2019 年 2019 巻 5 号 p. 20-34
本稿では従業員数100 名を超える中小製造業におけるMCS の整備と運用を事例として取り上げる。管理会計システムと目標管理制度をMCS と同定し,「縦断的研究デザイン(longitudinaldesign)」(野村2017,112)によって,中小企業における管理会計システムの整備の経緯を時系列的に概観し,どのようにMCS が整備されてきたのか,組織成員によっていかに受容されてきたのかを明らかにする。
明らかになったのは下記の点である。まず,管理会計システムは現社長が社内の経営状況を把握するために自らの手で整備したが,その後に設定された業績評価指標は運用していく中での試行錯誤で生み出されてきたものである。また,部門別予算に管理職が示した数値の裏付けを取るために根拠として達成目標(アクションプラン)を記述するようにしたことは,後に導入された目標管理制度(ボトムアップ)と相まって現在のMCS の基礎を形作るものになった。次に,現社長には組織成員への動機づけや権限委譲への強い意識があり,MCS の整備,運用に一定の影響を与えている。最後に,同社では経営理念や行動規範のもと中期経営計画が策定され,単年度の予算と目標管理シートを用いて目標を設定して定期的に進捗管理を行っている。記述された内容は社長や上司による定期的な進捗管理が行われることで,実行可能性を高めるように作用し,管理会計システムと目標管理制度の連携が図られている。これにより,MCS を通じて組織成員が向かうべき方向性の同期化が図られている。