近年の人工知能研究における対話型のソフトウェアエージェントやコミュニケーションロボットを心理療法に応用する動きに対して,その可能性を考察するためには,社会学,特に現代人の心に対する社会的傾向に関する社会学的知見が有効である.本稿では,コンピュータやロボットなどの対話機能を持つ機械に対する社会レベルでの認識傾向,現代社会における感情文化と心理療法に対する文化的傾向,社会学的物語論的自己論,「健康」の言説に関する社会学の知見を導入し,ソフトウェアカウンセリング・ロボットセラピーの現代文化における位置づけ,および今後の可能性と危険性について考察する.その上で,ソフトウェアカウンセリング・ロボットセラピーが現代の心理主義,合理主義の傾向の中で普及する可能性があること,しかしクライアントの「語りえない自己」を引き出すほどの人工知能を開発することは困難であること,現状では二重拘束などの新たな心理的負担を強いる危険性があること,などを論じる.