2012 年 50 巻 6 号 p. 319-325
箱根町仙石原のススキ草原において,ローム層などの表層堆積物中の植物珪酸体と微粒炭の分析を行い,過去約1,000年間の植生変遷と人為活動との関係を検討した.ススキ草原内の深さ1.1mの試坑断面中から採取した41点の試料を分析した結果,草本起源の植物珪酸体7分類群,木本起源の植物珪酸体3分類群が認められた.ススキ属型の珪酸体は深度68cmから上方で多く検出され,それより下方ではネザサ節型の珪酸体が多く検出された.微粒炭は地表から深度62cmまで連続的に検出されたが,それより下方では不連続的に検出され,量も少なかった.土壌中に含まれる腐植の年代測定結果と合わせて考えると,調査地では西暦1200年頃までに火入れを伴う人為的影響を強く受けるようになり,ネザサ節のハコネダケが優占する植生から,ススキ草原が卓越する植生へと変化したと推察される.