抄録
1970年代においては,大きな標本数に対する離散型確率分布関数の値の計算は,その表現が簡明であるにもかかわらず,巨大数・微小数の出現と計算時間がかかるという2つの理由により,計算機上での直接計算が困難であった.この欠点を補う方法として,確率分布の近似法と多倍長技法による厳密な計算法が知られている.しかしながら,この2つの方法はそれぞれ固有の欠点を持つ.これらの欠点を避けるため,多倍長技法よりも大きな数値表現が可能な新たな算法をもつ数空間を理論的に構成した.この算法のパーソナルコンピュータ上への実装を目的とした算術アルゴリズムを提案し,それをC言語で実装した.この算術アルゴリズムは数値計算を必要とするあらゆる分野へ応用可能である.本論では,多くの近似法が利用されている2項分布に対して,提案した算術アルゴリズムを適用して,種々の2項確率の計算アルゴリズムを考案した.さらに,それらのアルゴリズムに対して数値実験を行い,精度や計算時間等を考慮して,一番よいものを2項確率の計算アルゴリズムとして提案した.これにより,非常に広範囲な標本数に対して近似法を用いなくても2項確率が計算可能となった.