抄録
現在ベースン•モデリングにおいては, 様々な現象を数式を用いて再現する手法が多用されており, Deterministic Models (決定論的モデル) と呼ばれている。しかし, この手法にも多くの弱点がある。つまり, (1)数式の不正確さ, (2)数式中の定数の不正確さ, および(3)入力データの誤差などである。小論では「浸透率」を題材にそれらの弱点を補う幾つかの新手法について言及する。
フラクタル理論の根底にある自己相似性 (Self-similarity) とは, あるスケールに見られるパターンが他のスケールにおいても見られるということである。この考え方を用いれば, 貯留岩のコア試料から得られた小さいスケールの浸透率の実測値から, キャリア•ベッドという大きなスケールの有効浸透率を見積もることが可能となる。またこの考え方はフラクチャー浸透率を見積もる時にも有効であろう。自己相似性を用いる方法は,これまで考えられている以上に応用が広いと思われる。
浸透率は, 異常高圧層の存在を予測したり, 正常異常を問わず泥質岩からの流体の排出量を推定したりする上で必要である。ここで提案する新しい方法とは, 静水圧勾配が保持されうる最大の堆積速度で埋没が進行したと思われる地域から得られる経験的な種々のデータから浸透率を推定するものである。すなわち, 対象とした地域から実測値として得られる, 孔隙率の対深度分布, 水の粘性, 圧縮率, 層厚, 近年の堆積速度等のパラメーターから浸透率を逆算しようというものである。こうして, 得られた値を用いることによって単純に実測された浸透率をダルシーの法則に当てはめて排出量を求める従来のモデル計算よりかなり実際に近い量を推定できることになるであろう。
低浸透率な岩石においては, 張力によるフラクチャー (Tensional Fracture) が流体移動を支配する主な要因と成り得る。このフラクチャーの存在と強度は応力-歪関係から予想することができる。またフラクチャーの程度は, 震探データや異常高圧層の形成に関連して観察される経験的な地質データに見い出だすことができる断層パターンに自己相似性の概念を応用すればある程度見積もることができるかもしれない。
油層工学を支配している日常的な時間スケールと堆積盆を支配している地質学的な時間スケールには大きな隔たりがあり, それ故油層工学の分野において重要なことも, ベースン・モデリングの分野においては実際上意味がなくなることがある。ベースン•モデリングにおいて最も重要なのは, シールの浸透率と水や炭化水素を排出する際の細粒な岩石の浸透率である。さらに, 水平方向に長距離の流体移動を可能にする浸透率の最小値を見い出だすことも重要である。岩石一般に関して信頼性のあるそのようなデータを得ることがこれからのベースン•モデリング研究の主たる関心事となるべきであろう。