中小企業会計研究
Online ISSN : 2435-8789
Print ISSN : 2189-650X
わが国の中小企業金融における課題と展望
―書面添付制度を活用した決算書の信頼性の確保―
小川 晃司
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2021 年 2021 巻 7 号 p. 29-40

詳細
抄録

 中小企業金融において,貸し手と借り手の情報格差である「情報の非対称性」は,従来から大きな問題とされている。金融機関は,「情報の非対称性」によるリスクをカバーするため,融資の際に経営者本人の保証や不動産の担保提供を要求することで対処してきた。しかし,「情報の非対称性」によって決算書の信頼性を確保できない融資の実行は,経営の不透明化を生じさせ,中小企業の継続・成長を阻む虞がある。そこで,本稿では,わが国の中小企業金融において「情報の非対称性」を解消・縮減し,「決算書の信頼性」を確保する制度について, 情報の非対称性に着目した観点から考察を行った。

 ドイツには,中小企業の「決算書の信頼性」を確保する制度として,税理士等が行うベシャイニグング作成業務がある。ベシャイニグングは,決算書の作成者である税理士等が同時に決算書の作成に関する証明書を発行し,ドイツの中小企業金融という「場の条件」に適合した場合のみ成立する独自の制度として,社会に広く普及・定着している。

 重要なことは,決算書に対する信頼性の程度は,税理士による税務代理から,会計監査人による監査証明まで,「保証の内容がグラデーションをなして『保証の連続体』を構成している」という点である。その前提に立てば,わが国の中小企業においても税理士および既存の制度である書面添付制度を活用することによって,「決算書の信頼性」の確保は可能となる,と筆者は考える。

 書面添付制度は,税理士による「税務申告に関する保証業務」と同時に,確定決算主義を根拠とした間接的ではあるが一定の「決算書の信頼性」を確保できる制度である。本稿では,税理士の厳格な独立性と税務申告の信用力を包括して法制化された「わが国固有の価値ある書面添付制度」を社会に普及・定着させるべきとの結論に至った。

著者関連情報
© 2021 中小企業会計学会
前の記事 次の記事
feedback
Top