第四紀研究
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黒潮圏の先史文化
小田 静夫
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1992 年 31 巻 5 号 p. 409-420

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抄録

黒潮の流れは, 海産生物や陸上植物の拡散に協力したばかりでなく,「海上の道」となり先史時代以来, 多くの南方的な要素を日本文化にもたらした. 九州の南海上に連なる南西諸島では, 珊瑚礁内の豊かな魚貝類を基盤に,「珊瑚礁文化」を形成させた. 高度に発達した貝製品は, 九州の弥生人を魅了し, 南海産大型巻貝の交易活動を促進させ, 黒潮の流れを利用した「貝の道」が成立した. 伊豆諸島も黒潮本流の終点近くに位置し, 縄文前期末頃から積極的な渡島活動が開始され, 黒潮本流を越えた八丈島にまで進出した.
一方, こうした本土と島嶼地域の往来とは別に, 黒潮圏に遠く南方地域から北上した先史文化が認められる. 南西諸島の宮古・八重山列島には, シャコガイのちょうつがい部分を利用した貝斧が盛行している. この貝斧はフィリピン諸島に類似例が存在し, この地域との関係が推察される. 八丈島や小笠原諸島でも発見されている玄武岩製の円筒片刃磨製石斧は, マリアナ諸島で発達した円筒石斧と呼ばれる石製工具と同種のものである. 最近確認された小笠原・北硫黄島の石野遺跡には, マリアナ地域や南西諸島の先史文化に類似点を多くもつ土器, 石器類が検出されている. このように, 黒潮の流れに沿った地域の先史文化には, 周辺地域からの複雑な人類拡散の動態が看取され, 北西太平洋を囲んだ島嶼群の大きな「黒潮文化圏」として把握できそうである.

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