2023 年 52 巻 2 号 p. 99-112
クラスター分析は教師なし機械学習法の1つで,データの背後に潜む生成メカニズムの違いから対象を分類することを目的とする.分類パターンが分析対象のもつ特徴量の選び方によって異なる場合,特徴量選択とそれぞれのクラスター構造を推定するマルチプル・クラスタリングは有用な分析手法である.本稿では相関行列を特徴量にもつ対象に対して,行列分割による特徴量選択によってマルチプル・クラスタリングを行う手法(MCW法)を取り上げる.MCW法は混合ウィシャートモデルの拡張によって定式化され,相関行列のブロック対角化構造の推定により複数のクラスター解を同定する.地震学への応用として,低周波地震を検出するための観測点選択の問題に適用した.低周波地震は空間局所的なイベントで発生場所もイベントごとに異なり,検出のための効果的な観測点選択方法はこれまで開発されていなかった.本研究では低周波地震発生前後に複数の地震観測点から得られた地震波スペクトログラム相関行列にMCW法を適用することにより,マルチプル・クラスタリングの観点から観測点選択(分割)を行った.選択された観測点と低周波地震発生場所との間に地理的な対応関係があることが確認されるとともに,低周波地震が複数のクラスターに分類できることがわかった.さらに,選択された一組の観測点群について新たなデータを用いて検証したところ,低周波地震検出率について再現性が確認された.