抄録
本論文は,高齢者のQOLの構造を検討する基礎として,痴呆老人病棟における臨床データを分析し,QOLの構造を研究したケース・スタデイである.ここでわれわれは,患者本人の回答に基く主観的なQOLの議論は非常に困難であるとみなし,患者の様態,行動を看護,介護などの客観的な立場から測定したデータに基いてQOLを分析する方針をとった.
QOLに関して9項目を測定し,それに連関すると考えられるADLに関して9項目および知的機能を測定する1項目を加え,3つの変数セットからなる19項目による測定を行った.測定は経時的に,6ケ月間隔をおいた2期に亘る.
この臨床データ・を統計学的な立場から分析し,QOLの空間的構造とクラスター構造を導出した.これに基く医学的な解釈を行い,知的機能,ADLおよびQOLの連関構造を総合的に把握する知見を得た.最後に,知見の意義と限定性を検討し,様々な視点から本研究の妥当性と信頼性を考察した.