抄録
ヒトの胎芽及び胎児の中枢神経系への電離放射線の影響を調べるために,広島・長崎胎内被爆者の臨床的に確認された重度知能遅滞及び知能テスト(IQ)に関するデータ解析を試みた.重度知能遅滞の発現率あるいはIQスコアと被曝線量との関連性については胎内週齢群別に評価することによって中枢神経系(大脳皮質)の発達期間を検討した.重度知能遅滞の発現率またはIQスコアの線量反応関係を評価する方法として線形反応モデル及び線形-2次反応モデルをグループデータ及び個人データに適用する.重度知能遅滞の放射線感受性は受胎後8~15週で最も高く,線量反応は線形であることを認めた.受胎後16~25週では放射線リスクに,ある閾値が存在する可能性を示唆した.両期間はニューロン成分及びシナプス構築の急速な増殖時期と一致する点,放射線生体学的現象として極めて興味がある.IQデータに関しては線量群別及び胎内週齢群別にIQスコアの正規性の点検や胎内週齢群別線量群間の分散の等質性検定を試みた.また,胎内週齢群別線量群間の平均IQスコアの差異も検討している.さらには,回帰分析による結果のいずれも受胎後8~15週及び16~25週に有意な線量関係を認めた.週齢群間の各回帰係数の等質性についても検討した.