2023 年 52 巻 2 号 p. 75-98
材料設計の目的は,所望の特性を有する材料やその製造条件を同定する逆設計の実現である.計算材料科学の分野では,逆設計の達成のために,材料設計における因果関係であるプロセス・構造・特性の連関の把握が不可欠であると認識されている.近年の計算機の性能向上やデータの蓄積に伴って,深層学習などのデータ駆動型の手法を用いたプロセス・構造・特性連関の抽出が活発に議論されている.本論文は,筆者らが提案するVector Quantized Variational Autoencoderによる材料構造の特徴付けとPixel Convolutional Neural Networkによる空間秩序の獲得によって構成される材料設計のための枠組みとそれによって得られた幾つかの結果について示し,材料設計における深層学習の応用を要約することを目的とする.特に,本論文は,(i) 低炭素鋼を例とした構造材料に対する深層学習を用いたプロセス・構造連関の獲得,(ii) 人工的二相鋼組織を例とした構造材料に対する構造・特性連関の獲得と深層学習が抽出する非自明な相関の物理的な意味の検討,(iii) 医薬品などの分子構造設計における最適構造探索の三つの結果を含んでいる.