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日本の盲学校高等部には点字使用者より拡大文字を含めた墨字使用者が多く在籍している。ところが、過去の大学進学率を調べたところ、点字使用者が弱視児童より大学進学率が高いことが確認された(韓 2010)。
本研究は視覚障害者の大学進学者数の推移について、論文雑誌『視覚障害』の調査をもとにまとめたものである。本調査は『視覚障害』が毎年全国の盲学校を中心に行ってきたものであるが、2006年度を最後に入学者集計に終止符を打ちたいと書かれている。その理由として、個人情報に関して日本全体が敏感になっていることから、盲学校からも協力が得られなくなったためと記されている。
2006年までの12年間の視覚障害学生の大学進学者数は、合計488名で点字使用者281名、点字以外207名となっている。
現在は「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が制定され、拡大図書の標準的な規格が定められている。
本報告で使用するデータは、弱視児童のための拡大教科書が法律に定められる前のデータであるが、点字受験者の大学進学率は、弱視児童の文字選択に示唆するものがあると考える。
点字学習は最近の脳科学から16歳前後が臨界期とされており、小学校のときからの学習を必要とする。本報告では、最近の脳科学の知見を点字学習に応用し、弱視児童の文字選択に関して考察を深めたい考えである。
弱視児童の文字選択に点字か墨字(普通文字)かを悩むケースもあるが、負担なく読める文字を持つことが大変重要であると考えられる。拡大本の有効性を否定することはできないが、文字読みに多くの集中力を使うことでかえって読んでいる内容が理解できない場合は、点字を学ぶことを視野に入れた方がよいかと思われる。弱視児童を持つ親の中では、点字より普通の文字を子供に教えたいという親の障害受容(社会受容)の問題も絡み、また、点字を知らない先生の勧めもあって墨字教育に向かいがちな傾向も見受けられるが、医療や科学的な知見によって点字か墨字かを判断する客観的な基準を設けることが、今後重要であるように感じる。