本稿は, ロシア共和国, 沿海州の後期および末期旧石器文化遺跡のうち次に示す8遺跡について, 筆者を含むロシアの研究者の最近の古環境解析に関する調査・研究結果を概説したものである. 8遺跡とは, 後期更新世の35,000~25,000年前の地理学協会洞窟・オシノフカ遺跡, サルタン氷期の25,000~10,000年前のウスティノフカI遺跡・スボロボIIIおよびIV遺跡, 後氷期の12,000~8,000年前のゴルバトゥカIII遺跡・イリスタヤI遺跡・チモフィーフカI遺跡である.
これらの遺跡についての地形学的検討, 砂粒分析による堆積学的検討, 花粉・胞子分析,
14C年代測定などの結果の概要は次のとおりである.
地理学協会洞窟: 出土した豊富な哺乳動物化石と文化層下部の花粉分析結果から, この遺跡の形成年代はサルタン氷期の温暖期と推測される. 馬とマンモスの骨による
14C年代測定結果は32,570±1,510年BPである.
オシノフカ遺跡: 出土遺物と花粉分析結果から, この遺跡の形成年代はサルタン氷期の温暖期と推測される.
ウスティノフカI遺跡: 第3段丘に位置するこの遺跡の砂層を挾むローム層は斜面堆積物であり, 花粉分析の結果はツンドラ植生を示し, 現在より寒冷な気候を示す.
スボロボIV遺跡: 比高18~20mの斜面上にあるこの遺跡の花粉分析の結果はヤナギやカシを含むカンバ-ハシバミ林を示し, やや温暖な気候を示す.
14C年代測定結果は15,300±140年BPである.
スボロボIII遺跡: 比高12~14mの段丘にあるこの遺跡の花粉分析の結果はツンドラ植生を示し, 現在より寒冷な気候を示す.
ゴルバトゥカIII遺跡: 比高15~20mの段丘上にあるこの遺跡からは末期旧石器文化の遺物と土器を含む新石器文化遺物, 青銅器や鉄器まで混在する複合遺跡であり, 文化層の下位には周氷河現象によるソリフラクションなどが見られる. 文化層下位のレンズ状の泥炭質堆積物の花粉分析の結果はカンバ-ハシバミ林を示し, 現在よりやや温暖な気候を示す.
14C年代測定結果は13,500±200年BPである.
イリスタヤI遺跡: 氾濫原堆積物中にあるこの遺跡の花粉分析結果はカンバ-ハシバミ林を示し, 現在よりやや温暖な気候を示す.
14C年代測定結果は7,840±60年BPである.
チモフィーフカI遺跡: 比高15~17m段丘上にあるこの遺跡は氾濫原堆積物中にあり, 末期旧石器文化の遺物を含み, 花粉分析結果はカンバ-ハシバミ林を示す.
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