富士山北西斜面七太郎尾根には, カラマツ低木林が島状の群落を形成している地域が広い. このカラマツ低木群落の成立要因解明のため, 樹木限界である2,710mから2,360mにかけて, 樹高・胸高直径・根元直径・樹齢・埋土種子量・土壌条件・斜面プロセスなどに関する調査を行った. その結果, 樹高の減少傾向や伸長成長卓越から, 肥大成長卓越への変化傾向が高度に従って認められる一方, 最高樹齢や埋土種子量, 実生数の高度分布にはほとんど系統性は認められなかった. これらの事実から判断し, 七太郎尾根における低木群落成立の第一義的な要因は, 高度に関わる条件にではなく, スコリアによって構成されている斜面の土壌的な不安定さにあると考えられた. また, 埋没A層やカラマツ低木林へ混入したシラビソなどの存在は, かつて七太郎尾根に現在より発達した群落が形成されていたことを示唆しており, これらはその後生じた斜面堆積物に埋没し, 現在のような低木林を形成するようになったと判断した.