日本精神保健看護学会誌
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34 巻, 1 号
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原著
  • 牧(石飛) マリコ
    原稿種別: 原著
    2025 年34 巻1 号 p. 1-10
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    本研究の目的は,統合失調症を発症した子どもとの地域生活を継続する親の経験を明らかにすることである.

    A県内の家族会に参加している65歳以上の親16名を対象に半構成的面接を行い,M-GTAを用いて分析した.

    分析の結果,9つのカテゴリと23の概念が生成された.発症後に親は,【病気に伴う苦悩】を抱き,親の責任として【親が子どもを思う気持ちを基盤に世話の覚悟を決める】.変動する精神症状に応じて【子どもとの向き合いへの回避と対峙】を繰り返しながら【病状に囚われた感覚からの解放】や【分かり合える仲間や身近な人からのサポート】を得,【自分自身の人生を見通して健康の維持に努める】ようになる.そして,【親亡き後の子どもの生活に備える】対応を通し病気や将来について子どもと調整していることが明らかになった.

    親は統合失調症の子どもの生活に見られる変化によって,精神症状の注視から見守りの態度に,そして,親自身を振り返るきっかけとなり,対等な親子関係へと変化したと考えられた.

  • 磯上 茜
    原稿種別: 原著
    2025 年34 巻1 号 p. 11-20
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    本研究は精神科病棟に入院する神経性無食欲症(Anorexia Nervosa:以下AN)患者を対象に「摂食障害から回復するための8つの秘訣」を用いた看護面接を行うことで,回復へ向けてどのような変化をもたらすのかを明らかにすることを目的とした事例研究である.

    研究参加者女性3名(A氏,B氏,C氏)の対象者には,1回目:日本語版24項目版Recovery Assessment Scale(以下RAS)の評価,2~8回目:秘訣1~8の内容,10回目:RASの評価とインタビューの面接を実施し,インタビューで得られたデータをテーマ分析すると共に面接前後のRASの点数を比較した.

    その結果,看護面接によって対象者らは,人とのつながりを意識し始めるようになり,この面接が自分と向き合おうとする機会となっていた.RASについて,B氏は合計点が上昇した一方で,A氏とC氏は点数が減少した.これは,自分と向き合おうとしたことで,自己洞察が深まり,自分を客観視できるようになったことによる現実的な反応が影響していると考える.

  • 小川 光江, 森 千鶴, 斎藤 環, 森田 展彰, 大谷 保和
    原稿種別: 原著
    2025 年34 巻1 号 p. 21-29
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    本研究の目的は,養護教諭のメンタルヘルス・リテラシーの実態と関連要因を明らかにすることである.首都圏の全日制高校に勤務する養護教諭を対象に質問紙調査を実施し,201名の回答を分析した.日本語版メンタルヘルス・リテラシー尺度の合計得点を従属変数とした重回帰分析の結果,正の関連を示したものは,自殺知識尺度の合計得点と自殺予防教育,自殺予防ガイドラインの認知,本人の精神科受診歴,精神科医療機関との連携,職場内の相談相手,書籍での情報収集であり,負の関連を示したものはスティグマ尺度の合計得点であった.メンタルヘルス・リテラシーの高い養護教諭は,学校や精神科医療機関と連携をとりながら児童生徒へ包括的なケアを提供している傾向にあった.養護教諭のMHLを向上させ,児童生徒への適切なメンタルヘルス支援に繋げるためには,教育資源と利用可能なメンタルヘルス資源を充実させる必要がある.

  • 可知 朋子, 大森 眞澄, 石橋 照子
    原稿種別: 原著
    2025 年34 巻1 号 p. 30-38
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    本研究の目的は,精神科看護師が,どのようにうつ病患者の自殺の危険性の切迫を予見しているのか,その体験を語りから明らかにすることである.精神科臨床経験が5年以上ある9名の看護師に,うつ病患者と関わる中で感じた自殺の切迫感や違和感などについて半構成的面接を実施した.看護師が患者の自殺の予見にどのような思考,感情,体験を伴っていたのかに焦点を当てて意味内容ごとに要約してコード化し,類似性と差異性を検討しながらカテゴリを生成し,質的帰納的に分析した.結果5のカテゴリ【患者の中にある深まる喪失感の捉え】【秘めた感情と表現の不一致さの感受】【関係性の壁と対処できない非力さへの怖れ】【うつ病期に起こる最悪な事態の想定】【今ここで再現するネガティブな体験】を生成した.精神科看護師は,過去のネガティブで痛みを伴う経験を固有の体験として意味づけし,自殺は救うことができる命と捉えながら,自分のもつ感覚に正直に向き合っていた.

  • 石井 薫, 木村 美智子, 島村 美砂子
    原稿種別: 原著
    2025 年34 巻1 号 p. 39-48
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    目的:認知症治療病棟の看護師がアルツハイマー型認知症患者の攻撃的行動の予兆を読み取る臨床判断のプロセスを明らかにする.

    方法:アルツハイマー型認知症患者の攻撃的行動の予兆を読み取る臨床判断の体験を持つ認知症治療病棟の看護師12名を対象に半構造化面接を行った.分析はM-GTA法を用いた.

    結果:24個の概念から2カテゴリと7サブカテゴリが生成された.アルツハイマー型認知症患者の攻撃的行動の予兆を読み取る臨床判断プロセスの基盤は,【安全基地の土台を作る】ことであった.プロセスは,アルツハイマー型認知症患者の心理的安全性を確保する方略を含み,「個」としての対象把握が予兆の読み取りの重要な要素となっていた.看護師は,【攻撃的行動の予兆の検証】と【攻撃的行動を回避する方略】の繰り返しにより,臨床判断の精度を向上し,アルツハイマー型認知症患者の対象理解を深めていた.

    結論:認知症治療病棟の看護師がアルツハイマー型認知症患者の攻撃的行動の予兆を読み取る臨床判断は,【攻撃的行動の予兆の検証】と【攻撃的行動を回避する方略】の繰り返しによりなされていた.

資料
  • 木田 塔子, 宮本 有紀
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 49-58
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    新型コロナウイルス感染症拡大下において,依存症をもつ人は,再発のリスクを高めうる心理社会的影響を受けたと同時に,依存を克服するのに役立つ社会的資源の変容も経験した.本研究の目的は,依存症をもつ人が感染症拡大下でどのような体験をしたのかを明らかにすることである.そこで,依存症をもつ6名に半構造化面接を行った後,テーマ分析を行った.その結果,感染症拡大が依存対象の再燃を促す要因として,社会的制限や対面の自助グループへの参加困難が挙げられた.一方で,これらの悪影響を緩和した要素として,中でも依存症からの回復をともに目指す仲間の支えが大きいことが分かった.考察により,感染症拡大下においても仲間とのつながりを維持する工夫が依存対象の再使用の防止にとって重要であることが示唆された.本研究は,ポストコロナ時代における仲間との様々なつながり方の是非を考える布石となるものである.

  • 栗原 淳子
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 59-68
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    目的:家族の不慮の死を体験した遺族の思いについて文献検討を行った.

    方法:PubMed,CINAHL,CiNii,医学中央雑誌Web版で自殺,不慮の死,家族,体験,語り,感情,思いを検索語に英語と日本語で書かれた質的研究を対象とし文献を抽出した.そして,抽出された内容についてコード化しカテゴリー化した.

    結果:7,845件抽出され,1次,2次スクリーニングの結果7件が選定された.【精神的ショックと悲嘆,否認】【怒りと誰かを責める気持ち】【一人残され,悲しみを共有できない孤独感】【後悔と罪責感】【罪と恥意識から社会的に孤立する】【死への願望】【他者との関係性からくる心の支えと傷】【あきらめと受容】【家族に対する不信感と残された家族を大切にしようという思い】【自死に何らかの意味を見出す】【故人とのつながりを感じる】の11カテゴリーに分類された.

    考察:不慮の死による遺族の関係の亀裂や自死と事故による遺族の思いの違いに配慮していく必要がある.

  • 土岐 弘美, 福田 亜紀, 多田羅 光美, 則包 和也
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 69-77
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    本研究は,身体科の経験を有する看護師がメンタルヘルスに不調を呈する患者対応において感じた困難さを文献レビューによって明らかにすることが目的である.身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者対応の困難さが記述された13文献を対象とし,文献統合を行った.文献統合の結果,【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】【思い描くようにいかない看護援助】【触発された否定的感情の滞留】【実現が難しい組織の支援体制】が抽出された.患者の疾患理解や症状アセスメントに加え,実際の看護援助やその看護援助に対する患者の反応から,看護援助をどのように展開していくか想定した臨床知を獲得することを支える学びの機会が必要である.また看護師自身のメンタルヘルスを支えるために,患者との心的距離に関する知識やセルフケア強化を目指したストレスマネジメントについても学ぶ機会が重要であることが示唆された.

  • ―統合失調症者と同居する高い感情表出を呈する家族に焦点をあてて―
    松尾 理恵, 髙橋 清美
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 78-86
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    目的:統合失調症者と同居し高い感情表出を呈する家族に対し,精神科訪問看護師がどのような家族支援をしているのかを明らかにすることである.

    方法:高い感情表出を呈する家族への支援を語ることのできる看護師3名を対象に,半構造化インタビューを行い,家族支援における2つの視点で分析をおこなった.

    結果:当事者と家族の関係に対しては【当事者と家族のコミュニケーションの歪みを捉え,ありのまま受け止める】ことと,【当事者と家族の安心を提供するために,関係を取り持つ具体的な提案をする】ことであり,家族個人に対しては,【家族の心情を労い,家族との関係性を深める】ことと,【家族関係に良い変化をもたらすために,その家族にしかできない当事者への効果的な方法に対するアセスメントや実践を行う】ことであった.

    結論:精神科訪問看護師は,家族の対処スタイルを尊重しながらも,双方の関係を取り持つ具体的な提案をすることで本人と家族の安心を提供していることや,家族の自己決定を尊重することで協働関係を築いていたことが示唆された.

  • 平井 亜紀, 寳田 穂
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 87-94
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    本研究の目的は,民間精神科病院で働く新人看護師の就業継続に関する体験を描き出すことで,精神科病院における新人看護師へのサポートについて考察することである.参加者は新卒で精神科病院に入職した2年目~5年目の計7名.入職前に「精神看護学実習を通して精神科看護の魅力を見出す」体験から精神科病院を就職選択し,入職後は,周囲から「スタッフの仲間として受け入れられる」体験や日々の業務で「試行錯誤しながら患者との関係性を深めていく」中で,「患者からの攻撃心を感じた時に周囲に支えられる」ことで患者に向き合い続け,「精神科看護の魅力を再認識する」体験につながっていた.病棟スタッフとの関係性は患者とのかかわりを試行錯誤し乗り越えていく支えとなり,その中で,基礎教育課程で見出した精神科看護の魅力を再認識できることが就業継続を支えていると考えられた.

  • 濱田 由紀, 異儀田 はづき, 田代 真利子, 舞弓 京子, 齋藤 直美
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 95-104
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    目的:4年制大学の精神看護学の担当教員が,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で行った教育の変更と工夫,パンデミック時の教育評価,パンデミック後の教育に対する認識を明らかにする.

    研究方法:2020年から2022年の間4年制大学で精神看護学を担当した教員を対象に,質問紙調査を実施した.

    結果:有効回答105件を分析した.ほぼ全員が「登校制限」を経験し,86.7%が「講義」を変更していた.講義の教育目標の達成度を「十分」と「不十分」と評価した参加者はそれぞれ40%ずつであった.ほぼすべての参加者が「実習」を変更し,55%の参加者が教育目標の達成度を「不十分」,30%が「十分」と評価した.58%の参加者が,学生の対人関係能力が変化したと報告した.

    考察:ICTを活用した遠隔講義や実習,対面学習を組み合わせた柔軟な指導方法が,パンデミック中に開発された.学生の対人関係能力を促進し,地域でのリカバリー支援等の課題について,デジタル化を含む精神看護学教育の開発が必要である.

  • 松井 陽子, 片岡 三佳
    原稿種別: 資料
    2025 年34 巻1 号 p. 105-113
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
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    【目的】精神科看護管理者のリカバリー志向を高めるための教育プログラムを評価することであ‍る.

    【方法】精神科看護管理者に半構造化面接調査を実施し質的記述的に分析した.

    【結果】教育プログラムの評価を分析した結果,173意味単位,159コード,49サブカテゴリ,22カテゴリ,【プログラムに参加したことによる管理者自身の変化】【プログラムに参加したことによる管理者間の関係性の変化】【プログラムの学びの看護への活用】【リカバリー志向の実践に向けた課題の気づき】【臨床現場の視点から捉えたプログラム】の5コアカテゴリに分類された.

    【結論】教育プログラムに参加することで,看護管理者は患者のリカバリーに向けたかかわりの重要性に気づき,入院患者がリカバリーできるという期待を抱くなど,リカバリー志向を高められたと考える.今後は,教育プログラムの有用性を高めるために,プログラム内容の精選や評価方法の検討が必要である.

委員会報告
教育の質向上委員会
  • ~精神看護学における課題整理~
    大平 幸子, 松田 光信, 河野 あゆみ, 奥野 裕子, 牧野 耕次, 佐藤 史教, 冨川 順子, 精神保健看護学会教育の質向上委員会
    原稿種別: 委員会報告 教育の質向上委員会
    2025 年34 巻1 号 p. 114-119
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー HTML

    本調査は,日本精神保健看護学会の会員が所属する全国の看護基礎教育機関における精神看護学実習を担当する教員の認識から見出された精神看護学実習における課題を整理することを目的として実施した.日本精神保健看護学会の会員であり看護基礎教育機関において精神看護学を担当する教員を対象にWebアンケートによる無記名自記式調査を行った.対象者が認識している「精神看護学実習における課題」と「精神看護学実習に関する困りごと」より,精神看護学実習に関する課題を整理した結果,1.教育内容の再構築,2.教育方法の工夫,3.指導体制の改善と強化,4.看護現場の質の向上に整理された.本調査結果は,精神看護学実習に関する更なる内容充実および課題の具体的な改善など,精神看護学の教育の質向上に向けて検討する際の重要な資料になり得るものと考える.

総務委員会報告
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