質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
働く場を異動した看護師の既習の知識・技術はいかに転移するか
医療依存度の高い小児病室のエスノグラフィーに基づいて
川名 るり有元 典文
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2023 年 22 巻 1 号 p. 102-119

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抄録

医療の現場において看護師には,既習の専門的知識や技術を未習の場に応用させる学習の転移が期待される。しかし,看護学教育で期待される転移可能性と実情との間にギャップがあり,うまく機能しないことがある。本研究では,看護師の学習の転移を伝統的な認知研究にみられる個人内変化という捉えから,観察枠をより広く取り直し,社会的な状況内のダイナミクスとして捉え直す転移研究のトレンドを採用する。そして,働く場を異動した看護師の携わる実践において学習が生起する臨床現場の社会的プロセスを記述し,説明することを試みた。それによって,学習の転移を支える環境デザインの要素を検討することにチャレンジした。医療現場において一年間のフィールドワークを行った。その結果,フィールドとなった小児病棟では,働く場を異動した看護師も以前から勤務している看護師も,小児患者の命に関わる緊張感と覚悟が必要な医療依存度の高いC 病室において,各々の知識と技術を出し合う,学び合いの実践を展開していたことが明らかになった。そして,働く場を異動した看護師がC 病室という病棟の中心的な相互学習の場を通して,周辺からの実践参加を加速させていく過程を,働く場を異動した看護師の学習の転移の過程として理解できるのではないかと提案した。総合考察ではホルツマンのパフォーマンスの概念を用いて学習の転移を支える環境デザインとして共同して学習する場について論じた。

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© 2023 日本質的心理学会
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