抄録
多治見疫学調査によると,40歳以上の20人に1人が緑内障に罹患している.視覚情報への依存度が高い自動車運転については,緑内障による運転パフォーマンスへの影響を定量的に把握することは重要である.先行研究では,緑内障患者は眼球運動により視野障害を補償していることを示唆したものの,補償行動に関する研究はわずかである.本研究では,緑内障ドライバの補償行動のうち,特に視線行動を把握するため,ドライビングシミュレータを用いて,様々な交通場面(横断歩道有無,交差点形状,信号機有無,ガードレール有無など)における注視割合を分析した.その結果,各交通場面における注視割合の高いエリアは,健常高齢者は前方であったのに対し,緑内障患者は前方と左方向(歩道など)であった.このことから,緑内障患者は,特徴的な視線行動を示す可能性が確認された.今後は,それらの視線行動が補償行動であるか否かを調査することが課題である.