JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
講演
JARIシンポジウム基調講演1:経済産業省における自動運転の実現に向けた取組
伊藤 建
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2024 年 2024 巻 4 号 論文ID: JRJ20240403

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Abstract

わが国が自動運転分野において産業競争力を確保し,世界の交通事故の削減等,社会課題の解決に貢献するため,官民で取り組みを推進している.本講演では,自動運転レベル4等の先進モビリティサービスの実現・普及を目指す「RoAD to the L4」の実施状況など,経済産業省における自動運転の実現に向けた取り組みや方向性を紹介する.

経済産業省 自動車課の伊藤です.本日はこのような貴重な機会を頂戴いたしまして誠にありがとうございます.私の方からは経済産業省における自動運転の実現に向けた取り組みということで,25分ぐらいですが,ご紹介をさせていただければと思っております.2023年は,参加者の皆様には大変お世話になりまして,自動運転の動き,さまざまなことがありました.2023年の5月には第1号のL4の案件となる永平寺町での自動運転移動サービスが運行開始をいたしました.それから11月にはL4コミッティを立ち上げまして,ロボットタクシーの都内での運行開始について議論を始めたところです.それ以外にもさまざまな動き取り組みが進んでいます.そういった最新の状況について改めて私の方からご紹介をさせていただきますので,よろしくお願いいたします.

 

  1.    総論

図1  まずは総論ですが,自動運転も含め自動車産業全体として,このデジタル化,DXの動きが非常に進んでいると考えております.まさにデジタル技術,あるいはそれを支えるデータを活用いたしまして,産業競争力上の優位性を確保していくことが,これまで以上に重要になってきていると考えています.大きくは左下にありますように,「供給側の変化」それから「需要側の変化」が起きているということでして,足元で見ますと,電動化の流れの中でアーキテクチャ設計が柔軟化していたり,ソフトウェアの統合化が進んでいると考えています.あるいはユーザー側のニーズとしてエンタメ空間,かっこよさといったものが重視をされているなどの変化もあります.まさにこうしたハードウェアではなくソフトウェア側の重要性が,高まってきていると認識しています.

図2  車がスマフォ化しているとよく言われております.まさにこうしたソフトウェア・デジタル化に向けた取り組みということで,自動運転も含めまして全体のデジタル化の推進は重要であると考えています.

図3  自動運転の話に戻りますと,意義としては大きくこの3点だと考えています.交通事故の削減,渋滞の緩和といった社会課題の解決の問題ですとか,あとは地方での高齢者等の移動手段の確保といった地域の交通課題への対応,あるいは産業競争力としての自動運転システム,これで大きな付加価値を産んでいく,あるいは関連産業を作っていく,こういったところが意義になってくると考えています.

図4  海外の状況ですが,冒頭申し上げたようなロボットタクシーの動きがアメリカ,それから中国においては進んでいる状況です.アメリカですとサンフランシスコを中心としましてWaymoあるいはGMクルーズのロボットタクシーのサービスが開始している状況です.GMクルーズにつきましては現在,あの大事故に伴う免許の一時的な停止となっていまして,原因究明それから改善に向けた取り組みがなされている認識です.中国は,ここにはBaiduを例示しておりますが,北京,武漢,そういった大きな都市から近郊のところで,経済特区的なアプローチでレベル4の実装が進んでいるとの認識です.欧州は現状,実証段階だと理解をしておりますので,そういった意味では米中が先行しており,そこにどう日本として,追いつき追い越していくかが,求められていると考えております.

図5  物流のレベル4の状況について,こちらもアメリカや中国の一部都市では商用化配送が始まっていると承知をしています.やはりここも,アメリカや中国が一歩リードしているような状況だと認識をしています.

図6  自動運転に向けた課題と取り組みとのことで,全体の方針がこのスライドです.大きくはこの4点だと思っておりまして,2023年の4月に改正道交法が施行され,法令上レベル4の公道走行が可能となりました.そういった状況の中で,国内でのレベル4第1号案件として,福井県永平寺町での自動運転移動サービスが2023年5月に運行開始されました.しかし,技術面,社会受容性や事業性の確保,制度面,これらの総合的な取り組みを進めることで,自動運転の社会実装を加速していきたいと考えています.

  1. 2.   自動運転を含むSDVコア技術に係る協調領域のあり方

図7  2番目は先ほど冒頭に申し上げたようないわゆるSDV技術,こういったところについてご紹介します.2023年12月から,これまで自動走行ビジネス検討会として開催してきた検討会を,装いを新たにモビリティDX検討会と名前を改めています.この背景としましては,まさに冒頭申し上げたような,自動運転に限らない形でのソフトウェア化・デジタル化の流れがありまして,少しスコープを広げて,SDVの技術あるいは企業間を跨いだデータ連携,こういったところをスコープに含めて議論を進めております.

図8  第1回目のSDV・データ連携WGのスライドをここにお示します.やはりSDVを規定する要素の中でも特に重要だと思われる技術として,ここに6つ記載しています.委員の先生方には,さまざまなご指摘ご意見を頂戴しておりまして,2024年の3月末までには,一定の方向性を報告書に取りまとめていきたいと考えています.現時点では,重要であり,なおかつなかなか個社だけでは,これからグローバルな流れを考えたときには難しいところは,やはり協調をして取り組むべきと,この6項目については考えている状況です.

図9  海外の動向について簡単にご紹介をいたします.まずAIにつきましては大きくは設計・開発段階でのAIの利活用が進んでいる状況です.自動運転ですと,先ほど申し上げたWaymoなども,自動運転システムの開発にあたっては,こういったAI技術を活用したシミュレーションを利用していると聞いております.

図10  それから自動運転ですが,テスラなどはAIに全振りしたような形での自動運転のシステムの構築が進んでいると理解しています.

図11  それからシミュレーションについては,日本ですとSAKURAあるいはDIVPといったような開発環境を,JARI(一般財団法人日本自動車研究所)を中心としましてご用意をしております.こういったものは海外でもかなり同じように進んでおり,SAKURAのシナリオであれば海外とも連携をいたしまして,安全性のシナリオ評価のISO化に取り組んできている状況です.

図12  それから半導体はまさに自動運転も含めた自動車の開発に必要な不可欠な技術だと認識しています.特に高性能の半導体につきましては,オールジャパンで取り組んでいくことが一つ重要ではないかと考えていまして,海外を見ますとテスラなどは内製化を進めている動きもあります.大きくはその個社で内製化をいかに取り組んでいくかとの観点,それから個社ベースだとなかなか対応しきれないところについては協調して共通規格をして調達を図っていく,こういった二方面の取り組みが重要ではないかと考えています.

図13  4番目がAPIの標準化です.こちらにつきましては自動運転ADASのところで,欧州を中心としたAUTOSARの標準化がこれまで過去5年間ぐらい取り組んできていると認識しております.一方で中国などに目を向けますと,「CAAM-SDV工作組の取組」が左下にありますが,2020年頃からADAS部分にとどまらない形でかなり広範囲にわたったAPIの標準化が進んでおります.結果として第三者,サードパーティが参入しやすいような開発環境が整備されており,それが中国の競争力の向上に大きく貢献をしているのではないかと考えています.現在議論をしておりますが,やはりこういった幅広い形でのAPIの標準化,それによって新たなプレーヤーを呼び込んでいく,それが日本にも必要ではないかと考えています.

図14  5番目は高精度の地図です.これはSIPの技術の成果を基にして,DMP社において現在地図を提供している状況です.大きくはテスラのような,地図を不要とし,AIで全てを判断するような開発思想とそれ以外とで分類できるかと考えております.現在はこの地図のさらなる精緻化を図っていきたいと考えておりまして,内閣府の予算なども活用して,取り組みを進めている状況です.

図15  ライダーとかレーダー,こういったセンサー類も自動運転には重要だと考えております.一方でコスト,それから大きさ,こういったものがネックになってきているとの認識です.ここは非常に開発競争が米中でも激しい分野だと理解をしておりますので,その次世代の新たなフォトニック結晶レーザーなども視野に入れながら研究開発の支援を,日本としてもしっかり進めていきたいと考えています.

図16  それから,付随する論点としまして,データのセキュリティが重要になってまいります.大きくはデータの流通の問題,それからサイバーセキュリティの二つだと考えています.前者についてはDFFTの観点から越境のデータ移転の円滑化として取り組みを進めています.例えば中国などでは重要データと規定されているものについては自由な越境移転が難しいような状況がありますので,これは政府間でも働きかけを継続している状況です.それから,後者のサイバーセキュリティについては,これはまさに国際基準に沿った形での車両の認証が行われている状況でして,これは100%安全ではなく,常にアップデートしていくことが技術上も重要だと考えておりますので,こういった側面からも議論を進めています.

  1. 3.   L4 自動運転プロジェクトの進捗状況

続いてはL4のプロジェクトの概要,それから進捗状況などについてご紹介いたします.

図17  まずは,2023年の11月に成立をいたしました補正予算ですが,レベル4の自動運転システムの開発支援の事業として27億円を確保しております.もうすぐ公募プロセスにかかる予定になっていますけれども,自動運転のトラックあるいはロボットタクシーのような乗用車のタイプ,こういったところについてのご支援を3分の1あるいは3分の2という形でさせていただく予定です.

図18  それから社会受容性を高めていく観点からは,やはり取り組む自治体や住民の皆様のご理解・ご協力が必要不可欠になってまいります.そういった観点から,こういった手引きというものを,ご用意をして公表したいと考えております.具体的には認可に係る,必要なプロセスですとか,あとはその役割分担,責任のあり方などについてもここではご紹介をさせていただきたいと作成を進めています.

図19  ここからは個別プロジェクトのご紹介で.まずは東京都内で2026年1月から開始予定のホンダの,自動運転タクシーサービスです.エリアについては右下の通りでして,これは2023年の11月にL4コミッティにおいて議論を開始している状況です.

図20  それから,自動運転のトラックにつきましては,これはデジタル全総の中で,新東名の駿河湾沼津-浜松間の約100キロ区間を2024年度に走行を開始するということで,今,詳細の設計を進めている状況になっています.

図21  それからGI基金(グリーンイノベーション基金)ですが,これを活用して万博での自動運転の実証も今現在進めている状況です.二つのルートがありまして,会場から駐車場までのルート,それから万博会場の内外の外周道路を運行するルートで,それぞれ大型小型のEVバスを走らせるとのことで,検討を進めている状況です.

図22  それからこれもバスですが,茨城県日立市のBRTにおきまして,レベル4の実証として取り組みを進めている段階です.これはBRTでまず走らせて,その上で一般道の方にも拡張をしていくということで,検討を進めている状況です.

図23  それから千葉県の柏の葉におきましては,同様にレベル4の自動運転バスについて実証を進めており,ここはインフラ協調を進めていく観点から,こういった交差点のところにセンサー機類をつけることで,路車協調するような形で安全性を高めていくことを進めている状況です.

図24  それからレベル4自動運転移動サービスの国内第1号案件として,福井県永平寺町では2023年5月から運行開始しています.しかし,こちらについては現在,事故が発生したということで,運休となっております.元々冬季期間中については運休予定になっていましたので,冬季が明けて春になった段階で,運行の再開を目指しておりまして,現在,運行再開に向けた準備を進めている状況です.事故の原因につきましては,プレスリリースで公表を永平寺町からさせていただいています.ここにつきましてはカメラの学習を増やしていくといったような対応をこれから取っていきたいと考えています.

  1. 4.   制度面

最後に4点目ですが,制度面についてご紹介いたします.

図25  制度面については,改正道交法が2023年4月から施行されておりますので,基本的には法令上は,もうすでに手当がされております.ただ許認可手続きについて,複数の関係省庁にまたがっているため,この許認可手続きを円滑に進めるという観点から,レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティを立ち上げました.この第1号案件が先ほどのホンダの自動運転,ロボタクのサービスです.こういった新たなサービスについてはこの枠組みを活用しながら案件を増やしていきたいと考えています.

図26  それからやはり地方の社会受容性,こういったものを引き上げていく,あるいは許認可に係る実際の審査は都道府県ごとにやるといったこともありますので,地方版のL4コミッティも先般,立ち上げることを発表いたしました.これは地元の自治体あるいは関係の行政機関とも連携をいたしまして,順次開催をする都道府県を広げていきたいと考えています.

図27  それから責任分担のあり方についてデジタル庁を中心に,2023年末から議論・検討を開始いたしました.具体的にはここにありますような刑事責任あるいは民事行政上の責任のあり方について,それぞれご議論をいただいきました.本年5月をめどに何かしらの指針,ガイドラインを取りまとめたいと考えています.特にこの刑事上の責任についてはさまざまな議論があり,無人のレベル4の中でどこまで責任が及んでくるのかは,先例もない中で,非常に整理が難しいと考えており,専門家の法学者の先生方のご意見をいただきながら,しっかりと整理を行っていきたいと考えております.

私からの説明は以上です.本年もよろしくお願いいたします.ありがとうございました.

 
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