2025 年 2025 巻 3 号 論文ID: JRJ20250308
本稿では,高知県仁淀川町と大分県姫島村における小型電動モビリティの試験走行の結果を踏まえて,中山間地域および離島での移動課題を解決する車両要件について検討する.仁淀川町では,高齢者の移動支援を目的とした電動のトゥクトゥク(小型の3人乗り電動三輪自動車,道路運送車両法では側車付軽二輪扱いとなる)の導入が高齢者の外出頻度の向上やコミュニティ活性化に寄与する可能性について検討を行う.姫島村では,観光客と高齢者双方のニーズに応えるために電動カートを活用し,観光振興や住民の生活支援の効果を確認する.地域の特性に基づく運用可能な車両要件の検討に基づいて,免許制度の見直しや法整備の必要性を明らかにするとともに,全国展開可能かつ持続可能なモビリティ社会の構築に向けた方向性を示唆する.
1. はじめに
1.1 背景と課題
日本の国土の約70%を占め,人口の約10.6%が生活している中山間地域では,深刻な高齢化が進行している.2023年日本国内の高齢化率は29.1%で,2045年には36.3%に達すると予測されている1).
高齢者の外出は健康維持に効果があり,趣味やボランティア活動など,社会との関わりを持つことがフレイル(加齢によって心身の活力や機能が低下した状態)予防に効果的と言われている.そのため,中山間地域で移動手段を多様化し,高齢者の外出を促進することが,中山間地域社会の活性化や持続可能性の向上につながると期待されている2).
しかし,全国の一般路線バス事業者の87.1%が赤字経営となっており,2022年度までに13,466 kmものバス路線が廃止されていて,特に地方の公共交通は厳しい状況となっている.その代替手段として,コミュニティバスやデマンド型交通(利用者の予約に合わせて運行経路や運行スケジュールが柔軟に変わる交通方式),有償ボランティア輸送が導入されているが,財政負担や運営効率などのさまざまな問題が依然として課題となっている3).
さらに,石油価格の高騰や給油施設の改修義務化に伴うガソリンスタンドの減少が深刻化している.とくに,中山間地域の住民が給油のために長距離移動を強いられるケースが増加している4).
こうした状況を受け,ガソリンに依存することなく,自宅で簡単に充電でき,環境にやさしい移動手段として,電動式の小型モビリティ(以下,小型電動モビリティと称す)が注目されている.
1.2 本調査の目的と意義
本調査では,中山間地域等において小型電動モビリティ活用の有効性について検討を行った.また,検討を進める中で,実際の車両を用いて,高齢者を主な対象とした小型電動モビリティの試験走行を実施し,地域住民の生活の質(Quality of Life: QOL)向上や地域経済の活性化にどのように寄与するかを検証した.
具体的には,以下の3点について重点的に検証を行った.
・小型電動モビリティの利用実態と地域住民への影響
・車両の操作性や安全性など,実用化に向けた課題
・地域特性を考慮した運用モデルの提案
試験走行では,技術導入の可否を確認するだけでなく,利用者の心理的・社会的な影響や地域コミュニティへの波及効果,そして持続可能な運用モデルの構築可能性など,多角的な視点から小型電動モビリティの価値を検証することを目的とした.また,地域住民との対話を通じて具体的な課題を洗い出し,それに基づく改善案を提示することも重要な目的の一つとしている.
試験走行での検証に加え,「第一種原動機付自転車(ミニカー)」5),「軽EV(軽電気自動車)」5)および,「ハンドル形電動車椅子(一般的にシニアカー,電動車椅子と称される)」6) について,機能や性能などのさまざまな観点から比較を行い,中山間地域における移動手段の課題を提起し,移動手段選定の一助とする.なお,「特定小型原動機付自転車」7) および「『特例』特定小型原動機付自転車」8) は,今回は比較対象に含めない.
2. 調査方法
2.1 調査の概要
本調査では,坂道や狭い道がある典型的な中山間地域である高知県仁淀川町と,中山間地域とは異なるが,離島という交通面での閉鎖空間となっている大分県姫島村を対象とした.それぞれの地域特性を考慮しながら,移動手段としての小型電動モビリティの適用性,利用者の体験,課題,そして地域住民の意識を調査した.調査に参加したモビリティ研究会メンバも小型電動モビリティの試験走行を体験したことで,試乗参加者から得られた感想の背景等を理解できた.
2.2 調査地域の特徴
2.2.1 高知県仁淀川町
仁淀川町は,高知県の四国山地に位置する愛媛県との県境の町で,山林が町の総面積333 km2の約9割を占めている.推計人口は約4,100人(2025年現在)で高齢化率約57%である.町の中央を西から東に向かって,「仁淀ブルー」で有名な仁淀川に沿って高知市と松山市を結ぶ国道33号が通っている.集落は仁淀川沿いと山麓に点在し,高齢化と人口減少が進行している地域である10).
この地域では,高齢者のフレイル予防として実施している短期集中型フレイル予防総合プログラム「ハツラッツ」という活動を通して,栄養・運動・社会性というフレイル予防の3本柱を住民が主体となって学習し,課題を解決するために,活動を支えるサポーターや住民同士が励ましあいながら,地域の年代を超えた新たな関係づくりを目指している11).
表1に仁淀川町の特徴を示す.
表1 仁淀川町の特徴
地理的特徴 | 急坂や狭い道路が多い典型的な中山間地域. |
---|---|
社会的特徴 | 高齢化が進行しており,自家用車に代わる移動手段が必要である. |
公共交通 | 不十分であり,住民の移動は主に自家用車に依存している. |
2.2.2 大分県姫島村
姫島村は,大分県の北東部にある東国東郡に位置し,瀬戸内海に浮かぶ離島である.大分県内で唯一の村であり,東国東郡で唯一の自治体である.総面積は約7 km2で人口は約1,500人,高齢化率は約55%(2020年現在)である.島の長さは東西約7 km,南北約4 kmと東西に細長い形をしている.島中央部に標高266 mの矢筈山,島西端に標高105 mの達磨山,島西北部に標高62 mの城山の三つの山が存在し,山に囲まれたところに中心集落がある.海と山に囲まれた風光明媚な観光地だが,姫島村も高齢化と人口減少が進んでいる地域である12).
表2に姫島村の特徴を示す.
表2 姫島村の特徴
地理的特徴 | 周囲17 kmの一島一村の離島.平地と山地が混在している. |
---|---|
社会的特徴 | 人口減少が進行しており,離島特有の物流や移動の課題が顕著である. |
公共交通 |
村営巡回バスがあるが運行時間やルートが固定で,移動ニーズに対応しきれていない. 村営フェリーによる九州本土連絡があり,本土で使用するために別の自家用車を保有する住民が多い. |
3. 試験走行
3.1 試験走行の概要
3.1.1 仁淀川町での試験走行
仁淀川町で実施した試験走行の詳細を表3に示す.
表3 仁淀川町試験走行
3.1.2 姫島村での試験走行
姫島村での試験走行の詳細を表4に示す.
表4 姫島村での試験走行
3.2 試験走行の評価結果
仁淀川町と姫島村で行われた試験走行は,それぞれの地域特性や住民のニーズに応じた小型電動モビリティの適用性を検証する機会となった.両地域で使用された車両についての評価はおおむね好意的であったが,それぞれの利用者からは具体的な課題や改良の要望も寄せられた.以下では,両地域の試験走行で得られた評価と住民の声について詳述する.
3.2.1 仁淀川町での評価結果
仁淀川町では,急坂や狭い道路といった中山間地域特有の環境で電動トゥクトゥク(小型の3人乗り電動三輪自動車,道路運送車両法では側車付き軽二輪扱い)」(図1)を利用し,検証した.電動トゥクトゥクは,普通自動車の運転に自信が持てなくなっている人や高齢者の移動手段として期待され,地域住民の外出頻度を向上させる可能性が評価された.とくに今回利用した車両は,70万円程度という価格や家庭の100 Vコンセントで充電できるという利点に加え,車両のコンパクトなサイズと低速走行が高齢者に安心感を与えるとの意見が多く聞かれた.
図1 高知県仁淀川町における電動トゥクトゥクによる高齢者送迎
住民からは,「近くにあったガソリンスタンドがなくなって不便を感じているが,家庭用電源で充電できる点が便利」,「近距離の買い物や通院に適している」といった肯定的な意見が寄せられた.とくに家庭用100 V電源で充電できることは大きなメリットであるという意見が多かった.ガソリンスタンドが減少し,給油のための長距離走行が強いられる中,手軽に家庭で充電できることはユーザにとって大きく歓迎されていた.さらに,地域のフレイルサポーターを中心とするコミュニティにおいて,主な移動目的地であるハツラッツ会場への送迎にトゥクトゥクを活用することや,町内で走っているトゥクトゥクの話題で住民同士の交流が増えることなどの理由で好評であった.このような利用者同士の交流が増えることで,社会的孤立の軽減が期待されるという意見も得られた.
一方で,課題として指摘されたのが車両の操作性と安定性である(図2).特に,バイクのインタフェースを流用していることに由来するハンドル操作の難しさや坂道や逆バンクのカーブでの安定性不足が指摘された.これらは高齢者の利用における大きな心理的障壁となりうる.また,右手を捻って操作するアクセルが硬く,握力が低下した高齢者には負担が大きいという意見もあった.価格については,住民の多くが現在想定している電動トゥクトゥクの価格(70万円~80万円)であるならば受け入れられるものの,「軽自動車に近い価格(100万円を超える価格)であれば購入意欲が湧かない」との意見を示しており,小型電動モビリティの普及を考えるうえでは価格設定が重要であることが示唆された.
図2 電動トゥクトゥクによる高傾斜道路の通行
3.2.2 姫島村での評価結果
姫島村での試験走行では電動カート(図3)が使用され,普通自動車の運転に自信が持てなくなり運転免許の返納を考えている高齢者,また観光客の移動手段としての適用性が検証された.試乗者からは「低速運転が安全で安心感がある」との好意的な意見が多く寄せられた.とくに,回生ブレーキによる減速機能が好評であり,操作ミスによる事故リスクを軽減できる点が評価された.
図3 大分県姫島村における電動カート試験走行;運行前における操作方法の指導
また,観光用途としての可能性も確認された.観光において,音声ガイドを併用することで観光客がゆったりと地域の名所を巡ることが可能となり,観光ならば「低速走行(20 km/h)で十分」とする意見が多く聞かれた.一方で,観光資源を巡る移動手段として,雨風を防ぐカバーやシートベルトといった装備の追加があれば,さらに快適性や安全性を高めるだろうとの意見があった.観光となる場合には,1人乗り仕様が利用者のニーズと合致していないとの意見も多く,とくに夫婦や家族が観光で利用する場合には複数人乗り仕様の車両が求められる.
価格については,100万円を超える可能性がある点が個人所有を検討している住民にとって大きなハードルとなっている.試乗者は「100万円以下であれば現実的」や「50万円程度が理想」と答えており,それ以上になった場合には,軽自動車と変わらない価格となるために,購入意欲が大幅に抑制される可能性が高くなる.農作業で使用する軽トラックと比較した場合には,現状の小型電動モビリティは積載量や汎用性の面で劣るという意見もあった.
1人乗り電動カートが原動機付ミニカーのカテゴリーとして扱えることについては,住民やサービス提供業者からの反応は良好であった.現在,一般社団法人姫島エコツーリズムが移動サービスに使用している複数人乗りの小型モビリティ(図4)は,特徴的で目立つ外観が非日常感を味わえるという点で観光客のニーズを満たしており好評だが,いずれも軽自動車としての登録が必要である.小型モビリティが軽自動車登録となった時点で,車検不要などのコストメリットは減少し,むしろ中古を含めた機能や価格の選択肢の幅が広い軽自動車との比較でメリットを見出しにくい.
図4 姫島エコツーリズムで提供している小型モビリティ車両
4. 考察
4.1 地域特性と小型電動モビリティの適用性
本調査の対象である仁淀川町と姫島村は,それぞれ異なる地域特性を有しており,小型電動モビリティの適用性においても異なる観点が浮かび上がった.
仁淀川町は急坂や狭隘(狭い)道路が多く,中山間地域特有の地形的課題を抱えている.このような環境では,自家用車が主要な移動手段となっているが,高齢化が進む中で免許返納者が増加しつつあり,代替手段の提供が急務となっている.住民の多くが買い物や通院といった日常的な移動に課題を抱えており,小型電動モビリティの特徴(小回り性や低速であることの安全性など)は,このような地域のニーズに合致する可能性が高いが,自分で運転するためには現行法で普通自動車免許が必要となる点は課題として残る.
大分県姫島村は瀬戸内海西部の離島であり,島全体が行政区域としてまとまっている.しかし,移動手段の柔軟性や離島特有の物流や物資の輸送という点では課題がある.村内では巡回バスが運行されているものの,運行時間やルートが固定されているため,高齢者や観光客の多様な移動ニーズに応えるには限界がある.地形的には平坦で道幅に余裕があり,低速の小型電動モビリティが走行しても邪魔になりにくい環境であることから,これらの問題を解決する手段として小型電動モビリティの導入は効果的であると考えられる.
姫島村では,すでに姫島エコツーリズムが複数種類の小型電動モビリティ(1人~7人乗り)のレンタルサービスを提供している.複数人乗りの電動カートには音声ガイドによる観光案内が実装されている.低速走行は,ゆったりとして聞き取りやすい音声ガイドとの相性が良いことから,今回試験走行を行った電動カートが,観光資源を巡る移動手段として高い適用性を示していることが確認された.しかしながら,今回の電動カートは日本の法規制上,原動機付ミニカーに当たるため,日本国内では2人乗りとして使用することができないという課題がある.試験車両は海外や私有地では2人乗り仕様として使われているが,今回の試験走行ではシートの一席を乗車できないように変更しており,この点が利用者のニーズに十分応えられていないとの意見があった.複数人が乗れる車両仕様の必要性が浮き彫りになる半面,現状の法規制では複数人乗りの四輪車両となると,車検等の維持費が課題となる13).
両地域に共通するのは,高齢化が進む中で住民が日常的な移動手段を必要としている点である.仁淀川町では生活の利便性を向上させることが目的となり,姫島村では観光振興を含めた地域全体の活性化が重要視されている.これらの地域特性を踏まえると,電動モビリティは単なる移動手段にとどまらず,地域社会の抱える複合的な課題を解決する可能性を秘めたツールとしての役割が期待される.
4.2 共通する評価と課題
両地域での試験走行を通じて,電動モビリティの基本性能や利便性に対する評価はおおむね肯定的であった.とくに,電動トゥクトゥクでは家庭用100 V電源での充電や100万円を下回る価格設定が,電動カートでは操作性や安定性に加えて回生ブレーキが高く評価された.また,それぞれが原動機付ミニカーあるいは側車付き軽二輪車のカテゴリーとして登録ができるため,ユーザとしてメリットがある点は大きく評価された.一方でいくつかの共通する課題も浮かび上がった.とくに,車両価格が住民の購買意欲を左右する要因となっている点は両地域で指摘された.また,高齢者が利用する際の操作性や安全性への配慮が不十分であるとの声もあり,車両設計のさらなる改良が必要である.たとえば,仁淀川町の電動トゥクトゥクでは,急坂における車両の安定性やハンドルやブレーキ操作が難しいとの意見があり,姫島村の電動カートでは,座席位置が固定されているためハンドルやペダルが遠く感じることや,乗降時のステップの高さが高齢者にとって障害になりうることがわかった.また,電動カート車両では,複数人が利用できるモデルや農作物などの荷物の積載ができるモデルを望む声が聞かれた.
4.3 小型電動モビリティのユースケース比較
仁淀川町および姫島村における小型電動モビリティの試験走行をもとに,本研究会では中山間地域に適したモビリティについて議論を行い,ユースケース(活用事例)を検討した.今回の試験走行で用いた1人乗り電動カート(2人乗りを1人乗り仕様に変更),電動トゥクトゥクに加えて,複数人乗車の電動カート,電動小型四輪,軽電気自動車,電動車椅子(ハンドル形含む)の特徴を表5に整理する.表には,ユーザが車両を選択する際に重要と考えられる,免許区分,乗車人数,最高速度,航続距離,車両価格,維持費用などの項目を記載している.
一般に,ユーザが車両を購入する際には,用途やユースケースを想定した上で選択を行う.現時点で広く活用されている軽自動車は乗車定員が最大4名であり,普通自動車と比較して車両のコンパクトさ,低価格,維持費の安さなどが魅力となっている.一方,電動車椅子(ハンドル形含む)は免許不要かつ廉価であるために,免許返納後の高齢者や歩行が困難な人にとっての移動手段として活用されている.
今回の活動およびこれまでの調査から,中山間地域におけるモビリティとして複数人の搭乗ニーズが高いことが明らかになった.さらに,車両本体の価格のみならず,メンテナンスや車検などの維持費に対する懸念も大きいため,より負担の少ない登録区分であることが望ましいという意見も多かった.しかし,これはコストと搭乗人数のジレンマを生む要因となっている.
具体的には,四輪車の場合,原動機付ミニカー登録が可能な1人乗りの車両か,2人以上の搭乗が可能だが普通自動車または軽自動車として登録が必要な車両のいずれかを選択することになる.前者は低価格ながら1人乗りのためユースケースが限定される.後者は高価格であり,軽自動車との差別化が難しいという問題がある.
一方で,電動トゥクトゥクに代表される電動三輪車(前一輪+後二輪)は,側車付き軽二輪という負担の軽い登録区分に該当し,かつ2人~3人の搭乗が可能であるため,上述した二律背反を克服できる可能性がある.しかし,仁淀川町での試験走行では 悪路や傾斜地での走行における不安定性が課題として浮かび上がった.このため,中山間地域での実用化に向けては,走行性能の向上や安定性確保のための技術的な改良が求められる.
表5 電動モビリティ比較表
(1) ユースケース1:個人所有(免許返納前の高齢者)
個人所有の場合,使用者の経済状況が選択に大きく影響するため,小型電動モビリティの優位性を活かしやすい.このユースケースでは,必要な免許区分,モビリティの登録区分,搭乗可能人数などがニーズに大きく関わると考えられる.具体的には,普通免許を返納する代わりに低速小型モビリティ限定免許を交付する制度の導入や,安定性の高い四輪モビリティでありながら負担の少ない登録区分に該当し,かつ複数人の搭乗が可能な車両の開発などが実現すれば,より高い需要が見込まれると推測される.
(2) ユースケース2:地域住民向けデマンド運送
デマンド運送においては,価格面を除けば軽電気自動車が最も適しており,他の小型モビリティのメリットは相対的に小さい.山間部では,電動トゥクトゥクは安定性に課題があり,電動カートは価格面で優位性が見出しにくい.総じて,このユースケースにおいては,軽電気自動車では走行が難しい狭小道路を通行する必要がある場合を除き,小型モビリティの導入メリットは限定的であると考える.
(3) ユースケース3:シェアリングサービス(観光用途)
観光用途のシェアリングサービスにおいては,小型電動モビリティの利点がより発揮されやすい.観光利用では,比較的低速走行が求められる場面が多いことに加え,ユーザの経済的負担を軽減するために車両価格が低いほうが受け入れられやすいことから,軽電気自動車と比較した際の小型電動モビリティの優位性が活かしやすい.ただし,山間部や悪路が多いエリアでは三輪モビリティの走行安定性に懸念があるため,導入にあたっては適切な運用環境の整備が求められる.
(4) ユースケース4:シェアリングサービス(地域住民用途)
地域住民向けのシェアリングサービスにおいても,小型電動モビリティの利点を活かしやすい.とくに,地域のボランティア団体や地方公共団体がサービスを主導・運営し,車両を保有したうえで,ニーズのある高齢者などの住民に時間単位または日単位で貸し出す形態には一定の需要が見込まれる.このような運用形態により,免許返納を考えている高齢者や自家用車を持たない住民が必要な時に移動手段を確保できる仕組みの構築が期待される.
4.4 社会的影響
小型電動モビリティの導入は,仁淀川町と姫島村のような地域において,住民の生活や地域社会に多方面での影響をもたらす可能性を秘めている.以下に主な社会的影響を述べる.
(1) 高齢者の健康維持と社会参加の促進
小型電動モビリティは,高齢者の移動自由度を高め,外出機会を増やすことで心理的・身体的な健康の維持に寄与する.とくに,仁淀川町のように,公共交通を利用しての買い物や通院の利便性が低い地域では,移動手段の確保が高齢者の社会参加を支える基盤となる.外出頻度の向上は,孤立の解消やコミュニティ活動への参加を促し,地域社会の結束力を強化する可能性がある.
(2) 観光振興と地域経済の活性化
姫島村では,小型電動モビリティが観光客の利便性向上に寄与し,観光資源の活用促進が期待されている.低速での観光地巡りは,訪問者に地域の魅力を伝える機会を増やし,宿泊や飲食を含む地域経済への波及効果が期待される.さらに,観光需要に応じて地元住民がガイドや運転に携わることで,新たな雇用機会が生まれる可能性もある.
(3) 環境への貢献
小型電動モビリティは排出ガスがないという観点から,従来の内燃機関車両に比べて環境負荷低減に寄与する.仁淀川町や姫島村のような自然環境豊かな地域では,環境保全と地域のイメージ向上の両面でプラスの効果が見込まれる.とくに,観光地としての魅力を高めるうえでも姫島エコツーリズムとの親和性が高いと考えられる.
(4) 地域課題の解決
ガソリンスタンドの減少や運転手不足といった地方の交通課題にも対応可能である.仁淀川町では,家庭での充電が可能な電動トゥクトゥクが狭い道路や急坂での移動を補完し,姫島村では巡回バスに代わる柔軟な移動手段を提供することで,地域特有の課題解決に貢献する.小型電動モビリティの普及を成功させるには,地域の特性や住民のニーズに応じた柔軟な対応が不可欠であるだけでなく,導入と運用の持続可能性を確保するための政策や技術的進化も重要である.
5. 提案
5.1 地域特性に応じた車両仕様の提案
仁淀川町と姫島村での試験走行は,それぞれの地域特性に応じた小型電動モビリティの適用可能性を検証する重要な機会となった.実験で使用された車両は,どちらも地域住民や観光客に一定の評価を得たものの,特定の課題や改善が必要な点も明らかになった.本節では,両地域の車両仕様に関する課題と改善の方向性について,比較と個別分析を交えて述べる.
5.1.1 仁淀川町での車両仕様の改善案
仁淀川町で使用された電動トゥクトゥクは,高齢者や運転免許返納を考えている人の移動手段を主な用途になりうると想定した.この車両は,中山間地域に多い狭隘道路への適応性が高く,買い物や通院といった日常の移動において効果を発揮し,住民からは「家庭用電源で充電できる点が便利」「近距離移動に十分」という肯定的な意見が寄せられた.しかし,車両の操作性と安定性に関する課題が指摘された.具体的には,ハンドル操作が難しく,バイクのようなハンドルでのアクセルやブレーキの操作が握力の弱い高齢者にとって負担となる場合があった.また,車両の安定性においても,特に急坂の下りカーブで不安を感じるという指摘があった.三輪車両のトゥクトゥクは前一輪,後二輪の構造であるため,カーブ等で四輪車両に比べて,車幅が狭いために横揺れ・傾きが生じやすい傾向にあり,これが乗員の不安感につながっていると推察される.このような課題は,トゥクトゥクの車体構造に起因するが,それがでこぼこ道や急坂が多い地域特性で助長されたものとみられる.
上記のような現状を踏まえて,仁淀川町の特性に応じた車両仕様の改善案を下記に示す.
(1) 操作性の向上
多くの電動トゥクトゥクでは,バイクと同様のインタフェースを用いており,車両の操舵・加減速操作がすべて手によって行われる.その仕様ゆえに,複数の操作を同時に行う場合,操作が難しい,力を入れづらい,といった問題が生じうる.高齢者の場合,関節の可動域や筋力の低下の影響も想定される.すでに一部の電動トゥクトゥクで実装されているが,操作系の一部をペダルにすることで足での操作も取り入れるなど,乗り慣れている自動車の操作にも近づけることで操作しやすくなることが期待できる.
自動車のような外形に対して,オートバイ仕様のハンドルがあることで違和感を持つ声もあった.ハンドル形状を改善し,狭隘道路での細かい操作がしやすい設計を導入することなども検討の余地がある.
(2) 車両安定性の強化
車両重心を低くすることで,坂道やカーブでの安定性を向上させる.また,タイヤ径やタイヤ幅,サスペンション形状やジオメトリなどを変更するなどして,不整地路での安定性を高める.後部座席に同乗者がいる場合や登り坂の場合には重心が後方に寄って前輪荷重が減り,結果として曲がりにくくなるといったことなど考慮に入れて設計を検討する必要がある.
(3) 環境対応性の向上
寒冷地や降雪時に対応できるスタッドレスタイヤなどのタイヤの提供は必須である.とくに,冬用タイヤについては,入手性の良いサイズを装着できることで利便性が向上する.また,長距離移動に対応できるようにバッテリ容量を拡大することも検討したいが,コストや重量が増加するというデメリットとのバランスを取る必要がある.
(4) 機能の絞り込み
ADAS(Advanced Driver-Assistance System: 先進運転支援システム)は安全性向上という観点から搭載するメリットはあるが,大幅なコスト増を伴うものは受け入れられない可能性が高い.そこで,車体が小型・軽量で最高速度も高くないという小型モビリティの特徴に合わせた機能の絞り込みや,その機能を可能とする必要最低限の構成に簡素化したシステムとなれば,搭載の可能性が広がる.
5.1.2 姫島村での車両仕様の改善案
姫島村で使用された電動カートは,観光客や高齢者の移動手段を主な用途と想定した.この車両は,操作が簡単で扱いやすい点や,安定性に加え回生ブレーキ等が高く評価された.また,観光用途としては,低速走行(20 km/h)で「ゆっくり景色を楽しむにはちょうど良い速度」との好意的な意見が寄せられた.一方で,車両が1人乗り仕様であることや,雨風を防ぐカバーや荷物スペースの不足,車体寸法のミスマッチが課題として挙げられた.観光用途では2人乗り以上の車両が望まれるとの声が多く,1人乗り仕様では利用シーンが限定される恐れがある.車両寸法等については,ステップの高さが乗降時に気になる,海外仕様のため左ハンドル・ペダルとシートが遠いなどの指摘があった.
また,姫島村は離島であることから,地域を通過するトラック等の交通が少なく,低速車両が一般車両と同様に公道を走行することへの抵抗は小さいとの意見があった.ただし,低速車両が一般車両と同じ道路を走行することに対する抵抗感が強い場合があるため,地域を限定する,追越し可能エリアを設けるなど,その運用には注意が必要である.
上記のような現状を踏まえて,姫島村の特性に応じた車両仕様の改善案を下記に示す.
(1) 複数人乗車対応の仕様変更
1人乗り仕様から複数人乗り(2人~3人)に変更し,家族やグループでの利用を可能にする.この点については,低速走行に限定するなどの条件も加味し,ランニングコスト増大を防ぐための法整備も並行して進められることが強く求められる.さらに,荷物スペースの拡充により,観光客や農作業利用者の利便性を向上させる.
(2) 仕向け地に合わせた車体の各種寸法の調整
ステップの高さやハンドル・シートを想定ユーザの体格に合わせて容易に変更可能にする.シート・ハンドルであれば調整機構を設けて,ステップについては別ステップを乗降口下に設けるなども考えられる.車両乗降口の開口部を広くし,歩行補助具を使用する高齢者にも対応可能な構造にする.
(3) 雨風対策の強化
防水・防風カバーやワイパーを装備し,天候に左右されない仕様にする.
(4) 観光用途向けの特化機能や装備
音声ガイドと連動する速度制御機能を導入し,観光スポットでの停車や減速を自動化する.観光客の安全を確保するためのシートベルトを追加する.
(5) 防錆対策
今回指摘はなかったが,塩害のある海岸沿いでは防錆対策は不可欠である.電動トゥクトゥクなどの小型電動モビリティは,軽自動車と比較して金属部品が少なくプラスチック筐体であるため,防錆には相対的に強いものと考えられる.
5.2 地域特性に応じた運用モデルの提案
小型電動モビリティの導入を効果的に進めるためには,それぞれの地域特性に応じた運用モデルの設計が不可欠である.仁淀川町と姫島村の試験走行で得られた知見をもとに,両地域に応じた運用モデルを提案する.
5.2.1 仁淀川町における運用モデルの提案
仁淀川町は中山間地域特有の急坂や狭隘道路が多く,公共交通の利便性が限定的であるため,自家用車に依存する住民が多い.一方で,高齢化と運転免許返納の進行により,移動手段の選択肢が減少している.このような地域特性を踏まえると,自家用車としての利用だけでなく,高齢者の日常的な移動を支援するデマンド運行などの運用モデルが適している.高齢者が安心して運転する,もしくは乗車するためには,車両の操作性向上や安全性の強化が求められる.とくに,坂道やカーブでの安定性を確保することが重要であり,これを前提とした車両改良が必要となる.そのうえで,以下の運用モデルを提案する.
(1) 地域ボランティアによる移動支援
高齢者自身で運転することが難しい場合,地域住民やボランティアによる移動支援を行うモデルが有効である.たとえば,ボランティアが特定の時間帯に電動トゥクトゥクを運転し,住民の買い物や通院をサポートするモデルが考えられる.
仁淀川町では,長生きを喜び合える長寿社会の実現を目指し,東京大学高齢社会総合研究機構と高知県の支援により住民主体のフレイル予防活動を導入している.具体的には,高齢期におけるフレイル予防3本柱の学びの場として,フレイル予防総合プログラム「ハツラッツ」を独自に考案し,フレイル予防から人生の最終段階まで,住民の自助・互助による支え合い,励まし合うコミュニティを構築している.この仕組みがあることによって,住民が新たにフレイルサポーターになるというハードルを下げており,フレイルサポーターの人数は,町内在住高齢者人口の約9%を占めるまでに広がっている.その中核を担うNPO法人がフレイルサポーターの中から有志を募り,ボランティアドライバとして軽電気自動車を利用した地域の移動支援を行っている.このような住民主体の移動支援は中山間地域にとって重要と考えられる.
(2) シェアリングサービスの導入
地域内に複数のステーションを設置し,電動トゥクトゥクを住民が共有利用できる仕組みを整備する.これにより,購入コストの負担を軽減しつつ,多様な住民が利用可能となる.
3) 自治体との連携による補助金活用
車両の購入費や運用費に対して自治体が補助金を提供することで,住民の経済的負担を軽減する.高齢者の外出頻度が増えることによる健康維持の効果で医療費の軽減効果も期待される.他にも,医療や介護サービスなどと組み合わせるなどして,車両運用を持続可能にする仕組みを構築する.
5.2.2 姫島村における運用モデル提案
姫島村は,瀬戸内海に位置する一島一村の離島で,比較的平坦な道路環境と観光資源が特徴的である.島内の移動手段として巡回バスが運行されているものの,ルートや時間が限定されており,高齢者や観光客の多様な移動ニーズに応えるには限界がある.この地域特性を考慮すると,観光振興と高齢者支援を両立させる運用モデルが必要となる.観光客の利便性向上を図りつつ,地域住民の日常生活を支援する形で小型電動モビリティを運用することが効果的であると考えられる.
1) 観光用途に特化した運用
電動カートを観光資源巡りのツールとして活用するモデルであり,すでに適用中の車両に対して追加,置換えを行うことを想定している.観光用途車両には音声ガイドを搭載し,観光スポットを効率よく巡るルートを提供する.低速走行(20 km/h)の特性を活かし,観光客が景色や解説を楽しめる設計を行う.
(2) 高齢者向けの移動支援サービス
高齢者が日常生活で利用しやすいように複数人乗りの電動カートを導入する.レンタル形式(シェアリング方式)を採用し,1日あたりの利用料を低価格に設定したり,サブスク等を導入することで,高齢者の経済的負担を軽減する.また,乗降のしやすい設計や雨風を防ぐカバーの装備を標準化する.
(3) 農作業サポート
農作業においては,農機具や収穫物の運搬,非舗装道路も想定した移動が必要になる.このモデルでは,現行の電動カートに準じており,かつ2人乗りであることと荷物積載場所の確保が重要課題となる.
(4) 観光と地域連携による雇用創出
地域住民が運転や観光ガイドを担当することで新たな雇用機会を創出する.このモデルは,観光振興と地域経済活性化を両立させるだけでなく,地域住民が観光客と交流する機会を増やし,島全体の魅力度向上に寄与する.姫島村では,観光需要に応じた柔軟な運用が可能な点が特徴であり,観光客の利便性向上を軸に地域全体の発展を目指すことが考えられる.
5.3 法整備と車両区分に関する提案
小型電動モビリティを地域社会に普及させるためには,適切かつ柔軟に対応できる法制度が必要となる.現状では,低速電動車両が原動機付一種相当の区分に分類されており,車両の性能や用途に応じた適切な法整備が求められる.
(1) 低速電動車両の独立した車両区分の新設
現在,電動トゥクトゥクや電動カートは原動機付一種や軽自動車に準じた扱いを受けているが,これらの車両は実際の使用環境や目的において,既存のカテゴリーに完全には適合していない.そこで,新たに「低速電動車両」のような独立した車両区分を設けて,地域限定での利用や速度制限などを明確化することで,安全性を確保しつつ利便性を向上させることができる.具体的には,今回の調査で多くの要望があった複数人乗車対応としても車検が不要となる区分にすることが,小型電動モビリティの普及にとって大きなポイントとなる.
(2) 地方自治体の裁量による運用規制の柔軟化
中山間地域や離島などの地域特性に応じて,地方自治体が独自に規制や運用基準を調整できる仕組みの導入も検討の余地がある.たとえば,交通量が少ない地域では速度制限や保安基準を緩和する一方で,観光地や住民が多い地域では安全性を重視した規制を適用するなど,柔軟な対応が重要と考えられる.
(3) 低速電動車両専用の免許カテゴリーの導入
現在,低速電動車両を運転するには普通自動車免許が必要であり,高齢者が運転免許返納後に新たな移動手段を確保する際の障壁となっている.この問題を解決するために,低速電動車両専用の新しい免許カテゴリーを設けることで,高齢者や運転免許返納者が利用しやすい環境を整えることができる.この免許は,既存の普通免許よりも取得要件を緩和し,高齢者の視力や運動能力に応じた試験内容を設けることで高齢者が取得しやすい仕組みとする.たとえば,試験項目を簡略化した筆記試験と基本的な操作訓練を含む実技試験を導入する.
(4) 免許返納促進と新制度の併用
低速電動車両専用免許の導入により,普通自動車免許を返納する動機を高齢者に与えることが可能となる.たとえば,普通自動車免許返納者には低速電動車両免許を無償または低コストで提供する特典を設けることで,普通自動車免許の返納率を向上させ,高齢者事故を減少させることができる.
(5) 地域限定免許制度の検討
特定地域内のみで運転可能な地域限定免許を導入することも有効である.この免許は,都市部では適用されないが,交通量が少なく安全性が高い地域では高齢者が日常生活において自立的に移動できる手段を提供する.地域限定免許は,自治体ごとの特性に応じて規定される柔軟な運用が可能となる.
(6) 車両安全基準の見直し
低速電動車両向けに独自の安全基準を設け,地域の道路環境や利用目的に適した基準を策定する.たとえば,急坂での速度抑制機能や衝突防止システムなどを必須要件として明示する.
(7) 自動運転技術への対応
将来的に自動運転技術を活用した電動モビリティの導入が進む可能性が高い.これに備え,低速電動車両にも自動運転機能を導入できるように法整備を進める必要がある.とくに地方での実証実験を支援し,法的課題をクリアするためのフレームワークを提供することが求められる.
(8) 環境規制との整合性
小型電動モビリティの普及は,地域の脱炭素化に向けた重要な手段となる.法制度として,電動車両導入地域に対する税制優遇措置や補助金制度の拡充を通じ,普及を後押しする仕組みが必要である.
6. おわりに
6.1 本調査で得られた知見
本調査では,高知県仁淀川町および大分県姫島村において小型電動モビリティの試験走行を実施し,中山間地域や離島における移動課題の解決策を検討した.仁淀川町では,電動トゥクトゥクの導入が高齢者の移動支援や地域コミュニティの活性化に寄与する可能性を示した一方,坂道や悪路における安定性の課題が明らかとなった.姫島村では,電動カートを活用した観光振興の可能性が確認されたが,1人乗り仕様では利用者ニーズに十分応えられていないことが課題として浮かび上がった.
車両の比較においては,免許区分,車両価格,搭乗可能人数,維持費などが住民の車両選択に大きく影響する要素であることが明確になった.とくに,「低価格かつ複数人乗車が可能な車両」に対するニーズが高いものの,現行の車両カテゴリーでは「軽自動車との差別化が難しい四輪モビリティ」や「悪路走行時の安定性に課題を抱える三輪モビリティ」という二律背反が存在していた.これらの課題から,新たな車両区分の設定や免許制度の柔軟化などについて検討の余地があることがわかる.さらに,ユースケースごとの適応性を考察した結果,デマンドタクシー型運用には軽自動車が適しているが,個人所有やシェアリング用途では小型電動モビリティの活用余地が広がることが確認された.高齢者向けの低速小型電動モビリティの導入や観光地でのシェアリング活用が有望であることが示唆されており,これらを支援する制度整備の必要性が浮かび上がった.
6.2 具体策の提言
本調査の成果を踏まえて,中山間地域や離島における小型電動モビリティの社会実装を促進するため,以下の具体策を提言する.
(1) 補助金活用による導入促進
現状,小型電動モビリティの価格は100万円以上とされており,電動ではない従来の軽自動車と比較するとコスト面での競争力が低い.中山間地域や離島においては,自治体が主導する補助金制度を活用し,住民の負担を軽減することが不可欠である.具体的には,地域限定で使用する車両に「低速モビリティ導入促進補助金」を適用し,購入コストを抑える仕組みを構築する.また,運用コストを低減するため,維持管理費に対する補助の拡充や,充電インフラ整備への支援を強化することが求められる.
(2) 住民ニーズを反映した仕組みづくり
小型電動モビリティの普及には,地域ごとの移動課題や住民ニーズを的確に把握し,導入計画に反映する体制の整備が不可欠である.自治体が主導し,ワークショップやパブリックコメントを通じて住民の意見を反映する仕組みを構築する必要がある.たとえば,仁淀川町では「急坂でも安定走行できる小型電動モビリティの開発支援」,姫島村では「2人乗り以上の小型電動モビリティ導入に向けた試験運用」が求められる.地域の特性に応じた試験運用を複数回実施し,住民の評価を踏まえて本格導入を決定するプロセスを確立することが重要である.
(3) 免許制度と法整備の見直し
低速モビリティの導入を促進するため,新たな免許カテゴリーの導入や車両区分の見直しが必要である.具体的には,以下の制度改革が求められる.
・低速モビリティ限定免許の創設:普通免許を返納した高齢者が,低速モビリティに限り運転できる免許を取得できるようにする.
・地域限定免許制度の導入:特定の地域内でのみ運転可能な免許を発行し,高齢者が安全に運転できる環境を整備する.
・低速モビリティ専用車両区分の新設:軽自動車と電動車椅子の中間に位置する新たなカテゴリーを設け,税制や規制の負担を軽減する.
これらにより,中山間地域に適したモビリティの選択肢を増やし,地域住民の移動手段の確保を支援することが可能となる.
(4) 持続可能な運用モデルの構築
小型電動モビリティの社会実装には,個人所有だけでなく,シェアリングやデマンド型交通などの柔軟な運用モデルの導入が不可欠である.具体的には,以下の施策を提案する.
・小型電動モビリティのシェアリングサービスを促進し,住民が必要な時に利用できる環境を整備する.
・ボランティアドライバ制度を活用し,住民主体のデマンド交通を運用する仕組みを確立する.
・自治体がモビリティを保有して運用を工夫し,住民に低コストで貸し出す公的シェアリングシステムを確立することで,個人の購入負担を軽減する.
これらの取り組みにより,中山間地域における持続可能な移動手段の確保と,電動モビリティの普及が加速することが期待される.
6.3 今後の課題
本調査では十分な数のアンケートを収集できず,限られたインタビュー結果をもとに仮説を立てるにとどまった.今後はさらなる課題検証が必要であり,とくに仁淀川町と姫島村のフィードバックを反映した追加検討が求められる.具体的には,以下の項目について深掘りを行う.
(1) 山間部での実証実験
・悪路や急坂での安定性向上を目的とした改良型車両の試験運用:電動トゥクトゥクや小型電動四輪モビリティの走行性能を強化し,安全性を確保する.
・住民の実利用動向を踏まえたシェアリングモデルの導入可能性調査:どの程度の需要があるか,維持管理のコスト負担をどう分担するかを検討する.
・地域ボランティアによる移動支援プログラムの試験導入:運転免許返納後の高齢者や移動困難者を支援する仕組みを構築する.
(2) 平坦部での実証実験
・観光用途での導入効果を最大化するために2~3人乗りの車両の試験運用:1人乗りではなく,複数人での移動が可能な車両の需要を検証する.
・小型電動モビリティのレンタルステーションを設置し,観光客が利用しやすい環境整備:事業者との連携を強化し,継続可能なビジネスモデルの確立を目指す.
・低速の小型電動モビリティとフェリーの連携を強化し,島外からのアクセス向上策の検討:島内移動だけでなく,島外との移動システムとの統合を進める.
(3) 全国展開に向けた基盤づくり
・他の中山間地域や離島での導入可能性を検討し,成功事例を蓄積する.
・自治体向けの標準モデルを策定し,国や地方自治体へ提案する.
・補助金制度や規制緩和の実現に向けた具体的なロードマップを作成し,実装可能な制度設計を推進する.
謝辞
本研究では,以下の事業体にアンケート・インタビューへのご協力をいただきました.ここに感謝申し上げます.
(順不同)NPO法人フレイルサポート仁淀川,一般社団法人姫島エコツーリズム,ヤマハ発動機株式会社
参考文献