2015 年 2015 巻 1 号 p. 28-40
日本においては,会計制度が大企業と中小企業とに区別され,大企業に適用できる会計基準として,企業会計基準(J-GAAP),IFRS,U.S.GAAP および「修正国際基準」(JMIS)がある。中小企業に対しては,中小企業の会計に関する検討会は,2012 年2 月に,「中小企業の会計に関する基本要領」を公表した。当該要領は,「中小企業の会計に関する指針」とともに,経営者の判断により中小企業に任意で適用されることとなった。このように,中小企業に適用できる会計基準は,中小会計指針と中小会計要領の2 つが設けられている。これらの会計基準に準拠して作成された計算書類について,その信頼性を保証する制度として,大企業には,監査人による監査が行われているのに対して,中小企業には,会計参与制度と書面添付制度が設置されている。しかし,両制度の利用状況は極めて低いという現状がある。そのような現状を考慮し,かつ,中小企業の会計制度が整備されたことを受けて,上場大企業とは異なる会計制度に対応した信頼性の保証について理論的かつ制度的に検討する必要があると考えている。本稿は,そのような考え方に基づいて,日本における信頼性保証モデルの構図を明らかにすることを目的としている。検討の結果,中小企業の信頼性保証は,中小企業の会計と同様に,財務諸表作成者と財務諸表利用者の双方の要求を考慮しながら,企業に適した規模別の保証制度を設定する必要があると考えている。このように,一般に公正妥当と認められる監査基準は公開会社,すなわち,大規模企業に適用され,中規模企業にはレビュー,そして,小規模企業に対しては,コンピレーションが適用されることが適切である。