抄録
初期適応が終り,一旦はホームに落ち着いた特別養護老人ホーム入居者がホーム生活への不安や不満を強めたり,生活意欲をなくしたりすることがある。本研究は,このような入居者の不安や不満が拡大するプロセスを明らかにし,援助的視点を得ることを目的とした。施設相談員の臨床心理士が入居者26 名との面接や日常会話,行動観察,介護記録で得た資料を,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。明らかになったことは,①入居者の生活は,自分とホームとの関係性をポジティブな関わりあいにする‘ホームとのつながり形成’をしながら,自分なりの生活を構築し営んでいく‘個人生活ルーチン’によって安定している。②ホーム生活のなかで,入居者はいろいろな原因で起きる‘個人生活ルーチン’の混乱に対処する必要がある。③‘個人生活ルーチン’の混乱は,〈職員ペースの援助〉,〈援助を求める迷い〉,〈援助関係の狭まり〉という職員からの援助との相互作用が悪循環するなかで進行し,入居者は不安や不満,生活意欲の低下を強めていく。職員が長期入居者の身辺変化を敏感にとらえ,‘個人生活ルーチン’が再構築出来るように援助の関係性を柔軟にすることが重要である。