質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
知的障碍のある人への心理療法の実践知
暗黙知のジェネラティビティへ向かって
中島 由宇改田 明子
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2025 年 24 巻 1 号 p. 25-44

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抄録
実践知を豊かに備えたセラピスト個人を研究協力者とし,著者との深く掛かり合った対話によって,知的障碍のある人への心理療法の実践知を,暗黙知的な側面を含めて見出すことを主な目的とした。著者もセラピストであり,本研究は,暗黙知のジェネラティビティの試み,すなわち暗黙知を世代間で生成的に伝達(継承)する試みとしても位置づけられる。第1著者をインタビュアー,第2著者をインタビューの媒介者/観察者と位置づけ,非構成的インタビューを行った。人間観,心理療法の基本姿勢,知的障碍のある人への心理療法の中核技法の3層からなる実践知の構造が見出された。心理療法は,自分の主観的世界が“わからない”クライエントが,主観的世界とつながり他者と共有できる共同的な媒体としての「ことば」を見出し,“わかる・わかちあう”へ至るプロセスとして捉えられた。その上で,知的障碍のある人への心理療法とは,知的障碍のある人の個人的特性とされる“わかる”ことの困難をクライエントからひきはがし,“わかる”という営みの共同性を取り戻そうとするダイナミックな実践として捉えられた。“わかる・わかちあう”ことを目指す心理療法は,自分らしく生きるための暗黙知をセラピストからクライエントに伝達(継承)する営為としても捉えられ,本研究の結果と方法論に同種の構造が浮かびあがった。
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© 2025 日本質的心理学会
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