日本精神保健看護学会誌
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原著
統合失調症の子どもとの地域生活を継続していく親の経験
牧(石飛) マリコ
著者情報
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2025 年 34 巻 1 号 p. 1-10

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Abstract

本研究の目的は,統合失調症を発症した子どもとの地域生活を継続する親の経験を明らかにすることである.

A県内の家族会に参加している65歳以上の親16名を対象に半構成的面接を行い,M-GTAを用いて分析した.

分析の結果,9つのカテゴリと23の概念が生成された.発症後に親は,【病気に伴う苦悩】を抱き,親の責任として【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】.変動する精神症状に応じて【子どもとの向き合いへの回避と対峙】を繰り返しながら【病状に囚われた感覚からの解放】や【分かり合える仲間や身近な人からのサポート】を得,【自分自身の人生を見通して健康の維持に努める】ようになる.そして,【親亡き後の子どもの生活に備える】対応を通し病気や将来について子どもと調整していることが明らかになった.

親は統合失調症の子どもの生活に見られる変化によって,精神症状の注視から見守りの態度に,そして,親自身を振り返るきっかけとなり,対等な親子関係へと変化したと考えられた.

Translated Abstract

This study aimed to clarify the experiences of parents who continue to live in a community that has children with schizophrenia.

A semiconstructive interview was conducted with 16 parents aged ≥65 years who participated in a family association in prefecture A, and the results were analyzed using the modified-grounded theory approach.

The analysis generated 9 categories and 23 concepts. After the onset of the disease, the parents felt [distress associated with the disease] and [decided to take care of their children based on parental love] as their parental responsibility. By repeatedly [avoided and confronted their children] in response to fluctuating mental symptoms, the parents [gained freedom from the feeling of being haunted by the disease] and obtained [support from friends and others close to them who understand their situations]. Consequently, the parents [strived to maintain their health by focusing on their own lives]. It was also revealed that the parents discussed about diseases and the future with their children [in preparation for their children’s lives after their death].

Changes in the lives of children with schizophrenia may make it possible for their parents to change their attitudes toward mental symptoms through careful monitoring to observation. Furthermore, in the wake of such changes, parents reflected on themselves, resulting in the realization that the parent–child relationship involves equal partnership.

Ⅰ  緒言

1. 統合失調症患者の特徴

統合失調症の寛解率は1975年以降50%を超えているが,回復率は1895年に調査されて以降40%前後で時代が下っても改善されず,心理社会的治療やケアマネジメント,早期からの継続した治療提供が求められ(池淵,2023),長期間の療養が必要となる.青年期に発症することが多く,統合失調症患者の生活を支えるのは親となることが多い.実際に精神障がい者と同居している家族の続柄は85%が親で,その平均年齢は69.3歳(みんなねっと,2018)であるが,家族と生活する統合失調症患者は親から支援を受けながら生活している.

2. 親の統合失調症の子どもに対する世話と生活状況

日常生活を一緒に過ごしながら家族は患者の病状把握や病気の知識を習得し患者に適切なケアを提供している(鎌田・高橋・小西,2018).また,親は子どもの異常行動に対して緊張感を高め,回復の兆しがあると病気の治癒を期待するが再燃により落ち込むという体験を繰り返し,周囲の支えによってケアを行っていた(川添,2007).さらに,親は子どもへの思いや他者からの支援,ケアや生活における対処行動の向上,親自身の健康維持,子どもの成長や病状の安定などによりケアを継続することができていた(小西・田村・飯田,2018).

一方,親は加齢による身体的機能の低下に対して「イライラする」割合が高くなり(渡邊ら,2001),親の体力が低下することに伴い子どもの世話ができなくなることが予測される.患者はサポートが受けられなくなると外来受診・内服治療の中断による精神症状の悪化により,再入院となる恐れがある(白石・伊藤,2011).親は自分自身の心身の加齢変化への不安と子どもの将来の不安を感じ,子どもは親からの世話が得られなくなる不安を抱えながら生活していると考えられる.親は他者に患者の病気を打ち明け,疾患を受け入れることや患者が生き抜くための調整,家族のあり方の再構築(川口ら,2021)によって親亡き後の準備をしている.また,家族は患者が入院したとしても症状さえよくなれば退院させ《普通の生活に戻してやりたい》と願っており(香川・越田・大西,2009),家族が患者の地域生活継続を支援するには精神症状の安定が関わっていることが分かる.

しかし,統合失調症を有する子どもの精神症状の安定を図り親がどのように家庭で一緒の生活を継続しているのかを明らかにした先行研究は見つからなかった.

Ⅱ  研究目的

本研究の目的は,統合失調症を発症した子どもとの地域生活を継続する親の経験を明らかにすることである.地域での生活の継続のために親が,子どもとどのように関わっているかが明らかになれば,親自身と子どもの置かれている状況を確認し,先の見通しを立てる目安となる資料になると考える.

Ⅲ  用語の定義

統合失調症患者:受診している病院で統合失調症と診断されている患者.

一般的に論じる際は患者と表記し,親が子どもを指しているときや親の語りを示す際は子どもと表記する.

関わり:親が子どもの病気の発症時から地域生活が継続できるようにしている病気への気遣いや世話などの行為とする.なお,地域生活継続は一時的な入院がありながらも,基本的には自宅で生活することができていることを指す.

経験:池谷・蔭山(2020)の定義を踏襲し,現実に起こった出来事に遭遇した過去の体験(行動,思考,感情を含む)を振り返り,当人が認識したものとする.

Ⅳ  研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 研究参加者

統合失調症を有する子どもと同居している,生活に支障があるような疾患がない,65歳以上の親である.選択条件は,統合失調症を有する人の生活を支援する親は「親亡き後」に大きな不安を抱えている(川口ら,2021)ため,親亡き後の将来に対して苦悩しながら子どもとともに生活を継続している老年期の親とした.リクルート方法はA県精神障害者福祉会連合会会長に研究協力を依頼し許可を得て,A県内に20か所以上ある家族会会長会議の場で研究の説明を行い,研究参加者の選定を依頼した.家族会に入会している親は統合失調症に苦慮しながらも子どもや統合失調症を理解し世話をしようとしていると推測されるため家族会に入会されている親を対象とした.

3. 調査期間

2017年6月から2018年2月

4. データ収集方法

インタビューガイドを用いて半構成インタビューを実施した.インタビュー内容は,①子どもとの生活をどのように感じて過ごしているのか,②生活の中で困難が生じたときにどのように対処しているのか,③子どもと自分に関して将来をどのように考えているかである.面接時間は1回60分程度とした.インタビュー内容はICレコーダーで録音し,逐語録を作成しデータとした.

5. データ分析方法

データ分析は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下M-GTA)を用いた.社会的相互作用に関係し,人間の行動の説明と予測に有効で,現象をプロセス的に分析するのに適している理論である(木下,2008).本研究は親と統合失調症を有する子どもとの相互作用に着目したので,社会的相互作用を基盤にしているM-GTAを採用した.分析焦点者は「統合失調症を有する子どもの親」,分析テーマは「子どもの地域生活が継続できるための気遣いや世話」「子どもの病状の変化や生活状況」とした.

分析の手順は以下のとおりである.

①参加者全員のデータ全体に目を通した.ディテールが豊富で多様な具体例(ヴァリエーション)がありそうな数例のデータを選んだ.②分析テーマと分析焦点者,目的に照らして関連個所に着目し,親にとって意味するものは何かを解釈し,その部分を具体例とする概念を生成した.概念をつくる際には分析ワークシートを作成し,概念名,定義,具体例,理論的メモを記入した.③同時並行で,②で生成した概念の具体例となるものを他のデータから探し,分析ワークシートに追加記入した.具体例が豊富に出てこなければ,その概念は有効でないと判断した.④概念の生成では,概念の完成度をあげ恣意性を防ぐために,類似例のチェックと並行して対極比較でデータのチェックを行い,その結果を理論的メモに記入した.⑤概念生成と同時並行で概念間の関係を図示しながらカテゴリを生成し,分析結果を文章化し,相互関係を表す結果図を作成し‍た.

6. 本研究における真実性の確保

データ収集,分析,解釈,執筆の期間を通して継続比較を行い,真実性の確保に努めた.データ分析過程では,M-GTAを用いた質的研究に精通した研究者に継続的にスーパーバイズを受けた.

7. 倫理的配慮

日本赤十字九州国際看護大学研究倫理審査委員会の承認後(承認番17-011),家族会会長に内諾を得た後,書面で本研究の内容を説明し承諾を得,研究参加者の紹介は可能な範囲で依頼した.研究参加者には本研究の説明を口頭と書面で行い,研究の参加は自由であり中断できること,拒否しても不利益はないこと,研究参加の諾否は家族会会長に知らせないことにした.データは匿名性に配慮し,厳重に保管することを伝え同意を得た.研究参加者の表情や言動に細心の注意を払い,精神的負担の有無を確認しながらインタビューを実施した.

Ⅴ  結果

1. 研究参加者と患者の背景

研究参加者は女性13名,男性3名で,平均年齢は,74.6歳(最小67,最大86,中央値73.5)であった.両親での参加が一組あった.インタビュー時間は平均69.3分(47.2分~141.26分)であった.

患者の性別は男9名,女6名で,平均年齢は,47.1歳(面接当時,最小42,最大56,中央値44)であった.患者の直近の退院からの地域生活維持期間は,4カ月から27年で,入院歴は1回が6名,2回が3名,3回が2名,5回が2名,14回が1名,複数回が1名であった.発症年齢の平均年齢は,23.6歳(最小15,最大34,中央値23),罹患期間の平均は22年(最小9,最大36,中央値25)だった.サービス受給状況は,包括型地域生活支援プログラム,ヘルパー,作業所,訪問看護などだった.

2. 分析結果

分析の結果,23の概念が生成され,そのうちから意味まとまりにおいて,9つのカテゴリを見出した(表1).カテゴリは【 】,概念は〈 〉,代表するヴァリエーションは“ ”で表した.15例目の分析で新たな概念が見られず飽和化を確認した.

表1 生成されたカテゴリ,概念一覧

カテゴリ 概念
病気に伴う苦悩 発症当初は右往左往で戸惑う
親の病気に対する嫌悪感
親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める 親の気持ち
自分が背負っていく道
精神症状に翻弄される 精神症状の慢性化により回復の兆しがない
子どもの発言・行動に注意を払う
子どもとの向き合いへの回避と対峙 波がある病気を有する子どもから回避する
子どもとの話を躊躇する
一心不乱に子どもの病気へ介入
子どもの精神状態を改善させる介入
病状に囚われた感覚からの解放 病気がありつつ肯定的に変化している子どもに気づく
子どもが親に気遣って世話をしてくれる
分かり合える仲間や身近な人からのサポート 家族会で精神的な安らぎを得る
近所の人と支え合える環境がある
いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る いつもの日常の継続による安定化
子どもの精神症状を見守る
一緒にいる時間と個々の時間をもつ
自分自身の人生を見通して健康の維持に努める 趣味に没頭して気分転換
子どもや家族のために元気で長生き
親の毎日を大事に生きる
親亡き後の子どもの生活に備える 病気や思いについて,子どもと一緒に共有できる
子どもが自分で他者を頼れるように対話を促進する
日常生活の自立を目指して助言する

1) 統合失調症患者の地域生活を継続するための親の経験

ストーリーラインは以下の通りである(図1).

図1  統合失調症患者の地域生活を継続する親の経験

親は,子どもの統合失調症発症時は病気への戸惑いや嫌悪感といった【病気に伴う苦悩】を抱く.【子どもとの向き合いへの回避と対峙】が繰り返されるが,子どもの世話は親の責任として捉え【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】に吸収される.時間の経過とともに【病状に囚われた感覚からの解放】や【分かり合える仲間や身近な人からのサポート】を得,【精神症状に翻弄される】様子から【いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る】関わりに移る.そして子ども中心の生活から【自分自身の人生を見通して健康の維持に努める】ようになり自分を見つめ,同時に自分の老いを感じることから【親亡き後の子どもの生活に備える】関わりを通し病気や将来について子どもと調整していた.

(1) 病気に伴う苦悩

このカテゴリは,親は病気に対する否定的な感情があり,病気の理解もできず子どもに対する対応が分からない様子を示す.〈発症当初は右往左往で戸惑う〉〈親の病気に対する嫌悪感〉という2つの概念で構成されていた.

〈発症当初は右往左往で戸惑う〉は,発症時は,病気に関する知識がなく,関わりに戸惑う様子を指す.“もうどうしたらいいのか分からなかったです.何であんたそんなことすると先に怒っちゃうんですよね.何でそんなことするのよ.あのおじさんが訴えると言っているじゃない.どうするのとか,そういうふうな言い方しか言えなくてですね

〈親の病気に対する嫌悪感〉は,親が子どもの病気を隠したり,差別する感情に気づいた認識を指す.“精神病とか精神科という言葉にものすごく嫌悪感といったらあれですかね.近づけなかったんですよ.そんなことがあるはずないって.(中略)まして統合失調症とかという言葉は自分自身も言えないし,精神病なんていう言葉も思いたくもなかったというか

(2) 親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める

このカテゴリは,親としての責任をもとに病気になった子どもを自分が守ると決意していることを示す.〈親の気持ち〉〈自分が背負っていく道〉の2つの概念で構成されていた.

〈親の気持ち〉は親として病気をもつ子どもが心配でならない,子どもには辛い思いをさせたくない思いを指す.“ともかく子どもがかわいい一方なんです.子どもがつらいと思うことは非常につらいんです

〈自分が背負っていく道〉は親の運命として,子どもをみる責任を引き受ける覚悟を示す.“それはもう絶対,絶対に逃がされんと思う.私が見らんと誰が見ますか

(3) 精神症状に翻弄される

このカテゴリは,発病以来,精神症状の変動を常に観察していることを示す.〈精神症状の慢性化により回復の兆しがない〉〈子どもの発言・行動に注意を払う〉の2つの概念で構成されていた.

〈精神症状の慢性化により回復の兆しがない〉は,精神症状の慢性化によって生活状況が拡大しない様子を指す.“先生にいろいろご相談しても,うちの場合は入院するほど悪くないし,暴力を振るって人に迷惑を掛けるとかそういうのもないし,さりとて状態はいいわけじゃないから,医者に言わせたらしようがないんじゃない,今のまんまでみたいな感じなんですね

〈子どもの発言・行動に注意を払う〉は毎日子どもの病気のことに気を回し気を張っていることを指す.“病気だった時のことを私は覚えていますので,子どもがどんな様子だか常に,おかしなことを言うかなとか注意を払っていますよね

(4) 子どもとの向き合いへの回避と対峙

このカテゴリは,精神症状が現れた子どもに対応する苦痛から避けることや思い直して精神症状の安定に積極的に関与する様子を示す.

〈波がある病気を有する子どもから回避する〉〈子どもとの話を躊躇する〉〈一心不乱に子どもの病気へ介入〉〈子どもの精神状態を改善させる介入〉の4つの概念で構成されていた.

〈波がある病気を有する子どもから回避する〉は精神症状の不安定さから関わることを避けたい気持ちを指す.“娘の状態が悪いときは,やっぱり距離を置きたいですよね,心配しながらも

〈子どもとの話を躊躇する〉は今後の話や病気の話をしようと思うが,症状が悪化したときのことがあるため深い話にためらいを感じることを指す.“今のところは掘り下げて話せるという感じじゃないですから,本当に心を通わせて話せるという状況じゃないもんですから.私がちょっと引いているのかも分からないですね,それは.過去にいろんなことがあったもんですから

〈一心不乱に子どもの病気へ介入〉は親が子どものために病気について突き詰めて考えたり介入する様子を指す.“何というか,今までは私がちょっとせっかちで早く良くなってほしい,私のできることなら何でもするって,その私のできることは何でもするということがちょっと出過ぎた

〈子どもの精神状態を改善させる介入〉は子どもに安心を与えつつ精神症状の安定化につながる促しの行動を指す.“帰ってきた最初のころは,悪そうだなと思ったら頓服を1ミリ飲ますとか,そんなふうにして

(5) 病状に囚われた感覚からの解放

このカテゴリは,子どもが病気と上手くつきあう姿をみて,病気への注視から生活している子どもとして捉えていることを示す.〈病気がありつつ肯定的に変化している子どもに気づく〉〈子どもが親に気遣って世話をしてくれる〉の2つの概念で構成されていた.

〈病気がありつつ肯定的に変化している子どもに気づく〉は,病気は完治しないが,日々の生活のなかで子どものできることが増えていることに親が気づき認める様子を指す.“病気自体は良くならないんですけど,自分自身の対処の仕方が分かっているというのはいいことかなと思いますけどね

〈子どもが親に気遣って世話をしてくれる〉は,親の心身状態に関心を寄せ,子どもが親を助ける様子を指す.“ああ疲れたとか何とか言いながら,横になって休んでと言って,長いこと寝なくてもちょっと休んだら良くなるらしいんです.あらもう良くなったの,早いね.起きてきて,私がせんと,お母さんが後でしなくてはいけないから大変だからという思いが強いみたいです

(6) 分かり合える仲間や身近な人からのサポート

このカテゴリは,子どもや親自身が疲弊しないように周囲の支援を得ていることを示す.〈家族会で精神的な安らぎを得る〉〈近所の人と支え合える環境がある〉の2つの概念で構成された.

〈家族会で精神的な安らぎを得る〉は,家族会で同じ立場の経験をしている仲間に相談し安心感をもつ様子を示す.“家族会というのはものすごく大きな存在ですね.誰に話したって理解してもらえないというのは分かっているから何も話さない.その点体験者じゃないと

〈近所の人と支え合える環境がある〉は,近所の人たちが子どもや親を心配し声掛けや助けてくれる状況を指す.“親戚よりも近くの他人じゃないけども,娘のこともよく知っているので,今日は体調どうとか,無理しないで休んだほうがいいよとかよく気を付けて言ってくださるんですよ.結構私が言えないことでも,結構強いことでもぱっと言ってくださるから助かるんですよ

(7) いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る

このカテゴリは,症状改善のために子どもに関わるというよりは家族としていつも通りに過ごし子どものペースを尊重することを示す.〈いつもの日常の継続による安定化〉〈子どもの精神症状を見守る〉〈一緒にいる時間と個々の時間をもつ〉の3つの概念で構成されていた.

〈いつもの日常の継続による安定化〉は子どものために家族がいつも一緒にやっている習慣などの行動を継続して安定を図っている様子を指す.“特別何とかということはないけど,いつも主人がドライブにしょっちゅう連れていってくれていたから,それが良かったんでしょうね

〈子どもの精神症状を見守る〉は日常生活状態を見ながらある程度子どものペースに任せ回復を待つ様子を指す.“ある程度好きにさせたら本人は元に戻るというか,こうしてだらしないあれをしていても,いつもお風呂でも2日入らんと思ったら3日目に入るとか

〈一緒にいる時間と個々の時間をもつ〉は家族それぞれが自分の世界をもつ生活スタイルを指す.“平日はB型の事業所に行っていますので,私はその間は楽して過ごさせていただいて

(8) 自分自身の人生を見通して健康の維持に努める

このカテゴリは,親自身の生きる先に目を向け,健康に留意し行動することを示す.〈趣味に没頭して気分転換〉〈親の毎日を大事に生きる〉〈子どもや家族のために元気で長生き〉の3つの概念で構成されていた.

〈趣味に没頭して気分転換〉は子どものことから離れるために好きなことをして発散する様子を指す.“私は人と遊ぶのが結構好きなもんですから,囲碁とか将棋とかマージャンとか,そういうことをしながら気を紛らわしていましたね

〈子どもや家族のために元気で長生き〉は子どもを見守り将来を見据えて自身の健康に留意する必要性への気づきを指す.“いろいろ終活,そんなのを考えるのとやっぱり健康ですね.少しでも娘(患者)と一緒にいてやりたいというんじゃないけれど,こちらも元気で長生きしたい

〈親の毎日を大事に生きる〉は親自身の先のことを見据えて楽しみを見つけて充実した毎日を過ごす様子を指す.“今は私がもう先がないんだから,毎日を充実して過ごすというか,毎日を精いっぱい生きる.毎日毎日をきちんと生きるというか,大事に生きないといけないって

(9) 親亡き後の子どもの生活に備える

このカテゴリは,子どもの生活や将来の自立のために関わっていることを示す.〈病気や思いについて,子どもと一緒に共有できる〉〈子どもが自分で他者を頼れるように対話を促進する〉〈日常生活の自立を目指して助言する〉3つの概念で構成されていた.

〈病気や思いについて,子どもと一緒に共有できる〉は子どもと病気の話や思っていることに向き合い対話できるようになった関係を指す.“息子自身がどういう状態でどういう思いでおるのかというのが,ようやくこのごろ分かってきたような感じです.本人が話してくれるからですね

〈子どもが自分で他者を頼れるように対話を促進する〉は子どもが将来困った時にどのように子どもが対応するかを一緒に考えて調整している共同作業を指す.“(ヘルパーに)お願いして買い物に行ってもらうとか,お弁当を買ってきてもらうとかすればいいから,それをするのが面倒なら自分で何とかタクシー使って行きなさいって言うんですよ.そうね,タクシー使っていくようにするかねとかは言っています

〈日常生活の自立を目指して助言する〉は子どもの特徴を踏まえ生活を自分で営めるように養育的なかかわりの行いを指す.“お掃除していなくてもそろそろ掃除したらとか,階段にほこりがたまっているよとか言って,朝も起きるのがちょっと遅いとか遅いねとか,もっと朝はきちんと起きないとねとか

Ⅵ  考察

1. 病気ではなく,子どもと向き合う

親は,【精神症状に翻弄される】ことから変動する精神症状に応じて【子どもとの向き合いへの回避と対峙】を繰り返すが,【病状に囚われた感覚からの解放】【分かり合える仲間や身近な人からのサポート】を得,子どもの精神症状への注視から【いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る】ようになっていた.

発病以後,患者である子どもの精神症状に翻弄されることは,高原ら(2019)の継続する治療の中で繰り返す再燃に耐えることと同様の結果であった.統合失調症の特徴として,ストレス耐性に弱く,刺激によって容易に精神症状が変動することから,親は常に患者の精神症状を注視していた.また〈精神症状の慢性化により回復の兆しがない〉ことが,焦りやもどかしさを感じると同時に精神症状が回復しないことでさらに精神症状に注視することに影響していたと考える.

【子どもとの向き合いへの回避と対峙】は本研究で明らかになった新たな結果であり,親も子どもの症状の良し悪しに疲弊し,病気を避けようとするときもあるが,子どものために向き合おうと世話をする親の特徴が明らかになった.それは[当事者の病気を治したい思い](小西・田村・飯田,2018)と同様に【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決め(る)】ていることから,回避する自分と向かい合い思い直している結果は親の強さを示している.一方,時間の経過のなかで,先行研究(小西・田村・飯田,2018)の周囲の人からの支援や支え合いという結果と同様に【分かり合える仲間や身近な人からのサポート】を得ることで,一人で抱えなくてよいという安心や疾患の知識や精神症状の変動や子どもの発言や行動への対処方法を獲得し,しだいに【いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る】ことができ,精神的安寧のための適度な距離の確保(鎌田・高橋・小西,2018)をとるなどの親の対処行動が功を奏したと考えられる.

また,患者の〈病気がありつつ肯定的に変化している子どもに気づく〉,〈子どもが親に気遣って世話をしてくれる〉ことを間に当たりにし,患者と親との立場の逆転(石飛・越田・尾形,2013)が親に【病状に囚われた感覚からの解放】を芽生えさせたと考えられる.患者の変化を感じることが,患者の精神症状への注視から見守る関わりとなることが明らかになったといえる.患者の変化が,発症当初は,親が〈一心不乱に子どもと病気へ介入〉〈子どもの精神状態を改善させる介入〉といった親からの一方向の関わりから,子どもと向き合い,【いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る】こと,親自身が【自分自身の人生を見通して健康の維持に努める】という自分に焦点をあてるきっかけとなったと考えられた.

【いつもの生活を継続し子どもの精神症状を見守る】は,親が根気強くさりげなく関わる(鎌田・高橋・小西,2018)と同様の結果ではあるが,【親亡き後の子どもの生活に備える】なかで〈病気や思いについて,子どもと一緒に共有できる〉ことは,本研究で新たに明らかになった結果であった.統合失調症をもつ人の親は,他者の助けを必要とする疾患との共生の受け入れ(川口ら,2021)をしていることから,子どもの病気を遠ざけず病気と闘う子どもの体験を受け入れるようになっているのではないかと考える.【病状に囚われた感覚からの解放】は,子どもを一人の人として受け入れ,親が病気と距離を置く意識を向かせると考えた.

2. 世話する世話される関係から対等な親子関係への変化

【精神症状に翻弄され(る)】,〈一心不乱に子どもと病気へ介入〉していたが,しだいに〈子どもが親に気遣って世話をしてくれる〉成長に気づき,さらに〈一緒にいる時間と個々の時間をもつ〉ようになっていた.この結果は両親が主導で治療を選択し,母親と患者が一心同体の時期から,患者が家族員を助け母親が患者に信頼を寄せ,認め合うという家族関係のプロセス(木野・岩瀬・小松,2018)と同様の結果と言え,親が子どもの精神症状に注目することから親と子という人間関係の成立がされていた.統合失調症は若い世代で発症するため,【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】ことを根底に,親の責任として積極的に子どもに関与し,【病気に伴う苦悩】による病気や病気の回復が優先された関係性であったと考える.しかし,【病状に囚われた感覚からの解放】によって子どもを養護するだけではなく,見守り回復を待つといった子どもの力を信じる関係になったと考える.

【自分自身の人生を見通して健康の維持に努める】という自分たちに目を向ける意識がうまれたこと,〈子どもが親に気遣って世話をしてくれる〉ことによる相互的な交換関係の過程としての家族ケア(南山,2006)が成立し,親子の共感的な関係性へと変化したのではないかと考えられる.その共感的な関係性は,患者を尊重し,〈病気や思いについて,子どもと一緒に共有できる〉という子どもの意思を踏まえた調整へ結びついたのではないかと考える.【親亡き後の子どもの生活に備える】行動は,子どもと一緒に将来について調整できるようになった親が経験している特徴であると考えられた.

しかし,【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】ことが根底に存在しているため〈精神症状の慢性化により回復の兆しがない〉時には,親子が依存し合う可能性もある.親子の関係性がどのように変化しているか,家族内のどのような関わり合いが,病気と対峙し家族の力を強化するのかを詳細に検討する必要があると考えられた.

また,看護職は【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】ことが根底にあることを労い,子どもの小さな変化にも親が気づけるような介入をすることで【病状に囚われた感覚からの解放】を促進し,親が自分自身に目を向けられるように支援することが必要である.

Ⅶ  結論

1.統合失調症患者が地域生活を継続する親の経験は,9つのカテゴリと23の概念から構成されていた.

2.【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】を根底にありながら,【精神症状に翻弄される】ことは,子どもの生活の変化によって,【病状に囚われた感覚からの解放】を得,親自身を振り返るきっかけとなり,対等な親子関係へと変化したと考えられた.

Ⅷ  研究の限界と今後の課題

本研究では,家族会に参加している親であり,患者への積極的なケアができていると考えられ,統合失調症の患者の親の全体を説明できるとは言えないことが本研究の限界である.一方,このように患者の地域生活を維持している家族の強みについて検討することが今度の課題である.

 謝辞

本研究にご協力くださいました,研究参加者の皆様に深く御礼を申し上げます.本論文の作成にあたり,丁寧にご指導くださいました四天王寺大学泊祐子教授に深く感謝を申し上げます.なお,本研究は,科学研究費助成事業若手研究(B)を受けて実施した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

 著者資格

MMは,研究の着想,デザイン,データ収集・分析,論文の作成を行った.

 付記

なお,本研究の一部を第44回日本看護科学学会学術集会(熊本)にて発表した.

文献
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  •  石飛 マリコ, 越田 美穂子, 尾形 由起子(2013).高齢な親と同居している男性統合失調症患者が「自立」に向かうプロセス.日本看護研究学会雑誌,36(5), 13–24.
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  •  小西 美里, 田村 文子, 飯田 苗恵(2018).統合失調症患者の親が認識している家族によるケアの継続を支えるもの.精神障害とリハビリテーション,22(2), 148–155.
  •  南山 浩二(2006).精神障害者―家族の相互関係とストレス.140,ミネルヴァ書房,京都.
  •  白石 弘巳, 伊藤 千尋(2011).【高齢者の社会的孤立と精神保健】高齢の統合失調症患者と家族の社会的孤立.老年精神医学雑誌,22(6), 692–698.
  •  高原 美鈴, 古謝 安子, 宮城 哲哉,他(2019). 統合失調症を患う息子に対応する母親のケア意識の変容プロセス.琉球医学会誌,38(1–4), 73–82.
  •  渡邊 裕子, 嶋田 えみ子, 前田 志名子,他(2001).高齢者の老性自覚と老いに対する家族の意識.山梨県立看護大学短期大学部紀要,6(1), 113–123.
 
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