抄録
追突事故による頚部傷害は、その発生頻度と傷害にともなって生じる後遺障害等の社会的損失の観点から、国内のみならず諸外国においても重要な問題とされており、追突時の頚部傷害低減に向けた取り組みとして、各国の自動車アセスメントにおける評価試験の他、国際的な統一評価基準の制定が進められている。具体的には、UN ECE/WP29/GRSPにおいて、各国の専門家による会議体「ヘッドレストGTR (Global Technical Regulation)インフォーマル会議」が設置され、国際的に統一されたヘッドレストの要件や頚部傷害評価のための試験方法(GTR No.7:以下、「GTR7」と称す)が検討されている。GTR7では、初めにヘッドレストに対する要件として、静的バックセット(シートに着座させた人体模型頭部とヘッドレストとの水平距離)がPhase1として提案され、2008年3月のWP29で採択されたことにより国際的な統一基準として成立した。 また、翌年の2009年からは、日本がテクニカルスポンサーとなって、BioRID-IIダミー(後面衝突評価用ダミー)を用いた動的試験法の導入に向けたPhase2の活動が開始され、以来(一財)日本自動車研究所、ならびに(一社)日本自動車工業会では、BioRID-IIダミーを用いた試験・評価法に関する研究を実施し、動的試験方法やその評価方法を検討してきた。約10年間にわたって様々な議論がなされた結果、2019年12月の第66回GRSP会議においてPhase2の最終提案が合意され、2020年11月のWP29への上程が決定した。併せて、Phase2の活動では、BioRID-IIダミーの標準化(Mutual Resolution 1)の検討も同時に進められており、特にBioRID-IIダミーの検定試験方法については、ダミー製造メーカ主体による検討が行なわれてきた。
また、協定規則第17号(UN-R17:座席に関する協定規則)へPhase2の内容を反映する改定も予定されており、法規認証試験としての信頼性を確保した試験方法にすることが重要である。そのためにも、適切な検定試験に適合したBioRID-IIダミーを用いた動的試験を実施し、ダミーの個体差によって発生する試験結果のバラツキを極力低減させ、実安全に寄与するような評価方法を提案することが求められていた。そこで本稿では、GTR7を最終化するために検討したBioRID-IIダミーにおける試験結果のバラツキの低減に関する検討結果について述べるとともに、最終的にGTR7に提案された動的試験方法とその評価方法、ならびに検定試験方法について紹介する。