本研究は,自己切創または皮膚むしりの体験者である青年の語りに現れたレトリックの分析から,かれらが自傷行為をどのように伝えようとしているのか,そこから何が読み取れるかを探索するものである。自傷行為の体験者である大学生・大学院生22名の協力を得て,その体験を半構造化インタビューにより調査した。協力者の内,本目的に合致する体験者(自己切創と皮膚むしり各5名)のデータから比喩を抽出するとともにそれが喚起するイメージを特定し,レイコフとジョンソン(Lakoff & Johnson, 1986/1980)の考え方を参考に比喩やイメージを分析した。その結果,自傷行為のレトリックは,概略的には2つの解釈レパートリー(行為主体性と目的)で成り立つと考えられた。行為主体性の観点は3種(他律感に従うもの,自傷行為を主体的に自制するもの,自傷行為に積極的に及ぶもの),目的には5種(人目の利用,破壊の儀式,時空の超越,「薬効」の獲得,「生」や成長の可視化)のバリエーションが見出された。本結果から,行為者は自傷行為によって自分と現実をつなぐこと,自分や行為は社会の一部であること,行為の種類に応じて行為者の認知のありようが多少異なり得ることなどを伝えようとしたと推察された。行為者は自傷行為をビデオゲームのような体験として楽しむような一面があるが,それと同時に行為を止めようともしており,かれらは支援を必要としている可能性があると考えられた。
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