JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
講演
JARIシンポジウム基調講演3:自動運転の民主化
加藤 真平
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2024 年 2024 巻 4 号 論文ID: JRJ20240405

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Abstract

世界初のオープンソースの自動運転OS「Autoware*2」の誕生から約8年.安全な⾃動運転に資するあらゆるテクノロジーを開放し,様々な組織,個⼈がその発展に貢献できる「Autoware」を中心とした開放的なエコシステムによる「自動運転の民主化」について解説します.

皆さんこんにちは.ティアフォーCEOの加藤真平です.本日はAutowareというオープンソースの自動運転の話をします.Autowareは,先日レベル4の自動運転の認可を取得したソフトウェアです.これはアルゴリズムやツールのみでなく,プロセスや評価方法などを含みます.Autowareを使うことは,今後全国でレベル4の自動運転の社会実装をする上で,その土台になっていくものと思っています.それでは講演をお聞きください.

図1  タイトルは「The Art of Open Source Reimagines Intelligent Vehicles」で,日本語で言うと「自動運転の民主化」と言い,ティアフォーが掲げているビジョンです.

図1 ティアフォーのビジョン「自動運転の民主化」

図2  レベル4の自動運転は,大きく分けるとハードウェアの部分とソフトウェアの部分にわかれます.レベル4の認可の対象となるのは,車両ではなく,ソフトウェアが組み込まれている自動運転システムです.この自動運転ソフトウェアが載ったコンピューター,車両を繋いでいるインターフェース,ユーザーインターフェースも含んだ形で,認可を取ることになります.今日は,車両の中にあるこのシステムの部分とソフトウェアの部分を両方見ていきたいと思います.

図2 レベル4認可の対象となる自動運転システム

図3  これまでティアフォーは,オープンソースの自動運転ソフトウェアを使ってたくさんの車両モデルで自動運転の実験を行ってきました.ロボタクシーの実験では,2年,3年前からしかるべき申請をすれば,一般公道でも運転席に人を乗せないで自動運転の実験ができるようになってきています.お台場では,東京2020オリンピック・パラリンピック仕様のe-Paletteの運行をトヨタと一緒に行いました.福島県では,地方などで使っていただく目的で,ほぼ同じシステムで廉価版となる車両のモデルを作りました.最近では空港の自動運転バスにも取り組んでおり,中型から大型サイズのバスの開発をしています.日本だけでなく,欧州やアジア諸国,アメリカの専用路では,バスの形は少し違いますが,基本的なシステムを載せており,工場内の搬送も同じようなソフトウェアで自動運転を実現できています.自動運転の小型の配送ロボットや,最近ではレースもあり,これら全てが同じソフトウェア,同じプラットフォームを使って開発できているというところが,自動運転の民主化というビジョン,考え方になります.

図3 様々な車両での自動運転の実験( クリックで動画公開サイトが開きます)

図4  その源になっているのが,Autowareというオープンソースのソフトウェアです.GitHubのURLにアクセスすれば,誰でもダウンロードして使ったり,改造したり,自社のプロダクトに使うことができます.

図4 オープンソースの自動運転OSのAutoware

図5  オープンソースはどれぐらい人気があるかで普及度が測られ,AutowareもGitHubで人気度が測れます.右上にスターボタンがあるので,よろしければこちらを押していただけると,Autowareのコントリビューターの皆さんが喜んで開発に取り組めると思います.

図5 AutowareのGitHubページ

図6  実際にAutowareを使って実現できる自動運転について,ティアフォーは日頃からお台場をテストサイトにして日々実験を行っています.上がカメラの映像で,実際にどういう環境で走行しているのかを示しており,下がAutowareがどのようにこの環境を認識しているのかを可視化したものです.自動運転の品質や精度を細かく測るとかなり深い世界になりますが,現在オープンソースの自動運転ソフトウェアAutowareでは,日本に限らず,ほとんどの地域で走れる状態になっているのではないかと思います.バスやトラック,一般車両,自転車など,一般道路上に存在する物体件数は比較的高精度にできています.3次元地図上で自車の走行経路や,制御を引くことなど,基本的な機能がオープンソースのソフトウェアに揃っています.これをベースに,各地域で社会実装を進めるときに,いろいろな方々が開発プロセスを作り,評価をし,最終的に認可を取りに行くことができるようになればいいと思っており,その土台となるソフトウェアを開発しています.

図6 実際の走行環境とAutowareによる認識( クリックで動画公開サイトが開きます)

図7  この土台という点で,オープンソースとプラットフォームが少し似ていますが,オープンソースは非営利団体のThe Autoware Foundationという国際業界団体によって管理されており,オープンソースのライセンスに従っています.ティアフォーは,地図作成ツールや機械学習を実行するようなフレームワークなど,オープンソースを活用したプラットフォームをビジネスにしています.ただし,プラットフォーム単体では完成されたシステムではありません.例えばお客様と一緒にバス,タクシー,カートを開発するときに,要求と要件が固まったときに初めて完成系のシステムになります.これを1から作るよりは,山登りに例えると,オープンソースとプラットフォームを使って五合目から九合目付近まで共通の仕組みで登り,最後の完成されたシステムに求められる要件や機能の開発にリソースを集中できるようにしたいと思っています.

図7 提供価値の組合せ

図8  自動運転のシステムは,ティアフォー以外にも世界の様々なところで開発されていますが,そのソフトウェアは非公開であり,製造方法や運用方法については基本的にはブラックボックスです.一方で,ティアフォーが実現したい世界は全てがオープンになっているものです.バリューチェーンでいうと,オープンソースのソフトウェアを使って,自動運転車両の開発方法,製造方法,製造された車両の運用方法において,リファレンスデザインやシナリオという考え方を導入し,誰もが開発や運用に携われるようなエコシステムを構築したいと考えています.

図8 エコシステム化されたバリューチェーン

図9  これを実現する上で,基になっているAutowareのアーキテクチャが非常に重要です.製造や運用に移行するときに,オープン化されていないと,作った本人たちしか製造や運用ができないことになってしまいます.そうならないように,Autowareをオープンアーキテクチャと呼び,これを国のプロジェクトでグリーンイノベーション基金に採択していただき,9年の計画で進めているところです.簡単に説明をすると,Autowareでは,コアな共通の機能の周りに誰でも追加できる付加価値,付加的な機能を個別に用意できるようになっています.これにより,基本的な共通の機能はコアなモジュールから提供される一方で,例えばバスを作るときはAとBの機能にする,タクシーを作るときはFとGの機能にするなど,個別の要求や要件など開発したい機能に応じて選べるようになっています.オープンソースなのでこの選択した機能を改造することができ,最終的にお客様が望む特定のシステムを迅速かつ手頃な価格で提供できるようにすることが,オープンアーキテクチャの目的です.

図9 Autowareのオープンアーキテクチャ

図10  このアーキテクチャを使った開発では,自社で自由に使うこともできますが,ティアフォーではオープンソースのAutowareを活用し,開発運用を効率的に行える仕組みとしてDevOpsフレームワークを提供しています.例えばテスト,運用,保守から開発に戻す一連のサイクルをクラウドの環境である共通のプラットフォーム上で,共通のフレームワークを使って回せるようにします.そうすることで,特にお客様が環境を構築したり,不具合をチェックするために工数のかかる作業を省くことができ,一体化された共通のフレームワーク上で開発運用を進めることができます.

図10 一体化された共通のDevOpsフレームワーク

図11  この共通の開発運用の例として,カメラを挙げることができます.カメラにもさまざまな種類があり,逆光に強いものや暗闇で見えるものなど,異なる性能があります.ティアフォーが提供するカメラでは,Autowareが正常に動作するように,カメラの仕様や設定が正確にテストされています.他にも,センサーフュージョンや,LiDARとカメラを一体化させるものなどがテストできるようになっているところが,レベル4に向けて非常に重要になってきます.このように個別で部品をテストすることもできます.

図11 ティアフォーが開発する車載カメラ( クリックで動画公開サイトが開きます)

図12  最近力を入れて取り組んでいるのが,デジタルツインという環境です.ゲームエンジンをイメージすると,ゲームエンジンを使って,実環境の構造物やビル,道路,車両などをサイバー空間上に再構築するものです.このデジタルツインの環境を,ティアフォーが開発しているAutowareの基盤であるROSという環境にシームレスに接続できるフレームワークになっています.これにより,人の形を変えたり,整地がわかったり,センサーをコンフィギュレーションしたり,様々なシミュレーションが可能です.

図12 ティアフォーが注力するデジタルツイン( クリックで動画公開サイトが開きます)

図13  デジタルツインは実環境と瓜二つのグラフィックスになっています.これを自動運転システムに読み込むと,自動運転システム側では実環境とサイバー空間のどちらで走っているのかわからない状態で,サイバー空間上でもあたかも実環境を走っているかのように動作します.これにより,サイバー空間を使って,実環境で走れるかどうかを事前にチェックすることができます.当然実環境でしか発生しないこともあるので,シミュレーションで全てをテストできるわけではありませんが,このような事前のサイバー空間上でのテストにより,実環境でのテストで大幅に工数を削減することができます.

図13 デジタルツインによるシミュレーション( クリックで動画公開サイトが開きます)

図14  開発においては,これらのような個々のテストやシミュレーションのツールが提供されています.また,運用しているときのフリートマネジメントのシステムも提供しており,ルートを引いたり,地図を作るものもあります.自動運転車両の状態をリアルタイムでデータに記録し,後から見て,例えばここでは物体検出の精度が少し落ちている,ここでは位置推定の精度が少し落ちているなど,必要に応じて開発者がさらに機能を改善していくことができるようになっています.

図14 ティアフォーが提供するフリートマネジメント( クリックで動画公開サイトが開きます)

図15  さらに,フリートマネジメントを活用して遠隔監視の機能を追加するフレームワークも提供しています.これも一緒に組み合わせると,例えば見守りのサービスも提供することが可能となります.少し前に損保ジャパンが,東京からリモート監視システムを使って,全国各地で走行している自動運転車両の安全安心を見守るサービスの実証をしました.5Gを最大限に活用し,東京にいるサポートセンターからも高品質の映像が届き,仮に自動運転車両がこれ以上走れない,何らかの故障で道路上で止まってしまったときもすぐに乗員の方々に対して安全確認などを行えるようになっています.ロードサービスのようなアフターサービスも連動しており,例えば車両が壊れてサービスが使えなくなってしまっているときは,レッカー車で道路から立ち退いてもらうなどがあります.本当の社会実装に向け,ティアフォーではこのような一連のサービスの実証を行っています.スマートポールを車両だけで認識することはレベル4の認可を取得できています.しかし,今後全国各地での様々な条件を考えたとき,例えば電信柱などにセンサーが搭載されていて,そのセンサーが周りの環境を検知して自動運転車両に共有するなど,見通しの悪い交差点などではインフラ側のアプローチが有効かもしれないです.そのようなことも実証してきた経緯があります.

図15 損保ジャパンのサービスを使った実証( クリックで動画公開サイトが開きます)

図16  オープンソースの自動運転ソフトウェアのAutowareでは,開発から運用までの一連のプロセスを仕組みとして提供し,このプロセスを効率的に回せるソフトウェアの作りになっています.

図16 開発と運用のプロセスを回せるソフトウェアの作り

図17  まだ準公道の環境ですが,2023年10月に国交省からレベル4の自動運転の認可を取得しました.これは車で言うと,ナンバープレートをもらっている状態です.今後社会実装でサービスをしていく上では,認可に加えて,人の運転でいう免許証にあたる,道路で車両を走らせていいという許可を取得する必要があります.許可を取得して初めて一般公道でレベル4の自動運転ができます.認可を取得していないことには許可も取得できないので,まずは認可を取得できたことは非常に大きなことだと思っています.認可の仕組みの細かいところを見ていくと,複雑ですが,例えば,警察が関わったり,ナンバープレートを取るときにテストをする国交省のローカルの担当のところなど,基本的には走行する環境の自治体に関連した皆様と,こういう条件や環境ではこういう機能を提供すれば認可を取れるのではないかなど,いろいろな話をします.最終的には,中央の政府体の方でワーキングのような形で,有識者の先生方に確認をしていただき,長いプロセスを経て認可を取得できるようになっています.今後このプロセスも効率化していくと聞いているので,2025年50ヶ所,2027年100ヶ所に向けて,機能も充実していかなければいけないですし,このようなプロセスも見直しをかけながら進めていけるといいと思っています.

図17 レベル4自動運転認可の仕組み

図18  レベル4の認可を取得したことは,日本だけでなく,世界的にも注目されています.ティアフォーは2024年1月に世界経済フォーラムでダボス会議に参加しましたが,オープンソースやレベル4の取り組みが非常に評価され,日本のスタートアップもグローバルに活躍できるようになってきています.

図18 レベル4認可の海外メディアの取り上げ

図19  レベル4の認可は,車両に対してではなく,コンピューターやソフトウェアなど車両に搭載されている特定の自動運転システムに対して与えられます.システムの認可を取ったからといって,次の車両にそのシステムをそのまま利用できるわけではありません.

図19 レベル4認可を取得したシステムが搭載された車両( クリックで動画公開サイトが開きます)

図20  今後,全国各地50ヶ所100ヶ所に向けて社会実装を進めるために,異なる車両での認可を取得する必要があります.ティアフォーは,長野県塩尻市で走行する中型バスでの認可を取得しようと思っていますが,今日話したような開発から運用にかかるプロセスを同じように繰り返しています.サイバー空間上で中型バスの自動運転の走行をシミュレーションし,検証しています.

図20 長野県塩尻市の中型バスのシミュレーション( クリックで動画公開サイトが開きます)

図21  右折などは認可を取る上で複雑なロジックが必要になりますが,シミュレーションした上で実環境に車両を持って行き,テストを行います.基本的にシミュレーションで動いているものは実環境でも動くようになっている必要がありますし,実環境でしか発生しないようなイベントもたくさんあるので,そのようなものは現地に行き,チューニングの作業を行います.最終的にステークホルダーの皆様にこれでいいと言っていただけると,認可を取得できます.路駐回避などは,まだ認可を取得する上でのロジックが難しいです.シンプルな単発の路駐回避は大丈夫ですが,二重に路駐回避したり,対向車線に出て路駐回避することは,認可まで行くのがまだ少しチャレンジングだと思っています.

図21 長野県塩尻市の中型バスのシミュレーション( クリックで動画公開サイトが開きます)

図22  運用においては,当面は乗務員がいます.例えばレベル4で運行しているときに路駐があり,走行環境の条件であるODD(Operational Design Domain)の定義から外れるときには,自動運転機能は維持されますが,一時的に遠隔レベル2に切り替わり,乗務員がその路駐を避けていいという指示を遠隔の操作で送り,その指示が送られた後はまたレベル4に戻るハイブリッドな方法があります.本当に社会実装を進めていく上で,レベル4の認可を取得し,許可を取得した上で,どう乗務員の役割を定義することで,開発側も運用側も最もリーズナブルで効率よく社会実装を推進できるかをこれから議論していけるといいと思っています.

図22 異なるレベルのハイブリッドでの運用( クリックで動画公開サイトが開きます)

図23  それに向けて,現在ティアフォーでは車両の開発を進めています.量産にはいろいろな規模がありますが,ティアフォーとしては100台から1000台の規模で生産を目指しています.パートナーの協力を得て拠点となる工場を構えており,バスの製造が始まっています.2025年,2027年にかけて国の期待もあると思うので,ティアフォーもこのレベル4の自動運転の社会実装に貢献していければいいと思っています.

図23 パートナーの車両量産の工場

図24  私の講演はこれで以上になります. ご清聴ありがとうございました.

図24

 
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