抄録
2011年3月の東日本大震災による原発事故の影響で、全国の原子力発電所が停止し、深刻な電力不足が発生した。大口需要家である鉄道に対しては、経済産業省等から強い節電要請が行われた結果、多くの駅で減灯が実施され、弱視者、とりわけ夜盲のある人にとって、一時はかなり危険な状況が生じた。多くの視覚障害者の要望によって、徐々に明るさが戻ってはいるが、現在も多くの駅で減灯が継続されている。
減灯前の明るさは駅によって大きく異なり、減灯の程度も鉄道会社によりまちまちである。照明を半減しても安全上大きな支障のない駅もあれば、すべての照明が点灯してもなお夜盲のある弱視者には不安な箇所も存在する。
弱視者の明るさに対する感じ方は多様であり、すべての弱視者にとって最適な明るさを決めるのは困難であるが、減灯しない場合には多くの駅で安全が確保されていたと仮定することで、必要な明るさの目安を推測可能と思われる。
本会では、2011年6月から、東京都、愛知県、京阪神の約30駅(約120地点)における照度を計測した。結果をJIS規格と比較したところ、多くの地点で乗降客の多寡にかかわらずホームや通路の明るさがJISで最も明るいA級駅(一日の乗降客15万人以上)の水準(200lx)を上回っていることが判明した。弱視者にとって必要な「明るさの最低保障」となる新たな基準が必要であるとの結論に至った。
営業中の駅で大規模な検証を行うことは困難であるため、実験環境下で多くの弱視被験者による検証に基づいた基準作りが望まれる。