抄録
これまで自動車排気等の健康影響は主に動物曝露実験により評価されてきたが,最近では培養細胞を用いた評価に対する関心が高まっている.培養細胞を用いた実験は汎用性が高く,研究者が独自の観点で様々な条件で実験を行っており,それら異なる条件の実験結果を同列に比較することはできない.そこで我々は,自動車排気の健康影響評価のための標準的なin vitro評価法の基本骨格の構築を目指している.
自動車排気は呼吸により生体内に取り込まれることから,その影響評価では吸入曝露を反映した気液界面培養条件下での細胞曝露が適している.気液界面培養条件下での細胞への長時間の送気は,細胞を乾燥させ,傷害を与える可能性がある.そこで長時間送気しながら細胞を安定した状態に維持するために,我々は加湿器を導入し,送気の湿度を制御し,細胞を安定した状態で6時間連続曝露可能な細胞曝露システムを構築した.さらに,本細胞曝露システムの有効性を示すには,実際に大気汚染物質を細胞に曝露し,炎症応答を鋭敏に検出できることを確認する必要がある.我々はこれまでに,本細胞曝露システムを用い,大気や自動車排気に含まれ,炎症を誘導することが知られているガス状物質である二酸化窒素(NO2)の細胞曝露実験を実施し,炎症関連遺伝子の発現変動を確認した.一方,粒子状物質の影響評価への有効性の確認は未実施である.そこで本研究では,本細胞曝露システムを用い,燃焼由来の粒子状物質であり,炎症を誘導することが知られているタバコ煙の気道上皮細胞への曝露実験を行い,炎症応答を確認することを目的とした.