2011 年 21 巻 1 号 p. 27-38
人間社会あるいは生態系では,相互作用を行う複数の意思決定主体が,各自の戦略(行動様式,形質)を過去の経験から進化・学習させつつ,さまざまな杜会現象を生み出している.進化・学習を行う複数主体の相互作用は,(1)進化ゲーム論的アプローチ,あるいは,(2)進化エージェントをベースとしたマルチ・エージェント・シミュレーション(進化MAS)により分析されることが多い.進化ゲーム論的手法を用いた研究と進化MASを用いた研究はその対象が重複することも多いが,それぞれが得意・不得意な領域も存在する.本稿では,進化ゲーム論的アプローチと進化MASによるアプローチを,ダーウィン進化論の見地から見直し,それぞれのアプローチで可能なこと,不可能なこと,つまり両者の守備範囲について再検討する.さらに,著者自身が各アプローチを用いて行ったこれまでの研究と最近の研究を概観し,両アプローチの可能性について具体的に検証する.