JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
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2030年における自動車からの大気汚染物質排出量推計
森川 多津子
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2024 年 2024 巻 10 号 論文ID: JRJ20241001

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2030年における自動車からの大気汚染物質排出量推計

森川 多津子

Tazuko MORIKAWA

Efforts to reduce CO2 emissions from combustion, which account for 90% of greenhouse gases, will also lead to a reduction in combustion-derived air pollutants, including nitrogen oxides (NOx). Therefore, measures to reduce greenhouse gases from motor vehicles are expected to be effective as a means to reduce motor vehicle exhaust gases, which have long been positioned as a central issue in air pollution control. This study presents estimates of air pollutant emissions from motor vehicles in 2030, taking into account the effects of reducing air pollutant emissions by introducing automobile emission controls and the various national greenhouse gas reduction measures described in the Plan for Global Warming Countermeasures in 2021.

1. はじめに

わが国で排出される温室効果ガスの9割以上は二酸化炭素(CO2)であり,さらにCO2のうちの9割以上が炭素を含む燃料の燃焼が起源である.そのためCO2排出量を低減する取り組みは,窒素酸化物(NOx)をはじめとする燃焼起源の大気汚染物質の低減にもつながる.それは自動車排出ガスに関しても言えることであり,長らく大気汚染対策としての中心的な課題として位置づけられてきた自動車排出ガス対策としても,効果が期待できると考えられる.自動車の温室効果ガス対策は電動車の普及をはじめ,エネルギー転換が主体であるが,交通流の円滑化,物流部門の効率化,モーダルシフトを含めた総合的な取り組みも検討されている.

本稿では,自動車排出ガス規制導入による大気汚染物質排出量の低減効果に加え,地球温暖化対策計画で言及されている,国のさまざまな温室効果ガス低減対策を反映した場合の2030年における自動車からの大気汚染物質の排出量推計結果を紹介する.なお,この推計結果は環境省の「令和4年度微小粒子状物質(PM2.5)・光化学オキシダント対策総合推進検討会」における2030年将来推計シナリオのうちの自動車排出ガスの推計結果として提供されたものである1)

2. 自動車排出ガス算出に用いた将来予測の根拠資料

2.1 環境省「自動車排出ガス原単位及び総量算定検討調査」2)

自動車排出ガス規制は大気環境改善のために燃料別・車種別・規制物質別に設けられており,都度,強化されてきた.走行中の規制物質の排出量を把握するために,燃料別・車種別・排出ガス規制区分別の1台あたり・単位走行距離あたり走行時の排出量を示す自動車排出ガス原単位(原単位,g/km,重量車はg/km/t)が設定されている.国内の自動車排出ガス総量は,原単位と同じ排出ガス規制区分の車両の走行台キロを乗じ,さらに実環境での排出を再現するための各種補正係数を考慮して推計する.環境省「自動車排出ガス原単位及び総量算定検討会(原単位検討会)」では,自動車の買替え(代替)による規制の導入効果を把握するため,10年先の将来における排出量推計を実施している.対象とするのはテールパイプから排出される規制物質(一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx),非メタン炭化水素(NMHC),粒子状物質(PM))である.将来推計のシナリオで考慮されているのは以下の項目である.

①将来交通量推計結果(国土交通省「新たな将来交通需要推計」3)

②自動車排出ガス規制年別構成率(初度登録年別台数は過去からのトレンドで推計,初度登録年別台 数を車種別残存率で除して車種別台数から構成比を算出)

以上のように,原単位検討会ではほぼ自動車の自然代替のみによる排出量の変化に着目しており,いわゆるBaU(Business as usual:現状維持)における推計ととらえることができる.排出量低減のための積極的な対策は考慮されていないことから,排出量は高位の将来排出量として推計されているものと考えられる.

2.2 内閣府「地球温暖化対策計画」4)

2021年に改訂された「地球温暖化対策計画」は,わが国の新たな2030年度目標(2013年度から温室効果ガス46%削減)の裏付けとなる対策・施策を記載して目標実現への道筋を描いたものである.自動車に関しては,次世代自動車の普及,燃費改善等を述べた「自動車単体対策」と,効率化を考えた「道路交通流対策」に大別できる.対策効果は対策別に,省エネ見込み量(原油換算,kL)およびCO2排出削減見込み量(t-CO2)として示されている.

地球温暖化対策計画における将来排出量のシナリオは,原単位検討会で推計される自然代替による排出量低減を前提に,電動車の導入や交通流対策などの積極的な対策が導入されたものと解釈することができる.そのため,得られた推計結果は低位の将来排出量となると考えられる.

2.3 大気汚染物質の推計対象車種と発生過程

推計対象とする自動車からの排出過程および大気汚染物質を表1に示す.原単位検討会で対象としている項目は表1中に◎で示したが,それ以外の自動車からの大気汚染物質も考慮した.それらは環境省の大気汚染物質排出インベントリ(旧名:PM2.5等大気汚染物質排出インベントリ)5) における項目である.原単位検討会と,大気汚染物質排出インベントリでは,2017年より推計手法を統一しており,同一の推計過程・物質においてはほぼ一致した推計結果となっている.そのため,2030年の推計としては,原単位検討会の2030年の推計結果はそのまま反映し,大気汚染物質排出インベントリの対象項目のみ独自に推計することとした.

表1 推計対象過程および大気汚染物質

車種または発生過程 推計対象とした大気汚染物質
VOC NOX PM2.5 SO2 NH3 CO

テールパイプ

 エミッション

二輪車(始動時)
二輪車(走行時)
LPG車(始動時)
LPG車(走行時)
ディーゼル車(始動時) -
ディーゼル車(走行時) -
ガソリン車(始動時)
ガソリン車(走行時)
非排気粒子 タイヤ摩耗粉塵 - - - - -
巻き上げ粉塵 - - - - -
ブレーキ摩耗粉塵 - - - - -
エバポエミッション ランニングロス(RL) - - - - -
ホットソークロス(HSL) - - - - -
駐車ロス(DBL) - - - - -

   ◎は原単位検討会で2030年将来排出量を推計している項目, 〇は本研究で対象とする排出量推計項目

独自に推計した車種であるLPG車は,排出ガス規制上の燃料区分ではガソリン・LPGとなっており,原単位検討会ではLPG車をガソリン車と分けて扱うことはないが,大気中での反応を考えた場合,LPG車とガソリン車の排出ガス中の揮発性有機化合物(VOC)組成が異なるため,発生源として区別しているということである.ほか,排出過程で原単位検討会では対象外であるが自動車からの排出として考慮したのは,タイヤ摩耗粉塵・巻き上げ粉塵・ブレーキ摩耗粉塵といった非排気粒子の排出,ガソリン車のガソリン燃料から蒸発して発生するエバポエミッションである.

対象物質では,自動車排出ガスの規制物質のほか,大気中で微小粒子状物質(PM2.5)の二次生成反応にかかわるとされる二酸化硫黄(SO2)およびアンモニア(NH3)を含めている.規制物質であるNMHCについては元酸素化合物も含めたVOCとして推計した.

3. 大気汚染物質の推計手法

3.1 原単位検討会の推計対象以外の排出過程および大気汚染物質

原単位検討会における2030年度推計結果はそのまま2030年度の高位排出量推計結果とするが,推計対象外となった車種,排出過程および大気汚染物質の推計手法について説明する.

3.1.1 LPG車

LPG車あるいは,LPG車のほとんどの用途である営業用乗用車(タクシー)の将来交通量は推計されていないため,LPG車の走行量はガソリン車に対する走行量比率で設定することとした.営業用乗用車中のLPG車走行量比率を自動車輸送統計6) で月別に確認すると漸減傾向にあるが(図1中緑の破線),その要因は不明であったため,最近の全ガソリン車に対する全LPG車の比率を自動車燃料消費量調査7) より算出し,0.7%に設定した.なお,営業用乗用車は最もコロナ禍の影響を受けた分野の1つであり,2020年度初頭に走行量が大きく落ち込んだが(図1中では「全LPG車走行キロメートル」とほぼ同じ),新型コロナウイルス感染症が5類感染症移行後(2023年5月)に外出自粛等が解除された後も目立った変化はないようである.

図1 LPG車走行比率等の最近の変化傾向

3.1.2 二酸化硫黄(SO2

SO2は燃料中に含まれる硫黄(S)分の燃焼によって排出されるため,同じく燃料中に含まれる炭素の燃焼で排出されるCO2からの推計が可能である.ガソリン・軽油ともに燃料中のS分を10 ppmとすると,SO2排出量(重量)はCO2排出量(重量)から次のように算出できる.

SO2排出量 = CO2排出量×MWc/MWco2×(1+H/C/MWc)×S×MWso2/MWs       式(1)

MWc: 炭素Cの分子量,12

MWCO2: CO2の分子量,44

MWs: 硫黄の分子量,32

MWSO2: SO2の分子量,64

H/C:  燃料中の水素/炭素比率,ガソリン: 1.85

 軽油: 1.9

 LPG: 2.5

S: 燃料中S分比率,10ppm = 1×10-5

LPG燃料は季節によりプロパンとブタン比率を変えるとされているが,プロパン:ブタン=1:3としてH/Cを2.5とした.またLPG燃料中のS分含有量は不明であり,規制値は50 ppmであるが他の燃料と同じく10 ppmとして計算した.

3.1.3 揮発性有機化合物(VOC)

未燃の炭化水素に関する自動車排出ガス規制は2005年の新長期規制よりTHC(全炭化水素)からNMHCに変更されているが,それまでの排出原単位がTHCで実施されていたこともあり,原単位検討会では引き続きTHCで推計されている.これにTHC中のメタン(CH4)比率を考慮し,NMHCを算出した.さらに,NMHC計測時に測定できないホルムアルデヒド(HCHO)を考慮するため,NMHCに対するHCHO比率を排出過程別・燃料別に反映してVOCとしての排出量とした.燃料別・排出過程別・規制別のTHC中のNMHCおよびCH4,HCHO/NMHC比率について表2に掲載する.

表2 燃料別・排出過程別・規制別車のTHC中CH4,NMHC比率およびHCHO/NMHC比率

車種・排出過程・排出ガス規制区分 NMHC(%)

CH4

(%)

HCHO/NMHC
ガソリン車 始動時 95 5 1.02
走行時 40 60 1.01
ディーゼル車 始動時 新短期以前 98 2 1.25
新長期規制 95 5
ポスト新長期規制以降 70 30
走行時 新短期以前 98 2 1.12
新長期規制 95 5
ポスト新長期規制以降 60 40

3.1.4 アンモニア(NH3

ガソリン車の排出ガス浄化のために装着されている三元触媒は,NOxを還元し無害な窒素(N2)にすると同時に,その際に得られた酸素でCOやTHCを酸化する.このときN2への還元が行き過ぎるとNH3を生成してしまう.大気汚染物質排出インベントリでは,NH3量を走行距離に対する排出係数として推計しているため,ガソリン車走行量の2030年度/2018年度比率からNH3排出量を推計した.ディーゼル車に関してもNOx対策のために装着されている尿素SCRからのNH3排出の可能性があるが,ここでは考慮されておらず,今後の課題である.

3.1.5 非排気粒子

タイヤ摩耗粉塵,巻き上げ粉塵,ブレーキ摩耗粉塵の排出係数は現状では小型車・大型車別に設定されており,それぞれの走行量に応じた推計を行った.

3.1.6 エバポエミッション

ガソリン自動車の走行時に発生するランニングロス(RL)および,エンジン停止後1時間以内に発生するホットソークロス(HSL)については将来において規制による排出量の変化はないものとして,それぞれ走行量および保有台数に比例した排出量変化を考慮した.駐車時に発生する駐車ロス(DBL)に関しては試験条件の強化(駐車試験日数を1日間から2日間に延長8))を受けて推計した9)

3.2 地球温暖化対策計画による大気汚染物質排出量の削減量推計

3.2.1 CO2排出量の削減見込み量の大気汚染物質への反映

「地球温暖化対策計画」で示されたCO2排出量の削減見込み量の大気汚染物質排出量への低減は,原単位検討会が推計した2030年におけるCO2排出量をベースとして算出した.すなわち2030年におけるCO2排出量に対する,CO2削減見込み量分の比率分だけ,大気汚染物質を低減するということである.ただし,原単位検討会で推計した現況のCO2排出量は,表3に示すように自動車燃料消費量調査7) による燃料消費量から求めたCO2排出量に対し,ガソリン車で80%,ディーゼル車で70.9%と少ない.この理由は,自動車燃料消費量調査では燃料消費量をベースにするためCO2排出量をほぼ正確に求めることができるのに対し,原単位検討会はCO2原単位と走行キロの積でCO2排出量を求めるため,推計できない状況が含まれているためと考えられる.例えば,CO2原単位の車両区分は詳細な車両重量や燃費基準を反映するほど細かく設定されていない.他にも,ハイブリッド自動車の区分はなく,従来車と同じ区分で計算されていること,実際の運転時には電装品(エアコン等)の利用,運転の仕方の違いなど燃費(CO2排出量)に影響する要因があること,等も理由と考えられる.この再現できない状況が将来もそのまま含まれるものとして,原単位検討会の2030年のCO2排出量をガソリン車,ディーゼル車それぞれで補正した.その上で「地球温暖化対策計画」のCO2排出量の低減量比率を算出することとした.

表3 原単位検討会と自動車燃料消費量調査によるCO2排出量の比較(2020年度値)

車種・燃料 CO2排出量(万t/年)

原単位検討会/

自動車燃料消費量調査

原単位 検討会 自動車燃料消費量調査
ガソリン

軽乗用車

および乗用車

6,669 8,442 0.800
貨物車 1,453 1,709
軽油 乗用車 248 398 0.709
貨物車 3,850 5,401
バス 214 284
合計 12,434 16,234 0.766

3.2.2 交通流対策

自動車対策の詳細は「地球温暖化対策計画における対策の削減量の根拠」9) によった.このうち交通流対策に関係するものを表4に示す.交通流対策によるCO2排出量削減見込みは合計で24,899 kt-CO2である.これらの対策がどのような場合に適用されるか,乗用車/貨物車,始動時/走行時,の組み合わせの4区分で分類した後,CO2排出量比率で割り振った.非排気粒子は走行時のみを対象とし,交通流対策によるCO2排出量比率に応じて走行量が減少するとした.車種は粗い区分であるが,乗用車はすべてガソリン車かつ小型車,貨物車はすべてディーゼル車かつ大型車と仮定した.

表4 交通流対策によるCO2排出量削減見込み量10)と適用される車種および発生過程

対策の内容

提案

省庁

排出削減

見込量

(kt-CO2)

うち乗用車 うち貨物車
始動 走行 始動 走行
道路交通流対策等の推進(規格の高い道路への転換) 国交省 2,000 1,222 778
高度道路交通システム(ITS)の推進(信号機の集中制御化) 警察庁 1,500 917 583
交通安全施設の整備(信号機の改良・プロファイル(ハイブリッド)化) 560 342 218
自動走行の推進 経産省 1,687 1,030 656
環境に配慮した自動車使用等の促進による自動車運送事業等のグリーン化 国交省 1,010 1,010
公共交通機関利用促進 公共交通利用促進 1,620 85 1,535
バス路線効率化 22 22
自転車の利用促進 280 15 265
トラック輸送の効率化(大型化,営自率向上) 11,800 425 11,375
共同輸配送の推進 共同輸配送 33 1 32
宅配再配達削減 17 17
ドローン物流 65 2 63
海上輸送へのモーダルシフトの推進 1,879 68 1,811
鉄道貨物輸送へのモーダルシフトの推進 1,466 53 1,413
港湾の最適な選択による貨物の陸上輸送距離の削減 960 96
合計 24,899 100 5,312 549 18,938

3.3 次世代車導入シナリオに基づく大気汚染物質排出量の削減

地球温暖化対策計画で考慮されている次世代自動車は主にハイブリッド自動車,電気自動車,プラグインハイブリッド自動車,燃料電池車(FCV),クリーンディーゼル自動車等であり,導入によるCO2削減見込み量は26,740 kt-CO2と示されている.電気自動車やFCVは大気汚染物質も排出しないゼロエミッションビークル(ZEV)であるが,ハイブリッド自動車はエンジンからの排出がある.そのため,大気汚染物質排出量は,CO2削減見込み量によらず,ZEVの導入分だけ削減されるものとした.

2030年における次世代自動車の車種別の導入・普及見通し比率は文献10) には掲載されていないため,その算出根拠である第6次エネルギー基本計画の関連資料11) を参照した.電気自動車とFCVはZEVとし,ハイブリッド自動車およびクリーンディーゼル自動車の排出ガスは従来のエンジン車と同じ扱いとした.プラグインハイブリッド自動車については2030年度の新車販売に対する普及割合が電気自動車とまとめた形で提示されており,分割することが困難であったことから,大気汚染物質の排出はゼロではないが,電気自動車と同じくZEVとして扱った.

大気汚染物質排出量はZEVの導入比率に応じて削減されると考えられるため,2030年におけるZEVの保有台数を,新車販売台数の伸び率から推計した12).その結果,2030年におけるZEVの割合は 11.7%となった.

表5 次世代自動車の車種別普及見込み

次世代自動車 種類 2030年度新車販売台数に対する導入・普及見通し* 排出ガス量

2030年度における

自動車保有台数に

対するZEVの割合

ハイブリッド自動車 29 %(30.6%) 従来車と同等
電気自動車 16 %(16.9%) ゼロ 10.9% 11.7%
プラグインハイブリッド自動車
燃料電池自動車 1 %(1.1%) ゼロ 0.8%
クリーンディーゼル自動車 4 %(4.2%) 従来車と同等

* ( )内は第6次エネルギー基本計画策定の際に見直したCO2削減量で補正したもの

4. 2030年の自動車排出ガス量推計結果

原単位検討会による2030年の大気汚染物質排出量推計結果をベースとした高位の排出量推計結果,および,地球温暖化対策計画の自動車に係る対策を反映した低位排出量の推計結果を,2018年度の現状の排出量とあわせて表6にまとめた.また,それらの燃料別発生過程別の排出量を図2に示す.

表6 自動車起因の大気汚染物質およびCO2の排出量推計結果

(2018年度ベースケース,2030年度高位排出量および2030年度低位排出量)

(t/y) (kt/y)
PM2.5 VOC SO2 NOx NH3 CO CO2
2018年度ベースケース 19,933 96,184 885 275,558 12,224 912,989 144,107
2030年度高位排出量 12,342 47,272 765 142,461 10,221 549,876 121,276
2030年度低位排出量 10,696 41,244 599 104,071 8,678 465,922 94,952

図2 自動車起因の大気汚染物質およびCO2の排出量推計結果

(2018年度ベースケース,2030年度高位排出量および2030年度低位排出量)

図2で示した大気汚染物質毎の推計結果について,推計内容を以下に整理する.

PM2.5の排出量は,ディーゼル車のほぼ全車両にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が装着され非常に少ない状況となっている.一方で非排気粒子は排出ガス規制や温室効果ガス対策とは無関係であり,交通流対策のみが有効であるという結果になっている.このため,今後は非排気粒子排出の実態把握,推計手法の精度向上が必要な状況と考えられる.

VOCはガソリン車の始動時と,エバポエミッションが残ると考えられる.ガソリン車の始動時排出量の低減は現在でも課題の1つとなっている.

SO2排出量はCO2排出量から算出しており,SO2とCO2のグラフは視覚的な違いもほとんどないため共通して推計内容を整理する.2030年度高位排出量ではガソリン車の燃費が向上している傾向を受け,ガソリン車の排出量が減少している.ただし貨物車に多いディーゼル車に関しては原単位検討会で燃費規制が考慮されていないため,排出はほとんど変わっていない.2030年度低位排出量ではディーゼル車も低下し,交通流対策の効果が見て取れる.

NOxは2030年度でガソリン車・ディーゼル車ともに低下し,2030年度にはほとんどがディーゼル車からの排出となると考えられる.

NH3はガソリン車のみからの排出を推計しており,ディーゼル車からの排出は未検討である.推計結果はガソリン車のCO2排出量ベースで算出した走行量低下の影響が効いている結果となっている.

COはほぼガソリン車からの排出になるが,規制強化の効果があるため,NH3と比較するとわかりやすいが,走行量の低下幅よりも低減することが確認できる.

以上のように,2030年度高位排出量では自動車排出ガス規制による効果で各種の大気汚染物質排出量が低減する状況を確認することができる.さらに2030年度低位排出量では,従来の自動車排出ガス規制による効果に加え,次世代自動車導入や交通流対策による低減効果を確認することができる.いずれもその効果は大気汚染物質毎に異なっており,発生過程や規制状況の特徴が表れた結果となった.

5. まとめ

自動車排出ガス規制の導入による大気汚染物質の排出削減効果を示す環境省「自動車排出ガス原単位及び総量算定検討会」(原単位検討会)における2030年度の推計結果をベースとして,地球温暖化対策計画による国の各種温室効果ガス削減対策を考慮した2030年度の自動車からの大気汚染物質排出量を推計した.原単位検討会の対象外である車種および発生過程については独自に推計を行った.それにより,発生過程や自動車排出ガス規制の状況に応じた大気汚染物質毎の2030年度の排出量を求めることができた.

地球温暖化対策は大気環境の改善という観点でも有効であり,今後,数十年のうちに大気汚染物質の排出に関する状況は大きく変化するものと考えられる.一方,大気汚染物質の多くは短寿命気候強制因子(SLCF)でもあり,地球温暖化対策としてもその低減が着目されている.

本推計結果には,ハイブリッド自動車の排出は従来車と同等であると仮定していることや,将来推計時の車種の割り振りなど,課題が残されている.将来推計のシナリオについても社会情勢の変化や技術進歩を反映して更新されていくであろう.大気汚染物質対策と地球温暖化対策の双方の観点から,今後も検討を続けていく必要があると考えている.

References
 
© 一般財団法人日本自動車研究所
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