2025 年 2025 巻 3 号 論文ID: JRJ20250303
カーボンニュートラルの実現に向け,電動化,水素,燃料の脱炭素化など多様な選択肢を追求しつつ,EVと内燃機関の両市場で勝つべく,各分野において取組を推進している.本講演では,自動車分野のGX(Green Transformation:カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取組)実現に向けた取組や方向性を紹介する.
自動車産業は,日本の経済・雇用を支える屋台骨です.図1左側の円グラフを見ていただくと2023年の日本の主要商品別輸出額において自動車は5分の1の割合を示しています.全体101兆円である中で,自動車としては22兆円,割合としては21.5%です.右側の自動車関連産業の規模では,出荷に関しては約63兆円,製造業の約2割,雇用に関しては約560万人,全産業の約1割,設備投資に関しては約1.5兆円,製造業の約3割,研究開発に至っては約3.9兆円ということで,製造業の約3割を占めています.こうしたデータからも自動車産業がどれだけ大きな存在感を示しているかが分かります.
図1 日本経済を支える自動車産業
次に自動車産業のマーケット構造についてです(図2).2023年における自動車の販売台数は世界全体で約8,900万台となり,このうち日系シェアは約29%です.日本国内に目を向けると約480万台の市場となっています.
今後、グローバル市場を意識した国際競争力の確保,強化が不可欠です.特にグローバルとして市場が大きいのは三つの市場で,中国,北米,欧州です.中国に関しては3,009万台とかなり大きな市場であり、次いで北米の1,929万台,欧州に関しては1,696万台です.この三つの市場のみならず,日系の生産拠点が集積するASEAN,インドも重要な市場となっています.
図2 自動車産業のマーケット構造について
ここからEVの市場に関してご説明します.図3の左側の折れ線グラフから,中国に関しては新車の市場において,EVの販売比率は約20%です.世界全体は11%ですので,それに比べて中国はかなり伸びていると見て取れます.日本は一番下の青い点線であり、直近では日本は1%ということでEVの比率としてはまだ低い水準で推移しているという状況です.図3の右側上の円グラフは,EVのグローバルでのOEM別シェアです.1位がテスラで2位がBYDです.日本のシェアは約3%ということでかなり少ないシェアとなっています。一方、下の円グラフで示しておりますが,非EVに関しては日系シェア30%ということで一定のシェアを維持しております.
図3 世界全体のEV市場の動向
次は,EVのみならず,PHEV(プラグインハイブリッド車),さらにはHEV(ハイブリッド車)も含めたグローバルでのトレンドです.図4左上は,世界全体での推移で,赤い線がEV,緑の線がPHEV,青色の線がHEVです.EVに関しては世界全体では12%が直近の数字です.図3の折れ線グラフとの関係では,直近の時点が異なりますので,数字は異なっていますが,基本的な流れは変わっていません.中国に関しては,直近23%です.顕著な動きとしてはEVのみならず,PHEVに関しても約19%あります.左下が米国ですが,HEVがかなり伸びており,その次にEVとなっています.欧州もHEVがかなり伸びており,約26%です.日本に関しては,EVは1%,PHEVは2%という状況の中で,HEVに関しては42%あります.こうした割合が他の市場とは異なる状況となっています.
図4 主要地域の電動化市場の動向(販売比率)
次は中国の市場です.中国市場においては直近で中国系のOEMのシェアが伸びている一方,図5左側のグラフで見て取れますが,2021年の日系のシェアに関しては17.3%,2024年(1月~9月)は10.1%と,7.2%減少している状況です.その間,中国系に関しては16.6%シェアが伸び,日系と中国系とで差が生まれている状況です.図5右側は,中国から他国への輸出を表したグラフです.2023年の輸出台数は,491万台ということで日本を抜いて世界1位になっています.また,この中でEVに関してもかなり輸出されているという状況であり、特に欧州向けに多く輸出されていることが分かります.
図5 中国の直近の動向
こうした中国からの輸出に対する各国・各地域の対応を表したのがこちらのページです.図6左側のEUに関しては,中国製EVに対して最大35.3%の相殺関税を課す旨が公表され,今年2024年10月30日から適用が開始されています.米国においては新しい政権においてどうなるかということを注視する必要があります.直近ではIRA(インフレ抑制法)のEV税額控除において要件を入れています.車両の最終組立を北米で実施,懸念国企業の電池部品・重要鉱物を使用していない,こうした要件を入れているものに関しては,EVの税額控除が受けられるということになっています.
図6 中国からの輸出急増と各国の対応
ここまで,世界の市場の動向を見てきましたが,各国において,EV化が進むという方向性に関しては変わらないと見ています.その動向が垣間見えるのものとして図7の主要国の自動車電動化等の目標を見ていただければと思います.英国においては2035年の販売目標として,EV,FCV(燃料電池車)が100%になっており,EUにおいては2035年以降,テールパイプベースでCO2排出100%減,つまりニアリーイコールとしてEVとFCVにおいて100%です.ただこちらは合成燃料のみで走行する内燃機関を搭載する車についても一定条件下で新車販売を認めるという方向で検討が進んでいます.次に米国においては,2030年の販売目標としてEV,PHEV,FCVで50%となっています.日本に関しては,2035年の乗用車の新車販売目標は,電動車(EV,PHEV,FCV,HEV)で100%を目指すとなっています.中国に関しては,2027年販売目標において,新エネ車(EV,PHEV,FCV)で45%を目指すとなっています.
図7 主要国の自動車電動化等の目標
次は最近の海外OEMの動きです.図8一番上のフォルクスワーゲンですが,この週末(2024年12月21日,22日)の記事からも分かるように、直近で動きがあったため,少し古い情報になりますが,ドイツ国内で少なくとも3ヶ所の工場の閉鎖を検討との報道が以前なされておりました.メルセデスに関しては2030年までに新車販売の全てをEV化するという目標を掲げておりましたが,この目標を見直し,HEVを含めたエンジン車を2030年も販売するとの見通しを発表しています.ボルボに関しては,2030年までに完全なEVメーカー化すると以前発表しておりましたが,こちらの目標も見直しがなされ,90%から100%をEVまたはPHEV,残り0%から10%を必要に応じてマイルドハイブリッドとすると発表されています.テスラに関しては,2030年までに年間EV新車販売台数を2,000万台にするとの目標を掲げておりましたが,目標の見直しを発表されています.
図8 最近の海外企業の動き
ここからは経済産業省の取組としてGX(Green Transformation:カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取組)分野でどのようなものがあるかについてご説明します.打ち出しているのはマルチパスウェイ戦略です.一つの技術に絞るということではなく,多様な選択肢を追求するということを掲げています.
図9右下に記載のとおり,三つの柱によって政策を打ち出しています.一つ目は多様な道筋を軸とした海外への働きかけです.多様な道筋に関する国際理解の醸成のため,他国に対して普及・啓蒙を進めていきます.その場としてG7(主要7ヶ国首脳会議),COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などを活用します.二つ目はEVにおける競争力の強化です.EVにおいて,蓄電池は不可欠な存在であり,国内生産基盤の構築に取り組んでいます.国内において,製造装置を含めて蓄電池がきちんと産業立地できるように,補助金を出して進めている状況です.さらには魅力ある国内市場の構築に向け,電動車の車両の導入支援や,充電・充てんインフラの整備について補助金を活用して進めていきます.三つ目として,内燃機関等でも勝ち続けるため,合成燃料の開発加速化への取組等を進めて行きます.
図9 自動車分野のGXに向けた政府の取組
さらに、図10一番左側の①電動化のところですが,GI(グリーンイノベーション)基金による技術開発ということで,電池のみならず,モーターに関しても開発支援をしています.電池に関しては,組み立て工場など国内で立地する場合に補助金を出しています.充電インフラの整備に関しては,機器代や工事費に関して,補助金を出して後押しをしています. EVやPHEV,FCVに関しては,国内で生産をしていくものについては,その生産販売量に応じて税額控除をする戦略分野国内生産促進税制を設けております.
水素に関しては後ほどご説明させていただきますが,商用車に重点化して導入支援をしていきます.商用FCVの導入支援の充実,さらには大規模水素ステーションへの支援強化を進めています.
合成燃料に関しては,GI基金によって技術開発を進めています.こちらも大規模かつ高効率な製造技術に支援をするとともに,2030年代前半にビジネスベースに乗せるということで,関係部署,関係業者と連携して進めています.
図10 自動車分野のGXに向けた政府の取組
自動車分野における主な取組の方向性ということで,一部先ほどの説明と被りますが,図11の表の中の一番上,乗用車・商用車のところに関して目標を記載しています.乗用車に関してはご説明したとおり,2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を実現としています.商用車に関しては,8トン以下の小型車については2030年までに新車販売で電動車20%から30%,8トン超の大型車については,2020年代に5000台の先行導入を目指すことを想定しています.蓄電池に関しては,2030年までに年間150 GWhの蓄電池・材料の国内製造基盤を確立することを目標として立てています.こうした目標を立てつつ,政策を推進しています.
図11 自動車分野における主な取組の方向性
個別施策としては、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金,通称CEV補助金と呼んでいる補助金は,乗用車などの電動車に関し購入補助をしている補助金です.令和5年度(2023年度)補正予算,これは直近で執行しているところですが,1,291億円を措置しています.EV,PHEV,FCVなどの購入を支援するものです.補助額の算定にあたっては,自動車部門のDX(デジタルトランスフォーメーション)への貢献程度を考慮して決めております.額に関しては図12左側の表にあるとおり,EVに関しては例えば15万円が最低の補助金ラインであり,最高額としては85万円を補助するということにしています.これはパワートレイン別に額が異なっており,PHEVに関しては15万円から55万円となっています.
図12 CEV補助金(車両購入補助)の概要(R5補正予算:1,291億円)
充電インフラの整備は車両導入支援とともに進めていくべきものと考えています.2023年10月に充電インフラ整備促進に向けた指針を策定し,2030年に30万口の公共用の充電インフラを整備する目標を立てています(図13).直近は,図13左側のグラフにありますが,2023年度末で4万口まできています.ここから30万口に向けて,補助金による支援なども通じて,充電インフラの整備を後押ししていきたいと考えています.
図13 充電インフラ整備の大きな方針(概要)
電動車の普及等に向けた支援ということで,これまでご説明したものと被る点はありますが,最新の補正予算の状況も含めてご説明します.クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)が図14左上にありますが,こちらに関しては令和6年度(2024年度)補正予算において1,100億円が措置されています(図14では補正予算「案」額となっていますが,先週(2025年12月23日現在),補正予算が成立していますので「案」が取れています).その下の商用車に関しての電動化促進事業に関しては400億円措置されています.図14右側は充電・充てんインフラの整備支援です.令和6年度補正予算で360億円の措置をしております.
図14 電動車の普及等に向けた支援
次は税制についてです.一部,先ほどご説明しましたが,EV,FCV,PHEVを対象に,生産販売量に応じて減税を行うものです.図15左下の表ですが,電気自動車等(EV・FCV)に関しては1台当たり40万円控除,軽EV・PHEVに関しては1台当たり20万円控除することとなります.図15右側ですが,措置期間としては,今後3年間,令和8年度(2026年度)末までに認定を受けた投資が対象になっています.計画認定以後10年間にわたって控除されます.
図15 戦略分野国内生産促進税制(自動車関係の概要)
蓄電池に関する支援のご説明です.図16グラフのとおり,蓄電池の生産基盤の2030年目標を150 GWhとしており,これまでの取組により120 GWh程度確保できる見込みとなっております.こちらに関しては令和6年度(2024年度)補正予算でも支援する予定です.これまでの支援の結果に関しては,図16の上の枠内の二つ目のポツにありますとおり,蓄電池7件,部素材16件,製造装置4件の計画を認定しており,事業総額としては約1兆8,686億円,助成額は最大約6,601億円となっています.
図16 経済安保法に基づく支援の成果
FCVに関しては,わが国が先行して開発を進め技術的優位性を維持してきた分野と考えています(図17).FCVは航続距離が長く,充填時間が短いという特徴を持っていますので,商用車の社会実装に重点を置くことで,モビリティ分野での水素活用の加速化を考えています.今後はFCVを集中的に導入する重点地域の選定を行い,集中的な支援をしていく予定です.
図17 燃料電池車(FCV)の特性と活用の方向性
具体的な数字に関しては,今回の説明からは割愛させていただきますが,重点地域においてどのような支援をし,その基準はどういったものか簡単なイメージ図を作ったのが,図18です.左側のイメージでのご説明は,需要の塊を作り,拠点間を大型トラックなどのFCVで配送していこうというものです.右側に関しては,基準を大きく二つ作るということであり,商用車の潜在的需要が大きい都道府県や,需要の取りまとめに向けた自治体に強いコミットメントがある都道府県を重点地域として選定することを考えています.詳細については,これから検討し,さらに具体的な要件等を公表する予定です.
図18 重点地域における集中的な車両の導入と水素ステーションの整備
液体燃料に関してです.2030年バイオエタノールの導入拡大に向けた方向性ということで,図19は,11月に経済産業省の審議会で出した資料です.「2030年代のできるだけ早期に乗用車の新車販売におけるE20(バイオ燃料を20%混合)対応車の比率を100%とすることを目指す」ということが記載されています.そして「ガソリンにおいては,2030年度までにバイオエタノール導入の拡大を通じて,最大濃度10%の低炭素ガソリンの供給開始を目指す」「2040年度から,対応車両の普及状況やサプライチェーンの対策状況などを見極め,対象地域や規模の拡大を図りながら,最大濃度20%の低炭素ガソリンの供給開始を追求する」としています.
図19 バイオエタノール導入拡大に向けた方向性
国際マルチの会議における合意に関してもご紹介いたします(図20).G7気候エネルギー・環境大臣会合のコミュニケ,こちらは2024年4月にイタリアで行われたもので,多様な道筋を通じた排出削減や保有車両からの排出削減,昨年の広島での合意内容を再確認しています.脱炭素・低炭素燃料の役割についても明記されています.さらには2024年10月にブラジルで行われたG20エネルギー移行大臣会合コミュニケにおいても持続可能燃料と関連技術の開発と導入のための技術中立的アプローチの役割を強調しています.
図20 2024年G7・G20等国際マルチ会議における合意
最後に,ISFM(アイスファム)についてご説明します(図21).2024年5月の日ブラジル首脳声明において,「持続可能な燃料・モビリティ・イニシアチブ(通称ISFM)」の立ち上げに合意しています.持続可能な燃料と高性能なモビリティ機器の組合せによって脱炭素化を進めるということで,日ブラジルが連携して世界に発信するものになります.
これらの政策を通じて,自動車産業においてGXの取組を進めたいと考えています.
図21 ISFM(Initiative for Sustainable Fuels and Mobility)