抄録
本研究は,主体との関係性において表現できる「時間」の視点を用いて,高知県黒潮町の防災ツーリズムの一環として行われている「防災かかりがま士の会」の語りに対する質的な分析を行った。アクションリサーチにおいて「時間」は欠かすことができない要素であるにもかかわらず,「時間」の視点から防災・減災のアクションリサーチを分析した既往研究は僅少である。本研究では,黒潮町の住民が行っている「防災かかりがま士の会」のメンバーが語り部活動の最中や反省会で発言した語りをアクションリサーチの中で収集し,「時間」の視点から分析した。その結果,津波避難タワーの見学に来た外部者に対しては,アンテ・フェストゥムな要素を含みつつ未来に対する希望の語りを発言し,それとは対照的に反省会では,津波に対する拭いきれない不安をポスト・フェストゥムな「時間」の語りとして話していた。また,「防災かかりがま士の会」の活動を通じて災害時のイメージを徐々に具体化していく中で,今ここにある日常生活の価値に立脚したイントラ・フェストゥムな「時間」の語りを紡ぎ出していた。