2024 年 33 巻 2 号 p. 125-128
皆さんこんにちは.皆さんのお手元の抄録に,本学会設立発起準備委員会・発起人というのがあると思いますが,その中に私の名前はありません.立ち上げの時期,1988年秋から3年半ほど米国のオレゴンヘルスサイエンス大学に聖路加看護大学(現聖路加国際大学)から,南先生に後押をしていただいて,留学しておりました.その留学の時に学会は立ち上げられました.
1992年4月に,南先生が兵庫県立看護大学に学長として行かれることになって,私が聖路加看護大学に戻り,そこから稲岡文昭先生に言われて,日本精神保健看護学会に関与するようになりましたので,私は1994年の第4回の学術集会からかかわりはじめたように思います.
私のテーマは,「本学会の精神看護学の確立と精神看護専門看護師制度の発展に果たしてきた役割」となっております.若い方の中には知らない方も多いのではないかと思いますので,カリキュラムがどのように変わっていったのか,看護教育における精神看護学の位置づけについてお話することから始めたいと思います.
まず「看護師等養成所指定規則における看護学の教育内容の内訳」から,精神看護学の変遷をたどってみたいと思います.
1951年,第二次世界大戦が終わって最初につくられたカリキュラムが,スライド1です.保健婦助産婦看護婦学校養成所指定規則ができて,教育内容が明らかになりました.これは一般的には,内科看護,外科看護と言われ,診療科別になっております.「内科学及び看護法」とか,「外科学及び看護法」で,精神科看護も「精神病学及び看護法」となっています.
スライド1
教育内容をよく見ますと,精神科関係では「精神衛生」が15時間あり,「精神病学及び看護法」は25時間で,15時間を医師が教えて,10時間は看護師が看護を教えるという形になっておりました.
次の改訂が1967年です.これはかなり大きな改訂で,今のカリキュラムの原形になるものですが,人間の成長発達を軸にした「看護学総論」「成人看護学」「小児看護学」「母性看護学」の4本を柱として,看護学独自の知識や技術を体系化する方向に踏み出しました(スライド2).人間の成長発達を基に,医学の診療科別から離れた形で看護学を体系化しようとしたことは,看護界にとっては大きな転換点ではなかったかと思っております.
スライド2
ただ,これを見ますと,精神看護学は成人看護学の中に入っておりまして,「精神科疾患と看護」という形になっています(スライド3).実際に中身を見てみますと,診療科別の看護と異なると言っていますが,まだ診療科別が強くて,教育内容の中心は従来の内科看護・外科看護で,調べてみますと,講義は405時間のうちの270時間,全体の3分の2が内科・外科看護で占めていました.実習も1170時間のうち855時間が内科・外科看護で4分の3を占めています.「精神科疾患と看護」は,講義が30時間,実習が90時間ということで,成人看護学全体の時間数の約7パーセントにすぎません.ただこれは,南先生が指摘されたように,大学とか学校によって重点の置き方は変えることができますので,学校によって時間数は違っていたのではないかと思います.
スライド3
1967年の改正から20年を過ぎた1989年にカリキュラムが改正されます.これが非常に大きな問題になるのですが,スライド4を見て分るように,専門基礎科目の中に「精神保健」はありますが,専門科目の中に精神看護学がないのです.南先生が述べられたように,1980年代は短期大学が多かったのですが,看護系短期大学では精神看護学を柱として授業をやっておりました.けれども,実際の指定規則における看護教育課程の教育内容には精神看護学はありませんでした.
スライド4
その理由については文献をみますと,1989年のカリキュラム改正にあたった「看護婦等学校養成所教育課程改善に関する検討会」の委員の一人は,「基礎教育の中で精神科看護を学ぶことを望んでも難しく,むしろ専門コースを立てたほうがよいと考え,また従来の精神科看護の主眼となっている人間理解やコミュニケーションは,専門基礎科目や基礎看護学の中で学ぶことができるということで整理した」と述べています.このことが,精神看護学の学会を立ち上げなければならないというきっかけにもなっています.
1989年当時,看護系大学は12,短期大学は54,看護師等養成所396で,大学と短期大学においては,精神看護学を独立した科目として立てておりました.また,1979年に千葉大学が,1980年に聖路加看護大学が,大学院看護学研究科修士課程で,教育を行っていました.南先生は1982年から聖路加看護大学大学院修士課程で精神看護学を専攻領域として立てていたわけです.こうした動きと呼応する形ではなくて,養成所指定規則のカリキュラムは改正されたということになります.
1996年8月,1989年から比較的,短期間で再び指定規則が改正され,スライド5に示しましたように,ようやく精神看護学の柱が立ちました.これがカリキュラムから見た精神看護学確立の経緯です.
スライド5
私は,このカリキュラム改正があった1996年前後,第5回と第6回,池田明子先生と学術集会のテーマを練ったことを記憶しております.「精神看護の専門性を問う」というテーマを,2年続けています.精神看護学という1本の柱を立てる以上,精神看護学とは何かということを考えていこうということで,学会の学術集会のテーマにしたという経緯があります.
一方,1980年代の動きとして,南先生のお話にもありましたが,専門看護師制度が日本看護協会で検討され始めます.1987年7月に設立に関する検討を始めて,1994年5月に専門看護師制度,1995年5月に認定看護師制度をつくり,1995年に日本看護協会看護研修センター内に専門看護師認定看護師室を設置して,認定の準備を整えたということになります.専門看護師・認定看護師の制度ができる過程では南先生が日本看護協会の副会長としてご尽力されたことが大きかったと思います.
1995年11月,専門看護師の分野特定がありました.最初の分野特定は,がん看護と精神看護だったのですが,分野特定は修士課程を終えて臨床で活躍している看護師が3人以上いることが条件になっておりました.南先生が育成された精神看護学の修士課程修了生が3人,臨床で専門看護師に近い形で仕事をしていましたので,私は書類をつくって,精神看護分野の認定をしてもらったということになります.また,がん看護分野は,聖路加看護大学の小島操子先生が申請をいたしました.聖路加看護大学から2つの分野の認定をさせていただいたということになります.
1996年くらいから,日本看護協会と日本看護系大学協議会とで話し合いをしまして,スライド6に示しましたように,2000年に日本看護協会が分野特定と専門看護師の個人認定をする,日本看護系大学協議会が専門看護師教育課程の認定を担うということで役割分担をし,今日に至っています.
スライド6
できたばかりの1996年の最初の専門看護師の認定実行委員会に,私も入っています.私は2年で辞めましたが.その後,この学会にもご尽力いただいた長谷川病院の看護部長であった粕田孝之先生が担ってくれたりして,認定作業をしてきたことが記憶に残っております.
専門看護師をつくる時,南先生にも言われたことですが,中心がMental Health Nursingという形で,これが精神専門看護師の基本になるんですが,専門看護師の中でも自分の得意とする活動領域があるだろうということで,スライド7に示しましたが,それがPsychiatric Consultation-Liaison Nursingという領域と,Psychiatric Nursing,狭義の精神科看護の領域,Community Mental Health Nursing,すなわち,地域,特に学校保健とか産業保健等,保健の領域です.それを考えると,Mental Health Nursingの精神専門看護師ですが,特徴としてこの3つの活動領域のどこに自分の得意とする専門を持つかということで,働き方,役割のとり方が異なるのではないかと考えます.
スライド7
精神看護学の活動領域はいまや施設内ケアだけではなくて,地域で働く人も多く,2023年12月現在ですと,精神看護専門看護師の数は日本看護協会の調べですと436名になっていますが,病院でCNSとして働くということではなく,訪問看護ステーション等,自分で場を立ち上げて仕事する人たちも増えてきていると思います.今後,Psychiatric Nursingという狭義の精神科看護でも訪問看護等,地域で活動していく人たちが多くなっていくのではないかなと思われます.
後ほど,南先生に少し補足してもらいたいのですが,日本のCNSはCertified Nurse Specialistという英語表記になっています.アメリカではClinical Nurse Specialist,Nurse Practitionerという資格がありますが,その中間に位置するくらいのCertified Nurse Specialistという形で日本は置いています.
この時,南先生からは,将来的なことを考えると,専門看護師が施設内ケアだけではなく,地域でも働くはずです.Nurse Practitionerという形にはすぐにはできませんが,専門看護師として,在宅看護とか,いろいろな分野の柱が立っていますので,そういう人たちがCNSとして働くときは,Clinicalというイメージよりは,Certified Nurse Specialistのほうが広く働けるのではないかと考え,将来を見越してCNSのCをCertifiedにしたと聞いております.ここはまたディスカッションの中で南先生に確認してみたいと思います.
今現在,日本看護系大学協議会は,2014年にNurse Practitioner教育課程という形で,46単位の教育課程を承認するプログラムをつくっています.2015年には,専門看護師教育課程は高度実践看護師教育課程に名称を変更して,認定作業もしており,専門看護師ができた時代状況から次のステップへと移っていっているのではないかと思っております.
私は専門看護師については,多くを育成するというよりも,分野認定の申請をしたということで,今日は話をさせていただきました.ご清聴ありがとうございます.