2025 年 2025 巻 3 号 論文ID: JRJ20250305
一般財団法人日本自動車研究所(JARI)環境研究部が取り組んでいる研究領域の中から,カーボンニュートラルなモビリティ社会の実現に貢献すべく,環境負荷ゼロを目指した取り組み概要を紹介する.
環境研究分野に関する一般財団法人日本自動車研究所(JARI)での取り組みを紹介する.
最初にわれわれが認識している環境分野における最近の課題(図1)を説明する.自動車に関わる最近のトピックスといえば,カーボンニュートラルというキーワードが出てくるというところである.これを思い返すと,2020年10月26日,当時の菅内閣総理大臣は所信表明で,日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言した.それから4年,国内ではこのカーボンニュートラルの流れが加速している.これまでも政府では,温室効果ガスの排出量削減を目指す目標を示しており,われわれJARIもこれに寄与すべく研究を行っている.2025年2月までに国連に提出することが求められている温室効果ガスの新しい削減目標は,2035年度に2013年度比で60%削減という案が示されている.現在の削減目標では,2030年度に2013年度比46%削減となっており,今回新しい削減案では,さらなる削減が必要となる状況である.自動車に関連するところ見ると,エネルギー,燃料の多様化,自動車のパワートレインの多様化が期待されている.また自動車の燃料として,ガソリンに混ぜるバイオ燃料の導入目標が検討されている.これらを鑑みると,電動車の普及はもちろんのこと,バイオ燃料や合成燃料(e-fuel)等に対応する新型車の調査研究,既存車への利用に資する研究も必要になることは明らかである.このようにマルチパスウェイ戦略への対応が必要と考えている.
図1 「カーボンニュートラル」「自動車」最近のトピック
欧州の状況を見ると,2026年10月より適用が始まる新しい排出ガス規制Euro7が示されている(図2).その中ではタイヤ摩耗粉塵やブレーキからの粒子状物質等を規制する法案も入れられている.この背景には,DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)やGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)等の排出ガス後処理装置を装着した車両の普及,走行時に排出ガスを出さない電気自動車の普及により,自動車の排気粒子が大幅に減少することにより,2030年にはタイヤ摩耗粉塵や,ブレーキ粉塵などの非排気粒子が自動車からのエミッションの90%以上を占めるという推計も報告されている.これらの報告を受け,欧州でもタイヤブレーキ等の非排気粒子の粉塵規制が始まったものと考えている.タイヤとブレーキに関しては,自動車からなくならない限り,これらから発生する粒子状物質のゼロエミッション化を目指す研究,計測方法や評価方法に関しても研究が続くと考えている.
図2 「新たな環境課題」「自動車」のトピック
これらの課題を解決する一助となるべく,環境研究部では,カーボンニュートラル社会に向けて内燃機関から電動車まで,関連分野の研究活動を総合的に実施している(図3).内燃機関の研究をベースとする燃料やエミッションの研究を始め,それから派生するCO2や排出ガスの拡散等の研究,ライフサイクルでのCO2評価も重要と考えている.また電動車は,FCEV(燃料電池車)の国際標準化に関しても,JARIが事務局となり,対応を行っている.MBD(モデルベース開発)についても環境研究部で取り組んでいる課題の一つである.
図3 JARI環境研究部の取り組み
これらを簡単に図にすると(図4),内燃機関と電動システムの二つの柱をベースにこれらに関連する調査研究を総合的に行っている.内燃機関の研究をベースに発生する排出ガスやCO2の低減に関する課題,もうこれらは既に電動システムとともに評価する状況となっている.また水素についても,エネルギーソースのひとつとして扱うべきものとなっており,この評価や蓄電池を含めた安全性評価についても,環境研究部で対応しているところである.このように,環境研究部は,環境負荷ゼロを目指して総合的な研究を行っている.
図4 JARI環境研究部の取り組み
われわれの目指す方向の一つとして,環境系の研究結果を総合的に組み合わせ,自動車のライフサイクル全体を考慮して自動車の環境性能の総合評価の方法を構築することを一つの解として目指している(図5).これに対しては,自動車で使用される可能性のある全ての燃料ソースや車両,これらの性能についても,それぞれのパワーソースにて性能を評価し,最終的にはLCA(ライフサイクルアセスメント)で排出量を求め,評価することを考えている.車両についても図5の通り,乗用車から大型車まで,全ての車両を対象にしたいと考えている.まだまだ個別の研究に資するところがあり,総合的な研究が進んでいないところであるが,総合評価に向けた代表的な研究例として,CO2排出量推計として,排出量推計モデルCAMPATHを用いた検討結果1) と,2050年の大気環境の予測として,CO2排出量と排出量低減と大気汚染物質の変化の予測結果2)を参照いただきたい.
図5 JARI環境研究部の取り組み;自動車の環境性能総合評価
また,カーボンニュートラルに向けた課題については,図6のようなものがあると認識している.これらの課題については,JARIではまだ十分に取り組めていないところもあるが,これらの課題があるということを認識した上で,われわれも研究を進めたいと考える.
図6 カーボンニュートラルに向けた課題
最後に,環境負荷ゼロに向けた研究として,内燃機関のさらなる進化にも継続して取り組んでゆく(図7).2014年度に設立された 自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)に参画して10年,日本の産業力の永続的な向上に貢献することを目指して,引き続き内燃機関の試験研究に取り組んでいく.
図7 内燃機関のさらなる進化
もう一つの柱である電動システムに関する研究については,基礎から応用,電動車から電池,水素に関わるまで幅広い評価領域について,引き続き取り組んでいく(図8).特にモーターの開発等は,2018年に設立された. 自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI)にJARIは2023年より参画し,現在,超高回転モーターの研究にも取り組みを始めているところである.
図8 電動システムの幅広い評価解析
このような取り組みを通し,産学官連携を強化しながら,今後もJARI環境研究部はカーボンニュートラルなモビリティ社会の実現に貢献すべく研究を続けていきたいと考える.
参考文献