多次元項目反応理論(MIRT)モデルは,項目反応理論モデルのパラメータを多次元化した統計モデルである.Chen, Li and Zhang (2019)は制約付き同時最尤推定(CJMLE)というパラメータ推定方法を考案し,かつその項目パラメータの推定量はデータの個体数と項目数が同時に無限大に近づくとき,ある回転方法の下で一致性を持つことを証明した.しかしその回転方法はパラメータの真値を用いるため真値が未知である実際の応用場面では使用できないという問題がある.そこで本研究ではシミュレーションにより個体数と項目数が同時に増大する状況を設定し,応用上実行可能な単純構造を志向する回転方法の下でのCJMLEの回転後の解と真値との乖離の推移を調べた.結果,単純構造を志向する回転方法の下では乖離の減少はせず,原因として,乖離の評価対象が標準化された真値でありそれが単純構造を持たないことが挙げられた.