抄録
臨床医学において多くの情報を提供する血清化学成分の異常を識別する基本的尺度である正常範囲は,通常,健常人集団に対する分析値をもとに設定される.一方,多くの化学成分に著明な個体差があることは広く知られた事実であり,個別正常範囲の重要性が指摘されている.しかしながら,その設定法についての提案はまだない.
本論において,この問題に対してベイズ流アプローチを試みた.こうして得られる個別正常範囲は,現実に合った自然なものである.一部に解決すべき問題も残されているが,事前分布の実体が存在する興味深いベイズ流統計学の適用例であると考え報告する.