シミュレーション&ゲーミング
Online ISSN : 2434-0472
Print ISSN : 1345-1499
21 巻, 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
一般論文
査読論文
  • 網代 剛, 吉川 肇子, 矢守 克也
    2011 年21 巻1 号 p. 1-12
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    本稿では『クロスロード』を,シミュレーション構築の一部をプレーヤに委ねる仕組みとして論じる.はじめに,『クロスロード』は,体験談をもとしたゲーミングシミュレーションであるが,シミュレーションを体験談に対応した知識表現の一形態として定義し,シミュレーションの作り手と受け手という2つの立場を想定した上で,体験談,ゲームのプレー,『クロスロード』,シミュレーションの構築と,シミュレーションの提供方法を類型化する.次いで,『クロスロード』が,既に作り手によって定式化された関係を持つゲームのプレーと,自らが関係を定式化するシミュレーションの構築との間に位置することを述べる,最後に,シミュレーション構築の一部をプレーヤに委ねる仕組みとしての『クロスロード』は,ゲーミングシミュレーションにおいて,ゲームのプレーから,問題の解法構築へとプレーヤを誘導する思考支援ツールであることを述べる.

特集論文
依頼論文
  • 全 卓樹
    2011 年21 巻1 号 p. 16-26
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    本稿では筆者の研究を中心に,量子ゲーム理論の現状レヴューを行う.量子ゲーム理論とは,通常のゲーム理論の戦略を表現する連結確率を,ビルベルト・ベクトル(量子波動関数)から生成される量子連結確率で置き換えて拡張したものである.量子連結確率には量子的エンタングルメントに由来して,通常の連結確率にはない環境パラメータが含まれている.量子戦略の内実を精査することで,そのなかに通常の戦略を環境パラメータで変形した修正された擬古典戦略と,量子干渉に由来して古典戦略としては決して表せない純量子的成分との,二つを見出すことができる.前者には例えば利他的戦略が含まれ,これがディレンマ・ゲームの量子的な改善とされるものの物理的説明を与える.後者は多くの場合小さな補正項を提供するだけであるが,ハーサニィ型不完備情報ゲームにおいて擬古典的な寄与を消去すると,ナッシュ均衡利得全体をベル不等式の破れ分だけ与えることが示せる.量子ゲーム理論の数理的進化生物学への適用可能性についても論じる.

査読論文
  • 秋山 英三
    2011 年21 巻1 号 p. 27-38
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    人間社会あるいは生態系では,相互作用を行う複数の意思決定主体が,各自の戦略(行動様式,形質)を過去の経験から進化・学習させつつ,さまざまな杜会現象を生み出している.進化・学習を行う複数主体の相互作用は,(1)進化ゲーム論的アプローチ,あるいは,(2)進化エージェントをベースとしたマルチ・エージェント・シミュレーション(進化MAS)により分析されることが多い.進化ゲーム論的手法を用いた研究と進化MASを用いた研究はその対象が重複することも多いが,それぞれが得意・不得意な領域も存在する.本稿では,進化ゲーム論的アプローチと進化MASによるアプローチを,ダーウィン進化論の見地から見直し,それぞれのアプローチで可能なこと,不可能なこと,つまり両者の守備範囲について再検討する.さらに,著者自身が各アプローチを用いて行ったこれまでの研究と最近の研究を概観し,両アプローチの可能性について具体的に検証する.

  • 中丸 麻由子, 関口 卓也, 島尾 堯
    2011 年21 巻1 号 p. 39-51
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    社会シミュレーションはミクロ-マクロリンク,つまり個人の意思決定と社会構造の相互作用をとらえるのに適しており,この長所を活かしてさまざまな研究が進んでいる.しかし,社会を理解するうえで重要であるが,先行研究では取り上げられていない事象もあり,研究の宝庫である.本稿では社会シミュレーションの今後の発展のために,進化ゲーム理論をもとにした社会シミュレーションである進化シミュレーションを用いた筆者たちによる3種類の研究を紹介する.第一に,特定の意思決定のメカニズムを,人間は進化の過程でいかにして獲得したのかを分析した研究,第二に,人間特有の意思決定を所与のものとしたとき,それらの集積がどのような社会現象を生み出すのかを分析した研究,第三に,人々の意思決定と制度の維持との関係を分析した研究である.こうした視点から研究を分類・紹介することで,社会シミュレーションがさまざまなレベルの対象を扱えることを示す.

  • 笠田 実, 阿部 真人, 池上 高志
    2011 年21 巻1 号 p. 52-59
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    人間行動や生物の行動における利他的な協力行動の進化を考えるための枠組みとしてゲーム理論は非常に大きな成功を収めてきた.シンプルであっても協力行動を誘発するような構造をもったゲームを考えることは,協力行動の進化を理解するにあたって非常に意義がある.本研究では,階層性のあるシンプルなゲームによって協力行動が誘発され,ゲームのプレイヤーの集団が進化的に興味深い振る舞いをすることを示す.ここでの階層性のあるゲームとは,グループ内の駆け引きと,一つ上の階層のグループ間の駆け引きという異なる|階層での駆け引きが,フラストレートするようなゲームのことである.このゲームでは,プレイヤーはグループ間の競争に勝つためには多くのコストを支払わなければならないが,グループ内の他のプレイヤーよりは少ないコストで利益を得たいというジレンマに陥る.

    先行研究として,経済学の分野でRapoport and Amaldoss(1999)のゲームがある.彼らのゲームでは公共財ゲームにおいて,協力行動を促進させるためにグループ間競争を導入した.本研究では彼らが導入したグループ間の競争が,ゲームにどのような影響を与えるのかに焦点をあて議論する.階層構造が導入されたゲームを行う集団は,報酬パラメータによって協力戦略と非協力戦略の共存が可能であり,環境変動に対して進化的なヒステリシスを持つことがわかった.また,Rapoport and Amaldoss(1999)の先行研究では同時に競争するグループ数は2つであったが,複数グループまで拡張して解析的に解き,複数のグループ間競争がゲームに与える影響も同時に考察する.

  • 黒阪 健吾, 肥前 洋一
    2011 年21 巻1 号 p. 60-68
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,複数のナッシュ均衡が存在する投票のゲーム理論モデルにおいて,どのナッシュ均衡が実現しやすいかを実験室実験によって特定することである.理論的にはどのナッシュ均衡が実現しやすいといえるかを「ブロック投票」という概念を用いた均衡選択により検討したうえで,その理論的帰結を実験室実験により検証する.実験では,セッションごとに,また投票の回ごとに,異なるナッシュ均衡に対応する結果がしばしば観察されたものの,どのセッシヨンの結果にも理論的帰結と一部整合的な特徴を見出すことができた.したがって,本論文が取り上げる投票のモデルでは,複数のナッシュ均衡のうち常にいずれか1つのナッシュ均衡が実現するわけではないが,平均的には,理論的帰結と一部整合的な特徴を持つ結果が実現しやすいとの結論を得た.

特集論文:シミュレーション&ゲーミングと倫理(6)
依頼論文
  • 玉田 和恵
    2011 年21 巻1 号 p. 69-75
    発行日: 2011/06/25
    公開日: 2020/07/06
    ジャーナル フリー

    ネット上では,子ども達を巻き込んださまざまなトラブルや事件が頻発している.1990年代後半から,学校現場では子どもたちがネット上で適切な判断や行動を取れるように,情報モラル教育が推進されてきた.そして,2008年に「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(通称:青少年インターネット環境整備法)」が成立し,情報モラル教育の普及や子どもたちが安全に安心して利用できるネット環境の整備に関する取組が活発になっている.数年前まで,インターネットに関わる子ども達のトラブルでは,携帯電話がやり玉に挙げられた.しかし,今日,子ども達にとって最も身近なネット端末は,ゲーム機になっている.このことは,これらネットと子ども達に関わる議論の中に,ゲームの開発者や提供者が踏まえておくべき事項が多く含まれていることを意味する.本稿では,さまざまなことに興味や関心を持って学習し成長する「子ども」,子どもをよりよく守り育てたい「保護者」や「学校・教師(教育関係者)」,利益を追及し社会を発展させなければならない「企業(事業者)」,子どもを守り育てる環境を作り出すことと企業や社会の発展を日指す「国(関係各省庁)」の立場の違いに触れながら,上記の取組の概要について述べる.

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