JARI Research Journal
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ロボット安全試験センターEMC試験・研究の紹介
藤本 秀昌
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2024 年 2024 巻 10 号 論文ID: JRJ20241003

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ロボット安全試験センターEMC試験・研究の紹介

藤本 秀昌

Hidemasa FUJIMOTO

前報で紹介した一般財団法人日本自動車研究所(JARI)のロボット安全試験センターの安全性試験を行う各エリアの設備の中から,本報ではEMC(電磁両立性)エリアで行うEMC試験について,主に生活支援ロボット(Personal care robot) の試験について解説を行い,JARIでのEMCの安全性の研究について詳細を紹介する.

1. はじめに

一般財団法人日本自動車研究所(JARI)は2009年にスタートした独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)生活支援ロボット実用化プロジェクト1) から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ロボット介護機器開発・標準化事業2) に至るまで,長期にわたり研究開発に参画した.この経験を活かし,世界初となるサービスロボット(産業用ロボットは含まない,人と協働するロボット)の国際安全規格であるISO 13482: 2014 Robots and robotic device - Safety requirements for personal care robots 3) の発行にも大きく貢献した.JARI内に建設された「生活支援ロボット安全検証センター」は2018年10月に国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)よりJARIに譲受され,名称を新たに「ロボット安全試験センター」(図1)とし,引き続き介護ロボットをはじめ人と共存するロボット(生活支援ロボット)の安全にかかわる研究および標準化活動を継続している.本報は 前報の続報として, EMC(電磁両立性:Electromagnetic Compatibility)の安全性の試験方法例と研究概要について詳細を紹介する.

図1 ロボット安全試験センターの所在

2. ロボット安全試験センターの安全試験

2.1 安全試験エリア

前報と重複となるが,ロボット安全試験センターの取り組みについて表1に安全性試験の例,図2に安全試験エリア(試験場所)の各エリアを示す.本報ではEMC試験関連エリアでの試験方法例,研究概要について解説してゆく.

表1 安全試験例

図2 4エリアを持つ安全試験エリア

2.2 EMC試験エリア

(1) EMCエリア試験

生活支援ロボットは,製品ごとに用途,形状,危険事象,使用者,使用場所が異なるため,電動車いすのEMC規格のように,試験手順や定量的判定基準を統一させることができない.

将来的なサービスロボット製品のEMC規格において,少なくともロボットタイプごとに試験値と定量的判定基準を与える必要がある.用途や形状,使用環境などに応じた,多種多様なロボットのタイプについての個別の危険源に関する情報とその具体的安全方策はまだ不十分である.JARIが研究を行っているロボット介護機器の安全性を確保する上でも,EMC特にEMS(電磁感受性:Electromagnetic Susceptibility)は重要な項目と考えられる.欧州などでは福祉機器は医療機器として扱われるのが一般的であるため,IEC 60601-1-2をベースに方向付けされている.対象とする試験規格,限度値,判定基準などの概要は後述するが,具体的な誤動作の内容などは規格には明記されておらず,基本的に生活支援ロボットは製品のリスク分析を行い,誤動作の基準範囲などを明確にしてEMC試験計画をたてて試験を行う必要がある.自動車・ロボットを含め,複合的な電子機器が市場に導入され,通信・放送などの電波が飛び交う現代では,現状の規格に沿ったEMC試験はもとより,電磁波による製品のリスクを理解してEMC試験を行なって行くことが必要であると考える.

(2) 基本的なEMC試験の概略

EMC試験エリアの電波暗室内では,ロボットから発射される不要な電波の計測(エミッション試験)および,外界からの電波によりロボットが誤動作をしないように,あらかじめ想定される強力な電波をロボットに放射し試験を行う(放射・伝導イミュニティ試験).

その他,同エリアでは,静電気試験,バースト試験,雷サージ試験,磁界イミュニティ試験,電圧Dip・瞬停試験などが行われる.

表2にEMC基本規格の例を示す.

表2 EMC基本規格の例

対象 規格 検証手法
エミッション(EMI) 放射妨害波 筐体  IEC 61000-6-3,4 試験
伝導妨害波 電源線
通信線
高調波 電源線 IEC 61000-3-2
フリッカ 電源線 IEC 61000-3-3
イミュニティ(EMS) 静電気 筐体 IEC 61000-4-2
放射妨害 筐体 IEC 61000-4-3
バースト 電源線 IEC 61000-4-4
通信線他
サージ 電源線 IEC 61000-4-5
通信線他
伝導妨害 電源線 IEC 61000-4-6
通信線他
電源周波数磁界 筐体 IEC 61000-4-8
Dip/瞬停 電源線 IEC 61000-4-11
人体暴露 筐体 EN 62311, EN 62233

(3) ロボットのイミュニティ判定基準

イミュニティ規格には合否を判定する基準をあらかじめ決める必要がある.通常のイミュニティ試験の判定基準は以下のようになっている.

【判定基準A】試験中,試験後も仕様範囲内で動作を継続することが可能.放送波や商用電源の磁界など,機器が連続的に妨害を与える電磁現象を模擬した試験.

【判定基準B】試験中の一時的な性能低下は許容される.自動で回復し,試験後は所定の動作を継続することが可能.ESDなど一過性の妨害を与える電磁現象を模擬した試験.

【判定基準C】試験中,試験後に一時的な機能喪失は許容される.自動あるいは試験者の介在で回復することが可能.短時間停電試験のように供試装置に再起動や電源オフが伴い,試験者の介在がないと所定の動作状態に戻らないような現象の試験.

これに対して,生活支援ロボットの機能安全のイミュニティ評価では,性能判定基準FS(Functional Safety)を用いる.ロボットが正常に動作するか,安全を確保した上での誤作動や破壊を許容する.

ロボット本体に対するイミュニティ試験では,基準が以下のようになる.

① ロボットが危険な動作をしないこと.

② 安全機能作動時に所定の安全状態にロボットが移行できること.

③ 安全が確保されるならば,ロボットの障害は生じてもよい.

①は,ロボットの制御系の誤動作で生じる危険性を判定するものであり,②は,安全機能が正常に作動することを判定するものである.作動要求からロボットが安全状態に至るまでの時間も評価の対象である.ロボットの安全機能が発動するとロボットは停止するので,ロボットの安全状態への移行は,制動を意味する.

③は,安全性を評価する試験であることからロボットの安全な障害は許容するという条件である.ロボット本体の試験であるため,試験対象の安全機能が電磁妨害により仮に作動不能であったとしても,他の安全関連系の誤作動により結果的にロボットが安全に停止すれば良い.

生活支援ロボットのイミュニティ試験は,リスク分析を行い基本的な動作を継続して試験を行い,意図せぬ動作がないか確認するのみならず,安全停止後に安全状態を維持できるかを確認することも,重要な事項となる.

(4) ロボットのエミッション試験

エミッション試験は,他の機器への影響を考慮し,家庭環境で使用する機器の限度値はClass Bを選択する方が望ましい.

医用電気機器,埋め込み型心臓治療デバイス(ペースメーカ)などへの影響については,導入促進事業への研究課題であったが,通常の生活支援ロボットではClass B相当までエミッションノイズを抑えていれば大きな影響を及ぼさないと思われる.注意しなければならないロボットは,装着型や登場型など,人体に接触して使用するまたは,人が搭乗したり人を移乗するロボットである.ロボット本体が人体に接触するため,人体曝露の規格を満たすべきと考える.(たとえばEN 62311)

また,ペースメーカを装着している人に使用する場合は,注意が必要である.

(5) EMC試験の注意点

生活支援ロボットの電磁環境問題というテーマであったが,安全試験,EMC試験に特化して記載してきた.パーソナルコンピューターや家電などの一般的に流通している機器類のイミュニティ試験は国際規格化されているが,生活支援ロボットの試験レベルなどについては製造業者の使用環境に応じて確定しなければならない.一般的な民生機器は接触4 kV,気中8 kVであることに対して,ロボット介護機器などは欧州では医療機器として扱われるため,気中15 kVが標準となりつつある.JARIで試験した例では,機器の本体は問題なかったが,充電器が破損した機器が見受けられた.

以下を参考にAMEDロボット介護機器開発・標準化事業でEMC試験を行った時,問題となった事項など列記する.

○移乗支援(装着型)

・人に装着した状態での試験は不可能

・非導電性の装着用の冶具を使用 動作時の負荷を再現

・モータ,電磁弁などのノイズ

・EMSは過度なアシスト力が加わらないなど考慮

・停止時にアシスト力の喪失に注意

・装着型は人体への影響も考慮

○移乗支援(非装着型)

・故障時に手動での操作が可能かなども考慮

・人体の重量分の負荷等工夫が必要

○移動支援(屋外)

・EMSは急な停車,急な発進など評価方法が困難

・電池の充電インジケータの誤動作などを見逃しがちの見逃しの可能性あり

○見守り支援

・基本は安全支援のデバイス

・誤報,失報についてのEMS評価は機能安全が必要

・製品レベルでのEMS評価は必要

・EMIはデータ通信のノイズが問題

・無線通信については,規格に合致した機器を使用

・EMCには直接関係無いがプライバシー保護などが重要

○排泄支援

・モータ,ポンプ,電磁弁などのノイズ

・水,排泄物などの影響

・試験時の連続動作など,モータの過熱などの問題

3. 生活支援ロボットのJARI EMC研究

以下にAMED ロボット介護機器開発・標準化のための安全評価基準,効果性能基準,実証試験基準策定,開発補助事業支援,国際標準化および国際事業展開に関する研究開発の支援の成果の一部を抜粋しEMCに係る内容を記載する.(課題番号JP20he2002003)

3.1 装着型・移乗型ロボットのノイズによるペースメーカ・医療機器への影響

以下に示す研究の結果,通常の生活支援ロボットではClass B相当までエミッションノイズを抑えていれば,医用電気機器に大きな影響を及す可能性が低いと思われる.注意しなければならないロボットは,装着型や移乗型など,人体に装着したり,人が搭乗したり人を移乗するロボットである.まずは,人体曝露の規格を満たすべきと考える.(たとえばEN 62311) ペースメーカを装着している人に使用する場合は,さらに注意が必要である.実験に使用したペースメーカでは,低周波領域で影響が出る可能性が確認されたため,ノイズの発信源が心臓に近い位置で接する場合など特に注意することが必要である.

(1) 高周波電磁界によるペースメーカへの影響の確認

ロボット介護機器は産業用ロボットとは違い,移乗ロボット,装着型ロボットなど人体に密着するロボットが多く存在する.総務省などで無線機器によるペースメーカへの影響に関する指針は出ているが,無線機器の周波数に限定されるため,30 MHz以下の周波数全般についての指針は発行されていない.また,人体に密着して使用されるロボット介護機器のペースメーカに対する影響は,国際規格上でも考慮されていないと考えられる.ロボット介護機器で被介護者を移乗する場合など,放射ノイズが発生しやすいアームのモータの上に,直接ペースメーカを使用する人を乗せる可能性もあり,さらに,装着型のロボットではペースメーカを使用する介護者も直近で放射ノイズを受ける可能性もある.このため,近接でのロボット介護機器からの放射ノイズによるペースメーカへの影響について調査する必要があると考えた.特に,ロボット介護機器はモータ,スイッチング 電源,電磁バルブなど30 MHz以下の低域でのエミッションノイズを発生する部品を多く使用する.開発補助事業者のロボット試験を多数行った結果,ロボット本体の近接電磁界を確認する人体曝露試験時にも,規定のノイズレベルを超える電磁界を放射する機器が確認できた.

この点を考慮して,ロボット介護機器近接での放射ノイズを調査し,ペースメーカへの影響を評価した.具体的な方法としては,ロボット介護機器から出る近接での放射ノイズを簡易的に調査し,調査結果に基づき放射ノイズを想定した電磁波をペースメーカに照射し誤動作の有無を確認した.試験は影響の解析も可能なペースメーカ販売会社に外注し,代表的な4機種での研究を行った.

(2) ロボット介護機器から出る近接電磁界ノイズの調査

生活支援ロボット安全検証センターで保有しているロボット介護機器6種類の1 Hz - 30 MHzの近接電磁界ノイズを調査した.この調査結果を元にペースメーカに照射する近接電磁界ノイズの強度を決定した.調査の対象として,モータ駆動の稼動部・スイッチング 電源・充電器などを装備する,移乗支援,移動支援の機器を選択した.調査方法は開発補助事業者のロボット介護機器の安全検証で使用している人体曝露試験の機材を使用し,測定距離0 cmでの近接電磁界を調査した.(表3)

表3 ロボット介護機器 電界/磁界強度測定結果のまとめ 測定距離0 cm

      ELT400 10 cmプローブ 1 Hz - 400 kHz NBM520 HF3061 300 kHz – 30 MHz NBM520 EF0391 100 kHz - 3 GHz
  製造会社 機器機能 ICNIRP % 磁界強度 μT 磁界強度 A/m 電界強度 V/m
1 A 移乗支援 128.00 20.60 0.05 55.88
2 B 340.80 52.70 0.02 10.86
3 C  4.17 1.12 0.02 0.35
4 D 52.58 11.38 0.02 0.71
5 E 384.40 267.50 0.04 0.17
6 F 376.80 229.70 0.03 0.18

(3) 試験レベルの確定

測定距離0 cmでD社の移乗支援機器が放射するエミッションノイズの磁界強度(表3,ICNIRP %)は,磁界プローブELT400の10 cmプローブでICNIRP公衆曝露基準の100%に対して384.4%を計測した.また,A社の移乗支援機器が放射する放射ノイズの電界強度(表3,電界強度 V/m)は,電界プローブEF0391でICNIRP公衆曝露基準の27.5 V/mに対して55.88 V/mを計測した.このため今回照射する試験レベルは,磁界波は公衆曝露基準の100%と磁界最大値400%(図3)を,電界波は公衆曝露基準の27.5 V/mと電界最大値56.0 V/m(図4)を今回照射する試験レベルとした.

図3 測定状況の例 磁界測定

図4 測定状況の例 電界測定

(4) まとめ

本研究では,一般的な試験所で所有している人体曝露試験で,ロボット介護機器から放射する電磁ノイズのペースメーカへの影響を確認できないかと考え試験を実施した.この結果,ICNIRP公衆曝露基準100%と最大値400%(試験周波数範囲1 Hz - 400 kHz),測定距離0 cmで2 Hzのパルス変調で試験した場合,ペースメーカの設定,単極最高感度では760 Hz位まで影響が出る可能性を確認した.また,単極感度0.15 mVにおいてICNIRP公衆曝露基準 400%の磁界波を照射した場合,最大25 cmまで影響が出る可能性を確認した.今回使用した試験機器は磁界プローブであり,1 Hz - 400 kHzの周波数範囲での磁界強度を確認できるが,周波数解析はできないため,1 Hz - 400 kHzの周波数範囲における総合的な磁界強度となる.もし,500 Hz程度の周波数の磁界が支配的な場合,ペースメーカに影響を及ぼす可能性が有る.ELT400などの磁界プローブを用いて人体曝露試験を行った結果ICNIRP公衆曝露基準100%を超える試験結果が出た場合は,ペースメーカに影響を及ぼす可能性があると考え,放射している周波数の解析が必要であり,1.14 kHz(影響の出た760 Hzの次の照射周波数の1.14 kHz以上では影響は確認できなかった)以上の周波数成分であることを確認する必要がある.逆に,電界波では100 kHz - 30 MHzまでの周波数においてペースメーカへの影響は見られなかった.この結果は試験対象とした4機種の結果であるが,代表的な機種を選択したため,電界が支配的な領域での誤動作の可能性は低いと考えられる.スイッチング電源の高調波のような,電界領域でのクロック性の電磁ノイズによる影響は少ないと推測される.

3.2 装着型ロボットのEMI試験方法

装着型移乗支援機器などは,物理的に人と接触して使用されるため,一定の誘電率をもつ人体による影響,および人体重量や発生力が対象機器へ加える負荷による影響などを考慮する必要がある.人に装着した時の放射レベルを推測する試験方法の検討のために,人への装着,機器への負荷による試験への影響の研究,電波測定に影響の少ない素材を選定した試験装置の作成,人と同等の誘電率を持つラバーファントムとの比較を行った.その過程で実施した人への装着に関する模擬実験結果においては,エミッションレベルの増減の幅は予想以上だったため,このレベルにも触れることとした.

(1) 装着時,非装着時の機器から放出されるノイズレベルの違いの調査

被験者実験によって,装着時,非装着時の機器から放出されるノイズレベルの違いを調査した.図5に装着型移動支援機器を模擬した実験装置を示す.同装置は装着型移動支援機器からのノイズを模擬するためのノイズ発生器,機器と人体腰部との接触を模擬する接触アンテナから構成される.シールドケースに収納されたノイズ発生器と各々のアンテナとの接続は同軸ケーブルで接続し,接触アンテナ以外の構成品からのノイズ放出を防止した.なお,接触アンテナは腰部付近にモータや制御基板を備え,大腿部の動作を支援する機器を想定し模擬した.ノイズ発生器からのノイズは20 MHzから2,000 MHz,信号強度は40 MHz水平偏波で38 dBμVとした.

図4にノイズ測定の構成を示す.前述の実験装置から放出されるノイズを10 m離れた受信アンテナによって測定した.

図5 ノイズ測定の構成

被験者に接触アンテナを衣服の上から接触させ,受信アンテナでノイズを測定する実験(接触実験)を行い,被験者15名に対して各々の試行数は1回とした.被験者なしの実験装置のみでのノイズを測定する実験(非接触実験)の試行数は7回とした.これらの二つの実験結果を比較することで,ノイズ発生器からのノイズ放出に対して,人がどのような影響を及ぼすのかを明らかにした.

被験者15名の平均年齢は52.1歳(標準偏差16.7歳),平均身長は161.3 cm(標準偏差10.8 cm),平均体重は63.8 kg(標準偏差14.5 kg)であった.

本被験者実験は,JARIの実験倫理委員会の承認を受け実施した(承認番号:19-028).

(2) 実験結果

図6に接触実験及び非接触実験のノイズレベル測定結果(水平偏波)を示す.ノイズ発生器の周波数40 MHzにおいて,アンテナ偏波が水平の場合,非接触実験の結果と比較して接触実験のエミッションノイズレベルは平均値で17.6 dBの増幅が見られた.他の周波数帯域については,接触実験と非接触実験の間にノイズレベルの顕著な違いは見られなかった.当初,人に接触した場合は電波のエネルギーがヒトに吸収されノイズレベルが低下するか,周波数によっては微増と考えていたが,40 MHzにおいては大きく増幅しており人体がアンテナの役割として働いた可能性がある.本実験で得られたノイズの増幅レベルはあくまで本実験に用いた実験装置の場合であり,装着型移動支援機器の実機の場合においても同レベルの増幅となるとは限らない.

図6 接触実験および非接触実験のノイズレベル測定結果(水平偏波)

(図中太線は平均値,細線は標準偏差3σ)

(3) 装着型移動支援機器のEMC試験方法及び装置

供試品を人体に装着した場合,供試品単体でのエミッションレベルと比較して特定の周波数においてレベルが増幅することがある事がわかった.

図7に人体の誘電率を模擬したラバーファントムを示す.ラバーファントムに供試品を装着し,エミッションレベルを測定した.

図7 人体の誘電率を模擬したラバーファントム

図8に開発した試験装置へ供試品を模擬したモックアップを装着した状態を示す.同装置に供試品を装着し,電波放出レベルを測定する.同装置はスチロール及びABS樹脂で構成され,電気的に不導体であるため,スタンバイ状態および動作状態で供試品単体でのエミッションレベルを測定することができる.

クロック性のノイズであれば,スタンバイ状態での増幅度を比較し,動作状体状態でのエミッションノイズレベルを推測することができる.

 

図8 開発した試験装置へ供試品を模擬したモックアップを装着した状態

4. おわりに

本報では生活支援ロボットのEMC試験の試験概要試験での注意点などの試験の一例を解説し,JARIのEMC安全性研究を紹介した.現在の生活支援ロボットの規格類は今後も熟成が必要な状況であるため,安全検証の妥当性確認は依然としてメーカに依存する部分が大きい.JARIは妥当性のある検証方法とは何かを追求し,ロボットが引き起こす危害の研究と試験方法の開発を進めてきた.開発メーカが安心してロボットを市場に投入できる道筋を作ることが,人々が安心してロボットと共存する社会の実現に繋がると考え,今後もJARIは安全検証方法の研究・開発,標準化活動,第三者試験機関としての安全検証試験を通じて,メーカへの開発支援の活動を続けていく.

なお,本報の執筆にあたり参考にした文献を参考文献4) ~9) に示す.

謝辞

本投稿の一部は,AMED ロボット介護機器開発・標準化のための安全評価基準,効果性能基準,実証試験基準策定,開発補助事業支援,国際標準化および国際事業展開に関する研究開発の支援の成果を抜粋し記載した.

(課題番号JP20he2002003)

参考文献

References
 
© 一般財団法人日本自動車研究所
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