日本精神保健看護学会誌
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資料
児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点
精神科訪問看護師のインタビューに基づいて
鎌田 ゆき藤野 成美古野 貴臣藤本 裕二岩本 祐一
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2024 年 33 巻 2 号 p. 50-58

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Abstract

目的:児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点を明確化する.

方法:児童・思春期精神科訪問看護の経験をもつ看護師7名に半構成的面接によるインタビュー調査を行った.録音データから逐語録を作成し,児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点について質的帰納的に分析した.

結果:7つのカテゴリと19のサブカテゴリが抽出され,カテゴリは【生きづらさがもたらす行動障害の意味】【児の特性をふまえた学校生活・就労活動の状況】【児の生活習慣獲得と成長発達に向けた子育ての状況】【訪問看護師を児に受け入れてもらえる関係づくり】【親の生きづらさにも寄り添う姿勢】【児と親の思いをつなぐ橋渡し】【家庭における症状管理の状況】で構成された.

結論:児童・思春期精神科訪問看護実践では,こどもの特性を肯定的に受け止め,希望や目標をもって充実した生活を一緒にめざすとともに,親の生きづらさへの介入も重視されていた.さらに,適切な治療の継続とともに,こどもの正常な成長発達や社会適応の促進に着目することが重要である.

Translated Abstract

Aims: To clarify nurses’ perspectives on their practice in child and adolescent psychiatric home health care.

Methods: We conducted semi-structured interviews with seven nurses experienced in child and adolescent psychiatric home care. We then created verbatim transcripts from the recorded data. We qualitatively and inductively analyzed their perspectives on child and adolescent psychiatric home care nursing practice.

Results: Seven categories and 19 subcategories were extracted. The categories comprised [Meaning of behavioral disorders caused by difficulties in living], [School life situation and employment activities based on the children’s characteristics] [Parenting for children’s lifestyle acquisition and growth and development] [Building a relationship in which the children can accept the visiting nurse] [Attitude of closely monitoring the parents’ life difficulties] [Building a bridge between the children and parents’ thoughts and feelings] and [Status of symptom management at home].

Conclusion: The nursing practice of the child and adolescent psychiatric visiting nurses emphasized, a positive acceptance of the child’s characteristics, aiming for a fulfilling life together with the child with hopes and goals, and intervening in the parents’ difficulties in life. It is also important to focus on promoting the child’s normal growth and development and social adjustment as well as continuing appropriate treatment.

Ⅰ  緒言

令和5年度にこども基本法が制定され,障害児への切れ目ない支援を充実させることが基本理念の1つとして掲げられた(こども家庭庁,2023a).近年,精神科病棟における20歳未満の入院患者数は年々増加しており(国立精神・神経医療研究センター,2023),児童・思春期精神科では自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害が患者の半数を占め,その他に不安障害や摂食障害・気分障害などがみられる(宇佐美,2023).児童・思春期精神科における主訴の多くは,不登校や学習の遅れ,興奮・暴力,強迫行動であり,こどもは生きづらさを抱える一方で,家族は対応に疲弊し精神的に追い詰められて受診や入院に至ることも少なくない(海老島,2010滝川,2017).

児童・思春期精神科病棟(以下,病棟)では,集団活動または個別による成長発達を促すケアや(船越・角田・羽田,2017),ルールを守ることを課題として一緒に取り組むケア(毛利,2016)が実践されている.その中で看護師は,感情表現が乏しいこどもや拒否的な態度を示すこどもと治療的な信頼関係を築く困難さを感じている(関根ら,2012山内,2014).このようなこどもの本質的な問題すなわち,基本的信頼感の不足・強い自己否定感・自己表現力の乏しさに向き合うには,看護師が親子関係に類似した微妙な関係を築きながら親代わりにはならないという,適切な心的距離を保つことが必要とされている(船越,2020b).

一方で,精神疾患を有するこどもの家庭環境は家族機能が脆弱であるケースが多いことから,精神科訪問看護は児童精神科臨床において重要であると示唆され(奥野・河口,2019),利用件数は過去6年間で約5倍に増加している(総務省統計局,20162023).親がこどもとの生活に不安を抱える際は共に対応策を考える支援が求められ(恒松ら,2016),看護師は生活の場に訪問するという立場で家庭のルールを守り,柔軟に対応する姿勢が求められる(坂田,2021).

このように児童・思春期精神科訪問看護では家庭にあわせた看護実践が求められ,病棟での共同生活における看護実践とは異なる視点が重視されるのではないかと推察される.「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」においては,精神疾患の有無や程度を問わずに支援する重要性が示されており(厚生労働省,2017),児童・思春期においても地域で安心して生活するための包括的な支援が必要とされている.このシステムにおいて児童・思春期精神科訪問看護では,精神症状のみに着目するのではなく,こどもの生活や成長を含めた包括的な視点での支援が求められる.本研究では,児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点を明確化することを目的とする.

Ⅱ  用語の定義

児童・思春期精神科訪問看護

本研究では,6歳から12歳を児童期(こども家庭庁,2023b),中学校・高校に通学する年齢を思春期とし(舟島・望月,2017),精神疾患を有する児童・思春期のこども又はその家族に対して,精神科を担当する医師から交付を受けた精神科訪問看護指示書及び精神科訪問看護計画書に基づき,訪問看護ステーションの保健師・看護師・准看護師によって行われるサービス(厚生労働省,2020)を児童・思春期精神科訪問看護と定義した.

Ⅲ  研究目的

本研究では,児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点を明確化し,児童・思春期精神科訪問看護実践への示唆を得ることを目的とする.

Ⅳ  研究方法

1. 研究デザイン

インタビュー調査にもとづく質的帰納的研究

2. 研究参加者

児童・思春期精神科訪問看護を提供する訪問看護ステーションの管理者,または,児童・思春期精神科訪問看護経験年数が3年以上の精神科訪問看護師(以下,看護師)とした.

3. データ収集方法

研究協力の同意が得られた訪問看護ステーションの管理者,または管理者に紹介されたスタッフを参加者とした.参加者には研究の説明と同意の取得を行った上で,半構造的面接によるインタビュー調査を行った.インタビュー調査の際,まず本研究における看護実践の定義について説明した.インタビューガイドは,船越ら(2011)による児童・思春期精神科看護におけるケア領域と定義を参考にし,児童・思春期精神科訪問看護における情報収集・アセスメントの視点,信頼関係を構築するためのコミュニケーションの視点,こどもの成長・発達を促すための視点,暴力など行動障害の対応の視点を含む内容とした.インタビュー内容は参加者の同意を得てボイスレコーダーに録音した.データ収集期間は2021年3月から同年11月であった.

4. データ分析方法

インタビュー内容をデータ化した逐語録を作成し,逐語録から参加者の看護実践を示す部分を抽出し切片化した.本研究ではインタビュー調査に基づき児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点について明確化を図ることから,Benner(2001/2005)による7領域からなる看護実践(援助役割,教育とコーチングの機能,診断とモニタリングの機能,容態の急変を効果的に管理する,治療処置と与薬を実施しモニターする,医療実践の質をモニターし確保する,組織化と役割遂行能力)を参考にして抽出した.切片化した内容をコード化し,共通性と相違性からサブカテゴリ,カテゴリを生成した.

5. 結果の厳密性・妥当性の確保

分析結果について精神看護学・在宅看護学の研究者,精神科訪問看護のジェネラリストと,分析過程において全員が同意するまでディスカッションを行い,厳密性と妥当性の確保を行った.

6. 倫理的配慮

本研究は日本赤十字九州国際看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号20-013-②).研究参加は参加者の自由な判断に任されており,不参加の場合でも不利益を受けることはないことを説明した.また,インタビュー調査を実施することによって業務遂行に差し障ることのないよう,事前に管理者の承諾を得た.研究計画には,1)インタビュー内容を録音する際は同意を得る,2)調査は匿名で実施しデータは仮名加工情報を作成する,3)データを目的以外に使用しない,4)データは鍵のかかる場所に保管する,5)インタビュー調査の際回答をしたくない内容は拒否できることなどを明記し,書面にて同意を得た.

Ⅴ  結果

1. 参加者の背景

研究に参加した訪問看護ステーションはA県およびB県内の6施設で,いずれも児童・思春期精神科訪問看護が提供されていた.研究に参加した精神科訪問看護師(以下,参加者)は7名で,男性4名,女性3名であった.年齢は平均42.1歳(範囲27~49歳),看護師経験年数は平均19.6年(範囲5~27年)であり,全員が精神科病棟における勤務経験を有していた.児童・思春期精神科訪問看護の経験年数は平均6.3年(範囲1~18年),職位は管理者5名,スタッフ2名であった.面接時間は平均48分間(範囲37~59分間)であった(表1).参加者に語られた児童・思春期精神科訪問看護の対象者は,全員が児童期・思春期に該当し,診断名はASDやADHD,その他の精神疾患のいずれかであった.

表1

参加者の属性と面接時間

参加者 性別 年代 看護師
経験年数
(年)
児童・思春期
精神科訪問看護
の経験年数
(年)
職位 勤務経験のある
主な診療科目および部署
面接時間
(分)
A 女性 40歳代 22 18 管理者 内科病棟,精神科病棟,
精神科外来,児童精神科病棟
59
B 女性 40歳代 27 4 スタッフ 内科病棟,内科外来,
精神科病棟
51
C 男性 40歳代 20 6 管理者 精神科病棟 40
D 男性 40歳代 20 8 管理者 精神科病棟 56
E 女性 40歳代 26 1 管理者 精神科病棟 53
F 男性 20歳代 5 5 スタッフ 精神科病棟 39
G 男性 40歳代 17 2 管理者 内科病棟,精神科病棟
児童精神科病棟
37

2. 分析結果

参加者によって語られた児童・思春期精神科訪問看護実践における視点を質的分析した結果,89のコードから19のサブカテゴリが抽出され,カテゴリとして【生きづらさがもたらす行動障害の意味】【児の特性をふまえた学校生活・就労活動の状況】【児の生活習慣獲得と成長発達に向けた子育ての状況】【訪問看護師を児に受け入れてもらえる関係づくり】【親の生きづらさにも寄り添う姿勢】【児と親の思いをつなぐ橋渡し】【家庭における症状管理の状況】の7つが生成された(表2).本研究で示されたカテゴリを【 】,サブカテゴリを〔 〕,参加者の代表的な語りを「斜体」で示す.また,語りの内容の補足を( )で示す.

表2

児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点

カテゴリ サブカテゴリ 代表的なコード
生きづらさがもたらす行動障害の意味 自他への攻撃の理由とその時の気持ち 「死ね」「帰れ」「失せろ」「二度と来るな」「ボケ」と言われて叩かれたらイライラしているんだなと判断する
リストカットをやめなさいとは言わず児の思いを聴く
学校での粗暴行為の話をしてくれたときに一緒にふり返る
興奮やイライラした気持ちの切り替え 物を投げられた際に反応して怒るとさらに興奮させてしまうため,部屋に一人にしてクールダウンするのを待つ
気分が高ぶって声が大きいときは体力が発散できるように外で一緒に運動する
児なりの困りごとの表現 話しかけて「死ね」としか言わなくても,「今日どうだった?」「寝れてる?」「寒くない?」など根気強く話しかける
「嫌」や「面倒くさい」の意味を理解しようとする
児が沈黙する意味 児が寝ていて起きなくても隣に座ってひたすら待つ
言葉でうまく言語化できない場合はノートを活用する
思春期ならではの心性 思春期ならではのデリケートな秘密を話してくれた際には親とすぐに共有せず児の意思を尊重する
なぜこの世に生まれてきたのか意味が分からないから死にたいという悩みに対し,どうしてそう思うのか傾聴する
児の特性をふまえた学校生活・就労活動の状況 家庭学習の取り組み状況 どんな宿題が出ているのか一緒に確認する
学校の提出物の期限を守れるよう一緒に段取りを考える
学校での困りごとやこだわり 学校で苦手なことを把握する
学校に行けない理由や学校に行って心配なことを把握する
児のこだわりを虐待と誤解する教師に説明に行く
就労活動でがんばったこと 就労活動について「そのやり方はよかったよ,ここはこう変えるといいね」と成功体験として自覚を促しアドバイスする
仕事ができるようになりたいという思いと精神疾患を否定する思いを聴いて,現実的な就労の大事さを1つ1つ説明する
児の生活習慣獲得と成長発達に向けた子育ての状況 生活習慣の獲得で困難なこと 夜中に動画を見過ぎて学校に行けなくならないよう1日のスケジュール表を一緒に作る
(親ができていない場合に)生理用ナプキンの当て方やブラジャーのつけ方を学校と一緒になって指導する
親への指導が難しいとき児に炭酸飲料を飲むならゼロカロリーにしようなど過食を減らすよう助言をする
必要に応じた家事の代替 親が食事を作らない場合に訪問時間を夕方にして一緒に料理をする
ものすごく散らかった部屋の衣類や机の上を一緒に片付ける
訪問看護師を児に受け入れてもらえる関係づくり 児と対等な立場 言葉遣いや声のかけ方で,学校の先生のように何かを指導しに来たのではないことを知ってもらうように心がける
暴れた時にあまり反応を示さず,児を危険とみなしていないことがわかってもらえるよう心がける
児の関心事や好きな遊び 突拍子もないことをいわれても「教えて」と児に興味があることを示す
訪問看護導入の時期は公園でキャッチボールなど遊ぶことから始める
児の得意なこと 得意な折り紙を一緒にして「ここはどうするの?」と折り方を教えてもらう
(ゲームやテレビの)「説明の仕方が上手」や「そういうところが詳しいんだね」と得意なところをほめる
親の生きづらさにも寄り添う支援 親自身の子育てのつらさ 児の特性でうまくいかないことでも親が頑張っていることを認める
親が児に愛情を抱けないと打ち明けたとき否定せず共感する
親が児の精神疾患を受け入れられない思いを理解する
不適切な養育の状況 暴力や自傷行為の原因は家庭環境にあると見極める
親と喧嘩したことや暴言の様子を児より聞き取る
児と親の思いをつなぐ橋渡し 親子間の思いを代弁 親子だからこそ言わないそれぞれの思いを親子がいる場で代弁する
児と親が言い合いをしているところに入ってそれぞれの思いをその場で伝える
親を交えて話し合う場の設定 訪問時に本人と家族と看護師で話し合う日や時間を設ける
親に児との間に距離を置くことを提案する
家庭における症状管理の状況 家庭での服薬管理 児が薬を飲もうかなと思える声かけを親にお願いする
パニックになる前に頓服薬を飲む習慣がつくよう児に繰り返し指導する
親による症状悪化時の対応 学校から帰ったときの落ち着きのなさを観察するよう親に指導する
攻撃的な反応がみられたときに親がどのように対応しているのかを聞く

1) 【生きづらさがもたらす行動障害の意味】

このカテゴリでは,児が暴れたり自傷行為がみられたりした際に〔自他への攻撃の理由とその時の気持ち〕を重視していることが示された.その際,〔興奮やイライラした気持ちの切り替え〕ができるようクールダウンをしたり,外で身体を動かして発散したりするなどの対処をしていたことが示された.また,児と対話を試みる中で「できない・わからない」の〔児なりの困りごとの表現〕や,なかなか言葉が出ない時に〔児が沈黙する意味〕を汲み取る姿勢で接していた.思春期の対象者には〔思春期ならではの心性〕を重視していた.

「物を投げられることに反応して怒ったら,またさらに興奮を増強させるので,投げられたことに関しては,反応をしなかったですね.本人を一人部屋において,ちょっとクールダウンするまではじっと待ってましたね」

「思春期に入ったとき,私たちだから話してくれるっていうことがあるじゃないですか.その子の気持ちとか秘密を話してくれたっていうところが大切なので,どのぐらいで母親に伝えるかとか,そこら辺がすごく難しいなと思います」

2) 【児の特性をふまえた学校生活・就労活動の状況】

このカテゴリでは〔家庭学習の取り組み状況〕に目を向け,児が意欲的に学校の準備や宿題に取り組めるよう支援をしていることが示された.また,児の苦手なことや心配なことなど〔学校での困りごとやこだわり〕の把握を心がけることや,思春期の対象者にみられる〔就労活動でがんばったこと〕に着目し,肯定的にフィードバックをして気づきを促す関わりをしていることが示された.

「就労にはつながったが,ぽろっと話す内容は失敗談ばかりが出てきて成功体験とか自分を肯定することが少ないのかなと思ったので,『そのやり方はよかったよ,ここはこう変えたほうがいいよね』っていうやり取りをしてきましたね」

3) 【児の生活習慣獲得と成長発達に向けた子育ての状‍況】

このカテゴリでは,児が朝起床できず登校できないことや思春期になって下着を自分で着けることができないなど〔生活習慣の獲得で困難なこと〕を重視していることが示された.また,親が不在で食事の用意がされていない状況で,児と一緒に食事の用意をするなど〔必要に応じた家事の代替〕をすることに目を向けていた.

「胸が大きくなってブラジャー着けるとか,生理が始まったからナプキンを当てるとかいう練習を,お母さんがしてきてなくて.なのでブラジャーの着け方,ナプキンも交換しなかったりするので,ずっと(指導を)やってきましたね」

4) 【訪問看護師を児に受け入れてもらえる関係づくり】

このカテゴリでは,精神科訪問看護の導入時に〔児と対等な立場〕であることを印象づけて拒まれないよう心がけ,〔児の関心事や好きな遊び〕をきっかけに〔児の得意なこと〕を見つけてほめる関わりをとおして,児に味方だと思ってもらえるよう関係づくりをしていることが示された.

「(看護師が)お母さんと話す中で言葉遣いだったり話し方に気を付けて,知らない大人だけど,自分にとって危険じゃないとか,例えば学校の先生みたいに何かを指導しにきたんじゃないっていうところを知ってもらう」

5) 【親の生きづらさにも寄り添う姿勢】

このカテゴリでは,親による暴言など〔不適切な養育の状況〕を把握し〔親自身の子育てのつらさ〕に共感することで,児だけでなく親への支援も重視していることが示された.

「(母親が児を)『かわいいと思えない』って言っても,『言うこときかんやったら,かわいくないと思うよね.嫌やったら嫌って言っていいよ』って言ったらすぐ泣きます.あふれ出るんですよ,お母さん」

6) 【児と親の思いをつなぐ橋渡し】

このカテゴリでは,〔親子間の思いを代弁〕することや,〔親を交えて話し合う場の設定〕をするなど,児と親それぞれの思いを察して介入していたことが示され‍た.

「親子の橋渡しというのをすごく大切にしてます.お母様とかお父様から聞いたこと,本人から聞いたこと,それぞれが告げ口したという気持ちに絶対ならないように.伝えといたほうがいいような大切なことはお互いがいるところで,お母さんはこんなふうに思ってるんじゃない?とか,〇〇ちゃんもお母さんのこと大好きだもんねとか」

7) 【家庭における症状管理の状況】

このカテゴリでは,〔家庭での服薬管理〕や〔親による症状悪化時の対応〕ができるよう,心理指導をとおして児と親の主体的な症状管理に向けた支援がなされていたことが示された.

「お薬を定期的に飲んでいただくために,大人に説明するような言い方ではなくて,その子が飲もうかなというふうな声掛けをお母さんにお願いした感じですね.(児は症状悪化時に)疲れたと感じるみたいなので,『疲れを取るお薬だよ』っていうような感じで」

Ⅵ  考察

1. 児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点

1) 【生きづらさがもたらす行動障害の意味】

参加者は児の粗暴行為を未熟なコミュニケーション手段であると捉え,【生きづらさがもたらす行動障害の意味】を重視していた.看護師は粗暴行為などの行動障害を否定的に捉える傾向があり(Geoffrey, Mariyana, & Nutmeg, 2022),病棟では「暴力は駄目」と毅然と示す看護介入(大橋・船越,2021)がなされている.しかしながら,こどもの粗暴行為は,安心や安全が脅かされ不満や不安・恐怖・怒りが生じたときに攻撃性として表出されるものであり(冨永,2018),英国のNational Institute for Health and Care Excellence;NICE(2021)によるガイドラインでは,こどもが粗暴行為によって満たそうとしているニーズを特定した介入が必要であると示唆されている.また,思春期にみられる自傷行為は,一人で苦痛を解決しようとする行動であり根底には人間不信があることから,その行為を告白された場合は支持的に関わることが重視されている(松本,2012).児童・思春期精神科訪問看護実践では発達段階をふまえて,行動障害に至らなければならなかった児の感情を尊重し,家庭環境や学校生活における原因を見極めることが重要である.

2) 【児の特性をふまえた学校生活・就労活動の状況】

参加者は,児が学校生活や就労活動において様々な困難に悩んでいると認識し,【児の特性をふまえた学校生活・就労活動の状況】に着目していた.こどもの精神疾患に多くみられる発達障害は,個々の特性が生活障害や社会とのつながりでつまずきをきたすものであり(田中,2020),問題なく通学しているように見えても,必ずしも適応が良好ではないことがある.参加者は,児のつまずきのみに着目することなく,希望や目標をもって充実した生活を一緒にめざす関わりを大切にしていた.米国で提唱されたパーソナルリカバリーでは,精神疾患による制約があっても希望に満ちた人生を送ることが重視されている(Anthony, 1993).すなわち,児童・思春期精神科訪問看護実践では,児が希望に満ちた人生を送れるよう,学校や就労など社会的な側面に着目して支援することが求められる.

3) 【児の生活習慣獲得と成長発達に向けた子育ての状‍況】

参加者は,家庭における【児の生活習慣獲得と成長発達に向けた子育ての状況】を重視していた.こどもの成長に適した食事を与えない,あるいは年齢に応じた生活のスキルを伸ばす働きかけが適切でないなどの行動はネグレクトとされ,親は他者の目からこどもを隠したがる傾向がある(南部,2011).このような家庭に看護師が足を踏み入れ子育ての介入をすることは,児童・思春期精神科訪問看護ならではの重要な役割といえる.児童・思春期精神科訪問看護実践では,児の望ましい生活習慣の獲得と正常な成長発達の促進に向けて介入する視点が求められる.

4) 【訪問看護師を児に受け入れてもらえる関係づくり】

参加者は,児童・思春期精神科訪問看護が導入される際,【訪問看護師を児に受け入れてもらえる関係づくり】を心がけていた.これは,病棟において看護師が特定のこどもと1対1で関わることで特別な存在となり,治療的な信頼関係を構築する過程に類似している(船越,2020a).精神疾患を有するこどもは,大人に失望し反発した態度を示すことがあるため(市川,2005),看護師という肩書を捨て味方であるという姿勢で接することが重要である(名手・齋藤,2020).児童・思春期精神科訪問看護実践において,導入時期には児と対等に関わることで距離を縮め安心できる存在になることが基本となる.

5) 【親の生きづらさにも寄り添う姿勢】

参加者は,日々の子育てに疲弊し気力や自信を失っている親の思いを尊重し,【親の生きづらさにも寄り添う姿勢】を重視していた.発達障害を有するこどもの親はジレンマや不安を抱きやすく(中根,2007),悩み傷ついていることから癒され労われるべきとされている(田中,2018).前述のパーソナルリカバリーの構成要素は,つながり,希望と楽観,アイデンティティ,人生の意味,エンパワメント(Leamy et al., 2011)とされており,こどものリカバリープロセスとして親も含めることが重視されている(Ballesteros-Urpi et al., 2019).障害児をもつ親は育児負担感をもちやすく,不適切な養育態度や虐待への移行が懸念されることから(関・長谷川・出口,2018),児童・思春期精神科訪問看護実践では児だけでなく親自身も生きづらさを抱える個人として向き合い支援する姿勢が求められる.

6) 【児と親の思いをつなぐ橋渡し】

精神疾患を有するこどもの親は被虐待や養育能力の低さなどの問題を抱え(Setoya et al., 2011),こどもに対して高い感情表出(Expressed Emotion; EE)や管理的な姿勢がみられることがある(牛島,2022).参加者は,これらのことが児と親との関係に悪影響を及ぼしていると見極め,【児と親の思いをつなぐ橋渡し】を重視していた.看護師は,児と親の間でうまくやり取りができない状況を察知し,それぞれの思いを解釈して伝える役割がある(船越ら,2012).児童・思春期精神科訪問看護実践において,児と親が対話できる機会をつくったり,それぞれの思いを伝えたりすることで関係をつなぐ支援が重要となる.

7) 【家庭における症状管理の状況】

参加者は,薬物療法を受ける児と親の【家庭における症状管理の状況】を把握するよう心がけていた.こどもの向精神薬による薬物療法は,こどもの環境に対する理解の促進や混乱状態の軽減などの効果があるとされ(日本小児神経学会,2022),わが国では増加傾向にある(奥村・藤田・松本,2014).児童・思春期精神科訪問看護実践では,親が主体的にこどもの状態を観察し症状管理ができるよう心理的・行動的な介入することで,適切な治療の継続につなげることが重要であ‍る.

2. 研究の限界

本研究は,2県の限られた地域で収集されたデータに基づいており,母集団を反映しているとはいいがたい.また,本研究において明らかになった,児童・思春期精神科訪問看護実践における看護師の視点は,参加者の主観に基づいて効果的であったと考えられるものであり,こどもの年齢,精神疾患や行動障害の種類,家族構成については言及していない.今後は,それらを具体的に設定した調査を行うなどさらなる追求が求められる.

Ⅶ  結論

児童・思春期精神科訪問看護実践では,こどものつまずきのみに着目することなく希望や目標をもって充実した生活を一緒にめざし,親自身の生きづらさへの介入も重視されていることが明らかになった.さらに,児童・思春期精神科訪問看護実践では,適切な治療の継続とともにこどもの正常な成長発達や社会適応の促進に向け,家庭の状況にあわせた介入に着目することが重要である.

謝辞

本研究にご協力いただきました訪問看護師の皆様に感謝を申し上げます.

本研究は,令和2年度日本赤十字九州国際看護大学奨励研究の助成を受けた.研究結果の一部については,日本看護科学学会第41回学術集会にて発表した.

著者資格

YKは研究の着想およびデザイン,論文の作成を行った.NFは研究プロセス全体への助言を行った.TF,YF,YIはデータ分析と論文作成への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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