2015 年 2015 巻 1 号 p. 65-75
本研究では,中小会社会計に関する議論の変遷を検証することにより,現状の中小会社会計の構造を明らかにするとともに,大会社会計との位置関係を検討することで中小会社会計のあり方を明示することを目的とした。
検証の結果,我が国の中小会社会計は,萌芽期,導入期,充実期と分けることができ,それぞれの期で構造が変化していた。
萌芽期では,簿記,監査及び法令においては大小会社を区分する必要性が認識されていた。
導入期では,大会社と中小会社は,それぞれの会社の特性によって区分する必要性が会計においても認識された。また区分する方法としてシングル・スタンダード及びダブル・スタンダードの考え方が議論され,その結果として中小会計指針が設定された。
充実期では,トップダウン及びボトムアップの二つのアプローチ方法によって中小会社会計が二相化された。またシングル・スタンダードとダブル・スタンダードの考え方の両方が用いられるハイブリッド型と呼べる構造となった。
しかし,このハイブリッド型と呼べる構造においては,中小会社自体を明瞭に区分することが出来ない。そこで,複数の中小会社会計ではなく,中小会社会計を1つのルールにすることが望ましい。中小会社会計において,萌芽期より一貫して「記帳の重要性」が主張されている。この「記帳の重要性」という理想を実現させるためには,演繹的アプローチを用い,中小会社の特性より導き出された概念によってフレームワークを構築し,それによって中小会社のための会計基準を構成するというあり方が,中小会社会計にとって必要なことである。