質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
語りの「聴き方」からみた聴き手の関与
畑中 千紘
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2010 年 9 巻 1 号 p. 133-152

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抄録

本研究では,「聴く」ことを通した聴き手の関与のあり方について,聴き手の「聴き方」と,語り手と聴き手の相互作用という 2 つの観点から検討した。語り手が 2 つの話を語り,それが「どんな話だったか」を聴き手に語り直させたとき,語り直されたテキストが基本テキストから変形を受けた程度と,その際に表れたパフォーマンスの揺れの程度を基準とし,3 つの事例を選択して検討を行った。基本テキストからの変形が最も少なかった事例 Aでは,言葉をそのまま尊重するという聴き手の基本的態度が示されたが,うつし返された言葉が二重性をもたない限り,語り手に動きをもたらすことが難しいことが示唆された。心理的混乱が最も高く示された事例 B では,語りそのものよりも目の前の語り手に意識を向けるという関与の仕方が示された。想起の際の変形が最も顕著に示された事例 C は,今回の調査を通じて語り手が最も話を「聴いてもらった」と感じた事例であった。聴き手が語りに飛び込み,内側から語り直すという語りに対する深い関与が,元の語りを違うものにしてしまう危険性を越えて語り手を動かす力をもつことが示された。

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© 2010 日本質的心理学会
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