p. 93
歩行訓練は歩行技術と指導法というふたつの要素から成り立つと思うが、私の場合いずれも日本ライトハウスで33年前にお世話になり、そこで教わった方法からあまり進歩していない。そこで、全盲で高次脳機能障害を伴う方に対する訓練の中で学んだ行動療法の技法を通して、歩行訓練における指導法について考えてみた。
全盲で高次脳機能障害を伴う方の訓練では、我々が通常行なっている方法ではうまく行かないことも多かった。中でも、歩行訓練で重視する、状況を判断して行動すること、自分で考えて答えを出すこと、失敗から学ぶことなどは特に困難であった。しかも、一般的な高次脳機能障害リハビリテーションの手法は、代償手段として視覚的手掛かりを多用するため、ほとんど利用することができなかった。ただ、スモールステップやエラーレス・ラーニングなど、行動療法の技法を訓練に取り入れることで少しずつ可能性が広がっていった。また、このような技法は、認知機能に衰えがみられる高齢の方の訓練にも応用できると思われる。
例1、単独で外出できない方に対して、外歩きの恐怖を取り除き単独歩行を可能にする指導→<歩行訓練の流れ>手引き歩行でコミュニケーションをはかる、静かな環境で白杖歩行を導入する、少しにぎやかな歩道で環境音に慣れ利用できるようにする、徐々に指導員が離れ単独歩行につなげていく→<行動療法の技法>エクスポージャー(曝露反応妨害法)、教示、フェイディング
例2、高齢者のルート歩行の指導→<歩行訓練の流れ>静かな環境で白杖歩行の導入、小部分に区切った繰り返しの練習と積み重ね、間違える前にきめ細かく正しい方法を指示する→<行動療法の技法>スモールステップ(課題分析)、チェイニング(行動連鎖)、教示、エラーレス・ラーニング(誤り無し学習)
※全体を通して心がけることは、構造化、ポジティブ・フィードバック、達成感、自己効力感など。