村落社会研究ジャーナル
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農業集落調査の来し方行く末
導入 : 村落研究と農業集落調査
平井 太郎
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2024 年 31 巻 1 号 p. 27-32

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抄録

 2022年から2023年にかけて農業集落調査の廃止が社会的に問題化した。村落研究学会としてもいち早く2022年10月に学会として同調査の継続を求める声明を発出した。その声明で謳われるように、同調査の設計や運用に村落社会研究学会のメンバーが深く関与しただけでなく、今日でも調査結果を参照し活用するメンバーも少なくない。しかしながら、調査設計や運用に直接関わった福武直や川本彰といったメンバーが鬼籍に入ってすでに久しく、彼らがどのような意図で関与し、またその関与が調査のみならず食料・農業・農村政策とどういった相互作用を及ぼしていたのかが、村落研究学会内外で十分に共有されているとは必ずしも言えなくなっている。さらに、今回の農業集落調査廃止をめぐる政策過程において、政府有識者会議メンバーのようなかたちで政策当局者とコミュニケーションを深められる立場の会員も限られている。

 そこで本特集では大きく2つの方向性から、農業集落調査と村落社会研究との相互作用のあり方に接近したい。1つは、農業集落調査という官庁統計の設計や運用に関わることが村落研究そのものの生成と展開にどのような意味があったかを振り返る、村落社会研究の内側からの接近である。それにより、村落社会研究の問いのかたちを回顧し、その未来における可能性についても展望したい。もう1つは、村落社会研究にとってどちらかといえば外側に位置する政策科学から見た、今回の農業集落調査廃止問題が問題化した詳細な経緯、その政策の過去や未来における含意はいかなるものかを明らかにする接近のし方である。村落社会研究と政策との距離のとり方はたしかに難しい。だからと言って敬して遠ざけるのでなく、むしろ政策により近い立場の研究者からの知見に耳を傾けたい。

 なお本特集は村落社会研究ジャーナル編集委員会主催(2023年度東北地区研究会との合同開催)研究会として2024年3月28日に開催された研究会「農業集落調査の来し方行く末」の報告内容をふまえ、質疑応答で得られた内容を発展的に盛り込み改稿を加えたものである。

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