徴

本研究の回収率は28.9%であったが,39都道府県から回答が得られており,このテーマについての訪問看護師を対象とした調査は他にないため基礎的な資料としての意義はあると考えられる.

本研究の対象者の属性を,精神科訪問看護師を対象とした先行研究(豊島・大坪・鷲尾,2013)の結果と比較すると,看護職勤務年数は豊島らの対象者は10年未満4.8%,10年以上20年未満は28.8%,20年以上62.5%,無回答3.8%だったのに対し,本研究の対象者は順に4.9%,25.6%,69.1%,0.4%であり,分布に大きな違いはない.しかし,精神科訪問看護勤務年数は,豊島らの研究対象者は,10年未満87.5%,10年以上20年未満10.6%,20年以上1.0%,無回答1.0%であったのに対し,本研究対象者はそれぞれ73.2%,24.4%,2.0%,0.4%であり,本研究対象者の方が精神科訪問看護の経験が長かった.そして,看護職勤務年数は平均24.2年(SD ± 9.3)と長いにもかかわらず,訪問看護勤務年数は平均7.6年(SD ± 6.0),精神科訪問看護勤務年数は平均6.3年(SD ± 5.4)だったことから,訪問看護師としてのキャリアのほとんどが精神科訪問看護の経験で占められている看護師が多いという特徴があった.

2. 家族亡き後のことについて話題にする難しさ

精神障害者の当事者および家族に親亡き後の心配について調査した研究(地域精神保健福祉機構,p. 70, 2017)においては,当事者の89.0%(138人),家族(親ときょうだい)の95.8%(46人)が,親亡き後に関連して何らかの心配があると答えていた.しかし,本研究では家族亡き後の話をされると回答した精神科訪問看護師は7割であった.一部の精神科訪問看護師が家族亡き後の話をされない背景としては,精神障害をもつ方の26.3%はひとり暮らしであることや(NPO法人全国精神障害者ネットワーク協議会,2006),精神科訪問看護を受けている利用者の平均年齢は55.3歳で6割が一人暮らし(松田・河野,2020)であることが推察される.このことから,精神科訪問看護の対象が既に親なき後を迎えている者が多い可能性もある.

一方で,本研究において,約7割の精神科訪問看護師が本人や家族に家族亡き後について話題を振るのは難しいと感じていたことから,その理由を探求する必要性が見出された.また,家族亡き後についての社会資源・サービスや支援方法についての精神科訪問看護師の学習ニーズは高かったため,これらの支援方法について看護師が学べる環境づくりが重要となる.

3. 家族亡き後の心配に関する訪問看護師の把握状況

精神科訪問看護師が把握している利用者本人とその家族の心配の内容の上位3項目は,利用者本人と家族に共通しており,身の回りの世話,一人で過ごすこと,金銭管理に関する心配であった.一方で,4位以降は,利用者本人とその家族で異なるところがあった.精神科訪問看護師は,利用者本人からは,安定した収入,住まいといった自立生活に向けた心配を話されており,家族からは通院継続,服薬管理,正しい判断や契約といった生活の維持の心配を話されていた.精神障害者および家族に直接,親亡き後の心配を調査した研究(地域精神保健福祉機構,p. 70, 2017)においても,本人および家族に共通して上位に挙がっていたのは「生活全般」「さびしさ孤独感」「お金のやりくり」であり,訪問看護師の回答と類似していた.また,「家の管理」や「親戚とのつきあい」は家族より本人のほうが心配する順位が高く,「体調の管理」は本人より家族のほうが心配する順位が高いという点も同様であった.このことから,家族亡き後の生活において本人は自立した生活ができるかに関心があるが,家族は体調の管理を心配しているという特徴があるといえる.加えて,本人と家族が回答した先行研究(地域精神保健福祉機構,2017)における回答の特徴と本調査の結果は類似していることから,話題にできている精神科訪問看護師は家族亡き後に関した本人および家族の心配を適切に把握できている可能性が示唆された.

4. 訪問看護師の認識と支援の特徴

本研究の結果より,対象者の8割以上が家族亡き後への支援として,本人のセルフケア能力を高める支援,本人および家族の不安の傾聴を行っていた.セルフケア支援は,訪問看護師が把握している利用者本人と家族の心配の上位に位置づく「身の回りの世話をしてくれる人がいない」ことに備える支援であると考えられる.また,訪問看護師はまずは不安を傾聴し,本人および家族の不安の内容を明確化したのちに,その他の支援につなげていると推察できる.

また,本研究の訪問看護師の67.1%が本人と家族が家族亡き後の将来のことについて相互に話し合えていないと認識していた.家族を対象とした調査(くらしケア岐阜訪問看護ステーション,2018)においても,「親亡き後の暮らしに関する本人の希望を把握している」家族は1割弱であり,「親亡き後について本人と全く話し合いをしていない」家族は4割であった.また,中年期にある人の「親の終活」の捉え方に関する研究(清島ら,2011)では,親の終活について親と話をしていなかった割合は65.9%であり,親が終活の話を避ける状況や,親の終活に対して困難感,さみしさ,つらさ等の負の感情も語られており,子どもの立場からも親の死に関連することに話しにくさを感じる可能性がある.現代日本においては,死について普段から家族の間で話し合ったり,意思疎通はしておらず,死に臨んでもむしろ家族間で死の問題を語ることを避け,タブー化しておきたいという気持ちを持つ人々がまだ多いとの指摘もあり(坂本,2013),家族亡き後のことについて当事者と家族の間で話題にする難しさが推察される.

このような現状において,本研究の対象者の約半数が家族亡き後のことについて本人の意思を確認したり,話し合えるようなきっかけづくりをしていた.7割以上が不安の傾聴や家族亡き後に必要となる社会資源・サービスに関する情報提供を本人および家族に対し行っており,これらの支援が,本人と家族が家族亡き後について話し合うきっかけの1つになる可能性があると考えられる.このことから,精神科訪問看護師は,家族亡き後に向けた課題解決の役割が期待できる.

5. 本研究の限界と意義

本研究の対象は,精神科病院の関連施設である訪問看護ステーションの管理者が選定した者である.精神科訪問看護の勤務年数が長いというバイアスがあるため,ベテランの意見を代表している可能性がある.今後は対象選定を工夫した調査が必要である.しかし,家族亡き後に関連した訪問看護師の支援や認識を調査した研究はこれまでにないため,このテーマに関する基礎的な資料としての意義はあると考えられる.

Ⅵ  結論

本研究では,精神科訪問看護師の約7割が本人および家族から家族亡き後の話をされていた.また,本人や家族の不安を傾聴し,社会資源・サービスに関する情報提供を実施していた精神科訪問看護師は7割以上であったことから,精神科訪問看護師には本人と家族が家族亡き後についての話し合いを促進する役割が期待できることが示唆された.

付記

本論文の一部は第39回日本看護科学学会学術集会にて報告した.

謝辞・研究助成

本研究にご協力いただきました全国の精神科訪問看護師の皆様に深謝いたします.本研究は,JSPS科研費 18K10282の助成を受けたものである.

著者資格

すべての著者は,研究の構想およびデザイン,データ収集・分析及び解釈に寄与し,論文の作成に関与し,最終原稿を確認した.

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はな‍い.

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